父親
「リズの父親って誰?」
「……はい?」
「リズのさ、リズのお父さんって誰なの? 何で一緒に住んでないの?」
「……リズの父親は、ロット王国の王族護衛隊隊長です。彼は王都を離れられませんし、離れたいとも思っていないでしょう。彼は自分のことをリズの父親だなどと思っていないですし、私もそう思っていません」
「…………」
ちょっと気になって聞いただけなのにえらいことを聞いてしまった気がする。
「……えっと、サイト様?」
「あ、うん。そう。そうなんだ。護衛隊の隊長さんね。分かった」
「リズの父親が、何か?」
「いや、気になったから聞いただけ。特に深い意味はないよ」
「……そうですね。確かに父親がいないというのは、良くないことですね。気付きませんでした」
「別にそういうことを言ってる訳じゃ……」
「この国では一般的に、夫婦が共に暮らします。女性が家で家事をし、男性は外で仕事をします。このような暮らしが普通で、仮に何らかの事情でどちらかがいなくなってしまったとしても、比較的すぐにまた別の誰かと共になります。そうしないと生きていけませんから」
「……はい?」
「今はまだ国王からの褒賞金、という名の手切れ金がありますから生活は出来ますが、周りからは不自然に思われます。あまり良いことではありません」
子供の養育上良くないとかそういう意味合いじゃなくて?
「すぐにどうこう、という問題ではありませんが、それなりに考えておく必要があります」
「……具体的には?」
「具体的には、子供が二人いる女であっても構わないという男性を探すことですね。この国では特段珍しい境遇でもないので、三ヶ月もあれば一人や二人は見繕えるでしょう」
見繕うって、言い方。
「私としましても、子供二人を養って暮らしていくほどの能力は持ち合わせていませんし、少なくとも年内には適当に夫となる人を見つけておきたいところです」
「……ジーナさんは、その。相手って誰でもいいの? いや稼ぐ能力は最低限必要とかそういうことじゃなく。こう、見た目とか性格とか」
「……つまり、私の好みに合う人でなくて良いのか、という意味でしょうか?」
「そうそう。それ」
「出来ることならそれなりに好青年であることを望みますが、選り好みを出来る身分でもございませんし」
ジーナさんの見た目なら結構選り好める気はするけど。
「何より私には、自由がありません。王宮に仕えることになってから、私に自由や権利というものは失われております。国に仕え、国に奉仕し、国のために働く。そのために私はいました」
「……でも今は違うよね?」
「ええ。私の身はすでに国のものではありません。国に仕える資格を失いましたから」
失ったって。
「今の私は、サイト様のためだけに存在します。サイト様を育て、サイト様を養い、サイト様のためだけに生きる。この身が尽きるまであなたに尽くすこと。それが私のすべてです。ゆえに、男を選ぶ自由などありませんし、必要ありません」
「うーん……」
何だろうこの強迫観念。
「私はあなたの乳母です。それ以上でも以下でもありません。乳母である私に、恋愛など不要です」
そんなことはない、と言いたいんだけど、言ったらどうなるか分からないので言わないでおく。
「と、言う訳ですので、申し訳ありませんがサイト様。これからしばらくの間、ご苦労をお掛けすると思います」
「ご苦労って?」
「サイト様もですが、リズのような歳の子供を家に置いておくわけにもいきませんし、ご一緒にこの町の男探しに付き合っていただくことになります」
「……はい?」
子連れで逆ナンすると言うんですかジーナさん。