失格
「……言いにくいが、リーシア。これは使えんな」
「申し訳ありません、お父様」
「……ジーナ。何か他に、使い道はあるか?」
「…………。いえ、すぐには思いつきません」
「だろうな。そうだろう。透視能力。確かにロットが伝える血の産物だろう。だが明かりがなければ物が見えぬのでは話にならん。これでは閉じた箱の中身を見るという、些細ながら使えなくもない用途にすら使えん。箱の中に明かりを持ち込めるならそもそも透かしの目などいらぬ」
「……返す言葉もございません」
「いやいい。むしろよくぞ育てた。そなたには褒美を取らす。ありがたく受け取るが良い」
「……はい」
「お、お父様」
「リーシア。何か不満か? お前の子供を育てた者に褒美を取らすと言っておるのだ。何の文句があろう」
「……いえ」
「ではジーナ。その子供を連れて下がれ」
「はい」
ジーナさんは立ち上がると、部屋の後ろで寝かされていた僕へと近づき、そっと抱き上げた。
そのままシーリアお母さんと、おそらく僕の祖父に当たる王様らしき人へ頭を下げた。
深く長いお辞儀だった。
それが終わると、ジーナさんは僕を抱えたまま退室した。
目にわずかに涙を浮かべながら。
「サイト様」
「うん」
「私達はここを出なければなりません」
「……うん?」
「私達は、王宮から追い出されます」
「……なんで?」
「サイト様の能力が、あまり役に立たないためです」
「そーなの?」
「はい。サイト様のお力は、その。物を透かして見ることが出来ますが、透かした先に明かりがなければ物が見えません。つまり閉じられた箱や、明かりがない部屋では透視をしても物が見えません」
「うん」
「つまり使い道がかなり限られます」
「うん」
「よって、ここに住むことが出来ません」
「……どーして?」
「使い道のない、王族としても役に立たないあなたを置いておく利点がないためです」
「……ぼくはやくたたず?」
「はい。むしろ邪魔者です。血統が正しいにも関わらず、王族としての教育が出来ませんから」
「……はらんのもと?」
「その通りです。よって、私達はこの王宮を追い出されます。わずかな手切れ金だけを渡されて」
さっき言ってた褒美ってそういう。
「殺されないだけありがたいと思わねばなりません。おそらく、仮に生きていたとしてもリーシア様のご子息では王位争いに加われないからこのような処置になったのでしょう」
「りーしあさまは、かたみせまいの?」
「……そうですね。リーシア様はあまり強い立場の方ではありません。第七王女という肩書もそうですが、あまり謀りごとに長けた方ではありませんから。第八王女のミラ様がおられるのにサイト様を身籠ることになったのもそのためです」
「…………」
薄々は分かってたけど僕ってやっぱそういう扱いなんだね。
「サイト様。お話はご理解されたでしょうか?」
「だいたい」
「では、これから荷造りを致します。しばらくお待ち下さい」
「うん」
ジーナさんが腰を上げて、一度大きく深呼吸をした。
そしてもう一度短く息を吸って短く吐いた時、ジーナさんの顔にはもうさっぱりとしていた。
振り返ったジーナさんが僕にこう言った。
「あとで娘を紹介しますね。と言ってもまだ喋れませんけど」
「……むすめ?」
ジーナさんは特に何も言わず、荷造りを開始した。