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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第三章・後悔/Regret
46/57

紅き月の昼に

2017/08/27/00:13/改稿/誤字修正

2017/08/27/00:40/改稿/矛盾部分修正

「くそがっ!」


 空中に打ち上げられ、得意の重力操作を封印され異能も封印され手持ちのナイフも一切通用しない相手が飛びかかってくる。


「アナリシス……やめっ――」


 残り二本のナイフ。青いナイフと黒いナイフで攻撃を受け流す。真正面から剣なんぞ受け止めたら腕が折れる。

 地上に叩き付けられたクロードは動くことが出来なかった。普段なら無意識の重力操作により斥力を弄ってダメージを軽減してなんとかなっただろう。しかしながら何もなければ高所から落ちた人間は動けないものだ。骨が折れないだけマシと思った方がいい。


「…………なんでこう遭遇率ワーストワンクラスの通り魔に遭遇するかな」


 ぽつりと言えば上から見下ろす女の子……の、姿をした精霊がいる。こいつはスコールの手下のはず……なのだが、毎度毎度勝手に出歩いては強いやつに通り魔のように襲いかかって無力化して去って行く。ペアでシンセシスというのがいるが、あちらも同じようなもので二人揃えば神様が泣いて逃げる程度には恐ろしい。


「よわ」

「お前が強すぎるだけだろうが」

「いいやクロードが弱いだけ。少なくとも仙崎キリヤや霧崎アキトやユキには勝てない」

「ワンマンアーミーを引き合いに出さないでくれ」


 言われて思い出せば、人間にして魔神一歩手前の化け物、世界最強のアカモートの守備隊を単独で壊滅させたやつ、かつての人間と悪魔のぶつかり合いでかなりの戦果を挙げた者だ。


「で、なぜお前は俺の上に剣を」

「なんでって、そりゃ戦いに勝ったらトドメの一撃を叩き込むのが当たり前でしょ?」

「…………。」


 じゃあなんで殺さずに押さえつけた?


「あ、もしかして殺して強制送還より別の方がよかった? なぁーんだ、ちょうど赤満月だしそっちの方がよかったかあー」


 パーカー代わりのフード兼マントを掴まれて人目のない木陰へとずるずるずるずる……。


「……おい、死ねないから帰れないだろ」

「いんや? 普通に殺そうとしてもクロードは死なないけど、何を持って死とするかによるからぁ……瞬間的に心臓潰したり頭潰したりして再生かかる前に情報改変魔法で状態固定して圧縮かけて、んでゲートインが出来ないからウェポンターミナルにでも蹴り込んでいったんスプラッタになって貰ってから――」

「それ確実に俺が死ぬよな!?」

「だって長距離パラレルで転送されて中身がぐちゃぐちゃの属性がカオス状態のデータとか正規手順の転送術式で運べないし」

「……つまり俺は転送プロセスが認識不可能なレベルにまで壊れていると?」

「むしろ転送コンテナに入れて更にコンテナに入れてコンテナに入れてぇー……っていうのを繰り返しすぎて転送途中で詰まった感じ? に、見えるんだけど。人によって認識方法自体違うから見え方も人それぞれだけどねー」

「なあなあせめて言うことと表情とやってること一致させねえか?」

「え? なんのこと?」


 笑顔でクロードの体を麻痺させて、ズボンのファスナーを下ろしていく。


「なんのこと、じゃねーよ! 真っ昼間から外でヤるってのは」

「あたしは別にいーけどねー」

「脱ぐな! つーか知っててヤるのかお前は!」

「うん? いろんな女の子に手を出してるクロード准尉の命が風前の灯火状態のこと? あんまやっちゃうと消し飛ばされるもんねー」

「お前からとは言えヤったらスコール敵に回しそうで怖いんだが……」

「いんじゃない? スコールもレイズのとこのハーレムから何人か取ってるみたいだし」

「…………。」


 よくもまあ殺されずに生きているなと思う反面、あの真面目そうなスコールがそういうこともやっていたのかとも思う。昔は人格破壊だとか洗脳だとか、心理戦を仕掛けて仲間内で不信感を増幅させて離反させるという黒い手段を得意としていたから、得意なんだろうと思う。


「でだ」

「なに?」

「なんでお前は俺とヤるのか。疑問しかねえんだけど」

「んー……まあ、スコールとしかしたことがないから他の男も知りたいなー、ってとこかな? 女友達と話してるとさ、彼氏が下手で困るとかイケないとか、AVで鍛えてるからとかいう変なのがいるとかさー、色々ある訳よー」

「……はぁ」


 どう返したものか、そう考えつつ体を麻痺させている原因に対しての解析を続ける。


「まー、あたしは種別は精霊だから安心して? いくら出しても出来ないから」

「そういう問題じゃねえ! バレたら俺が死ぬの! むしろ消滅させられるから!」

「バレたら、なんていうあたりバレなきゃいいとか思ってるんでしょ? 自分に言い訳するってことはしたいってことじゃん。スコールも言ってたよ? 女を堕とすのは大変だけど男はサキュバス嗾けたら一発だって」

「話を逸らそうとして――っ」

「あはっ、入ったぁ」



 1



 小鳥のさえずりが響く森の近くで、クロードは一心に木の幹を殴り続けていた。すでに手の皮膚が裂けて血が滴り、木の方もヒビが入っているが気にしてはいない。


「ねー、拭いても拭いても溢れてくるんだけどー」


 殴りつけている木の向こう側からアナリシスの声が聞こえる。


「…………。」

「なーんかさーやっぱりこう、なんて言うのかな。気持ちいいんだけど物足りないって感じ?」

「…………。」

「なんか言ってよー。さっきからずーっと殴る音しかしないよー?」

「…………。」

「あーもういいや、ナプキン持ってないし、このままパンツ穿いちゃえ……う、べちゃってするなぁ」

「…………。」

「ねークロードってばー。返事くら……ちょっ! 骨見えてんじゃん! すぐに手当てしないと、ってかいい加減にやめなって!」


 クロードを止めようと手を伸ばせば、その瞬間に腕ごと溶け落ちた。


「あづっ! 暴走……どうして……」


 溶け落ちた腕を押さえながら下がれば、クロードの周りに半透明の人形が浮かんでいるのが見えた。それも一体だけではなく八体ほど。


「人形……いや、これは」


 思い出せばスコールが戦闘用に製造した小型の魔道兵器だったような……。

 かつての大戦において戦力不足を感じてスコールが刻印型魔術を用いて創り上げた独自のものがほとんどで、人型をはじめとしていくつかの種類があるが、ほぼ破壊されて残っているのはわずかとしか聞いていない。あとは神力可動式の対魔術型が数体ほどか。


「チィッ、クロードから離れろっ!」


 白い光を握りしめて、思い切り突き出すがクロードの障壁に受け流されてしまう。あの半透明の人形たちはクロードの干渉を受けずしてあたりに漂っている。これでは手の出しようがない。


「うふふ……またいつか、会うときが来るでしょう」

「我々は今やグルミナの配下にある」

「やがては相対する、そのときにでも」


 ふわりふわりと姿が消えていき、最後の一体が、最初にクロードを見つけた個体だけがぼーっとクロードを眺めていた。まるで品定めするように、自らが仕えるに相応しい存在であるかどうかを見定めるように。


「あなたなら……わたしを殺してくれますか?」


 そう言い残すと、最後の一体も消えていった。

 二人だけになって手の出しようもなく時間が過ぎていく。しばらくすればシューシューと音を立てながらクロードの周辺の物が溶けて端から黒い塵になって白い光を放出しながら消滅し始めた。


「あっ……やば」



 2



 気付けばクロードは塔の上にいた。

 どうも建設作業を無意識運転状態でやっていたようだ。思い出そうにも朝起きてからの記憶が綺麗に抜け落ちている。

 気がついた途端に疲労感と汗が噴き出した。視界が黒く滲んで感覚がバラバラに制御下から逃げていく。


「やべぇ……」


 ぐらっと。積み上げた資材に倒れ込もうかと踏ん張れば、資材もろとも塔から落ちてしまった。

 地面に叩き付けられて降ってくる煉瓦の雨に全身を砕かれる。辺り一面に赤色を撒き散らし、吐き気を呼ぶ光景を焼き付ける。


「……お、ばーく、ろ……ぉく」


 ジジジジジィと高圧電線の下を通ったときのような音が響き、散らばった血肉や骨片が塵になって一カ所に集まる。黒い影の如く蠢き、集結した塵がもとの配列を形作る。


「ヂィッ……久々に使ったぞこれ」


 一度自分自身を完全分解して、そして完全に構築し直す禁じ手。これを使えば再生がすぐに終わるが、途中で攻撃を受けるとどうなるか……怖いために使わないし使えない。

 ふらふらしながら近くの木陰に座り込めば、急に眠気が襲ってくる。そのまま身を任せてしまえばどこまでも沈んで、もう二度と浮かび上がることが出来ないようなきがして……。


「…………、」


 ……………………。

 …………。

 ……。

 緩い風が頬を撫でて、目を覚ませば下に重さを感じた。顔を向ければエクリアが頭を乗せて寝ぼけていた。


「……いつの間に」


 何気なく手を伸ばして、髪をすくように撫でる。


「にやぁぁ……」


 ごろんと転がって、クロードの方に寄ってきたエクリアをもう一度撫でる。そのまま耳の裏をくすぐってやると気持ちよさそうに目を閉じて丸まる。


「やぁぁん……」


 まるで猫だ、犬なのに猫みたいだ。


「もっと撫でてぇ~」


 頭から首へ、肩へ、背中へ、腰へと。犬を撫でるようにエクリアを撫でてやると尻尾がパタパタと動く。最近石鹸にフルーツやハーブを煮詰めて蒸留したものを混ぜ始めたせいか、ほんのり甘い匂いが広がる。


「なんつーか……お前やっぱり猫系の獣人なんじゃ」

「にぅぅぅ、あたしはクーだよぉ」

「に、しては……」


 なぁなぁと甘い声を出しながらクロードにすり寄ってくる仕草といい。


「じゃれつき方といい自由な振る舞いといい」

ケットじゃないってぇ~」


 の、割には猫成分が多いような……と思いながらも、クロードは空を見上げた。

 今頃あの猫獣人のあの子はどうしているだろうか、と。クロードに取っては初めての獣人の女の子であり、例の騒動までは色々とあったものだ。

 ゆっくりと視線を下ろせばそこには塔。少々離れたところからでもはっきりと見える高さのため、周囲の探索に出かけてもどこが迷宮の入り口だったか分からなくなることがない。


「ふやぁぁぁぁ」

「やっぱり猫だろ」

「猫じゃないし! 猫は自由で気分屋で誰かに尽くすなんてないけど、犬は……あたしは好きな人なら……ぁぅぅっ!」

「なにおわっ!?」


 いきなり起き上がったかと思えば、戦闘慣れしたクロードが何も出来ずに押し倒された。柔らかだがチクチク刺さる下草が優しく受け止めてくれているのか受け止めてくれていないのか微妙なところ。

 流れるような動きでエクリアがズボンへと手を伸ばす。


「あれ? ちっちゃい……今はそういう気分じゃない?」


 いつもと違うからなのか、エクリアは不安そうに聞いてくる。

 実際のところ背中側に装備していたナイフが接触して妙な反応起こしてしまわないか冷や冷やしてるのだが。


「いきなり押し倒されてエレクトする訳ねえだろ」

「そ、そうだよね……あはは……。で、でもさ、イヤって訳じゃないんだよね?」


 押し倒されたまま抵抗しないクロードが何よりの証拠だ。

 そして明るく笑いながら始められたことに、クロードも反応を示し本日二度目が始まった。


(※1700文字ほど省略されました)


 行為に酔ったかのような、恍惚とした表情でエクリアはクロードの隣に顔を近づけた。


「気持ち……よかった?」

「ああ、よかったよ」


 目を合わせた途端に、さらに顔の赤みが増して尻尾が激しくパタパタと振るわれる。

 尻尾も踝辺りまでの長さがあるため、勢いよく振るわれたその先端が当たるとそこそこ痛い。

 いっそのこと、尻尾の先に金属アクセサリーでもつけて殴打攻撃できるのではないだろうか。


「ねえクロード?」

「なんだ?」

「なんだかね、体がうずうずしてるの……」

(赤色満月だし……時期的に、か)

「そ、その、クロードの……が欲しいなあって」


 顔を真っ赤にして、恥ずかしげにうつむきながら、途切れ途切れに言葉を紡いだ。

 片方の手は自分の下腹部に当てられている。


「なんて言ったらいいのか分からないんだけどさ……。あたし……好きだから、クロードのこと好きだから」

「……エクリア?」

「あたしもよくわからないけど……クロードが好き、クロードがいい」


 そのままそっと抱き付いてきた。


「本当に俺なんかでいいのか? 探せばもっとお前に相応しいやつはいるだろ」


 そう、あの夢で見たあいつのように。


「クロードがいいの」

「……月が欠けた後でもそう言えるか?」

「言える、言えるよ」

「そうか……分かった」


 そしてクロードもそっと背中に手を回した。


「ねぇクロード。あたし……ここから先は分からないから、したことがないから、クロードの好きにして」

「分かったよ」


 クロードの手がそっと動く。

 そこにはいつもとは違う、とても健気で可愛らしい少女の姿があった。

 ロングパーカーを脱がせ、健康的な身体に指を添わせ――


(※1800文字くらい省略しました)


「……悪い、少し無理させたな」

「ううん。とってもよかった……ありがと、クロード」

「どういたしまして、でいいのか?」

「うん。あはは……ちょっと疲れちゃった……」


 後始末をして少しすると、そのままクロードに寄り掛かるようにしてエクリアは目を閉じた。


「ん……なんだろ、こうやって木の下でこうするのってはじめてじゃない感じ」


 エクリアの髪をすくようにして、クロードもそよ風の吹く中、目を閉じた。


(生まれ変わり、か……。俺は誰かの二週目……なんてな)

「なんだか、眠いな」

「少し休もう」

「うん……」


 隣で静かに寝息を立て始めたエクリアを見て、確かにそこにいることに妙な安堵を覚えてしまう。自分の物じゃない誰かの記憶との境界が溶けて混じってしまうそうで、それが少し怖い。自分が自分でなくなってしまうそうで、言いようのない怖さが見え隠れする。


「クロード・クライスを殺して受け継いだ記憶。夢で見た誰かの記憶。俺は……?」


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