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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第四章・地獄/Nether
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千夏之取扱・今一度噛み締める現実というやつ

 四番目の世界。

 世界を創りだした者たちがすでに去った世界。

 見た目はごく普通の地球がある世界。

 平行世界、もしくは本当の世界のコピーとでもいったらいいような世界。

 この世界は……表だって本当の世界の人間たちが戦争をしなかった、他に比べれば平和に終わった世界だ。世界地図のシルエットは変わらず、しかしいくつもの国が解体されはした。

 当然、それは日本とて例外ではない。表だって戦争はしていない、とは言えすでに地球上に人の住める地域は多くない。再生に数百年規模もかかる大破壊によって、日本と呼ばれていた地域はなけなしの資源を使い、老人や子供など労働力にならない者を数多く切り捨て、百に満たないアーコロジーを造り上げた。

 今や”普通”の生活が出来るのはアーコロジー内部の人間と、ごく一部の人間に限られる。


「……あれ?」


 パソコンの前でぶっ倒れていた千夏は、起き上がるときょろきょろと部屋を見回す。


「夢? ……え、ぇ?」


 あんなリアルな夢があってたまるか! 痛覚まで忠実に再現します、なんていうゲームがあったが、あれとは比べものにならないほどすべての感覚が本物だった。


「えぇぇぇ……」


 壁の時計を見れば夕方。大した時間も経っていないし、単純に寝落ちして夢を見ていたと考えるのが普通だろう。まさかそんなことは、と。メールボックスを開いても「オリエンスへの参加権」なんていうメールは存在せず、受信した履歴もない。

 淀んだ部屋の空気を入れ替えようと、窓を開けて外を見る。

 遥か遠くに、それでも数キロほどだろう。円形に市街を囲む壁がある。

 それに視線を合わせただけで、目の前に仮想的なディスプレイが空中投影される。


『攻性防壁:この防壁は外界とアーコロジー内部を物理的且つ電子的に隔離するものです』


 そこに付け加えられる形で参考リンクが表示され、適当に視線を向けると更に図と一緒にディスプレイが表示される。地球が表示され、時間と共に汚染地域が赤く表示されていく。


『かつての”大戦”により、人類は自らの生存する領域の六割を汚染。一割は各地域の主要部等であり、激戦の地となり住民の大半は死滅し、また放射能、特殊ガス・ウイルス汚染により隔離地域として管理されている』


 千夏の生きるこの世界は……終わりが近い世界だ。

 元からそこに在った問題を放置してきた人類が招いた結果。人口増加に伴い工業製品の増産、環境汚染が進み対策をするが、対策のための生産で更なる汚染を進め、資源を無駄に使い物が溢れる。人口の増加のその先を放置して、やがて減り始めた時になって手遅れという状況で若い世代にすべてを押しつけた。

 ある学者は「我々は宇宙や他の星に散らなければならない」などと言い、月や火星などが移住先として考えられていた。しかしもう宇宙開発するだけの余力はなく、ならば別の方向に生活圏を広げられないかと。

 ……だが、人は互いに足を引っ張り合った。問題はなにも解決しないままに、ただ人類の生存域だけが狭まった。狭まったが人は居る、新しい場所を開拓する必要があった。

 空に飛び上がるにはもうなにもかもが足りない。ロケットを打ち上げるにしても、それを攻撃用のミサイルだと言って打ち落とす輩がいる。資源も、信用も、空に向かうにはなにもかもが足りない。


「…………夢? いや、でも。クロード・クライス、どっかで」


 すぐにパソコンの前に座って検索を掛けると、検閲でブロックされる。すぐに親のイケナイモノを使って検閲回避を試す。

 すると政府指定の賞金首として何十件もヒットした。別のエリアでかなり暴れていたようだ。だがどこを見てもすでに処分済みで、死んでいることになっている。

 現在この世界では統合政府管理下で各地を新たな州として管理している。

 クロードが暴れていたのは東南アジア州、略称SEASもしくはSAS。大陸から地続きのエリアはなんとか人が住めるらしいが、島の方はほとんど壊滅しているらしい。このエリアは今も企業による戦争が続いており、クロードはそこで州政府軍と企業軍両勢力を相手に戦闘し、死亡したらしい。

 千夏の住むエリア、東アジア州、略称EASよりかなり酷いことは間違いがない。EASも旧ジョングオ領を中央で縦に割ってその東側をEASとして再構成されている。ここもアーコロジー内部はまだ生活できるが、外は……。


「夢じゃない。だったら天城あまぎは……確かあの制服」


 パソコンに一本の線を差し込み、一端を自らの首裏に差す。


「リンクオン」


 呟くと視界いっぱいにツールバーと様々なウィンドウが広がる。千夏はクロードの言ったとおりの電脳化処置者。


「イメージ転送……」


 頭の中にあるイメージをそのまま検索に使用して、ユーザーエージェントに天城の事を調べるよう命令を出し、並行して”州”限定の試験を検索する。クロードは言っていた「知らなくて当然だ、まだまだ実験段階だからな、それも東南アジア州のサーバー限定だしな」と。

 人が開拓した新しい生活圏、仮想空間。意識を仮想に押し込んで、現実での消費を最低限に。最初はそのはずが、いつの間にか戦争までそっちでやり始めるのが人間。


第三世代サード、そんなの聞いたことないぞ」


 仮想工学の授業でもそんな名前は出てこない。噂では東南アジア州方面は次世代エッジ企業による企業間戦争もあってか、最新技術の試験場にもなっているとか。その中で埋もれてしまった名前だろうかと思って調べはするが、なにもヒットしない。

 とりあえずこっちもエージェント任せにして、天城に関する検索結果を片っ端から見ていく。類似するものをまとめ、必要な部分だけを切り出してもらいながら後は自分で判断する。


「…………天城、天城采斗? 謎の失踪。外界で見つかってからは魔物とやりあって美少女いやっほうと謎の発言? ……あいつの親かこれ?」


 写真付きで記事が上がっていたが、どことなく天城と似ている。


「外、かぁ……」


 アーコロジーの外は危険地帯だ。監視の目が届かない場所まで離れなくても、外に出た途端にならず者に捕まる可能性が高い。アーコロジー内部の人間はいい金になるらしい。

 それでもあれは夢ではない、もう一度あちらに行きたい。一度行けたのならもう一度だって。

 検索結果を流し読みしていけば天城海斗の所属アーコロジーが出てきた。


「元茨城方面かよ……しかも高三で」


 一応何県の何市という呼び方はされるが、今ではアーコロジー○○と言う若者の方が多い。生まれた時にはすでにそういう括りがなくなりつつあったのだから仕方のないことだ。

 ともかくあちらで出会った連中は本物だ。そして情報が少ないながら夢ではない可能性が非常に高い。


「天城采斗の発見場所は――アラート? やばっ気付かれた!?」

『不正アクセスを感知・千夏家管理下の仮想空間及び公共空間へのアクセス権限を限定凍結します』

「やっべぇ……怒られる」

『ディスコネクト』


 その瞬間、千夏の視界いっぱいに展開されていたウィンドウがすべて閉じられ、ネットワークアクセスが封じられる。


「うぇーい、説教確定じゃん」


 おそらく数分もしないうちに警備隊が押し入って来て機材を没収されるだろう。そんなことになれば説教以前にアーコロジー追放処分もあり得る。

 ヤバイ、と言うよりも外に放り出されたら冗談抜きで数時間以内に死ねる。


「どぉっすんだこれ!?」


 誤魔化すことなんて出来やしない。ここに居ると確実に不味い。

 千夏は脳内チップのネットアクセスを完全に切断して、部屋から逃げ出した。アーコロジー内の人間は大抵が脳にナノマシンを埋め込んだ電脳化世代だ。それがファーストならばまだいい、セカンドは常時ネットワークに接続されていて、特定の地区では意識して遮断したり偽装しない限りそのエリアの管轄に位置がバレる。

 何食わぬ顔をしてエレベーターに乗ると、入れ違いで階段を上ってくる警備隊が見えた。ギリギリ見られることもなく逃げおおせた千夏は広場へと抜け出して、行き交う人混みの中に紛れる。確実に出るときに管理人と監視カメラに捉えられたが、すぐには追いかけてこないだろうと考えて――


「止まれ」


 囲まれた。


「な、なななんだよ、あんたら」


 警備隊ではないが、アーコロジーの中の人間とはにおいが違う。しかし外界の人間ではなさそうで。


「俺は栗原くりはら冬理とうり。さっきのゲートアウト反応、お前だろ」

「ゲートアウト?」

「とぼけるな。昼前にゲートイン反応があって、同じ場所でゲートアウト反応。存在履歴を見る限りお前しかいないんだよ」

「なに? ゲームの話? 俺なんにもログインしっぱなしにしてねえよ?」


 拉致るか。と、栗原が囲む三人に目配せをして千夏は連行された。まるでこれからゲーセンにでも向かう男子共のように、不審がられない形で無理矢理連れて行かれたため誰も助けてくれない。……そもそも、それこそ警備隊を呼ばれたら一発アウトだが。

 そこそこの人通りがあるその通りで、一瞬だけすべての認識から外れた途端に暗い路地裏に引き摺り込まれる。


「フェンリル傘下、BtD所属の栗原だ。そちらの所属と目的、どの世界に干渉していたかすべて吐け。さもなくばこの場で消滅させる」

「なに中二臭いこと言ってんだよ。俺はなにも――いぃっ」


 喉元にリヴォルバーを突き付けられて、とぼけることはそのまま殺されることに……。


「どこで何をしていた。世界間転移が使える連中に碌なやつはいない」

「所属も目的もねえけど、クロードと天城ってやつと一緒に魔王殺しに行ってただけだ! ほんとなんだって、んで気付いたら部屋で寝てて、ほんとにそれだけなんだ!」

「へぇ」


 ぐいっと銃口を押しつけられる。


「マジでこれだけだってば! 変なメール開いたら異世界に居て、俺はほんとに他のことは知らない!」

「引き摺り込まれたときのエフェクトタイプ、それと色」

「……目の前が真っ黒になったことしか覚えてない」

「真っ黒? いきなりか? なにか引っ張られるような感じがしなかったか、とくにロープに絡め取られて引っ張られるような感じとか」

「し、したけど」

「他」

「って言われてもなにもない」

「そうか。まあいいだろう」


 リヴォルバーを離した栗原は、空中にウィンドウを広げると流れる指の動きで何かを入力する。すると、途端に辺り一帯のすべてが停止して、0と1の羅列になって崩れていく。


「えっ、ここ仮想空間!?」


 気付いたときにはもう、壁はテクスチャが消え去りワイヤーフレームも端からデリートされてリソースへと還元されていき何もかもがなくなり黒一色になる。


「俺は電脳戦特化タイプでな、電脳化処置を受けているやつが相手ならほぼ確実に勝つことができる。インターセプトからのブレインチップ内部の空間で一対一なんて古くさい流れは通用しないと思え」

「マインドハック? 全部脳が錯覚した偽物……?」

「ログアウトしたらすぐに広場に降りてこい、そこはすでに戦場だ」


 バチッと光が弾け、聞き慣れた機械音声が聞こえる。


『ログアウト』


 意識が引っ張り上げられる。現実にある自分の身体へと精神が帰って行く。

 覚醒と同時に認識したのは響き渡る警報。

 起き上がって窓から外を覗けば静かな光景が広がっているが、誰も外を歩いていない。そんな寂しい景色の中で栗原が手を振っていた。とても戦場になんて見えない……しかし冷静になって、なぜワイヤレスネットワーク接続が確立している? と思う。アーコロジー内部ではそもそもワイヤードアクセスしか出来ないはずなのに。

 そっと仮想空間の状態を参照してみれば凄まじいトラフィックとストラクチャのリカバリー、高速で行き交う何かがあった。処理の嵐で何が起こっているのか、その詳細はノイズに呑まれて分からない。

 下で急かすように手を振る栗原の姿を見て、千夏は急いで広場へと降りて行った。


「どうだった? 久々の綺麗な空、賑わうコロニー」

「あれをおかしいと思えなかったのもお前のせいか」

「そうだ。たかが第二世代程度の防壁、簡単に突破できる。しかも神経接続はしっかりしてるから干渉もしやすい……これほど脆弱な人類がよくもまあ生き残れる」


 煽るようなことを聞いても、千夏は自分がそれをたった今経験したばかりでなにも言う気にならなかった。


「……まあいいか、こいよ。温室育ちに見せてやる、外の世界ってやつを」


 栗原について行くと、道中警備隊があちこちで倒れているのが見えた。


「あれは」

「お前と同じように仮想空間に捕らえてある」


 誰も居ない静かな広場を抜け、塔のようにそびえ立つ居住区から離れていく。

 見上げるほどに大きな壁、出入り口の門は外からも中からも通行は厳しく、一般権限では審査にかなり時間がかかる。二人はそんな門には向かわず壁沿いに進み、植木の影に入った。


「これ、誰にも言うなよ?」


 ボディバックからラップトップとハザードマークの描かれた銀色の容器を取り出した栗原は、さっとキーボードを叩いてプログラムを書き込んでいく。


「それ」


 起動と同時に容器の輪郭がぼやけ、陽炎のような揺らめきになって壁にぶつかると瞬く間に壁に穴を開けていく。まるで風化して砂になるように、さらさらと崩れ落ちていく。

 外との繋がりが出来たからか、途端に今までと違うネットの接続が行われていく。


「分子アセンブラだ。命令のやり方次第でなんでもやれる。行くぞ」


 生まれて初めての外界。そこはアーコロジーの中とは真逆だった。アーコロジーを囲む廃墟同然の市街地、有刺鉄線で囲まれた立ち入り禁止エリア、枯れた山や荒れた土地。後ろを振り返れば長大な壁が有り、外からの侵入を拒むためにあちこちからマイクロ波照射用のアンテナやレーザー攻撃用のレンズが覗いている。


「全部停止させてるから大丈夫、気にするな」

「……で、どこに行くわけ?」

「さっきも言ったがここはもう戦場だ」

「全然銃声とか聞こえないけど」

「ホントに、コロニーの中はニュースすらも娯楽重視の偽物だな。今や戦争の半分は仮想空間でやるもんだ。んで、お前はあの世界にもう一度行きたい、そして俺はクロードの頭ん中に用がある。つまりお前のゲート通過の履歴を頼りにしてだ、かなり前に采斗のバカが空間壊して脆くなったとこからゲートインしようとな」

「采斗って、天城の?」

「そうだよ。強いぜ、あいつは」


 廃墟まで辿り着けば、人の山と女性が一人。それを見てもただ通り過ぎていく人々。格好は薄汚いボロボロの格好、痩せている者ばかり。


「アトリ……? それはぁ……」

「寄ってきたから灼いといた。それよかトーリ、快速列車のチケット、一応十枚とっといたけどそいつだけ?」

「ああ。こいつを導にして空間砕いて放り込めば大丈夫だろ。どうせこんな雑魚、霧崎よりも使いもんになんねえよ。特殊タイプのサードがいりゃセカンドは必要ねえし、使い潰して消滅させる」

「え、なにそれ俺は」

「寝てろ。ヴァルゴ、セキュリティコアへのダイレクトダイブ、隔壁の強制閉鎖とコマンド実行権限の剥奪」


 千夏の視界いっぱいに見たことのないコマンドが次々と表示され、すべてが消えた。意識が自分の中に引き摺り込まれていく。


「な、にを」

「さぁて」



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