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1話 はじまり

目の前に広がる光景は絶望そのものだった。無惨に破壊された町に広がる火の海。人間の死体から漂う異臭…誰もがその光景を地獄と形容するだろう。そんな地獄の中で一人笑う人間を見た。その姿は鏡に写した自分のようだった。

目覚めたそこは少し騒がしかった。何か大事なことを忘れている気がする。少し頭を使って状況を整理した。もし同じ状況になったら誰でも言葉にしてしまうだろう。

「俺は…誰だ?」

自分がどこにいるのかどころか、自分自身のことが全く分からなかった。必死に思い出そうとしていると部屋の外から思わず耳を塞いでしまう程の爆音が鳴り響いた。さっきから異常なまでに部屋が揺れている。まずは情報収集のために部屋から出た。扉を開けたそこは慌ただしく人が行き来していた。と、突然頭痛がした。激しく痛む頭を押さえながら階段をのぼった。階段をのぼった先には雲一つない快晴の空があった。少し目線を落とすと、辺り一面海が広がっていた。どうやらここは船の上のようだ。甲板を歩いていると、再び爆音が鳴り響いた。音がした方向を見ると、3隻の船、いや、軍艦が見えた。それと一緒にこちらに飛んでくる大砲の弾も見えた。当たる!そう思って目を閉じたが、一向に着弾音が聞こえなかった。恐る恐る目を開けると、大砲の弾が空中で止まっていた。思わず弾に小走りで近寄った。驚きを隠せずにいると隣から声がした。

「目覚めたようですね。今状況が状況なので、部屋に戻って頂けると助かります。そこはあぶっ、」

隣にいた少女は、綺麗な黒髪をしていた。途中で喋るのを止めたのを不信に思い、彼女を見た。両手を前に出して、何か念じているようだった。再び大砲の弾に視線を移すと、先程よりも弾が接近していた。間違いなくこの黒髪の少女がこの弾をおさえているのだろう。と、突然上から下に叩きつけるような暴風が吹いた。その暴風は少女がしゃがみこんでしまうほど強かった。大砲の弾もその風の影響か、海に落下した。さっきから驚かされされっぱなしだ。しゃがみこんだ少女を上から見下ろしていると、

「今ちょっと危ないって分かりますよね?実際危ないので船内に行ってください!」

言われた通りに船内に足を向けた。階段の近くまで戻り辺りを見た。黒髪の少女意外にも目視出来るだけでも10人はいた。船内に戻るために階段に足を運ぼうとした瞬間、大砲の弾を撃ってきた軍艦から協力な電磁波を感じた。この感覚に襲われているのは黒髪の少女もか?それとも俺だけなのか?再び軍艦を見た。電気を帯びた何かがとてつもないスピードで接近してきていた。黒髪の少女は大砲の弾のように止めようとしているが、大砲の弾に苦戦しているような力ではあの物体を止めることは出来ないだろう。《助ける》そう思ってしまった時には無意識に身体が動いていた。自分でも何がなんだかんからなかった。一瞬にして黒髪の少女の隣にたどり着き、今にもこの船ごと少女を貫こうとしている物体の間に手を伸ばした。そしてそれを握ると同時に消し去った。目を閉じていた少女は目を開け、先程の俺のように驚いていた。それ以上に自分自身が驚いていた。物体を握った手を自分の顔の前に近づけて手を広げる。そこには何もなかった。本当にあの攻撃に物体はあったのだろうか?一体俺は何をした?

「あなた、一体何をしました?」

自身と同じ反応を示した少女に、すぐ返答は出来なかった。考えても答えは出なかった。

「よく分からない。俺自身何をしたのか…ただ本能的に助けようとしたら体が勝手に動いた。」

しばらくの沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは第三者だった。

「結月ぃ! 今物凄いのがとんでっ、来なかったか?」

綺麗な美男子さと荒々しさを兼ね備えた少年がやって来た。見るだけで支配されそうな、圧倒的な威厳があった。その少年は質問を変えた。

「すまん、訂正だ。漂流少年はなぜここに?」

漂流少年? 一体誰のことだ? おそらくは自分のことだろう。

「俺…か?」

「そうだ。お前は海の上に浮かんでいたんだ。そこを俺達が助けたんだ。なぜあんなところに?顔は日本人っぽいが…ひょっとして例の怪物から逃げようとして海に?」

何を言っているのかさっぱりだった。例の怪物とは一体…

「ごめん…俺は俺自身のことを全く知らない。逆に聞きたい。ここは? 例の化物とは?」

「っち。記憶喪失か…めんどくせぇ。俺から聞いてきたのになんだが、この話はあとにしよう。今は戦闘中だ。結月はもう下がっていいぞ。あとはあのバカが…ほらな。」

軍艦を見ると、突風が吹いた。空は快晴だったが軍艦の周辺だけ波が荒れているようだった。もちろんここも多少は荒れるが。次の瞬間、軍艦から白旗が上がった。

「アメリカはもう撤退し始めるだろう。それじゃあ話の続きをするか! とりあえず場所を変えよう。ついてこい。」

少年に言われるがままに動いた。どうやらこの船も軍艦のようだ。船内をしばらく歩くと一つの部屋にたどり着いた。中に入ると、そこはただの客室だった。

「まぁ座ってくれ。結月もな。」

とりあえず椅子に座って話をはじめた。

「まぁなんだ。一応ようこそ紀伊へとでも言っておこう。」

「皇離? 彼は自分の意志でここに来たわけでもないのに私達がここに来た時と同じようなことは、」

「分かった。分かったから! とりあえず漂流少年が記憶喪失だってことは確定でいいな?」

「あぁ。あとあんた達は何者だ?さっきの例の化物ってのは何なんだ?」

「とりあえず自己紹介させてもらうか。俺は皇離おうり。苗字はねぇ。この戦艦、いやこの組織の頭だ。そんでそこの黒髪が結月雪ゆづきゆきだ。そんで俺達はアメリカに占領されてる日本を取り戻すべく航海中だ。」

「日本が? 戦争に負けたのか?」

「言語が分かってくれて助かるな。負けた? とは一概に言えんな。一人の化物に一週間にして滅ぼされたところをアメリカが占領したってことだ。」

質問を続けた。

「その化物ってのは?」

「2、3年前から超能力? ってよりも異能力的なのが人間に宿り始めたんだ。原因は分からんが覚醒したのは本当にわずかだ。俺達はその能力を使って戦ってる。んでその能力者の一人が化物だ。名称とかはないんだがな。やつはその能力を使って日本を滅ぼした。まじで化物だ。俺はそれを予知してこの戦艦で能力者を連れて逃げたって訳。俺ももっと多くの人を助けたかったけどな。アメリカと戦争中にそんなこと出来んしな。一度遠くから本土を見たが火の海だった。あれは地獄意外の何物でもねぇな。」

突然脳内再生がはじまる。辺り一面火で覆いつくされた大地。その中で一人笑っている…と激しい頭痛に襲われた。思わず声を漏らしてしまいそうだ。少しずつ意識が遠ざかって行く。あの光景は一体…そこで意識が無くなった。


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