2話 出会い
目をゆっくり開けた。一体何があったのか思い出す。皇離と名乗る人物と話をしていたことを思い出し、何で今寝ているのかを思い出す。そして、一人笑っているあの光景を思い出した。すると再び激しい頭痛を起こした。一体何だと言うのだろう。拒否反応の一種か?
「あ、起きたみたいですね。はい、お水です。」
部屋に入ってきたのは黒髪の…確か結月だった気がする。起き上がって水を貰う。
「ありがとう、ございます。えっと…」
「結月でいいですよ。皇離があなたをこの船に置いてくれるそうですよ。少し危ないかもしれませんがどうされますか?」
今は記憶があった戻るまで生活出来る環境が必要だ。それなら答えは一つ
「それじゃあ、よろしくお願いします。結月さん」
「えぇ! それと敬語はいいですよ。私は元からですけどあなたはタメ口の方が話やすいですよね?」
とても和む声と容姿は、安心感があった。
「うん。俺は…名前無いんだった。」
「そのうち思い出せますよ! 記憶を取り戻すべく努力しましょう! 私も出来る限り助力致しますから!」
「そうだな。なんか君といると落ち着く。」
ふいに雪は頬を赤める。
「そ、そういうことは言わないでください。恥ずかしいですよ…」
「ごめんごめん。ちなみにこの船はどこに向かってるんだ?」
「あ、えっと…確か青ヶ島って島にまだ日本軍基地が残っているそうなのでそこで燃料の補給だそうです。もうそろそろ到着すると思います。」
『あーあーテステス。よし!皇離だ。昨日のアメリカ軍との戦いお疲れ様だ。戦死者は0だ。よくやってくれた。バカのお陰で楽々勝てた。ありがとうな。んで本題なんだが、もうじき青ヶ島に到着する。青ヶ島はやつに攻めおとされなかった唯一の島だ。やつの被害が及んでる場所もあるが及んでいない場所で自由行動だ。軍基地探索でも島民や本土から来た連中と仲良くなるとかしな。それじゃおりる仕度しとけ。以上皇離から』
「ですって、私は島に行きますがあなたはどうしますか?」
「俺も行くよ。」
しばらくして島についた。部屋から出ると船には意外と多くの人が乗っていたことが分かった。
「どこに行きますか? やはり基地ですか?」
「俺は落ち着ける場所に行きたいな。海上とかじゃなくてもっと緑のあるところに。」
「おかしな人ですね。私は皇離と基地の見学をするので一緒には行けませんが、大丈夫ですか?」
「あぁ。君には世話になりっぱなしだからな。」
雪と分かれたあと、しばらく青ヶ島の森の中を歩いていた。そして一つの木に手をあてた。
「なんだか懐かしい感じがするな…」
「何が懐かしいの?」
声がした後ろを見ると、そこには一人の少女がたっていた。
「よく分からない。けど俺は昔ここに来た気がするんだ。」
「そっかー。」
「君は?」
「私は龍神緋奈! あんたは? さっきの戦艦から来た軍人?」
「俺は記憶喪失で海で漂流しているところをあの船に拾われただけだ。名前も分からない。」
「そっか…んじゃあたしがあんたの名前考えといてあげる!」
緋奈は、とても楽しそうにしていた。その笑顔に不思議と引かれていた。しばらく彼女と話をした。
「だからあたしは許せないんだ。パパとママを殺したあいつが…」
緋奈の父親は、軍人だったらしい。緋奈自身は元々東京に住んでいたが、軍事施設の建設と父親の青ヶ島軍基地に移動になり母親は研究施設にいたため、緋奈は父親と共にこの島に来たが、例の化物のせいで本土に援軍として向かい戦死したらしい。母親も死んだとの情報も入ってきたらしい。許せない…やつが許せない。やつのことを考えた瞬間脳内再生が起きた。再びあの風景。家の残骸の上にたつ一人の人間。誰かを嘲笑うかのように見下した目線。一体誰を見ている?そしていつもの頭痛がくる。苦しそうに頭を抱えた。緋奈は、隣で急変した少年を見た。
「だ、大丈夫?」
声をかけたが返事はない。ただ苦しそうにしている様子にかわりはない。どうするべきかと悩んでいた緋奈だったが、覚悟を決めて少年の頭を抱いた。あまりにも衝撃的な出来事だった。しばらく沈黙が続いた。緋奈は慌てて頭をはなした。
「あの…えっと…」
「ど、どう?」
「どう? って?」
「だからもう大丈夫? って聞いてんの!」
「あ、うん。お陰で痛くなくなったよ。あ、ありがとう…」
「そう…べ、別にあんたのためにやったわけじゃないんだからね!隣でちょー苦しそうにしてたからほっとけなかったってだけで…」
再び沈黙が続いた。
「さっきのはね。ママがよくやってくれたの。小さい頃にパパが頭を怪我した時もあーやってたんだ。ママ直伝ってやつ? 」
二人の沈黙はそこまで悪くない沈黙だったのかもしれない。あの後、日が暮れるまで二人で森の木の下にいたが、あまり遅いと雪達に心配をかけてしまうため、明日も朝からここで会う約束をして二人は別れた。森を抜けて基地を通っていると声をかけられた。
「おーい! 漂流少年よ! 俺達と飯を食わんかぁ!」
声をかけてきたのは皇離だった。早足で皇離の元に向かうと、ここの軍人や紀伊の船員が数人集まっていた。皇離に席を指定されそこに座る。皇離は船員達よりも軍人の人達の塊の中にいた。
「あそこまで皇離のように人望が厚く、信頼できる人間を見たことがないな。」
隣に座っていた人は言った。その台詞は自分にふってきているとは気がつかなかったが、自己紹介されて気がついた。
「僕は剱谷和也。よろしく漂流少年。みんなは僕をけんさんとかカズとか呼んでくれてるけど好きなように呼んでくれ。」
和也はとても爽やかな雰囲気をしていた。
「あ、はい。それじゃあ和也さん。よろしく。」
二人は握手をかわす。すると隣から荒々しい大男に話かけられた。
「俺は獅子王拳ってんだ!よろしくな!」
拳とも握手をする。拳の手は大きかった。話を聞くと拳と和也の二人は17歳らしい。自分の歳が分からなかったため年上か年下かも分からなかったが。
「漂流少年は名前を欲しいとは思わないのか?皇離は自分で名前を改名したんだ。皇離につけて貰うといい。」
「和也ぁ!俺はこいつの名前をつけることにしたぁ!どっちがセンスのある名前がつけられるか勝負だぁ!」
「うるさいバカだなぁ。少しは声のボリュームを下げてくれ。食事中だよ?まぁ勝負にはのってやる。僕の先攻、最初はハードルおとして一郎」
「おいてめぇ!先攻なんてずりいじゃねぇーか!!!まぁ俺は男だからうじうじ言わねーぜ!そんでもって信長だぁ!」
「いっきにハードルあげたね。てかそれ織田信長の信長?バカは人の名前を使うのか…信長さんがかわいそうだ…」
「るせぇ!いいからとっとと言いやがれ!」
「そうだねぇ…信長よりかっこいい名前かぁ。正直見当たらないなぁ…」
「俺、信長は嫌ですよ…それに名前ならつけて貰う予定ありますし…」
「お?この勝負は無かったことになっちゃったな。それで誰につけて貰うんだ?」
「えぇー折角勝てそうだったのによぉ… 」
「あははは。実は今日…」
緋奈との話を話した。無論親のことに関しては触れていない。
「そうか…それでその子のことどう思ってるんだ?」
突然背後から皇離の声がした。
「あ、皇離か。僕もそれは気になるな。」
「俺は全く気にならねぇぞ!」
『・・・・・・』
拳を席からどかしてそこに皇離が座った。完全に拳がハブられた感じだ。
「バカがいなくなったところでどうなんだ?」
皇離はノリノリだった。
「べ、別にどうでもないですよ。」
「それじゃあ結月派か?結月は船内でも人気だぞ?」
「結月か…確かに人気だな。」
「結月さんでもないですよ!それより俺の記憶です!」
このあと拳も交えて四人で話し、船内に戻って眠りについた。翌日は再び木の下で話した。夜も皇離達と親睦を深め早くも一日が終わった。皇離の予定だと、5日後にここを出港するらしい。そんなこんなで出港の前日の就寝前だ。船内の人とは仲良くなれた。記憶は戻りそうにないが、それはそれでいいのかもしれないとも思えた。何より緋奈との会話が楽しかった。明日最後にいつもの場所で会って名前を聞く。この島に残っていたいと言う気持ちもあったが、緋奈に迷惑をかけるになってしまう。そして出港の前日が終了した。