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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第一章・死神/The Reaper
12/57

内輪揉め・賊の最期

「……ええい! 鬱陶しいわ!」


 城の一階まで我慢したようだが、ついに限界が来たようだ。

 両腕に絡みつかれたまま歩くというのはかなり大変だ。


「おめーらいい加減離れろよ!」


 とは言うものの。

 周囲には魔族、魔物、魔族、魔物……。

 メイは依然として怖がっているため離れようとしない。

 すぐ隣こそが一番危険な悪魔だというのに。

 そしてエクリアはエクリアで連続したヘブンリーですでにクロードに寄り掛かるような状態。

 こっちは自業自得と言える。……エクリア本人ははにゃぁとした様子で、ここにたどり着くまでに、股から恥ずかしい液体をぽたりぽたりこぼしていることなど気に出来る状態では無いことには……少しばかり悪いことをしたなぁと、少しだけ思うが。

 相変わらずのまま、ある意味では一部の者に背中を狙われる状態で広間を歩く。

 見渡す限りの瓦礫。

 天井からは太陽の光が降り注ぐ。

 ぶち抜いたのはクロードだから仕方ない。かつて戦艦クラスの巨大兵器を一人で沈めているのだ、城一つくらいならばどうと言うことは無い。

 歩けば棒に当たるというか、せっせと無駄な片づけをしている使い魔たちの合間にきらりと光るモノを見つけた。


(あぁ……やっぱり折れてたか。今まで世話になったな相棒ナイフ)


 心の中で、長い付き合いだった友に、短い黙祷を捧げて忘れ去る。

 いつまでも道具については、いつまでも、いつまでも覚えておくことはしない。

 忘れたくはないが忘れないと覚える量が無駄に増えるから。

 さっさと次の相棒を探そうと決めたクロードだった。


「…………。」


 無言で歩く。

 そのたびにすれ違う者たちが、ビシッと気を付けをして立ち止まる。

 魔物ですら膝をつくなり頭を伏せるなりしているのだ。

 どうやらとても怖がられているようだ。


「……ん?」


 行き交う魔族の中に見知ったものを見つけた。

 人間サイズにまで縮んだアスモデウスだ。


「おい、お前」

「ひぃいっ!」


 声をかけられたと勘違いした者たちが一斉に視界からドロップアウト。

 逃げ遅れたアスモデウスはきょろきょろと左右を見たのち、平伏するという方法を選んだ。

 とりあえず下手に刺激しないという方法でもある。

 床に激突させた顔はすでに黒い毛で覆われているが、皮膚からは冷汗が世界記録並みの早さで噴出して相当怖い見た目になっていた。


「名前は?」

「テ、テリオスニゴザイマス」


 酷く緊張した声。

 すでにパニック状態。


「種族は?」

「フ、シィマゾク、ニ、デゴザ、マス」


 不死族。

 体を粉微塵にされようが爆砕されようが頭を潰されようが死なない種族。

 死ぬとすれば餓死か、細胞をすべて焼き尽くされるか。

 それ以外にもいくかあったような、とクロードは知識の中から情報を引きずり出した。


「そうか」


 それだけ言うとクロードは城の外を目指して歩き出した。

 道中、とある魔族に”お願い”してちょこっとばかり魔法をかけてもらって。

 ……しばらくして、依然としてその場でガチガチに固まったままのテリオスを見たという情報があったとかなかったとか。



 1



 いざ城を出ようとしたところで声をかけられた。

 それは後ろからあわただしく走ってくる足音と共にクロードに迫ってくる。


「「かしらあああーー!!」」


 賊たちであった。

 一人は背負われた状態で全員が向かってきた。

 彼らを見たメイは、クロードの腕にしがみついたまま背中側へと移動する。

 どうやら、まだまだ森の中で襲われたことが残っているようだ。


「テメエ頭に何しやがった!?」


 クロードの腕に絡みつき、寄りかかっているエクリアを見て賊たちは驚いている。

 さらに言うのならば……目がハートのマークになっていると言えばいいだろうか?


「こいつぁ人族だ。人族なら洗脳だって平気でするかもしんねぇ」

「そんなまさか……」

「いやでも人族ならありえるぞ、俺たちを家畜以下にしか見てねえやつらだ」

「さいてい……」

「この野郎……頭を返せ!」


 勝手に賊たちの間で話しが進んでいるが、クロードは奴隷として売る……言うなればモノとしかみていない。あちらの自己評価よりもさらに下だ。


「へぇ、まあこういうことなんだけど。あんたら勘違いしてるよ」


 そして腹黒いクロードは、関係をぶち壊すような……ではなく、ぶち壊す為の演技は大得意である。

 例えばこのように。


「ひゃうんっ!」


 クロードは賊たちに見せつけるように、エクリアの腰を抱き寄せた。


「なぁ、ぁぁ……」


 口を開け唖然とする賊たち。

 エクリアはもとより抵抗できる状態どころかクロードに寄り掛からなければ立っていられない状態。

 見ようによってはクロードに抱き寄せられてうっとりとしているように……というかそのものだった。


「こういうことだ。洗脳もしていないし、脅して無理やり従わせているわけでもない。エクリアは自分の意思でここでこうやってるんだよ」


 大嘘である。


「う、嘘だ! かしらが……そんな、あんたみたいな人族なんかに――」


 続きを言わせる前にエクリアの頭を優しく撫でる。


「くぅぅぅんっ」


 何とも言えない幸せそうな、気持ちよさそうなとろんとした表情でクロードの手を見上げるエクリア。

 賊たちはわなわなと震えている。

 破壊の効果は抜群だ。

 賊の頭であるエクリアと子分たちの間には、もう治せないヒビが、大海溝並みの隙間ができてしまったことだろう。小さな隙間だったとしてもいい、後はそこにバールでもたたき込んで隙間をこじ開けて広げるように……。

 完全に壊すまではあと少しだ。

 クロードとしては、あの森での戦いで、そしてその後の戦いで子分に慕われる親分と、親分に信頼される子分という関係がそこらの賊よりは強いだろうと考えていた。人数が多いよりも少ない方が個々の繋がりが強くなるのは当たり前。ならば、それは弱点となり得る。

 壊しがたいものこそ、壊れた時のショックは大きい。


「お前らなら、これがどういう意味かは分かるよなぁ?」


 黒い笑みを浮かべながら問いかける。


「あ、ああ、そんな、頭がそんな……」


 トドメの一撃。


「俺はお前らの敵だ。そして俺についたエクリアがお前らをどうするかくらい、わかるよなぁ! 俺の方につくってことが、どういう考えなのか、どういう判断をしたのか」


 何かが壊れた。

 ついさっきまでは、賊たちにとってはエクリアは助けるべき、そしていままでを共に過ごしてきた信頼できるリーダーだった。

 だが、その一言で、すでに頭ではなく、明確な敵として自分たちの前に立ちはだかるのでは?

 その感情が溢れてしまっていた。

 自らその感情を作り出したかのように思ってしまっても仕方ないほどの、かなり微弱な”負の感情”を増幅させる魔法によって。

 心の奥底ではエクリアの力に嫉妬していたのかもしれない、いつ切り捨てられるか怯えていたのかもしれない、いつこの関係が壊れるのか恐れていたのかもしれない。


「行け、エクリア。お前自身が決めるんだ」


 その場にいる全員に聞こえるように言う。

 そしてエクリアの耳元で何かを囁き、懐から取り出したコンバットナイフをエクリアに握らせ、背中を押す。

 そのままよろよろと前に、前に足を進める。


「か、頭……?」

「姐さん! 目を覚まして!」

「そんなやつのいいなりなんかになるなよ!」

「頭ぁぁ!」


 そんな中でかすれるような声が響いた。


「ごめんね」


 それは誰に向けられたものか。

 タンッと、石畳の床を蹴る音が聞こえた。

 賊の一人が何もできずに刺され、赤い液体を胸から落としながら崩れ落ちた(注・血糊入りマジックナイフ、クロードの持っていたジョークグッズ。倒れた理由はショック)。

 最後は――クロードは何もしなかった。これを見越して脅して掛けてもらったいくつかの魔術を打ち消し、重力操作での地味な緩衝もせず。

 エクリアの意思だった。


「頭……」

「………………………。」


 数瞬、沈黙が場を支配した。

 ピチャリと一滴落ちる音がすぐにその凍結を溶かす。


「頭ぁぁぁっ! あんたなんでっ!」


 賊の男が拳を突き出そうとしたところで、一瞬で間合いを詰めたクロードが蹴り飛ばした。


「俺は敵には容赦しない」


 そのまま二人を打ち倒す。

 背負われた女と背負っている男。

 クロードはきつい睨みを聞かせて追い払った。


(うーむ……なんかなぁ…………。やってよかったのか……これでどうこうなる問題でもないしなぁ)


 うわ言、無意識に言う本心。


『もう、みんな盗賊なんてやめようよ。普通に暮らしたいよ』


 そんな感じの言葉だったと思う。

 それを聞いてしまったクロードは気が向いたらやってみよっかなー、なんて思っていてちょうど機会があったものだから実行した。

 ただそれだけ。

 内容プロセスがどうであれ、引き起こした結果エフェクトはあっている。

 基本的に賊の集まりはヘッドを切り離してしまえば、後はバラバラになるのが大多数だ。しかしまあ、ばらばらになってもまた別の場所で集まってしまう。でもそれは別の形で違う意味の集まりになるかもしれない。

 だが…………。


「うぅ、ひぐっ、あたしは……」


 誰かが涙を流すという結果は、(注・敵は除く)どういうときだって嫌なのだ。


「…………。」


 ぽんっと手を置いた。

 頭ではなく、揺れる背中に。

 

(……やっただけ俺が損したなぁ)


 なんやかんやで心配なのは自分だけ、それがこの悪魔だ。

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