第二圏 肉欲の迷宮1 -訓練-
ぐぇっ…
喉に突きが決まり、俺は吹っ飛ぶ。
防具の上からでも凄く痛い。息が出来ない。
喉が折れたかも知れん。
「防御が間に合わない時は、自分から後ろに跳べ」
氷のような言葉が追い討ちをかける。
ああ、心も痛い。
分屯地内の訓練場で、俺は基本的な訓練を受けていた。はずだ。
違うよ!
全然基本じゃないよ!
何だよこのガチな訓練!
俺を虐め--鍛えている鬼軍曹は、ナツこと板倉夏海一等陸士。
軍曹じゃないが、鬼であることはマチガイない。
あの不気味なロボの中の人である。
美人さんと訓練♪などと浮かれていた昨日の自分を叱りたい。叱り飛ばしたい。
隙があったら打ち込んで来い。
そう言われていたが、それどころじゃない。
ナツが身動きする度に、左腕の盾を構えて後ろに跳ぶ。
もうそれしかできない。痛いのイヤだ。
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「だいぶ絞られたようだな」
水飲み場でトウに言われた。
彼は隊長こと細川さんとの訓練だ。
俺も、そっちの訓練の方が良かった。
「まぁ次の訓練で心を和ませると良いよ」
トウと連れ立って向かう先は道場だ。
道場の隅に、防具を着けたままのタダが転がっていた。
「おおタダよ、しんでしま…」
「死んでません」
前衛の訓練は、相当厳しいようだ。
トウと2人でタダを立たせたところに、ナツ鬼軍曹が来た。
後ろには、6人の女性自衛官の姿がある。
おお、若い女の子がいっぱい!
これは心がナゴむ。
ナツも若い女の子ではあるがナゴまない。ヤツは鬼だ。
「これから受身の訓練を行う」
ナツが俺に向かって言う。トウとタダは、既に何度も訓練されているからだろう。
「無論、隙があればお前達の方から技をかけても良い」
先生! 寝技もOKなのでしょうか!?
いやいや、俺は紳士だ。
そんな横四方固めなんて、そんな。ねぇ。
「始めッ!」
ナツの号令が響いた次の瞬間、世界は反転した。
あれ?
なぜか天井を向いてる。
そして、背中と腰がむちゃくちゃ痛い。
「まるでダメだな。中高で柔道はやっていたはずだが?」
ナツの顔が視界に入る。
「お前は単独で受身の練習からだ」
後ろ受身30分、とナツが言う。
30分!?
そんなに受身取ってたら背中、磨り減っちゃう。
ひきつる俺に、ナツが目を細める。
Sir! Yes Sir!
「見てるからな、サボったら更に追加だ」
Yes Sir…
ナツは、俺を一瞬で投げた女性自衛官の相手をしだした。
相手の女性は、見るからにビビっていた。
あ、投げられた。
「サボるな、5分追加だ」
ひー
休むことなく40分間、俺は後ろ受身を練習した。
もはや、後ろ受身のオーソリティと言って良いだろう。
もし後ろ受身で判らないことがあったら、俺に聞くがヨイ。
「少しは形になってきたか。じゃ次、投げられてみろ」
次にナツと対戦する予定だった女性自衛官に、喜色が溢れる。
お嬢さん、そんなに嬉しがるんじゃない。
大人しく見えても俺は野獣だ。油断してるとヤケドしちゃうぜ!
スパァーンッ!
ぐえっ…
「明日は単独で横受身だな」