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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第一章・死神/The Reaper
8/57

城内探索・死神は命を刈り取らなかった

2016/11/6/11:29/改稿/改行の修正

 魔王城内を無言で歩く死神がいた。

 肩には武器庫で見つけた如何にもな大鎌デスサイズを背負い、空いた片方の手でリンゴのような深紅の果実を持っている。

 その果実を食べつつ、死神――クロードは一つ一つの部屋を回っていた。


「こりゃもう使えねえな」


 どの部屋も確かに形は残っている。

 しかし先の戦闘で城全体が歪んでしまったらしく、ドアを開けようとすれば動かないのはよくあること。

 たまに開くドアがあれば、中の窓はバリンと砕け散り、隅っこのほうにちょこんとガラスが残る程度。

 部屋を形作る石材には大きなヒビが走り、もはや修復するよりも新たに建てたほうが速いと言えるほどの部屋まである。

 そしてそのすべての元凶ともいえる天井崩落を引き起こしたクロードは、城の書物庫に入って本を漁り始めた。


「召喚系か転移系の本は……」


 たった三つの本棚。それにぎっしりと詰め込まれた書物をさっと指で辿りながら題名を見る。

『魔王になるために-初級編』

『世界の歩き方』

『猿でもわかる基礎魔法』

『歴代魔王の勇姿』

 どれもこれもが信用できるかこの情報、といった感じのものであり、クロードは一通りの題名を確認し終えると部屋を出た。

 ただ、隅のほうに一冊分の空きがあったことは気になったが。


「さーてと、そろそろいいか」


 大鎌を背に、先ほどの激戦があった魔王の間へと足を向ける。

 部屋に入ればあれからさらに崩れたのか、壁は七割ほどがなくなり、天井……空を仰げば青い空にのんびり流れる白い雲。

 ときおり壁……外の自然から流れ込むさわやかな風。

 もはやここだけは廃墟と呼んで差支えない状態になっていた。

 そんな部屋の真ん中、瓦礫の山があった場所では例の鎧が掘削作業を行っていた。

 どうやら埋まってしまった玉座を掘り返そうとしているらしい。


「おい”偽”魔王!」

「ひっ!」


 クロードが大声で呼びかけると、鎧はビクッと震えてぎちぎちと振り返った。


「まだいおったか、勇者」

「あ、そういう演技もういいんで。質問に答えなかったら潰して赤くてぐちゃ

 ぐちゃなナニかにするから。そこんとこオーケー?」


 言いながら歩を進めるクロード。鎧は一歩後退って瓦礫に躓き倒れる。

 あきらかに恐怖の感情を放っている鎧に向け、クロードは大鎌デスサイズを振り下ろした。

 少しでも動けば首の隙間から鋭い刃が入りこむ位置に。


「まず一つ、なんで魔王の”フリ”なんてしていた?」

「…………。」

「答えないならそれでいい、あの奥にいる誰かを血祭りにあげるから」


 埋まってしまった玉座――のさらに奥を指さしながらクロードはさらっと怖いことを口走る。実際、刈り取った敵兵の生首片手に……なんてこともしてい

 るため、奥にいるのが誰であれ何であれ容赦はしない。

 それを聞いた鎧は慌てて答えた。


「あ、あの奥に魔王様がいらっしゃるので、余計な手を煩わせないために」


 すでに先ほどの戦いのときのような威圧も威厳もあったものではない。

 脅す青年と脅される老騎士だ。


「なるほど」


 数ミリほど刃をさらに押し付ける。


「それじゃ次。あんた、別世界への転移はできるか?」

「で、できん」

「そうか残念だ」


 さらに数ミリ押し付ける。後五ミリ分ほどの力を加えれば鎧の中は鉄錆臭くなるだろう。


「最後に、その魔王は召喚やら転移やらの魔法は使えるか?」

「つ、使える」

「ぃよっし」


 それを聞いたクロードはデスサイズを退け、鎧から離れた。

 だが視線は外さない。まだ何か言うつもりのようだ、


「俺が戻ってくるまでにそこの瓦礫全部片づけとけ、いいな」

「…………、」


 鎧は呆気にとられた様子でクロードを見る。自分に命令できるのは魔王様だけであんたには言われる筋合いがない、とでも言いたそうだ。

 しかし、


「ちなみに俺が戻ったときにあんたが作業終えてなかったら容赦なく城ごと潰

 すから。魔王も達磨にでもして無理やりに魔法使わせるんで、そのへん分かっ

 とけ」


 さらりと放たれたその言葉で、鎧は先ほどよりもより一層速いペースで瓦礫の撤去作業に取り掛かった。

 見た目はただの人間だというのに重たいはずのデスサイズを片手で振り回し(重力操作で軽くしていることは傍から見れば分からない)、己よりも巨大な相手を恐れないどころか、逆に恐れを抱かせる青年に屈服した瞬間であった。

 クロードは大鎌を持っていない左手を前に向け、そこに力を集中する。瞬く間に光すらも捻じ曲げる力場が生成され、空間に穴が開く。そこにデスサイズを放り込みながら部屋を後にした。

 穴あけの原理は超重力によるブラックホール、これが一番近いだろうか。



 1



「いやあああああぁぁぁっ!」


 城を出て、周辺の地形の把握がてら付近の森を散策していたクロードは悲鳴を聞きつけた。

 完全に音を消して森を駆ける。

 斜面を駆けのぼり、木の陰に隠れて現場を見渡す。

 囲んでいるのは魔族、囲まれているのは町娘のような……というかメイであった。


「……助ける必要もないか」


 そう判断してクロードは身を翻した。

 別段、襲われているのがおっさんであろうとも爆乳の美少女であろうとも結果は変わらない。

 相手が美少女だと途端に対応が紳士に変貌するような性格ではないのだ。

 もし助けるとすれば、助けることによって自分になにか利がある場合と、助けなかった時に自分の気分が悪くなる場合だけである。

 この場合はどちらとも感じられない。助けても余計なお荷物が増える、助けなければ依頼を完了した相手が消えるだけ。

 そもそも助けたところで付きまとわれると厄介だ。それも一緒にいればもう襲われないだろう、などという打算の場合は粘着度がすぐに引きはがせる程度ではない。


(しかし山賊かぁ、確か襲ってきた以上は対応はそこらの魔物と一緒でいいって話だったな)


 半年の間に読破した書物の中にあった情報を思い出す。

 この世界の決まりでは、襲い掛かってきた賊は魔物(魔王側に属さない野良)と同じ扱いとなる。

 つまりは返り討ちにして逆に身ぐるみを剥いでしまうのは個人の勝手。

 そうした後に命を奪いとるも奴隷とするも自由。

 果ては殺す前に犯すなど、辱めるようなことすらもお咎めは一切ない。


「ふむ」


 いきなり横合いから突き出された曲剣を素手で弾く。

 実際、ほんとに素手で弾いたのではなく、相対座標ゼロで展開した反発フィールドだ。

 そして腕を掴んでその者を引き寄せて腹に膝を叩き込む。


「あぐぅっ!」


 ポニーテール、青い鉢巻の長い帯が流れる。

 胸はさらしを巻いただけであり、下は黒いスパッツにベルト、そこにポーチを複数ぶら下げている。

 特徴的なのは灰色と茶色を混ぜたような色、銀茶色の髪からぴょこんと覗く同じ色のイヌ耳だろうか。


「女かよ」


 意識を失ったその身体を横に投げ捨てつつ回れ右。


(さてさて、このまま立ち去ろうかとも思ったが噛みつかれたからには徹底的

 に叩きのめさないとな)


 ヘンな方向にスイッチの入ったクロードは曲剣を拾い上げて斜面を滑り降りた。

 その心は、とりあえず殺さずに無力化して身ぐるみ剥いで奴隷商人に売り払おっかなー、というものである。


「だ――」


 れだ、までは言わせずに曲剣の峰で強かに首を打つ。

 ゴキッとしてはいけない音がするが、ギリギリ大丈夫? な威力ではある。


「クロードさまぁ!」


 叫ぶメイを無視してクロードは、ビュオンと風切りの音を響かせながら振り下ろされる槍を掴みとる。

 そのまま引き寄せ、槍の持ち主であるこれまた獣耳の男に蹴りを撃ちこむ。


「ぐぉ――ああああああぁっ」


 能力を併用した強力な蹴り。

 ズッドォォンと明らかに人が出せない音を響かせ男は吹き飛んだ。

 そしてそれを見届けることなく、曲剣の峰を後ろに振るう。


「がぁっ」


 剣を握る手を強かに打たれ、瞬間的に痣が生じた女。

 そのままバランスを崩し、倒れたところを蹴られて意識を失った。残るのは三人。


「雑魚だな、雑魚すぎる!」


 一歩踏み出すクロード、三歩下がる賊。

 そのうちの一人が叫んだ。


かしらぁぁーーーーー!」


 どうやら一番強い誰かを呼ぼうとしているらしい。

 クロードとしてはすでにレベル100でスライムを狩り続けるに等しい状態だったため、たまには強いやつと戦いたいなどと思って来るのを待った。


「……………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………」

「……………………………………………………………………………………で?」


 期待して待った。のんびりと、待った。

 しかし、三十を数えるほどの時間が過ぎても誰も来ることは無かった。

 それどころか返事すらない。

 がっかりしたクロードは重力嵐とでもいうべきものを引き起こして残りを瞬殺(気絶させただけです)した。

 その後、脅威が去って気が抜けてしまったのか、メイは急に腰を落としてそのままぺたんと地面に座ってしまった。

 そんなメイを放ったらかしにして気絶させた賊どもを回収したクロード。

 賊の人数は六人。


「あれ? なんか少ないような……ま、いっか。ほっときゃ魔物に食われる

 か」


 心配は一欠けらも持ち合わせない思考。

 気絶したままの賊を浮かび上がらせて城へと足を向けた。

 そしてそれはちょうどメイが立ち直ったタイミングでもあり、彼女としては助けてもらい立ち上がれるようになるまで待っていてくれたと思うには十分な状況だった。


空間に穴をあけられるなら自分で帰れるだろ。

と、思うかもしれないがブラックホールと同じだとね……。

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