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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第一章・死神/The Reaper
7/57

対魔王戦・誘拐犯は樽を置いてゆく

2016/11/6/11:34/改稿/改行の修正

 かくして三人は魔王討滅のため、馬車に乗り移動を開始した。

 半年という時間があったにもかかわらず、乗馬術は教えてもらうことができず、自ら練習するという事も出来なかったのだ。そのために馬車だ、御者としての技能は書物で見たままでなぜかできてしまった天城とクロードが交代で行っている。

 馬車の中には三人それぞれの荷物。

 それは食料であったり、武器であったり、着替えであったり、なぜかガタガタゴトゴト揺れる樽であったり……。

 今頃城は大変な騒ぎになっていることであろう。

 そしてこの半年。互いが互いを牽制し合って、魔王側に大した戦力を割かなかったがために魔王は魔王でかなり強くなったという噂だ。

 一国が魔王討滅に戦力を割けば、すかさず余所の国がこれに乗じて国を奪えと戦力を準備していたがためのことだ。

 人とはいついかなる時においても、遠くの脅威と目先の欲では比べるまでもなく後者を選び取るらしい。



 1



 魔王領。

 半年の間に領土を広げたはずであったが、わずか数日の間に三人の勇者によって領土の9割は奪い返されてしまっている。

 魔王領に住み着いているのは当然魔物が主に、次いで魔族が大多数を占める。

 人族よりも長きにわたってこの世界にいるとも、その昔人と魔物とが交わった末に生まれ出たとも言われる魔族。

 その姿は千差万別。

 ちょこんと獣耳がついていたり、角があったりと、ほとんど人族と見分けがつかないものもいれば、逆に頭が鳥であったり獅子であったり、四本腕であったり半身が獣であるなどほとんど魔物にしか見えないものもいる。

 すでに残りわずかとなった魔王領の中心にそびえたつ城を守るのは、ちょうど両者の中間あたり。がっしりした体つきの狼男、体中の毛を削ぎ落とせば人間に見えなくもない者と、鳥の足と嘴、蹄の腕を持

つ、背の高い男だった。

 武装は両者ともに革の鎧と安っぽい槍だ。


「ふぁ、あぁ……」


 狼男があくびを漏らす。

 いくら前線で人族と魔物たちが戦っているとはいえ、たかが人族。

 獣にすら一対一では勝てないものがたったの三人。

 そのような者たちがここまで来るなど露程も考えてはいない。


「緊張感ねえなぁ」


 鳥頭が注意するも、実際に暇であり、この場所での仕事は見張り以上のなにものでもない。


「つっても、だいたい前線が破られたら報告が来るだろ、見張りなんていらないんじゃ……」

「でも、まったくの無防備とはいかんだろ。しかし、実際来るとすれ……ば?」


 城門に続く道に目を向ける。

 まだまだ何も見えはしない。

 だが確かに狼男の鼻は殺戮の臭いを嗅ぎ取った。

 耳は仲間たちの断末魔を。

 何者かが来る。

 それもそこらにいる低級な魔族や悪魔ではなく、死神クラスの強大な何かが。


「な、なんだ?」


 二人の門番は道の彼方に目を向ける。

 ほどなくして、道の向こう側に人影が見えた。

 その速度は人族の速度ではなく、むしろ四足の魔獣並みの速さだ。

 このままでは分もかからず秒で門までたどり着いてしまいそうだ。

 その人影は三つ。

 いずれも十代半ばから後半の年齢の男たちだった。

 やや小柄で、細身の剣を持った少年。

 同年代の中では平均的な体格、良くも悪くもないルックスの青年。

 片手にロングソード、もう片方にラウンドシールドを持っている。

 そして問題は最後の一人。

 黒尽くめ。それも死神を連想させるような殺気の籠った黒。

 黒尽くめ、少々長めの黒髪で暗い大人しそうな印象ではあるが、その眼は肉食獣のなどの目を通り越して、神すらをも狩ってしまいそうなハンターの目だった。

 背後には魔法で浮かばせているのか、ピッタリと人一人がギリギリ入りそうな大きさの樽が追従している。


「て、てきしゅ――」


 言い終わる前に、どこかから飛来した短剣の柄が門番の喉を強かに打った。

 苦悶の声を漏らすこともなく、喉からゴキッと変な音を出して門番は地に伏した。

 気づけば黒尽くめの男が何かを投げ終えたような恰好をしている。

 普通に投げたのでは決して届かない距離ではあるが、重力操作の魔法で飛ばしたのだろうか。

 やがて三人の勇者は門の前で立ち止まった。

 見張りらしき二人を瞬殺(殺していません)しただけ、他の出迎えは一切ない。


「さあ、さっさとやっちまおうか」


 至極どうでもいいという感じでクロードが言う。


「そうだな、それに魔王に止めを刺した奴があの美人なお姫様と……くくっ、こりゃ気合が入る」

「お、おおおお、俺だって、こんなゲームみたいな世界でチート無双できるのは夢みたいだ」

「……ダメだこいつら」


 ひとりぼそっと言ったクロードは、さっと周囲を確認し、己の足に不自然な歪みを纏わせた。

 二人の勇者も呪文を呟いて火球を作りだす。

 クロードは観音開きの城門、大型トラックも余裕で通り抜けられそうなほどのその中心に前蹴りを撃ちこんだ。

 ミシィッ! と軋みつつ、壊れそうなほどの勢いで扉が開く。

 その瞬間、魔法弾の壁が城門の向こうに一瞬見えた。

 クロードの蹴りの勢いは城門のみならず、その後ろで待機していた魔法使いたちと魔法を容赦なく吹き飛ばす。

 魔法弾は火であり、水であり、はたまた電気の塊であった。

 吹き飛ばされたそれらが無作為に焼き払い、打ちこわし、水で濡らされた場所を電撃が走り抜ける。


「……不意打ちはまあ悪くないが、それで自分たちが全滅ってのは……ダメだろ」

「あの、クロード……っさん?」

「ん?」

「俺らの仕事まで取らんといてくれません? さすがに魔王を仕留めても雑魚は全部あんたがやったとかじゃ外聞が悪いから」

「知るか、俺は魔王に用がある。雑魚はまとめて効率よく処理する」


 かくして、魔王城内の守備隊はものの数分で全滅させられた。

 死者は二人の勇者が倒した分だけ、クロードはすべてを身体の欠損はあるが気絶に留めている。

 やがて長い長い廊下に足音が響く。

 城の最奥、魔王が佇む場に二人の勇者と帰りたい勇者が踏み込む。

 一際大きくおどろおどろしい、豪華なつくりの扉はクロードの蹴りで一撃のもと、こなごなに砕け散る。

 どうも城門が一番頑丈であり、内部の扉は脆いようだ。


「攻略開始わずか数分でラスボスとご対面か……つまらない冒険だなぁ」

「んなこと言うなって。誰が一番に倒せるか競争だ」


 二人の勇者が話しながら歩を進める。

 部屋の一番奥には玉座があり、そこに座る巨大な鎧姿からはどす黒いオーラが漂っている。


「よく来た、勇者よ!」


 コホンと咳払いしたのち、鎧が立ち上がり、話しかけてくる。

 その声は重厚でどこか禍々しさを感じさせるものだった。

 鎧にはあちらこちらに傷が残り、今までに挑んできた猛者たちとの激戦を想像させる。


「あんたが魔王か」


 天城が怯えを全く含んでいない声音で尋ねる。

 すでに天城も千夏も剣を抜き臨戦態勢だ。

 不意打ちであったとしても対応はできるだろう。


「うぬ……」


 鷹揚に、鎧姿は頷いた。

 人の形を模した鎧でありながら到底人間用ではない作り。

 頭部の兜には悪魔の角のような装飾があり、腰の剣は魔剣、とでもいうべき黒い瘴気を垂れ流している。

 誰がどう見ても魔王、そう答える雰囲気であった。


「あんたを倒せば、国の美人なお姫さんをもらえるんでね、倒させてもらうよ」


 言い終わるなり、天城が剣を振り下ろしながら突撃する。


「おい、いきなりかよ!」


 出遅れた千夏もそれに続く。

 魔王も漆黒の魔剣を抜き、まずは炎の弾丸を放つ。

 千夏はその子供じみた体躯を活かして器用に回避し、天城は片手に抱えたラウンドシールドで受け止めながらも足を止めない。


「魔王! 覚悟!」


 二人の剣と魔王の魔剣が交差する。

 激戦は始まった。



  2



 その戦いを観戦しつつクロードは妙な違和感を覚えていた。


(なんだこの部屋の造りは? まるでRPGのラスボスの部屋をそのまま持ってきました感満載だな。まるで何かを隠すような感じで。そして音の響き方が少しおかしい。剣のぶつかる音が完全に部屋内で反射してねえ、どっかに抜けてやがるな)


 とりあえず、ここまでずっと運んできた樽を部屋の入り口に置く。

 戦いの音がより一層響くようになってからというもの、ガタガタゴトゴトと余計に揺れているように感じられる。


「さて、とりあえずあれが魔王だと仮定してどうやって雑魚二人を片づけて半殺しにするかな」


 どうやらすでに、クロードの中では魔王に勝つことは確定事項のようである。

 現状の戦いを見る限りは一進一退、互角の様子だ。

 魔王の放つ魔法弾を受け止め、弾き、部屋の内装を破壊しつつ互いに剣をぶつけ合う。

 基本は天城が攻撃を引き付けつつ、千夏がちょこまかとゴキブリのような速さで駆けまわって様々な方向から斬撃を叩き込んでいる。

 時折りタイミングを合わせて二人で一気に斬りかかってはいるものの、如何せん鎧が堅いらしく満足にダメージは与えられていないようだ。


「あの瓦礫……使えそうだな」


 戦いの余波で壊れた壁や天井、その残骸にクロードは目を付けた。

 意識を向けて浮かび上がらせる。自身の横に複数の瓦礫を浮かばせると、狙いをつけて撃ち出した。


「避けろ!」


 クロードの声が届くと同時に天城と千夏が飛び退き、そこにいた魔王に着弾する。

 バッガァァン! と大きな音を立て、粉塵をまき散らしながらも魔王は無傷でその姿を見せた。

 もともとついていた傷以外には目立ったダメージが一切ない。


「と、なればやるこたあ一つ」


 駆けだす。

 不意に魔王に向けて右腕を突き出した。

 何も握られておらず、手は開かれている。

 なにも直接攻撃するわけではないのだからそれでいい。

 やることは単純だ。

 自分の重力操作の能力で魔王を倒す。

 重力操作ではあるが、簡単に言えば引っ張る力と反発する力の増加と減少。


「ほれ」


 自分の手に魔王の膝を引き付ける。ようは膝かっくんだ。

 続いて握られている魔剣の柄を中心に反発。

 無理やりに指が引き離され、武装解除。

 さらに床を基点に魔王の頭を引き付ける。

 人型の場合は重心は頭、それを無理やりに動かされれば体勢は簡単に崩れてしまう。


「ナイス、クロード! トドメは俺がもらう!」


 倒れた魔王に向かって天城が走る。


「ちょっとまて、おいしいところはわけてくれよ」


 千夏も剣を片手に持ち直し、魔王にトドメを刺すために駆ける。


(よし、まとめて片づけるか)


 そしてクロードは天井に視線を向けた。

 戦いの余波で崩れ落ちてはいるがまだ、空は見えていない。

 しかしながらちょうどいい具合に魔王の真上に亀裂が入っていた。

 それも、いまにも崩れそうなほどの。

 床を基点に天井を引きずり落とす。


「崩れるぞ!」


 とりあえず、避けられてときに自分が落としたとか何とかでギャーギャー言われると嫌なのでそうじゃないアピールをしておく。自然と崩れてしまったと思わせるように。

 あと少しで鎧の隙間に剣が突き込まれるというところで、


「なにっ!」

「うわっ!?」


 二人の勇者は咄嗟のバックステップで生き埋めコースの片道切符を躱した。

 魔王だけが瓦礫の山に埋もれ、消えた。

 天城と千夏はしばし呆然とそれを眺めてクロードを振り返った。


「なあ、この場合トドメはどうなるんだ? トドメを刺したやつがお姫さんもらえるんだろ」


 天城にそう聞かれて、自分が天井を崩落させてことに気づかれていないとほっとしつつ、どうでもいいことなのでさらっと答えた。


「さあ? 天井は戦いの余波で亀裂が入って壊れたんだろ。ならお前らのどっちかがやったってことでいいんじゃないのか」


 自分に手柄はないと主張。その本心は姫を巡っての下らない論争に巻き込まれたくがないため。


「あんたはそれでいいのかよ? 最後に魔王を転ばせたのはあんただろ」

「別にどーでもいい。ほら、そこに転がってる魔剣でも持って帰って倒しましたとか言えばそれなりの報酬はでるだろ」


 唯一瓦礫に埋もれなかった魔王の一部。

 その魔剣を拾い上げてクロードは天城と千夏の間に突き立てた。

 大して力を入れていないにもかかわらず、硬い石の床に難なく突き刺さるところを見るに相当な業物だと知れる。


「俺そのへんきょーみないんで、あとはてきとーに城漁っとくわ」


 そのまま入口に置いたままだった樽を肩に担いで部屋を出たクロード。

 カツカツと床を踏む音が聞こえなくなると、部屋には二人の勇者だけが取り残された。

 その二人はとりあえず魔剣を抜いて、城を後にした。

 帰還途中でどちらが魔王にトドメを刺したかを話し合おうということで。



 3



 静まりかえった場内を歩く人影があった。

 肩には人が一人、ギリギリ入るほどの樽を抱えている。

 名はクロード・クライス。

 生涯二度目の異世界転移で若干キレ気味の青年。

 異世界に飛ばされたからと言って、どうこう思うことは無い。

 ただ一つの帰りたい欲求がすべてに勝っているからだ。

 半年前、やっと帰れるかと思いきや、転移魔法に勇者召喚などという横槍を入れられてわずかながらこの世界をぶっ壊してやろうか、などという怒りもある。

 実際問題、やろうと思えば衛星軌道上の岩を隕石として引き寄せてしまえばそれで万事解決なのだ。

 しかしながらそれをやってしまうと自分が生きていけない、帰る手段もなくなるためにしない。


「はぁ、ここらでいいかな」


 城の裏口から外に出たクロードは樽を地面に置き、蓋を開けた。


「後はあんたの人生だ。好きに生きろ」

 

 城内を物色してかき集めた食料と金貨の入った袋を置いて再び城の中へと入って行った。

 残された樽から出てきたのはメイ。

 モグラ叩きのモグラのように顔をひょっこり覗かせ辺りを見回す。

 その姿は、長い金色の髪を首筋のあたりで束ね、着用している服も清潔感こそあるがなんの飾り気もない麻の服。腰にはなけなしの短剣が付けられているが、それを含めてもどこからどう見ても少々美人気味の市井の町娘といったところか。かといってこれほどに綺麗で美しく、びくびくしている娘はなかなかいないだろうが。


実際に樽、もしくはドラム缶に入れられて運ばれるってどんな感じだろうか?


・・・・・・それとこの度、wordから一太郎に、MicrosoftIMEからATOKに再び切り替えました

使いづらいです、辞書が弱い、校正が弱い、明らかな間違いがあるのにどう設定を弄っても指摘してもらえない、辞書にないから指摘対象になる、辞書にないからとほぼ一般的な語句でも変換できないetc.

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