命名
「セイタ様、でよろしいですか?」
僕は頷いた。
「かしこまりました。ではこれからセイタ様とお呼びいたします」
首を振った。
「……どういうことでしょう。あなたのお名前はセイタ様で合っているのですよね?」
頷く。
「……セイタ様と呼ばれるのが嫌なのでしょうか?」
頷く。
「……では何とお呼びすれば?」
「…………」
ジーナさん。
そういう質問に僕は答えられないんだってば。
「失礼しました。ではこれから、いくつか質問致しますのでお答えください」
頷く。
「まず確認ですが、あなたの本名はセイタ様でお間違いないですね?」
頷く。
「そしてセイタ様と呼ばれるのは嫌と」
頷く。
「……それ以外の呼び名であれば構わないのですか?」
頷く。
「………………。つまり、元の名前で呼ばれるのが嫌なので、新しい名前が欲しい?」
頷く。
「なるほど……。では私が勝手に決めてしまってもよろしいですか?」
首を振る。
「……分かりました。ではいくつか私が考えますので、その中から選んで頂く、という形式に致します」
頷く。
「……そうですね。セイタ、という名前は確かにあまり馴染みがありませんから、それに近い名前で……。セドリックでは?」
首を振る。
「では……。ヴィンセント」
首を振る。
「これもダメですか……。となると、元の名前近いですが、サイトでは?」
サイト。サイトか。
悪くないかも知れない。
頷いた。
「では、これからサイト様とお呼び致します。よろしいですか?」
僕は再度頷いた。
「かしこまりました。それではこれよりサイト様とお呼び致します。他の者にもそう伝えます」
ジーナさんがやっと終わったという顔をして、頭を下げて部屋を出て行った。
ジーナさんも疲れただろうけど、僕としてもくたくただった。
こんなに意思疎通が難しいとは。
名前を教えるのと、新しく名前を決め直すのに三十分もかかってしまった。
姿が変わるのに名前が同じというのは違和感があるし、こちらにも馴染みにくいだろうと思って名前を変えてみたけど、次からは別の方法を考えないと。
頷き疲れた首を動かしながらそう思った。