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フラットライン-対勇者戦線-  作者: 伏桜 アルト
第一章・死神/The Reaper
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魔王隷属・シェスタ

 長々と謝罪を受けているうちに「いい加減やめろよ長えよ」と思い始め、唐突に立ち上がったクロード。

 一度でも共に戦えばとりあえずは敵であっても実力のある戦士としてみるが、これに限っては久方ぶりの例外であった。

 クロードの視線はエクリアの股間にいっていた。

 決していやらしい方向ではない。

 ただただ単純に、エクリアを戦士(盗賊?)エクリアではなく、漏らした雑魚エクリアとして見ているだけだ。

 エクリア側としては、どう受け取ったのか股間を隠しつつ内股になって太ももをもじもじさせた。

 顔が赤く染まり、イヌ耳も尻尾もピーンと立っている。

 そこにクロードが近づいてさらに顔が赤くなった。

 蒸気が出そうだ。


「じゃあな、後は好きにしろ」


 何気なく横を通り、その肩にぽんっと手を置いた。

 それだけなのに、


 ビクンッ!


 と震えて過剰な反応を示した。


(……これまだやったらどうなるんだ)


 などと思い、ついでに変なストレスの発散のためにイジメてやろうかなー、なんて思ったクロードはつい癖で頭をぽんぽんと叩いてしまった。一度癖になってしまうと、癖とはなかなか抜けないものだ。

 ピンと立ったイヌ耳の間をぽんぽん、ぽんぽん、そのたびにぴくっ、ピクピクンッと反応を返すものだからそのまま調子に乗ってどこまでイってしまうのか、興味の出たクロードは続けた。


「はぅぅぅぅ……」


 エクリアが変な声を出す。

 さらにクロードがぽんぽん。


「はうわぁああんっ」


(……イヌだからか? イヌだからなのか? だから撫でられただけでここまで反応するのか?)


 続けるうちに、ピンッと立っていたイヌ耳はぺたんと伏せられ、尻尾も気づけばぴょこぴょこと左右に動いていた。これはもう喜ぶというよりは悦ぶではなかろうか。


(…………、)


 ただ純粋に、いやらしい意味抜きでやり続けた末の結果が気になったクロードは、少し手の動かし方を変えつつも撫で続けた。


「はわぁぁぁぁぁ……」


 次第に顔がとろーんとし始めた。


(まさか媚薬の効果がまだ……じゃないな、これは違う方向ベクトルだな)


 そして続けることわずか数秒。


 ビクンッ! ストンッ。


 一際強く震えると、腰が抜けたかのようにその場にぺたんと座り込んでしまった。

 胸元を握りしめながら、


「はぁぁ……、はわわぁぁぁ……」


 絶え絶えな吐息だった。

 扇情的に潤んでいるつぶらな瞳、赤く火照った顔でクロードを見上げる。

 その表情にはそこはかとなくエ口さが見え隠れする。下を見ればスパッツに別のヌルッとしたシミがじわぁと広がり始めていた。


(なるほど、こうなる訳か。イヌ系の獣人には有効な”攻撃アタック”として記憶しておくか)


 そしてクロードは未だに瓦礫に埋もれたままの玉座へと向かった。

 ピンク色があったからといって、それ以上に手出しはしない。



 1



「……もういいか、壁ごと”外して”やろう」


 既に部屋でなくなった屋外で、ポツンと入口が埋まった部屋を眺める。

 不意に右腕を左側に向け、勢いよく振った。

 まるで延長線上に重機のインプルメントかなにかついているかのように、瓦礫もろとも玉座と部屋の壁が吹き飛んだ。

 その瓦礫は端のほうから下に落下し、さらに魔王城を崩すことに加担した。


「…………。」


 クロードは部屋の中が見えた時点で一度回れ右。

 目元を押さえてぐりぐりとマッサージ。

 腕をぐるりと回して向き直る。


「うーん、そんなはずはない」


 もう一度回れ右。

 屈伸、伸脚、跳躍、ついでで三回捻り宙返りをする。

 そしてまた向き直る。


「……………………おい? ベタすぎるだろ? 魔王が実は女の子でしたとかそういう設定いらないから。そのままドス黒いオーラまき散らす歪な魔王でいいから!」


 先の一件もあり、さっさと魔王を締め上げてこの世界とおさらばだ! などと考えていた思考が、ちょっとこれ締め上げてしまったら心にもやもや残るよね? という方向にシフトしてしまった。

 そもそも、第一に魔王が手に持っているものが世界とおさらばだ! を全否定していた。完全に、全力で否定していた。


『召喚魔法-超初級編・異世界から召喚しましょ♪』


 背表紙にそう書かれた分厚い本。

 書物庫中で空いていたところにあったはずの本。


「ああ、空は今日も青かった」


 ドサッと、その場に仰向けに倒れる。

 クロードの頭の中で何かが吹っ切れてしまった。


「あ、あの、誰ですか?」


 壁が25%ほどなくなった部屋から女の子が歩み出てきた。

 ボブカットの金髪に緋色の瞳。

 クロードからしてみれば見た目は「ああ、そこらにいる女の子だね。気配がかなりアレだけど」である。

 そしてその質問には、すっかり気力が抜け落ちた感じでやる気なく答えた。


「あー俺ね、この城ぶっ壊してそこにあったイスに座ってたやついっちゃん下まで叩き落としたクロードだ」


 さらりと、短時間でできるようなことかそれ!? ということを言った。

 当然魔王としてもそれは信じられない。

 あれは人間程度が倒せる悪魔ではないのだから。

 そもそも魔王領に乗り込んできた時点で生きていることすらおかしいというのに。


「………………………………………………………………へ?」


 たっぷりと言葉の理解に時間を消費して発したのはその一言だった。


「一応聞いとくけどさー、あんた名前はー? そんで転移とかできんのー?」


 完っ全に諦めモードにスイッチしたクロード。

 すでに脳内では、帰れないならとりあえずあの国滅ぼそうかなー、なんて思い始めている。

 勇者召喚などという強制転移がなければ今頃は家に帰ってごろごろできていたはずであるのに。……と言っても、数年前の事件で家は火事で全焼して跡形も無いが。

 異世界転移いやっほうとならないクロードにはこの状況は迷惑極まりない状況なのである。


「え、えと。名前はシェスタ。転移は、まだ……勉強中、です」

「そっかー」


 カチリ。

 クロード頭の中のスイッチが完全に切り替わった。

 第一目標、帰る。改め、第一目標、勇者召喚なんかしやがった国を滅ぼす。

 むくりと立ちあがり、魔王な女の子――シェスタの前に歩み寄る。

 見た感じの年齢はクロードよりも下か。

 ただ魔族なだけあって成長度合いが違うのか年相応の体つきではない。


「さてさて、シャスタちゃん、お兄さんねぇちょっとやりたいことあるんだ」


 トン、と両肩に手を乗せてホールド。

 シャスタの額には、瞬間的に恐怖心からくる冷汗がにじみ出た。

 なぜかこれは人間のはずであるというのに、逆らってはいけない死神などの、超高位の禁忌的な存在にも似た何かを感じるのだ。


「な、なんでしょうか?」

「一緒に世界征服しない? それも滅亡させる方向で」

「……はい?」


 割と魔王軍より(シェスタの配下が勝手にやっている)の考えであった。

 そしてそれを聞き返すつもりで「はい?」と言ったはずなのだが……。


「おお、やってくれるか。いやーさすが魔王、わかってるねぇ、そこは定番の世界征服。さぁ! 善は急げだ、今から始めるぞ!」


 そしてクロードの恐喝紛いの声が魔王城のあちこちで響いた。

 勇者二人が殺した魔族。クロードが気絶させた魔族。

 全体で見ればそれは一割ほどでしかなく、数は少ない。



 2



 程なくして。

 ドタドタと騒がしい足音が聞こえたかと思えば、廃墟部屋……いや、これもう屋上? 屋外? についさっきまで伸びていた魔族や魔物がずらりと並んだ。壊れかけの門からはちらりとメイが覗いている。

 集まった者、その中にはさきほど一階まで叩き落とされたはずのアスモデウス(人間サイズまで収縮している)が混じっていた。


「ご無事ですか!?」

「勇者と戦ったというのは!?」

「お守りすることができず、誠に遺憾です!」


 次々と魔族たちが発言する中、アスモデウスがシェスタの前にひざまずく。


「さすが魔王様、あの凶悪な勇者に勝利するとは」

「えっ? えっ、どうなって、えぇっ?」


 訳が分からず慌てふためくシェスタの肩にポンと手が置かれた。

 クロードだ。


「ちょっと口裏合わせ。俺はあんたに負けたってことで」


 そう言うと、シェスタの隣に堂々と立った。


「しょくーん! 知っているだろうが、ついさっきこの城を攻めてぶっ壊した勇者の一人だ。呼ぶときはクロードでいい」


 知っているだろうがなにも、ここにいるのはクロードを視界に収めたと思ったら次に瞬間意識が途切れて気絶した者ばかりである。

 さらに言えば生き残り。他二人に殺されなかっただけまだ運がいいかもしれないやつら。

 誰もが束になってかかったところで勝てない、そう思った。


「まー、破竹の勢いで魔王倒せるかなーなんて思って調子乗ってたら負けたわけだ。そんでまあ、戦いながらの話で魔王の理想とする世界に共感し、共に歩むことを誓った」


 一歩前に出る。


「先代の魔王が目指したという世界の統一を」


 拳を握り、突き上げる。


「この大地に魔族を認めさせよう、俺たちで!」


 流れ的に賛同しておかないと後で酷い目にあわされそうだった、そして魔王様が認めた、という見せかけの偽事実、既成事実があるために魔族や魔物たちは一斉に「魔王様の為にぃぃぃ!!」と唱和した。

 そしてなぜかシェスタの後ろに立たされていたエクリアはあれから少しは回復したものの、まだぽかーん……とではなく、ほわぁーんとした表情でクロードを見つめていた。


『うおおぉぉぉぉーーー!!』


 盛大な雄叫びが城を、大気を震わせた。

 圧倒的な気に押されたシェスタが怯む。


「あ、あぁ、わたし、取り返しのつかないことしちゃった」


 その声はほとんど雄叫びに流され、隣のクロードにしか届いていなかった。


「なーに、どうせいつかはやることだろ?」

「それはそうですけどぉー」

「ふっ、俺の仕返しに存分に利用してやる。魔王軍。俺にとって利がある間はな」

「えぇっ!?」


 流れでクロードが魔王シェスタの配下になった日であった。

 魔王が流れでクロードのいいように使われる存在になった日でもあった。

 ちなみにこの場には薬品が散布されていた。

 それはエクリアが持っていた媚薬である。

 ある程度まで薄めてばら撒けば、それなりの興奮を誘う程度に効果が落ちる。

 それを利用した集団心理。

 全体が爆発寸前まで持っていかれ、後は比較的頭がダメなやつらに対して起こす時にちょこっと吹き込んでおくだけで起爆剤になる。

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