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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第三章・後悔/Regret
48/57

紅き月の夜に

「いてぇ……」

「むしろアレでそう言えるお前が怖いよ」


 普通なら体がグチャグチャの肉片になるほどの攻撃を受けたにも関わらず、クロードに抱えられている内に魔術で完全復帰したレイズがぶつぶつ言っていた。いくら怪我を癒やしたにしても、鈍痛は残るが。


「いや、久々にやりあった。マジのスコールには届かないけど、アレも勝てない部類だな」

「俺としてはお前が負けるほどの敵は大抵世界相手にやりあえるクラスとしか……」

「バカ言うなー。あいつらは魔力とかを一切使わない普通の軍隊相手にしたら絶対負ける、絶対!」

「で? いつぞやエアリアルの通常戦力の主力部隊を潰したのはどこの誰だったか」

「……あ、スコールだった」

「だろうがよ」


 路地裏の不良に一方的にボコられるクセに、それ以外ともなるといくらでもやり合うことができる連中にどうやって対処したものか……。と、そこに考えが行った時点でクロードは一つ思い出した。自分が路地裏で不良兵士に殺されかけたときに助けに来たのは誰だったかと。


「……勝てそうなやついねえぇ」


 もしも敵対したときにどうするか。

 ただ一方的にやられるのを待つだけなのか。大切な者を守ることも出来ず、目の前でみんなが消されていくのを眺めるだけなのか。


「ルルソンなら勝てそうなんだけど、オレらの敵だしな」

「誰だよそりゃ?」

「一昔前にな、そいつがスコール拉致ってな。そういうことができるバケモン」

「…………。」


 下を見ればすぐに底が見えてくるが、上を見れば果てが無い。上には上がいて、そっち方向は無限のような気がしてしまう。一応クロードが知る限りでは、表舞台に出てきている中で世界最強はレイズだ。

 かつてクロードが居た世界では大国の交戦規定の中にも逃げてもよいと書かれているほど。なにせたった一人で戦域一つを焦土に変えるのだ、ならば被害を出さずに明け渡してしまった方がいい。


「なあ、そろそろ下ろしてくれてもいい」


 パッと手を離して、お姫様だっこから落下。

 なに上から目線で言ってんだ。


「いっ――誰が落とせと言った!」

「来る」

「え?」


 嫌な風が頬を撫でる。どんよりとした、血の臭いが混じった生暖かい風。

 振り向けば手負いの死神が折れたデスサイズを引きずりながら迫っていた。背後には無数の死霊を従え、真っ黒な霧を連れている。


「……な、なんかさっきよかやばそうな」

「やばそうな、じゃなくてマジでやばいと思った方がいいじゃねえのか? ...Disable all support」


 頭の中に埋め込んだチップ。ブレインチップとも呼ばれる演算処理を行うそれの機能をすべて切る。これに頼るから制御系を乱されて動きを封じられるのだから、事前に分かっていれば切ってしまえばいいだけのこと。

 別に体の制御を完全に補ってもらう義体という訳でもないのだ、せいぜいが最適な力の入れ方や五感で感じ取った情報を高速処理できなくなるだけのこと。頼りきりという訳でもないし、つまるところ、演算によるバックアップが切れ一般人並みに基本性能が落ち、しかし体に染みついた戦闘技能があるためちょっと弱くなる程度だ。


「お前は……いったい何だ?」


 フード兼マントの布きれを脱ぎ捨て、ナイフ片手に進む。

 二人はよく似ている。服装だけでなく纏う雰囲気が。


「…………。」


 相手は答えない。

 それでも分かる、夢で見たあの男だ。イクリスという少女と共にいたあの男。確か消えたはずだが、地縛霊にでもなったか? それとも怨念のようなものか?


「クロード、戦う必要は無い」

「あっちはやる気みたいだが」

「もう消える。そんなに長いこと顕現することは出来ないみたいだ」


 その死神は……亡霊はクロードに攻撃しようとして、黒い塵になって消えた。風に運ばれた塵に触れると、強い後悔を感じる。大切な人を守れなかった、その思いが溢れる。

 微かに、お前は失敗するなよ、そう聞こえた気がした。


「クロード……帰ろう」

「あ、あぁ」


 あの亡霊。夢の中でレイジと呼ばれ、エクリアとよく似たイクリスという少女と共にいた男。

 クロードの知る限りでは調停者と呼ばれる最強クラスの存在と同じ姿だ。手の付けられないレベルの衝突を強制終了させるために、ふらりと戦場に現れては全勢力に対して破壊を振りまくやつでイリーガルと呼ばれている。

 なぜあいつと同じ姿の亡霊が現れる?

 分からないが手がかりもない。あるにしてもあの夢くらいだが、今より昔に起こっていることであの男は死んでいる。しかしイリーガルは生きていた。ならばそっくりな別人なのか。

 答えの出ないそれを放棄して迷宮へと歩を向ける。


「てか、帰ったら帰ったで……」

「オレが安心できないな……ってリリィが危ない!」


 思い出した途端に猛ダッシュして迷宮へと走って行くレイズ。発情期、なにもそれで狙われる対象に幼女が含まれていない……とは言い切れない。何事にも絶対はないのだから。


「……で、お前も狙われることを忘れんなよ?」


 聞こえていないだろうが一応言っておく。

 万が一にもうっかりやられて身籠もりましたとかシャレにならない事態にはなって欲しくないのだ。

 クロードは一人のんびりと歩いて帰る。シェスタにメイにエクリア。彼女たちは固まっていることだろうし大丈夫だろうと思ってだ。

 夜空を紅く染め上げ、他の星々よりも一際強く輝く紅き月。地上もぼんやりとした赤色に包まれ、より興奮を強めることに一役買っている。満月の夜こそその力は最も多く地上に降り注ぎ、月明かりに照らされる妖艶な夜を創り出す。

 一人夜道で遠くに戦火の音を聞きながら歩く。ある意味戦場だというのにこれほどのんびりと歩いたことは数えるほどしかない。むしろ戦場を悠々と歩くことが出来るほどには強いからか。


「さーてと」


 が、死神クロードの周りにはいつもにも増して……殺気に満ちあふれる夜になっていた。

 いつも魔王の隣にいる→魔王と仲がいい→仲のいい男→倒せば場所が空く→近づける。とかいう流れだろうか、そこそこ力のある連中に囲まれている。

 月の影響か、一部姿が変異している者がいる。満月の夜は力が強まると言うが、姿まで変わるほどとよくなったとしても結果は変わらない。

 ざぁっと木々を揺らして大気が落ちた。草木が倒れ魔族も意識を失う。辺り一帯に均等に加重を掛けるクロードの制圧方法に対抗できる者はほぼいない。しかも対象の体の一部へのピンポイント荷重による血流低下、酸欠や失神など魔術による対処も詠唱、事象の定着という工程が必要な以上間に合わない。

 軽く殺気を払うと迷宮へと帰る。

 迷宮には人と呼んでいいものはおらず、死神クロードをはじめ、双子魔王や魔族や魔物。地下であるため月の影響をもろに受けている者はいないのだが……それでもしっかりと月の影響は受けているらしく……。


「メチャクチャだなおい」


 この世界、種族にもよるがほとんどは十代中頃で成人とみなされ、現在あちこちで不埒な騒ぎが起こっているがそれぞれの種族別にみても咎めるようなことではないのだ。

 主な事と言えばお目当ての異性をめぐっての戦闘行為。当然ながらそのほとんどは男性がやっていることであり、戦いに勝利した方がアプローチする権利を得る。その後に振られるかどうかは本人次第だが……。


「……潰れねえだろうな、これ」


 本当なら今すぐに、全力でやめさせたい。迷宮内での戦闘行為はそれがそのまま迷宮の破壊に直結し、火属性の魔術を使おうものならば酸欠になる。この工業や科学が発達していない地域では閉鎖空間で火を使って一酸化炭素やん二酸化炭素で怠くなる、息が苦しい、意識を失うなどをあながち間違いではないが毒だと考えられている。

 そして、なによりも使われては困るのが水属性。第一に地盤が緩くなって崩落に直結、そうでなくともカビやコケが生え雑菌が繁殖し衛生環境の悪化、臭いも酷いことになる。

 だからやめさせたい。やめさせたいのだが、なんだかんだで繁殖期、発情期。非常にデリケートな問題であり禁止してしまえば矛先が確実にこちらに向く。そうなった場合は後始末が果てしなく面倒なのでどうにもできない。


「こらそこ! 振動系使うな! そっちも気体の圧縮解放禁止!」


 目に入る端から危ないところに割って入ればあっという間に、先にあいつをやっちまえ、そんな感じで包囲されて大人数相手に独擅場。


「真剣使うな! 木刀にしろ!」


 剣の柄を、防具を基点に斥力操作で武装解除。膝を自分の手に引き寄せ、バランスを崩して頭を地面に引き寄せ倒すといい感じの力加減で蹴って黙らせていく。

 そんなことをする片手間、悲鳴や叫び声を頼りに無理やりやられそうに、もしくはもうやられている者を助けていく。さすがにそこは無視できない。いくら魔族としての歴史で今までやってきたにしろ、そこは割り込ませてもらう。

 と、そんなことを何度かしていると知っている悲鳴が聞こえた。


「させるか!」


 さすがに手加減なんてしなかった。近場の短剣を拾い上げると全力で投げ、今まさに押し倒そうとしていた男の腕を斬り飛ばした。


「メイ!」

「クロード様」


 シェスタとメイ。この二人にアタックしてオーケーをもらうという事は魔王に、魔族の王に並ぶ立場になることである。年齢としてもすでに問題はないが、二人ともすべての求婚アプローチを拒否している。

 しかし、そういった態度を示したにもかかわらず、求婚を申し込んでくる月の影響を受けた者は減らなかった。中には無理やり襲いかかってくる者までいた。それは無理やりでも事実を作ってしまえばこちらのものと言わんばかりの様子だった。だが、もちろんのことシェスタは現役魔王であり、魔術による自衛で十分に逃げることができている。先ほどのようにアプローチを仕掛けた段階で横槍が入ることもあり、そのお陰でここまで逃げてこれたメイでもある。

 今の問題はメイの方。最近どこからか双子の魔王であることが漏れて、こちらも同じようにアプローチされているのだ。しかもこちらは自衛手段がないという悪条件。断り続けた末に、飢えた男どもに襲われてしまっていた。だから偶然居合わせたクロードが助けに入ったのだが……。

 辺りを見ればまだまだうじゃうじゃと居やがる。


「やるなら相手になるぜ? 嫌がってる相手に無理やりなんてのは見過ごせないんでな」


 大抵の場合、こういうのは大きな力で脅せば一発で片が付く。クロードが使えるものと言えばやはり”砲撃”だろう。

 一斉に得物を向けてきた野郎どもに向け、


「励起……」


 元は力の増幅のはずが、今や完全に状態への干渉になってしまっている能力で電子を引き寄せ強引に……。


「……解放ディスチャージ!」


 低電圧大電流で空気を励起して溶かすか、高電圧小電流でそのまま弾き飛ばすか、それとも瞬間的な高電圧大電流カミナリで。

 様々な使い方が考えられるがクロードが選んだのは高電圧小電流。電気は抵抗の少ないところを選んで流れる。湿気を弄って撒き散らしたそれは、囲んでいた者たちすべてを伝って迷宮アースに落ちて、周りを静かにした。

 さすがに全力でやってしまうと、それこそ迷宮を全壊させてしまう。


「あぁ、交流放電でオゾン作って……それもありか」

「あの」

「ん? まだ来るか」


 通路の向こう側に影が見え、姿を見せたやつらに数発雷撃を叩き込んでいき、震えるメイの手を取って走り出す。


「とりあえずここに居ると不味いからな」


 過剰防衛で集団訴訟を起こされそうな惨状を放置して、現場から逃走する。幸いにしてメイの服装がワンピースやドレスといったひらひらしたものではなく、平民でも女性はあまり身につけないズボンだったことで走ることに苦労はしなかった。

 戦士であっても女性の人族はなにかとスカートタイプが大多数なのに、今のメイは動きやすさが重視された形だ。今の姿を見て、元お姫様だとは誰も思わないだろう。


「どこまで行けばいいのですか」

「とりあえず一番安全な場所までだ」


 一番安全、この野獣だらけの迷宮で最も安全な場所とはこの場合、一番強い者が存在する場所。即ちレイズのお膝元である。

 ……などど考えて部屋の前に辿り着けば地獄。

 憤怒の形相を通り越して笑顔になっているレイズは……。


「おまっ……なにやって」

「うん? 見てのとーり」


 片手で持ち上げた大柄な魔族。首を掴む手に力を込め、ゴキュッと嫌な音を鳴らすと投げ捨てる。

 返り血のついた笑顔がなんとも言えない恐怖を感じさせ、足元に転がる魔族たちと……通路を塞ぐ血の滴る肉壁が言いようのない忌避を増幅させる。


「ひぃ、ぃっ」

「大丈夫だメイ、こんなことしててもレイズは味方だ」


 少々過激なことになれているクロードはともかく、こういうことに不慣れなメイは震えながら涙を零し、同時に吐き気を覚えている。


「味方、ね……部屋に入ってろ、三人目だ」


 レイズが防護結界を解除する。


「三人目? 他にも居るのか」

「エクリアとシェスタ。結構……ヤったぞあいつらも」

「……何人くらい?」

「まぁ、それぞれ片手で数えるくらい。たぶん死んじゃぁ……いない、たぶん、たぶんな」


 メイが部屋に入ると、レイズがすぐさま結界を張り直す。試しにクロードが突いてみるが、弾かれて通れそうにない。なんでも男を通さない結界だとかで、オマケで遮音機能まであるのか中の音が聞こえてこない。


「で、こいつらはなに?」

「なにって見ての通りだよ。オレに手を出してきたから返り討ちにした」

「返り討ちってこれ死んで……。なぁ、その魅了効果はどうにか抑えられないのか」

「無理だな。弱くはできないけど強くはできるが」


 周りを見れば他にも壁に叩き込まれた者や地面に埋まっている者、とりあえず死んでいないが植物状態にほぼ確定コースで陥りそうな者たちがたくさん。

 あまり任せたくもないが、他に安全な場所などないから仕方ないかと。


「……やりすぎるなよ」


 そう言い残して、クロードは今使っている部屋へと帰って行った。


 1


 夜分遅く。

 部屋の外がうるさすぎて寝付けないクロードは、軽い運動がてら数十人ほど倒して書庫から本を持ち帰って読んでいた。運動したせいで余計に目が冴えたのは言うまでもない。


「ったく……いつまで盛ってんだか」


 この後に来るであろうベビーブーム、迷宮の拡充と部屋の確保と食料や水の……。やらなければならないことはあるが、そこは勝手にやってもらおう。そこら辺までやってやるつもりはないし、やる必要もない。

 明かりを暗めの青にして、パラパラとページをめくっては次の本へと。転移系の魔術について探っているのだが、どれもこれも大雑把すぎる。転移先の情景を想い浮かべ、高圧の魔力で身体を包み込め。というものや、転移魔法陣を刻み込んで対応する魔法陣を繋ぐというようなものだ。後者は刻印型と呼ばれるものであり、スコール(魔力制御はできるが形にできない人)に教わったこともあり、形さえ作れば後は自然の魔力を吸い取らせて発動できるという点がある。

 ただしこれらはあくまで一般の転移術であり、世界を超えるともなれば召喚術も絡んでくる難しいものだ。


「レイズがダメってんなら、諦めるしかねえのかねぇ……」


 パタンと本を閉じてベッドに倒れ込む。

 一番の目標は別世界行き片道切符を切りやがった野郎への復讐、そのために元居た世界に帰ること。だがそれは途中で邪魔された挙げ句、帰れないというオマケ付きで更なる別世界へと。

 こうなってしまえばせめて憂さ晴らしに邪魔をした国を滅ぼすくらいやってやらないと気が済まない……というか心のもやもやが晴れない。

 少し運動してくるかと、部屋を出ようとすればちょうどいいタイミングでドアが開けられた。むわっとした湿気と血と汗の臭いが流れ込んでくる。

 血の滴る笑顔と、背中にあるのは天使の翼だろうか、肉片や変なドロッとした液体が付いている。


「入っていい?」

「先に洗濯機に放り込んでやりてえよ、血濡れの天使め」

「襲ってくる方が悪い! 見ろこれ、べたべたして気持ち悪ぃ。さすがに後ろから掛けられるとか思ってなかったしさぁ」

「先に風呂入ってこいお前は!」

「白っぽいべたべたの臭いこの液――」


 言わせずにシーツで包み込んで浮かばせ、空気中の水分を引き寄せてその場で溺れさせてやった。

 知っているだろうか、無重力状態では水の表面張力によって顔面に水の膜が張り付いて簡単に溺れるのだ。完全に水の膜に覆われたレイズはしばらく無駄に暴れて途端に動かなくなった。溺れて落ちたか? そう思って解除しようとした瞬間、水が凍てついて真っ白になり、シーツごと粉々になって白い冷気として流れていく。


「オレじゃなかったら死ぬぞ!?」


 綺麗になったレイズはガタガタ震え、クロードのベッドに腰を下ろして毛布に包まった。


「まったく……」


 ぶつぶつ言いながらクロードが読んでいた本に目を留めた。


「帰りたい、か?」

「あぁ、帰れるもんなら帰りたい。俺は俺の人生をどん底に落としやがったクズ野郎を殺したい、だから帰りたい」

「でも、帰りたいっていう割には……」

「なんだよ」

「の割には住みやすい迷宮作って、それも長期的に考えてまだ拡張してるし。食料生産とか攻められた時の防衛設備まで整てさ? 帰りたいって言うのにこの世界で生きていこうとしてないか?」

「備えだ。帰れなかった時の為の……そんときゃ俺をこの世界に呼んだ原因を潰す。そのための踏み台みたいなもんだ」

「踏み台ね。そのためだけにこれだけのことをやるのもどうかと思うけど」

「どうでもいいだろ」


 ベッドの上に散らかした本を片付けようと、手を伸ばす。

 と、同時にレイズに引っ張られてベッドに倒れこんだ。


「なにすんだ」

「やっぱりクロードのこと、気に入った」

「はぁ?」

「スコールになんか似てるし、それに」


 すっと細い指がベルトに伸びる。ベルトに吊り下げたホルダーから、青い文字の刻まれたナイフを抜き取られる。


「あいつらに認められたんならもう敵とかそういうんじゃないしな」

「いまさら言うかよ」

「言うよ? そういえば……一応聞いとく、まさか手を出してないだろうな」

「…………、」


 言えない。

 口が裂けても自白剤がぶ飲みしても。


「……やったのか」

「…………。」

「……後であいつに殺されるぞ」


 事実が事実なため返答することはおろか声を出すこともできなくなっていた。


「それについては俺は何も言わないけど、バレたときぃ……なんだ、命やら魂と言わずに自分の存在を守れよ? 魔法とか魔術ってんじゃなくて、基礎の究極系、世界そのものを書き換える改変術式だから完全に消されるぞ」

「その恐ろしさはよく知ってるよ。あいつが参戦した戦場はサイレントフィールドって呼ばれるくらいだし」

「分かってるならいい」


 レイズはナイフを指でなぞると、ベッドにおいて部屋から出ていった。

 そしてすぐに殴り蹴りの音に魔術戦闘の凄まじい音が響く。


「よく襲われんなぁ」


 で、結局あいつは何をしに来たんだ? なんて思いながら本を片付けて、パーカーを脱ぎ捨て武装も解除してベッドに倒れこむ。目が冴えているが無理やり寝てしまおうと。

 そんなこんなでベッドの上で力を抜いて、意識して体温を下げ呼吸を抑えて寝付こうとしていると、数分後にノックもなしにドアが開けられた。入ってくるのはレイズに押されたシェスタ、メイ、エクリア。


「何しに来た、お前ら?」


 語尾が疑問系なのは、明らかに月の影響を受けて熱い吐息を漏らす彼女たちが居るからだ。キャミソールとドロワーズの双子、チューブトップとスパッツのエクリア。下着姿で薄らと湿っているのは……。


「部屋に戻ったら、あれだ、自分で弄って我慢出来なさそうだったから連れてきた」

「そういうことを避けるためにお前の部屋に……」


 クイッと親指でドアの向こうを指すレイズ。そこには贄としてクロードに捧げられた各種族の少女たちも。いつもより艶めかしく見える彼女たちを割って、レイズがクロードの前に立つ。


「だからさぁ、折角の赤き満月。お前だって少しは影響受けてんだろ? それにオレも少しは抑えるから、愉しもうじゃないか」

「…………。」


 とりあえず部屋から叩き出すか? しかしそれをすると外は野獣だらけでどうなることか。


「クロードさん、ごめんなさい。その、私……もう自分を抑えられそうになくて……」

「あたしも。クロードの匂いだけでお腹の、この辺が熱くなっちゃって……だから」

「クロード様。私の……こと、嫌じゃないですよね」


 三人それぞれが具体的に言いはしないものの、熱く火照った身体を静めてほしいと、身体を抱くようにしていやらしく懇願してくる。いくらなんでもエクリア一人ならいいが、魔王二人が加わると立場的に危うくなる。そもそも常識的にそういう関係は一人だろう。そう思えばぞろぞろと入ってくる他の少女たち。

 色々と危機を覚ったクロードは、腕を突き出して窓を開けるように空間を引き裂いた。いくらなんでも死ぬ。逃走の為そこに飛び込もうとしたと同時。レイズがぼそっと重力制御の魔術を詠唱してクロードの重力操作を無効化した。


「おいこらっ!」

「目の前でつらそうにしてる女の子たちを放って逃げるのか? 意気地無し」

「……どうなっても知らねえからな」


 覚悟が決まったとみるや、レイズがポンッと手を叩いて丸い大きなベッドを作り出した。


「……不純だ」


 服をはだけさせながら寄り添ってくる彼女たちと一緒にベッドに倒れ込む。皆が素肌をさらし、興奮で熱くなった身体を擦りつけてくる。


「俺の体力が持つか心配なんだがなぁ……って、レイズおまっ!」


 長い長い夜が始まった。

 逃げろと異能が警告を発する。やれば危険だ、死ぬ可能性があるぞと。

 それでも――


(※二十三万文字くらいアレな部分を省略しました)


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