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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第二圏 肉欲の迷宮
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第二圏 肉欲の迷宮3 -降下-

入隊後、1週間が経過した。

その間に俺は、後ろ受身のみならず、横受身、前受身、前回り受身の特訓を受けた。

もはや俺に死角は無い。


俺が持てる防具や武器も確認済み。特に小剣は俺が解錠した宝箱から出たモノで、かなりの名剣らしい。

それにしてもこの革鎧、こんなに軽かったか?

小剣も実際にはかなり重いのに、竹刀より軽く感じる。

これは、ひょっとして俺の秘められた力が開花しちゃったのか?


隊長もそんな俺を評価したのか、俺は今や前衛になっている。

隊長、ナツ、俺、タダ、ミズ、トウの順だ。

でもちょっと早すぎるんじゃない?

確かに死角は無いが、攻撃の訓練は全くやってないぞ。


迷宮は土砂崩れで現れた洞窟の奥にある。

洞窟の終わりには、石造りの門が立っていた。

門には何か文字が書いてある。

ラシェ…読めん。


「Lasciate ogne speranza, voi ch'entrate」

ミズが流暢に異国の言葉を読む。

だが意味は判らん。

「コウも知ってると思うわ。有名な言葉」


「汝ら此処に入る者、一切の望みを棄てよ」

タダが言う。

おお、確かにどこかで聞いた覚えがあるぞ。

「ダンテの『神曲ー地獄門』に書かれた言葉です」

よく知ってるな。

「一般教養ですから」

「だな」

「そうね」

違うよ!


「状況を開始する」

隊長の号令が下り、俺達は口をつぐみ迷宮に入った。


--


扉が開き、閉まる。

扉の向こうには、泡立つヘドロのようなモノが群れていた。

ヘドロに触手が現れ、俺に向かって伸びてくる。

俺はすかさず盾で防御しながら、後ろへ跳ぶ。


「うむ、良い動きだ」

そう言いながら隊長は、ナツとヘドロを蹂躙する。

ところで、このヘドロは何者?

「スライムだ」

ダウト。


スライムってもっとこう、青くて透明でぷるぷるしてて、ちょっと可愛い感じのハズ。

これはスライムじゃない。子供の頃からRPGをやってた者として、そこは譲れない。こいつはヘドロムと名づけよう。

ヘドロムが全滅した後は金貨が数枚残っていた。箱はなし。俺の出番もなし。


その後、野犬か狼のような獣の群れと遭遇するも、華麗に防御。

俺が防御している内に、隊長とナツが殲滅してくれた。

そして箱はなし。出番なし。


そして、通路の突き当たりに、下へ降りる階段が見えてきた。

「降下する」

隊長の宣言に、驚いたようにナツが身動きした。


「タダ、前衛へ。コウはタダの後ろへ」

あれ?

「地下2階は、これまで以上に強力な怪物と遭遇することになる。皆、心してかかれ」

どうやら俺を前衛に置いたのは、地下2階で対応できるかどうかを見るためだったらしい。

1週間でタダを超えた期待の新人、だと思ってたのに。くすん。


そして俺達は地下2階へ降りた。


--


後衛になった俺は、トウからマッピングを引き継いだ。

1ブロックずつ進んでは立ち止まり、地図を描き、また進む。

地下2階の地図は殆ど作れてなく、皆も来たのは2回目らしい。

もし迷ったらアウトだ。だが幸い、一本道で分岐は無かった。

そして、突き当たりには扉があった。


扉を開けると、怪物に遭遇しやすい。

数少ない俺の経験でも、それは判る。

覚悟を決め、隊長が扉を蹴る。

扉が開き、閉まる。

怪物が現れた。

怪物は雷雲の形をしていた。つか、雷雲だった。


もこもこと白く、一部暗い雲。その中で稲妻が閃く。

想定外の怪物にタダの動きが止まる。と、稲妻がタダに向かう。

盾で防ぎ、反撃するタダ。だが、そのメイスは空を切る。

一方、隊長とナツの剣は確実に雷雲を捉え、切り裂かれた部分は雲が薄くなる。


隊長やナツに比べ、タダの動きは悪い。

だが、先ほど前衛に出て判った。

俺は反撃できない。そんな余裕など無い。

ナツとタダの実力には、大きな差がある。だがそれ以上の差が、俺とタダの間にある。

そのタダに再び稲妻が伸び、タダは弾き飛ばされた。


雷雲が俺に迫る。

必死で盾を雷雲へ向け、飛びのく。

飛びのきながら、俺は数を数えていた。

1、2の3。1、2の3。

3で攻撃する。当たらなくても良い。タダとの差を少しでも埋める。

「コウ!攻撃無用、守れ!」

その時、ナツの声が響いた。


思わず飛びのいた俺を追うように、稲妻が走る。

ギリギリだった。

lá-bew()ustzijn()

ミズの詠唱が聞こえ、起き上がったタダが俺の前に出る。

前に出た勢いのまま、メイスを雷雲に落とす。

その一撃が、雷雲を倒した。


「まだ攻撃のことは考えるな。お前には防御しか教えてない」

兜を脱ぎ、汗にまみれた顔でナツは俺に言う。

鬼軍曹の顔が俺を心配しているように見えたのは、気のせいだったかも知れない。

真剣なその顔に、俺は頷くことしかできなかった。


どうやって持ってたのか、雲が薄れると箱が現れ、俺の出番が来た。

箱が空くと、中から大量の金貨が現れる。

本物の金貨なら一生遊んで…そこまではナイ。

ちょっと喜んでると、ナツの声が耳に入った。


「隊長、まだ彼には早すぎます」

ぐさっ。

俺の心の柔らかい部分に傷がついた。

「その通りだ。だが早急に地下2階の探索も必要だ。もし、もう1体の像を米軍が手に入れれば、我が方はこの迷宮に関与できなくなる可能性もある」

像?どういうことだ?

だが、それ以上の話は出来なかった。

何かが近づいてくる物音がしたからだ。


ナツが素早く兜をかぶり、隊長が面甲を閉じる。

皆も盾を構える。

暗闇の中から、白い姿が現れた。

ん?

ウサちゃん?


真っ白なウサギが、ぴょこぴょこ出てきた。

わーもふもふだ。可愛えー。

ガシャンッ!


なごんでた俺の目の前に、ナツの鎧姿が立ちふさがる。

「ウサギだ!近づけるなッ!」

隊長の叫び声が響く。

ナツが踏み込み、剣を振り回し戻る。ヒット&ウェイだ。

周りの緊張感と、もふもふ真っ白なウサちゃんとの格差に、唖然とする。


その時、俺の横をタダが吹っ飛んでいき、ウサギの紅い眼が俺を捕らえた。

ウサギは俺との距離を一瞬で縮め、口を開く。

その口に、剃刀のような前歯がギラリと光った。

顔の大部分が口になったその姿に、先ほどまでの愛らしさは欠片も無い。


俺の命を守ったのは、鬼軍曹に仕込まれた条件反射だった。

意識するより先に盾をウサギに向け、後ろに跳ぶ。

俺の首の変わりに盾がえぐられ、刻まれた溝の鋭さに俺は戦慄する。

そして俺が着地する前に、次のウサギが俺に迫る。


俺の顔より大きく開けられた口。

血の色をしたそこに光る歯。

これはダメだ。間に合わん。

俺は、死を間近に見た。


次の瞬間、ウサギが剣に貫かれた。

剣は篭手が外れ切り裂かれた腕に繋がり、腕は鎧を纏ったロボットのような姿に繋がっていた。

ナツだ。

彼女が俺を助けてくれた。


--


「間に合った。今度は間に合った」

荒い息と共にナツの声が聞こえる。

気がつくとウサギは全て土に還り、数十枚の金貨が散らばっていた。


「よかった」

ミズがつぶやく。

失神から戻ったタダが頭を振り、トウが杖で身体を支える。

隊長はもちろん健在だ。

全員無事だった。


肩に隊長の手が置かれる。

兜を取り、座り込んで、まだ荒い息をついているナツ。

ir-kras()sen-ɔː()

ミズが呪文を詠唱し、切り裂かれたナツの腕が修復されていく。


隊長が言う。

「カツ--コウと初めて会った時、既に死んでいた者は、こいつらに殺られたんだ」

ミズがナツに手を差し伸べる。

「仇、取ったね」

ナツが頷き、ミズの手を借りて立ち上がる。


ナツは俺の前に立ち、俺の肩を両手で掴んだ。

その激しさに、肩が折れるかと思った。

「お前は、死ぬな」

かすれた声が囁く。


「アタシが死なせない。必ず守る」

お、俺?

なぜか俺の心臓が跳ねた。

なんだこれは。おかしいぞ、相手は鬼軍曹だ。

これはアレだ。吊橋効果というヤツだ。

騙されるな、俺は怯えてるのだ。この胸の高鳴りは、恐怖のせいだ。


「お前は、カツを復活させるために必要だ」

その囁きを残し、ナツは兜を被った。

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