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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第三章・後悔/Regret
44/57

以往のこと

 ふと気付けばクロードは灰色の空間に立っていた。周囲には無数の半透明なディスプレイが浮かび、様々な出来事を映し出している。

 中でも一際目を引くのは戦争だ。主に映し出されるのは狼――魔狼と呼ばれる傭兵部隊、フェンリルの一団。血色の狂犬と呼ばれるワンマンアーミー、ルージュマッドドガー。影狼、シャドウウルフと呼ばれる……現グリムリーパー、かつてのクロード。


「ルージュマッドドガー……どっかで見たような……」

「きおくそーしつー」

「お前はどっから湧いて出た?」


 気付いた瞬間には唇が触れあう距離、視界いっぱいを埋め尽くすフェンリア。存在が希薄すぎるというか、そもそもクロードの走査スキャニングに一切引っかからない。しかもアイギス所属のメンツ標準装備の、動くときに音を全く立てずに動き回る消音能力があり、敵に回せば気付いたときには首を落とされている。


「それよりこぉれぇ」

「…………?」


 ぐいっと、顔を掴まれて真上を向けさせられたなら、灰色の空一面に広がる資料。


 事象改変実験・ループ――より―――から――――まで

 実験対象・霧崎アキト

 概要・現段階にて確認済みの特殊情報体。

    両立不可能な電脳化及び異能の同時行使を行う。

    すでに失われた戦略級魔術の使用、系統において制限は見受けられず魔力保有量はレイズと同等

    現状において交戦は危険

    確実に”灼熱の聖誕祭”で死亡確定であるため無闇な接触は禁止

 追記・イリーガルとスコールが遊びで交戦しこれを撃破、全治二ヶ月の重傷

    過去のループ、桜都戦役においては単独でアカモート騎士団、セントラ機甲師団、ブルグント魔法士連隊を殲滅


 事象改変実験・ループ――より―から――まで

 実験対象・ルルソン一族

 概要・特殊技能、召還術の使い手

    最悪の相性であるため術者の目視範囲に入らないように

 追記・スコールが本気で交戦、戦闘開始直後に消滅


 事象改変実験・ループ――より―――から――――まで

 実験対象・クロード・クライス

 概要・電脳への適性が極めて高い(比較的軽度の電脳症の疑いあり)

    珍しい同調能力の保有者(記憶を抜き取られる可能性あり、接触は控えるように)

    フリズスキャルブとの親和性が高い(不用意に欠片に近づけないように、最悪の場合は殺処分)

    現状においては介入する価値無し

    ほぼどのループにおいても何らかの騒動でクライス家は途絶えている

 追記・世界4にてクロヴィス、クレアンヌ、クラリス、クロードと交戦、アイギス電脳戦担当の半数程度が負傷


 事象改変実験・現ループより五から五出発まで

 実験対象・リリィ/レイズ

 確定事象・体質の問題で弱体化したレイズ・メサイアを所属不明のインキュバスが強姦

      ショック状態からの回復にほぼ五年を要し翌年母親本人によりリリィ殺害

      リリィの魂、及び存在枠はスコールが回収、固定処理済み

      レイズには記憶の混濁が見られる

 状況予測・事件当時行為者は酷く錯乱した状態であり、極度のパニック状態に陥っていたと見られる

      妊娠期間中においてレイズは宿った命を我が子ではなく強姦の恐怖として認識し、常に心身をともにすり減らしていた様子

 追記・インキュバスは強姦事件直後パニック状態のレイズによって消滅させられている

    余計な面倒を起こさないためにその辺のことは一切口にしないように

 

 事象改変実験・N/A

 実験対象・イクリス

 確定事象・人間との最終決戦にてレイジと共に戦死

 改変事象・N/A

 追記・二人が再開を望むのならどこかでまた……


 管理レベル最高/通常顕現での閲覧不可

 最優先排除目標

 事象改変実験・ループ1より1からループ11の256まで継続

 実験対象・スコール

 確定事象無し

 概要・現段階において観測のもつれにより事象が安定しない

    何度排除、消滅させようとも不自然なまでの辻褄合わせで存在が完全消滅しない

    時空間制御魔法への最高クラスの適性を持ち、保有する魔法制御系リソースのほぼ全てをそれに占有されている

    神力適性もあり変換効率こそ悪いがすべての術を使用

 追記・暴走状態であれば止める手段は無いに等しい

    第一世代、時代遅れの旧型でありながら最新型を容赦なく屠る

    レイシス家の三分家の一つアニミズム家を単独で殲滅


 次々と開示される映像と注釈と。

 泣きながらリリィの首を絞めていくレイズ、

 ただただ無表情でレイシス家の中で唯一多様な分家の者を殺すスコール、

 刀を二振り手に持ち燦然と輝く炎を従えて斬り結ぶ霧崎アキト、

 青い少女とともに空を眺めるクロード、

 様々なものが見えた。


「これは……」


 視線を落とせば妙な雰囲気のフェンリアがいる。


「ねぇクロード、これが真実じゃないからね」

「どういうことだよ?」

「不安定なこの世界じゃ何もかもが絶対じゃない。自分だけが真実、あなただけの記憶を信じて」


 こつんと額を当てられると、聞き慣れた機会音声が直接脳内に響いて意識が引っ張られる。



 1



 これからどうレイズに接していいのか迷う。今まで通りに接するのが一番なのだろうが、知ってしまった以上は迷ってしまう。

 それが危険だと知らずにやりつづけ、いざ危険だと分かるといつも通りやれば大丈夫と分かっても躊躇してしまうように。

 悩み迷い決められず、迷宮に帰ったクロードは噴水に腰掛けて黙り込んでいた。

 じゃれついてくるエクリアの相手を適当にしながら、通路の向こう側にふと見えた二人に意識がいく。こうして眺めているぶんには、この世界の思考で考えて普通の母と娘にしか見えない。しかし何があって、どういう経緯でこの形に納まっているかをひとたび考えてしまえばそうもいかなくなる。


「普通に接しろ、か」


 かつてのスコールがそうであったように。自分の過去を知った上で対応を変えてこなかったことが嬉しかったように。

 あいつが何も言ってこないのなら、今更掘り返すようなことはすまいと。

 クロードは立ち上がると、エクリアを片腕にいつものようにレイズたちへと向かっていく。



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