天城之敗北・敗者勇者と勝者少女
「降り注げ、星々の光」
少女の詠唱により複数の魔術が展開される。
白い半透明な障壁が空間を隔て、空には新たに輝き始めた光が、そして少女の手には光の剣が顕現する。
「消し飛べ変態!」
「うぉっとぉ!?」
真横にすっ飛んで回避すれば、空振りした少女が障壁を蹴って宙に舞い上がる。そのままふわりと空の彼方に飛んでいき、
「お、おい? まさか来ちゃうわけ? 流れ星来ちゃう!?」
入れ違いに空に輝く星々が落ちてきた。
「ホワッツ!? どうしろと!?」
障壁に覆われた空間に落ちた流星は、障壁内部だけにすべてを白く焼き尽くす破壊をもたらしクレーターを造り上げる。そしてその光が収まらないうちに、
「流星雨」
続けて詠唱されたのは星屑を降り注がせるもの。
ミーティアラインは広域掃射、対してこちらは機銃掃射とでもいうべきか。限られた範囲を破壊し尽くすのだ。
防ぎようのない攻撃を相手の攻撃範囲外から一方的に撃ち込み、それで死ななければ感覚が死んでいるうちに次の攻撃をたたき込んで削りきる。
白い光の中で少女は変態めがけて蹴りを放ち、もにゅっと無いに等しい胸を鷲づかみにされ反射的に手首を折った。かと思えば天城の足先が女の子の大事なところを触って、イラッとしてつかみ取って拳をたたき付ける。それでなおも動く手でパンツに手を掛けてくるものだから、
「死ね! 死んでしまえ!」
魔力で強化された、地割れすら引き起こすほどの拳でなんども殴打した。
どれほど時間が経っただろうか、気づけば障壁が壊れ、街の一角にクレーターがいくつもできていた。
周りで賭博に勤しんでいた者たちはいつの間にか退避して、丈夫な建物の上以外に誰もいない。
あちらこちらに鋭い斬撃の痕と、光の剣に焼かれて赤く溶けた岩が見える。
土が焦げる臭いと汗の臭いが立ち込める中、剣を片手に膝立ちになる天城がいた。
片足は紫色に腫れ上がり、左手首は折れ、指は関節が外れている。
そんな天城を見下ろす少女も汗だくだった。
髪はしっとりと濡れ、汗でシャツが張り付いていた。
下着の類を付けていないのか胸元に二つの桜色の点がピンと張って誇張されている。
上から下まで見ても、傷はない。
ただ汗をかいて肩で息をしているだけだ。
少々土で汚れただけでどこにも攻撃を受けた痕がない。
「はぁ、はぁ……まったく、胸とか股とかばっかり狙ってくるなんて……どんな、変態だよ」
「うぉぉ……まだやれ、る」
勇者特有の折れない心というか、窮地に陥っても気力だけで立ち上がる説明不可能な何かというか……とにかくそんなもので天城は再び立ち上がった。
諦めない勇気、それが悪い方向に働いている。
魔王すら凌駕する勇者、それが敵に回ったら?
「なんとしても……」
どんな逆境でも折れない心、どんな困難に直面しても不屈の精神で乗り越えてくる勇者。
まるですぐに殺虫剤に耐性をつける耐性ゴキブリのようだ。
とくに生理的に無理、と思わせるところとかが似ている。
「君を俺の嫁にするっ!!」
「断固拒否する!! 絶対に嫌だ!!」
「そう、そうじゃねえと面白くない。強引に迫ったら即堕ちとかいうちょろすぎるのは望んでねえんだよ!」
「うわぁ……もうR指定の主人公じゃん」
「んなわけで、君が折れるまでいつまでもアタック!」
「うざ」
絨毯爆撃でも行われているかのような、連続した轟音――もちろん魔術によって強化した肉弾戦の音だ――が夜の街を震わせる。
クレータの外側、安全地帯ではミコトが心配そうに見守り、その周りにはまたも賭博者たちが群がり始める。
やけに強い変態と、なにやらいいとこの貴族の嬢の喧嘩ともなれば珍しいことこの上なく、刺激を求めて加速度的に見物客が増えていく。
「さぁさぁ、行くぜ! 行くぞ! アタァァック!」
「うわっ、変なとこばっかり狙うとか真面目に戦う気あるのかこいつ」
仕掛ければほぼまな板? 看板? な胸ばかりを狙った鷲掴みのいやらしい指が。
かといって逃げに転じれば、前傾姿勢で人差し指をクイッと立てた攻撃が下半身に向かってくる。
とにかく気持ち悪い。
「くっ、こうなれば」
殴るように見せかけて踏み出し、天城が乗ってくる。
胸を狙った攻撃が来たところでバックステップ。
勢いそのままに前傾姿勢にシフトしてさらにいやらしい攻撃を仕掛けてくる。
「勝機! 思い切っていくぞっ!」
触られることを覚悟の上の一撃必殺を放つ。
「死っ―――――
つぷっ
…………!!」
………………。
白い少女の白い肌が赤に変わった。
「まん……穴に入っ……た」
…………の、直後。
一撃必殺の攻撃が食らえば一撃で必死の箇所に真下から容赦なく蹴り込まれた。
「~~~~~~ッッッ!?」
ドサッと、変態は泡を吹きながら倒れたとかなんとか。




