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魔刃少女血風録  作者: アワユキ
一章『魔刃の生まれた日』
3/17

幕間

【閑話 一】


 戦いで疲れた体を引きずりながら弓狩とクーは帰路についた。彼女の格好は既に元の制服姿だ。肉体的には酷い状態だがだが心は初めて命のやり取りを行い、そして勝利したという興奮で沸いている。


「流石に私も命の危機を感じたのは初めてだぞ!」


何故か嬉しそうに弓狩が言う。


「えぇ……なんで笑っていられるんだクー……クーは見てるだけで寿命が縮まるかと思ったクー」

「どれだけ腕を磨こうとも、真の意味で剣を振るう機会など一生に一度も無いものと思っていたからな。剣士ならば誰でも一度は真剣勝負というものに憧れるのだ」


 弓狩は真面目くさってとんでもないことを言い放つ。命のかかった死合いをしたいなどと思うものは現代社会ではまずいないだろう、彼女を除いては。


「人間界の人はこわいクー……」

「ところで久の助。お前何故先程の戦いで加勢しなかったのだ?」


 確かに、弓狩が危機に瀕している時もクーは慌てふためくばかりで何もしていなかった。


「誰クー! クーの名前はクーだって言ってるクー! ……その、申し訳ないけど妖精には戦う力がこれっぽっちもないんだクー……」

「何? そうなのか……ならば妖精とはどんなことが得意なのだ?」

「えっと……捜し物を見つける魔法とか得意クー!」

「……本当に役に立たなそうだな」

「そ、そんなことないクー! うっかり失くしちゃった結婚指輪とか、肝心な時に限ってない爪切りとか一発で見つかるクー!」

「まあ良い。今日戦った青鬼程度の相手なら私一人でもなんとでもなる。何より他力を頼っているようでは真の武士(もののふ)とは言えぬしな」

「あおおにじゃなくてグリーンオーガクー……張り切るのはいいけどくれぐれも無茶はしないで欲しいクー。自分の命を最優先にしてほしいクー」

「安心しろ。犬死にする気など更々ない」

「あんな無茶した後じゃ説得力の欠片もないクー……」


----------


 弓狩の家が見えてくる。その門の前には父の姿があった。辺りはすっかり日が暮れている。いつになく帰りが遅い娘を心配していたのだろう。


「只今帰りました、父さん」

「随分遅かったな弓狩。どうしたんだ今日は?」

「む……えー……その……実は……」

(ユカリ! ユカリ! 魔物や魔法の事は黙っていてほしいクー!)


 弓狩の背中に隠れるように張り付いたクーが囁く。


「うん? なんだ?」

「いえ……少し走り込みをしていました」

「そうか……修練はいいがあまり根を詰め過ぎないようにな。それと遅くなるなら一声かけていきなさい」

「申し訳ありません! 以後気をつけます」

「うん。あまり心配をかけさせないでくれよ」

(娘がこんな鉄砲玉みたいな子だとお父さんは苦労しそうだクー……)


 彼女に似ず、というか彼女が柔和そうな父に似ず、苛烈な性格でさぞ大変だろうなと僅かな付き合いながらハラハラさせられたクーはしみじみと思う。


----------


 弓狩の自室。人心地ついた弓狩はクーに問う。


「さっきはとりあえず誤魔化したが、何故黙っていなければならんのだ? 父さんに隠し事をするのは気が進まん」

「弓狩の正体や魔法のことがばれて沢山の人に広まったりすると動きづらくなるクー。こっちの世界ではありえないもの……魔法や魔物の話が広がればどんな騒動になるか分からないクー」

「……まあ確かに大騒ぎになるかもしれないな。だが危険を周知したり、そもそも警察や自衛隊などに助けを求めたほうが良いのではないのか?」

「それは……多分無理クー。危険を知らせると言っても、魔物は魔法ゲートを開いて突然やってくるから事前にどこに来るのかはわからないクー。それと、魔力がこもった攻撃じゃないと魔物にはまともに傷を負わせられないんだクー。今日のオーガをこの世界の武器で倒そうと思ったら、あのあたり一帯が焼け野原クー」

「よくわからんが……兎に角私が戦うしかないということか」

「まあそうクー。弓狩には負担をかけて申し訳ないけど……クー」

「何、寧ろ望むところだ」

「頼もしいクー……」


 頼もしい、というよりは無鉄砲な弓狩の言動にクーが少し引き攣った笑みを浮かべる。


(そういえば……あの公園にいた女の子のことすっかり忘れてたクー。オーガは倒したし危険はないはずだけど……クー)


----------


【閑話 二】


「あ……あれ?」


 はたと気が付くと、叶は一人ポツンと公園に立っていた。とんでもない光景――この世の者とは思えない怪物とそれと戦う少女、現実離れしたものを目の当たりにしてぼーっとしてしまっていたようだ。


「あっ……もうこんな時間! 早く帰らないと!」


 もう辺りは暗い。叶は改めて家路を急ぐ。


「あれって……弓狩ちゃん……だったよね?」


----------


 翌日。事件があろうとなかろうと社会は、日常は続く。多くの人にとっては魔物や魔法など夢物語なのだから当たり前だ。

 事件の当事者となった弓狩と叶にしても同じこと。彼女らはいつも通りに中学校へ登校していた。


「あの……弓狩ちゃん?」


 猛獣にでも近づくかのように叶がおずおずと弓狩へ声をかける。ちなみに弓狩は陰では裏番だの鬼神だの好き放題に呼ばれている。


「ん?」

「あの……昨日のことなんだけど……」

「んん? ……あー……昨夜襲われていた娘か」

「いやあの……一応クラスメイトなんだけど……」


 弓狩はクラスで、というか学校全体で浮きに浮いているのでクラスメイトとの交流はほぼない。その上、人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだ。決して叶が特別に影が薄いとかそういうことではない。


「それでその……ありがとう」

「む……」


 昨晩、クーから魔法や魔物についてみだりに口外しないよう釘を刺されていたことを思い出す。


「気にするな。最近不審者が出ると言うからな。見回りをしていたら偶々出くわしたのだ」

「ふ、不審者? えっと……そういうレベルじゃないような……それに弓狩ちゃんも色々……」


 あんな巨大で緑色の不審者など存在したら世も末である。それに仮に不審者だとしても首を刎ねていい道理は無い。


「あれだ。夢か幻でも見たのだろう。忘れろ」

「えぇ……そんな無茶な……」


 やけくそなのか本気なのか、なんともなげやりなことを言う。


(何か言いたくない事情とかあるのかな……)


 叶はそう自分の中で結論づける。


「えっと……それでも私は助かったから、ありがとうね」

「いや……うん」


 思えば人に感謝されることなど滅多にない弓狩にとって、こうも真っ直ぐな感謝の言葉をかけられることなど初めてに等しい。何とも面映いものである。これでもかと浮いている弓狩にとっては同年代の相手と普通に(?)談笑すること自体珍しい。


「――フン」


 だが、それを面白くなさそうに見ているものもいた。


----------


 夜の闇を染める砲火。魔導の蝶が空に羽撃く。

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