表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

case5 : 白鳥撫子(中編)

 悲しい夢を見た。世界に1人取り残されてしまったかのような、哀しい夢を見た。 

 目を覚ました私は、瞳に涙を浮かべながら、虚ろな表情で天井を見つめる。口を覆うマスクと断続的に聞こえる高音の機械音から、ここが病院の一室であることはすぐに分かった。

 どうしてこんな状態で此処にいるのか、その疑問に対しての答となる記憶が蘇る。


 辺り一面、見渡す限り人人人。人が連なり、山を成す。その中心に、あの日私は立っていた。世界の不条理を正そうとした男性の人質として。

 人質……正確には、その表現は正しくないのかもしれない。なぜなら、彼は周囲に何かを要求するつもりも、私に危害を加えるつもりもなかったのだから。

 けれども、到着した警察の狙撃部隊が彼の真意に気づけるはずもなく、冷徹で無慈悲な銃口が彼に向けられるのに、そう時間は掛からなかった。そして、それに気づいた私が射線上に飛び出すのにも。

 直後、激しい重低音が市街地に響き渡り、私は宙にいた。不愉快な浮遊感は人々の悲鳴が上がるよりも早く奈落の底に引き摺り込む重力に変わり、いくつもの紅い染みに彩られた太陽は否応なく私の体を脱力させる。もう二度と目を覚ませはしないだろう、と。なのに――

 

「どうして、生きているのかしら……ね」


 微かに痛みの残る左胸を労るように手でさする。あの日、確かに私は弾丸に撃ち抜かれたはずだ。それは、未だに残る胸の痛みが証明している。つまり、私は奇跡的に命を救われた――あの世にすら受け入れてもらえなかったというわけか……。

 ちくりと胸が痛む。

 いつ以来だろう……こんな気持ちになったのは。今はもう思い出せない遠い昔、思い出そうとするだけでも胸が苦しくなる、そんな辛い出来事があったような気がする。

 人々の辛い記憶を消し去る存在の私が過去に囚われているなんて、なんて滑稽。手の平の置き場を胸から頭に変え、私は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 上体を起こす気になれたのはそれから十数分後、目覚めてからはすでに四半刻もの時が過ぎ去っていた。

 起き上がった私は、まず四肢を拘束するかのように取り付けられた数々の電極に目を奪われた。

 胸の電極には胸を擦ったときに気付いていたが、まさか両手両足にも付いていたとは驚きだ。

 まじまじとその異様な光景を観察したのち、私は電極から伸びるコードを目で追う。コードの終着点は甲高い音を鳴らし続けている心電図。一本違わず心電図に繋がったコードが私の心拍を画面に映し出している。

 「……これが私の心音」

 惹きつけられるように心電図に手を伸ばし、画面の表面を優しく撫でる。音を聴覚ではなく視覚で感じるこの不思議な状況に、私の胸は少なからず高揚を覚えずにはいられなかった。常に一定のリズムを刻んでいた心音が、壊れ狂ったかのように悲鳴を上げるようになるほどに。

「あっ」

 思わず間の抜けた声が咽を通る。もちろん、心電図が壊れたわけでも、ましてや心臓の伸縮が急停止したわけでもない。全てが正常に動作しているからこそこの結果生み出されているのだ。

 私は先程まで私の胸に張り付いていた――今は力なく床に横たわる一本のコードを拾い上げ溜め息をこぼす。我ながら情け無い、たかが心電図に夢中になるばかりに、こんな初歩的なミスを犯すとは。じきに、異常事態に気付いた看護婦がここにやってきてしまうであろう。

 そうなれば、次の脱出の機会が訪れるのはいつになるのか分からない。事態の深刻さをいち早く察した私は躊躇わずにベッドの下に潜り込む。こうなってしまっては、もう隠れてやり過ごすしかない。

「白さん!? どうなさいましたか!?」

 けたたましい物音と声を轟かせる看護婦が入室したのは、私がベッドの下に潜り込んだのとほぼ同時だった。

 視界には忙しく動き回る靴が映り込み、映っては消え、映っては消えを繰り返すその状況は、看護婦達の混乱する姿を容易に想像させる。

「ど、どどどどうしましょう!? 春先輩」

「あなたは、少し落ち着きなさい。部屋の中に居ないということは、最悪の事態ってわけじゃないわ。私は引き続き付近を探すから、あなたは他の看護婦達に連絡してきてちょうだい」

「は、はい」

 入室時と同様に騒音を響かせ、退室する後輩の看護婦。先輩の看護婦は、このようなことに慣れているのか、非常に落ち着いているように感じられた。

「さてと、それじゃあ、私は非常階段の方でも探しに行こうかしら」

 ゆったりとした足取りで物静かに先輩看護婦が退室する。それを見届けてベッドの下から這いずり出た私は、ほっと胸を撫で下ろした。

「非常階段か……いいこと、聞いたわ」

 ここが病院である以上、完全に人目を避けることは不可能と思っていたが、あそこなら話は別だ。ナースステーションの前を通る必要もなく、看護婦や患者とすれ違う心配もない。これほど私にとって都合の良い通路はないであろう。

「あとは、これね」

 病衣をつまみ上げ、それを見るように視線を落とす。このまま外に出たら、きっとすぐに通報され、病院に連れ戻されてしまうであろう。それまでの全てを徒労に終わらせるのはなんとしても避けたい。

 ゆえに、着替える以外に私に選択肢はなかった。幸い、私が元々来ていた服はベッド脇に置かれた藁籠に折りたたまれて入れられており、着替えの服に困るということはなさそうだ。

 強いて言えば、白色のワンピースに付着した薄紅色のアクセントが目立ちすぎるのが困るぐらいか。それでも血まみれの衣服を捨てもせずに、ここまで大切に扱ってくれたことに感謝こそすれど文句の一つでも出ようはずがない。

 そんなことを考えながら、病衣を脱ぎ捨てた私は急いでワンピースに着替え直す。

「やっぱり、衣服は着慣れたものが一番ね」

 鏡の前で一周回って全身を見渡し、私は満足げに頷く。服に付着した赤い染みは確かに強烈ではあるが、実際の血とは誰も思うまい。

 少々楽観的思考に後押しされ、私は息を殺して出入り口の扉に近づき、外の気配を探る。……静かね、まだ騒ぎにはなっていないみたい。

 大騒ぎになっていると思われた廊下からは意外にも人の気配がしなかったため、それを好機と判断した私は勢いよく部屋の外に飛び出した。

 廊下には想像通り誰もいなく、道にさえ迷わなければ恐いくらいに順調に物事を運べそうだ。とは言っても、その道で最初から躓きそうなのだが。

「右か、左か。うーん」

 左右に分かれる道を前にして、唸り声を上げる私。目を凝らして道を見比べても、右方向の道が進めば進むほど明るくなっていることぐらいしか分からない。

 あれ? ああ、そうか。私は何を迷っていたんだろう。もう答は出ているじゃないか。右方向の道が明るくなっているということは、おそらくナースステーションがあるのだ。

 それに気付いた私は左方向の道を静かにかつ迅速に進み、非常階段に続く扉前まで見事に到着する。

 しかし、順調なのはそこまでだった。

 長らく使われていなかったであろう非常階段へ続く扉の取っ手を握ったその時、彼女と目が合ってしまったのだから。

 迂闊と言えば、迂闊だった。彼女はちゃんと宣言していたのだから、「私は非常階段の方でも探しに行こうかしら」と。

「なで」

 私と目が合った彼女が、とっさに何かを口にしようとする。しかし、私はそれを聞き終える前に、扉を乱暴に開き、外に飛び出した。

 久しぶりの外気は夏にも関わらずやや肌寒く、薄暗い曇に覆われ今にも泣き出しそうな表情を浮かべる空は今の私の心情を映し出す鏡のようだった。

 不安を抱えたまま、私は無我夢中で階段を駆け降りる。階段はステンレスの螺旋階段であり、カンカンカンカンカン、カンカンカンカンカンと周囲に響く音を無情にも鳴らすが、今更そんなことを気にしてはいられない。

 永遠とも思える時間の中で数え切れない程の階段が過ぎ去っていく。

 地上が私の目の前に現れる頃には、私の体力は限界を迎える寸前にまで追い詰められていた。

 でも、これでようやく私は帰れる。最後の一段を降りるとき私はそう思っていた。










 どこに?


 突然、不快な浮遊感に襲われる。それは、階段を一段踏み外してしまったような――あるいは、銃弾に撃たれ宙に投げ出されたときのような不快な浮遊感。

 今まで下ってきた時間とは比較にならない程の時間が過ぎ去って行くのを感じる。私はもうこの世界から戻れないかもしれない。いや、戻らない方が幸せなのかもしれない。だって、私は気付いてしまったのだから……。


「――ハク!? しっかりしろ、ハク!!」


 そんな後ろ向きな思考に捕らわれ、当てもなく別世界を彷徨っていた私を連れ戻したのは一人の男性の声だった。

 私は彼の声に聞き覚えがある。宮部康治、以前私が記憶を消す対象として見定めた人物だ。

 こんな気持ちでなかったのなら、再会を懐かしみ、憎まれ口の一つでも叩いていたのであろう。だけど、今の私にはそんな気力はない。出来るのは、病室で目覚めたときと同じように虚ろな表情で地面を見つめていることだけ。意識を覚醒させてしまうのが、ただただ恐かった。


「とりあえず、場所を移しましょ。なんだか面倒なことになっているみたいよ」


 突如、声の主の女性が私の手を握りしめる。手を引く彼女の歩調はまるで私の歩調を知っているかのように心地良く、私はほとんど無意識であるにも関わらず自然と足が前へ前へと動いてしまう。

 おそらく、彼女はこのような状況に慣れているのだろう。盲目の親友の手を引き、様々な場所へと導いているのであろうから。

 そう、私は彼女の声にも覚えがあった。宮部康治と同様に、以前私が記憶を消す対象として見定めた人物――柳瀬美紀、それが私の手を引く女性の正体だ。

「宮部さん、ハクを後部座席に乗せて。私は、前で運転手を誘導するから」

「分かった。ハク、ちょっとごめんね」

 再び私の体を浮遊感が襲う。だけど、今度の浮遊感は不快なものではなく、しっかりと抱きかかえられている安心感溢れる浮遊感であった。

「全員、ちゃんと座ったわね。出してちょうだい」

「お客さん、なんだか病院の方々がこっちに向かってきているように見えるんですがよろしいんでしょうな?」

「問題ないわ」

 エンジン音が聞こえ、ゆるやかに走り出した車が徐々に加速していく。

 何が起きているのかも、どこに連れて行かれるのかも分からないというのに、私は窓に映る自分の横顔を見つめながら思っていた。

 私は――

 ぽつり。ぽつりと降ってきた雨粒が私の横顔を掻き消していく。1度降り出した雨は決壊したダムのごとく勢いを増し、右へ左へと忙しなく動き出すワイパーを私は無意識のうちに目で追っていた。

 そんな私の様子に気付いて、柳瀬美紀が妙なことを口走る。

「ねぇ、ハク。あなた――」

 そこで雷鳴が彼女の言葉を遮る。通常ならそれに続く言葉は絶対に聞こない、ところが私はそれを鮮明に聞き取っていた。


 ねぇ、ハク。あなた、記憶消しの少女じゃないわよね?


 もし、私の体に電極が取り付けられたままだったら、心電図の針はメーターを振り切って壊れていたであろう。それほどまでに、彼女の言葉は衝撃的であり、今の私にとっては致命的なものだった。

「柳瀬さん!」

「いいのよ。彼女の様子を見れば、遠回しに確認する段階は、とうの昔に過ぎ去ってるってあなたも気付いてるでしょ?」

 宮部康治はそれ以上何も言わなかった。彼も柳瀬美紀と根本的な部分は同じ認識を持っているのだろう。

「わ、私は……」

 彼女の言葉を否定し、自身が記憶消しの少女であることを主張する言葉が続かない。なぜなら、私は自分が何者なのか自分ですら分かっていない――記憶がないから。

 恐れ、拒絶してきた現実を、ついに私は認めてしまう。そう、私は今、記憶がない。具体的には記憶消しの少女として誰かと対面していたとき以外の記憶がないのだ。

 今までどうやって生きてきたのか、どこから来てどこに帰っていたのかさえ覚えていない。


「分かった。全て話すよ。僕達が見てきてた全てを」


 その後、宮部康治と柳瀬美紀の口から、私が記憶消しの少女でないという根拠が語られた。

 彼らは都市伝説「記憶消しの少女」の発祥地に赴き、記憶消しの少女はその名の通り「歳を取らない神秘的な少女である」という事実を突き止めたらしい。

 つまり、成人している私は記憶消しの少女ではない。なら、私は誰だと言うのか? 私にとって一番の恐怖であったその疑問に対しても、彼らは推測ではあるが答えを教えてくれた。

 「白鳥撫子」、それが私の名前。

 彼らは記憶消しの少女の発祥地を離れる前――病院を訪れる直前まで記憶消しの少女が奉られていると言われる祠を訪れていた。そして、そこで祠に祈りを捧げる老夫婦に出会ったらしい。

 老夫婦は近くの街で孤児院を営んでおり、「白鳥撫子」はその孤児院に15歳まで養ってもらっていた。しかしながら、とある勘違いがきっかけで、少女は孤児院を飛び出し、今日まで行方不明になっているそうだ。

 記憶消しの少女の発祥地も、もともとはこの事件がきっかけで世間に名が知れ渡り、そこから「記憶消しの少女」という都市伝説の存在が流布したらしい。

 「記憶消しの少女」が世間で騒がれていたのは、今から10年程前。私の年齢が見た目通り20代後半であるなら、白鳥撫子と私の年齢は一致することになる。確証と認めるにしてはやや弱いが、推測としては十分に成り立っているため否定出来ない。

 結局のところ、私が全て思い出すしかないのだ。自分が何者であるのか、なぜ過去の記憶を失ってしまったのかを。

 ゆえに、彼らは私を此処に連れてきた。全ての始まりの土地、記憶消しの少女の発祥地――正確には、本物の記憶消しの少女がいる祠へ続く山道の入り口に。

「ここから先は、私一人で行くわ。何が起きるか正直分からないもの」

 人智を超えた記憶消しの少女が必ずしも人間に対して友好的であるとは限らない。これ以上、宮部康治と柳瀬美紀を巻き込むわけにはいかないと思った。

 その気持ちを察してくれたのか、彼らもそれを快く了承してくれる。

「ハク、忘れないで欲しい。キミはもう一人じゃない。何があっても、キミは僕達の恩人であって掛け替えのない仲間だ」

 心が安らぐ。これから取り戻そうとしている記憶はきっと私にとって辛い記憶。だけど、どれだけ辛い記憶であっても忘れていいことにはならない、仲間と一緒なら乗り越えられる。それを彼らが教えてくれた。だから、私は安心して前に進んでいける。

「こんなときにこんなこと言うのもアレだけど、あなた、記憶消しの少女に会えたら文句の一つでも言ってやりなさい。少女と呼ばれるには時が経ちすぎてるでしょ。あなたも私も」

 ああ、これは。思わず顔が綻びそうになるのをグッと堪えて、そっぽを向きながら私は彼女の気持ちに応える。

「失礼ね。生憎、私はあなたにオバサン呼ばわりされるほど歳はとってないわよ? ふふっ」

 言い終えた瞬間、我慢出来なくなった私と柳瀬美紀が一斉にくすりと笑い出す。事情を飲み込めない宮部康治だけが困惑めいた表情を浮かべていたが、面白いのであえて何も言わないことにする。

「それじゃあ、またいつか」

「ええ、またいつか」

「ああ、またいつか」

 私達の間に別れの挨拶はいらない。どんなに遠く離れようとも、必ずいつか出会えるのだから。それが明日になるか10年後になるかは分からないけれど。

 再会の約束を交わし終わった私は、それ以上は何も言わずに祠へ続く山道を登り始める。

 草木が生い茂る自然の道を通るからには祠に辿り着くまでの間に生傷の一つでも出来てしまうだろう。そんなことを思いながら山を登り始めたのだが、祠に辿り着いた私はそれが杞憂であったことに気付かされた。祠には先客がおり、その人が踏み均した道を私は通ってきていたのだから。

 先客の女性は祠の前で両膝をついて祈るように両手を握りしめており、こちらの存在にはまだ気付いていないようだ。お互いに存在を認め合ったのは、私が彼女の背後に立ってからだった。

「あなたが記憶消しの少女? ううん、違うわね。今まで一度も現れてくれたことなんてなかったもの」

 その発言から、彼女が今日初めて此処を訪れたのではなく何度も訪問していることを私は知る。外見から判断しても彼女は決して若くなく、痩せ細った体と疲れ切ったような表情から健康そうにもとても見えない。それほどまでの苦行を経て、彼女が忘れたい記憶はなんなのだろうか? そう思った私の口は、自然に開いていた。

「よかったら、あなたが消したい記憶を話してもらえませんか?」

 記憶消しの少女でない私に彼女の願いを叶えてあげることは出来ない。でも、話を聞くだけでも救われることはある。宮部康治と柳瀬美紀が私を救ってくれたように。

「……これは罰なのよ、娘を裏切った私への。もう私にあの子の母親を名乗る資格なんてない。あの子との記憶に縋る権利もない。それなのに、罪を抱えたまま10年も経ってしまった。私は死んだ方がいいのかしらね」

 物騒な言葉が出てきたところで、慌てて私は話しを止める。どうやら彼女は記憶を消したいのではなく、大切な記憶を消すことによって自らを罰したいらしい。

「そんなの駄目よ。そんなことしても何の償いにもならない。あなたは本当の罪の償い方を分かっているはずでしょ?」

「……私も最初はそうしようとしたのよ。でもね、全て手遅れだったの。だって、あの子は行方不明になっていたから」

「えっ」

「長話、ごめんなさい。娘が生きているならあなたと同じぐらいの歳になっているでしょうから、つい話し込んでしまったわ。もう行くわね。心配しなくても大丈夫、諦めずに娘を探すわ。10年間耐えられたんですもの、きっとこの先も耐えられる」

 祠のある広場を後にし、山道に足を踏み入れる女性。その後ろ姿を見ながら、私は考えていた。

 待って。10年前に行方不明? まさか、あなたは――

「おか」

「白鳥撫子」

 女性を呼び止めようとした私を、更に後方から誰かが呼び止める。今すぐ彼女を立ち止まらせないといけないのに、後方から感じる威圧感がそれを許してくれない。

 先程まで女性が立っていた場所――祠の前に誰かいる。

 女性の後ろ姿が完全に視界から外れてしまったのち、おそるおそる振り返った私の前に立っていたのは、一人の少女。白いワンピースを身に纏い、幼い容姿には不釣り合いな威圧感、存在感を放つその少女はまさしく人々の記憶に語り継がれるに相応しい存在――記憶消しの少女。


「おかえりなさい、白鳥撫子」


 世界が光に包まれたのは、その直後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ