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転生

交差点を渡っていると、遠くから車のエンジン音が聞こえた。

音を聞く限りトラックか何かだろう。

僕は青信号を渡っているので、近くまで来たら止まるだろうと高をくくってそちらを見なかった。

かなり速度が出ているようだったけど、どんな乱暴な運転をする人間も人を轢いたりはしない。

必ずブレーキをかける。

そう思って、僕は横断歩道を歩き続けた。

僕の体がトラックに跳ね飛ばされ、コンクリートに叩きつけられて無残な死体となったのはその数秒後の出来事だった。

こんなことになるならもっと周りをよく見るべきだったと、僕は後悔した。



「はいこんにちは」


目の前に知らない女性がいた。

その人は白い服を着て、白く長い髪をしていて、白い翼を背に生やしていた。

僕と同じぐらいの歳で、とても綺麗な顔をしていた。


「ここがどこだか分かりますか?」


首を振った。


「私が誰だか分かりますか?」


もう一度首を横に振った。


「ではあなたの名前は?」


「和辺、誠太」


「はい、意識は正常ですね。ではあなたの転生を行います」


「あ、あの」


「はい何でしょう」


「ここはどこで、あなたは誰ですか?」


「ここは死後の世界で、私はその処理を担当しているシオと言います。分かりやすく言うと天国とか地獄とか、死神とか天使とかになります」


「……僕は死んだんですか?」


「はい」


「……僕はこれからどうなるんですか?」


「さあ。私もよくは知りません。ただあなたはこれからどこか別の世界の人間として生まれ変わります。記憶も何もかもなくして転生します。私は念のため、あなたの意識が正常かどうかを確認する立場の者です。もし何かしらの異常がある場合は転生させずに消滅させる立場でもあります」


「……転生」


「あなたの世界では転生という考え方がありますし、比較的理解もしやすいと思いますが?」


「はい。まあ」


「ではそれを受け入れてください。あなたの魂は再利用されて別の世界で使用されます。あなたの魂もまた誰かの魂の再利用品なのです。そういうものだと分かってください」


「……えっと」


「もういいですか? ではさようなら」


「あ」


シオと名乗った女性が僕に手を触れ、その瞬間僕の意識は消失した。

視界がすべて白で埋め尽くされ、シオさんの姿が白に飲まれ、僕の思考さえも白く染まり、やがて何もかもが純白で覆われた。



何かに叩かれているような衝撃で、僕は目を覚ました。

周りを見渡すと、何人もの人間が僕を見ていた。

なぜか天井に立ちながら。


「……どうだ?」


その中の一人、赤いマントに身を包み、頭に何やら王冠のようなものを乗せた男性が声をかけた。


「今確認します」


いきなり僕の目の前に女性の顔が近づいた。

そこでようやく、僕がこの人に足を掴まれ、逆さにぶら下げられていることに気付いた。

逆さまの顔で女性と対面する。

深い茶色の長い髪と、深い赤色の瞳が特徴的な美人だった。


「……どうやら、成功のようです」


「おおっ……」


先ほどの男性が感嘆の声を上げて、周りの人たちもそれに同調した。

僕は何がなんだか分からず、女の人のされるがままにぶら下げ続けられた。



お風呂に入れられ、体に布をまかれ、かごのようなものに入れられた辺りで、僕が赤ん坊として生まれ変わったことを自覚した。

なぜか記憶を保ったまま。


「この子の名前はいかが致しましょうか」


「それは、その子自身に決めさせるのがいいんじゃないかしら」


「分かりました。ではそのように」


僕の目の前には先ほどの女性と、もう一人別の女性が座っていた。

輝くような金色の髪と、綺麗な緑色の瞳をした若い女性だった。

二人は僕を見ながら何かを話している。


「しかし話せるようになるのがいつになるか」


「確かにそれもそうね。でも勝手に決める訳にもいかないし」


「……少し試してみましょう」


僕を吊るしていた女性がこちらに近づいてくる。


「あなたのお名前は?」


「……えいあ」


誠太、と言おうとして言えなかった。


「……念のため聞きますが、えいあ、ではありませんね?」


頷いた。


「分かりました。ありがとうございます」


女性がまた戻っていった。


「この分なら近いうちに名前を聞けるものと思われます」


「そう。良かった」


金髪の女性がはにかんだ。

とても可愛らしい人だった。


「ではしばらくお休みください。お疲れでしょうから」


「ありがとう。そうさせて貰うわ」


女性が立ち上がって部屋を出て行った。

部屋には僕とあの女性の二人だけが残された。


「……一応、自己紹介をしておきます。私はジーナ。あなたの乳母を務めます。これから長い付き合いとなるでしょうが、よろしくお願い致します」


ジーナと名乗った人が僕に頭を下げた。

僕はどうしていいか分からず、とりあえず会釈をしておいた。

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