地雷が集まってカオスなギルドを作るオンライン
という話を思いついたんだけど、書く気力が起きないので導入だけ。
誰か書いてもいいのよ?
薄暗いダンジョンの中、猫人の少年は湧き出るモンスターと戦いながら、罠を潜り抜け奥へ奥へと突き進んでいた。
鉄の直剣を持ち麻の衣服に身を包んだ少年は狼型モンスターを剣で後方に逸らし、落ちてきた吊り天井のトラップに巻き添えにする。
ドゴォン、と音を響かせ落ちた天井に身を竦ませるも、すぐ傍の壁に穴が空いたことを目敏く察知し、すぐさま右の直剣を振う。
「シッ!!」
直剣は正確に穴から放たれた矢を叩き落とし、後続は身を転がして回避する。
そしてその途端に反応する危機察知スキルに従い前方へ思い切り身を投げ出すと、次の瞬間には今まで立っていた場所にギロチンが落ちてきた。
絶えず繰り出されるデストラップの数々に少年は冷や汗を掻きつつ、早くこの場を離れようと一歩踏み出す。
すると、その一歩は「カチッ」という音を鳴らし“何か”を踏み込んだ。
「げっ」
嫌な予感に顔を青ざめさせる少年だが、抵抗する間もなく足元の床が消失し、暗闇の中へと投げ出された。
仕事をしているアピールの如くうるさく音を響かせる危機察知スキルだが、もはや手遅れ。少年はそのまま暗闇の中を落ちて行き、容赦なくデストラップの餌食となってHPを全損させた。
◆ ◆ ◆
「あっちゃー、やっぱ無理だったか……」
場所は変わりはじまりの街“テロス”の広場。黒曜石のような漆黒のモニュメントが建つ広場の中心にて、少年は仰向けに倒れていた。
見れば、周囲には似たような恰好で倒れている人がちらほらと居り、さらには空から光が降りてきたかと思えば同じように倒れた人が新たに現れる始末だ。
「あー、やっぱステ下がってんな。これがデスペナか」
身を起こし、左手を振って出現させたウィンドウを見ながら少年がそう呟くと、そこに影を落とすように人影が現れた。
「よう、ヒロ。どうだった?」
「うんにゃ? アストか」
地面に座り込んだ猫人の少年――ヒロはアストと呼んだ両側頭部から角を生やした龍人の少年にひらひらと手を振り、ひとつ息を吐いた。
「やっぱ無理だったよ。ご覧の有様さ」
「そりゃ開始一日目でダンジョンクリアされたら俺らの立つ瀬がないから。んで、何層まで行った?」
「十三層」
「……初期装備で十三層って、お前やっぱ頭おかしいわ」
「うっさい」
そう言って、ヒロは右手の直剣をアストへと投げつけた。
“Broken Phantasm”、通称ブロファン。幻想が失われつつある世界を舞台としたVRMMOである。
広瀬裕也は高校の友達である海堂明日斗に誘われ、今話題のブロファンをプレイし始めたのだが、説明書を読まないタイプである裕也――プレイヤーネーム“ヒロヒロ”はその一歩目から躓いてしまったのだ。
「メインをサポート職の冒険者にするなんて、やっぱお前変わってるわ。地雷ってやつ?」
「いいじゃん。今回は戦闘より探索したかったんだって」
「ヒロは前のゲームで大会上位行くくらい戦闘上手いじゃん。もったいねー」
「VRの戦闘は本人のセンスだから。でも探索はスキルないとお話にならないから」
「スキルなくて戦闘でお話になる時点で頭おかしいんだよなぁ」
ぼやくアストの言葉は無視し、立ち上がったヒロは苦言を呈す。
「頭おかしいって言うならさ、そっちはどうなんだよ」
「ん? なんかおかしいか?」
そう言ってシャドーボクシングのようにシュッシュッ、と拳を前に突き出すアスト。その恰好は初期装備のヒロとは異なり、スマートな皮装備でスピードタイプの前衛を彷彿とさせる。武器は持っていない代わりに左手にグローブをはめ、右手には指輪を付けている。見るからに格闘家といった体だ。
「やっぱ男は拳だろ。武器なんぞ使ってんじゃねぇ!」
「お前メイン職なんだよ」
「魔術師」
「…………やっぱお前に頭おかしいとか言われたくねぇ」
ブロファンはベースレベル制を廃止し、代わりに“職業システム”を導入している。プレイヤーはキャラメイク時にメインとサブのひとつずつ“職業”を選択し、それらのレベルを上げて成長させ、上位職へと転職することで強くなるのだ。
そんな中、ヒロが選択したのはメイン“冒険者”のサブ“鍛冶師”。アストはメイン“魔術師”のサブ“拳士”であった。サポート職と生産職で前線に出るヒロも、後衛職を前衛へと転用するアストも、正直なところ頭のおかしさで言えば五十歩百歩であった。
「それで、レベルはどうよ」
「鍛冶師はそのままだけど、冒険者は10に上がった」
「おお、一気に10レべか。一時間ちょっとの探索にしちゃ効率良いな」
「明らかに分不相応なダンジョンだったしな」
職業レベルは、その職業に見合った行動をとることでレベルが上がる。例えば、剣士ならば剣を使って敵と戦う、弓士ならば弓で、拳士ならば拳で、といった風にだ。
その中でサポート職に位置する冒険者は少々異なる。冒険者のレベルアップはダンジョン攻略に比例するのだ。だが、ダンジョンとは金銀財宝が埋まる代わりに強大な敵や息継ぐ間もないデストラップが待ち受ける死地である。本来は通常のフィールドで敵と戦いステータスを鍛えてから潜るのが基本だが、戦闘職を取っていないヒロにはそれが出来ない。そして、アストが転職を勧めても頑として譲らない。結果死に戻り前提の強行軍をすることになったのだ。
とは言え普通は初期装備で挑んでもまともに攻略できず、レベルアップなど夢のまた夢だ。だが、戦上手のヒロはこれまでのVRゲームでの経験を総動員し、湧き出る敵をトラップにぶつけることで十三層までの攻略に成功したのであった。
「んで、例の剣は見つかった?」
「ああ、ほれ」
ヒロの問いに頷き、アストはアイテムボックスから取り出した剣をヒロに投げやる。
それを受け取ったヒロはほうと息を吐き、鈍く輝くメカメカしい剣を見つめた。
「分類は機構剣。お前の言ってた可変武器だ」
ヒロが剣を振うと、剣は剣身が回転し、鍔の中から砲身が現れ銃へと変形した。
ガシャン、と音が響くさまをヒロはうっとりとした様子で眺め、口を開いた。
「やっぱ可変武器は男の浪漫だよなー」
「俺も浪漫推奨派だし分からなくはないけど、それどう考えても茨の道だぜ?」
「分かってるよ。でもこれゲームだし、楽しんだもん勝ちだろ」
「カカカッ、違いねぇな」
ヒロがサブ職で鍛冶師を選んだ理由は、この機構剣にあった。
ヒロが以前やっていたゲームにスチームパンク系のものがあったのだが、そこでヒロは機械機械した武器や無骨なロボに魅了されてしまったのだ。
さらに言えば、そのゲームでは蒸気を利用した装置で空を飛ぶことが出来たのだが、その劣悪な操作性に慣れたことでヒロの空間把握能力や空中での姿勢制御は常人の追随を許さない域に至っていた。これがヒロの類稀なる戦闘センスの根底にある。
そのゲームは既にサービス終了を迎えたが、ヒロは他のゲームに移ってもそういった武器やプレイ方法を好むようになった。
そんな訳で傍目から見れば絶賛ネタプレイ中のヒロは嬉々とした様子で機構剣を装備した。
「で、ヒロはこれからどうする? 俺は取りあえず上位職目指して、その後ギルドでも作ろうかなって思ってるけど」
「へぇ、ギルド? どんな?」
「ああ、今思いついたんだけどさ。ほら、俺やお前って俗に言う地雷じゃん?」
「不本意ながらな」
これが、後に稀代の傑作と称される“Broken Phantasm”を大いに騒がせることになる少数先鋭の頭がおかしい集団。
「浪漫あふれる可変武器使い」
「零距離魔法の浪漫拳士」
「猫キチトリガーハッピー」
「筋肉バカな突撃騎乗兵」
「狙撃弓使いの爆裂ボマーエルフ」
「高機動ミスティック侍」
彼らが集う、お騒がせ地雷ギルド――
「なら、そんな地雷どもを集めて、盛大に馬鹿騒ぎでもしてみないか?」
――“クレイモア”の始まりだった。
続かない。