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明日なんて来ない方がいい

 「…重い」「何か言いましたか?」「いや、別に何も」

 支えながら改めて心の中で呟く。この忍者女重いと。本当に一体何で出来ているのやら見当がつかない。さては胸の凶器が重いのかと考えたが、保健体育の授業によれば脂肪より筋肉の方が重いとのことである。

「桜花さんは、ひょっとして、鎖帷子とか着ているのか?」

「いえ、あんな重たいものはかなり昔に廃止になって、いまは最先端の防弾兼防刃スーツですね」

 何気なく俺が女の人の名前を口にしたが、本来名前はなく、今回の作戦におけるコードネームのようなものらしい。

「ちなみに重さは?」

「普通の服と変わらないぐらいです。あと、言っておきますけど私は50キロギリギリですからね!忍者は親指と人差し指で天井の竿にぶら下がれないといけませんから」

 じゃあなんでこんなに重いんだか。いやいや、いけないな。一度支えると言った手前、重い重いと連呼するのは男らしくなかった。男女平等?看板に糞でも塗っておけばいい。

 

 しかし、この女はどうして今時分にこんな時代錯誤な恰好をしているのか。それは江戸時代どころか戦国時代の服装だと思うだけれども、空手家が空手着を着たり、柔道家が柔道着を着たりするようなものなのだろうか?

「まあいいや。病院、は不味いか?」

 どう考えても薬殺、あるいは実験台ぐらいしか未来(さき)が無い気がする。一番いいのは仲間に連絡を取って貰うことだろうけれども、ガラケーで通じるのか不安だ。

 ノリで忍者を助けてしまったが、これは不味った。

「…はい」

 先程の俺の問いに、女がこくりと頷いたのが判った。主に……胸の揺れで。

「じゃあ、俺の家を休憩場所に使おう」

「そうですね、そうして頂けるとありがたい」

 提案してから思い出す。猖獗を極めた我が六畳間の惨状を。

「まあ、怪我人を置くような清潔な場所では無いけれどなー」

 一応、金ならある。雀の涙ほどだけれども、二週間ぐらいなら女がホテルに寝泊まりできる程度の金は。ああしかし金の話は嫌なものだ。自慢にもならない。

「いえいえ、アフリカの内戦地帯よりはましです。本当に」

「歴戦の猛者か!……本当にすまんな」

 そのあとポツポツ話してくれた桜花さんの戦歴は恐ろしいものだった。この(ひと)に怪我を負わせるほどの敵が来たら俺は盾代わりにもなれないだろう。

「いえいえ、感謝します」

 そんなこんなで仲良く会話をしている内に、いつの間にか我が家へと辿り着いている。

 平屋建ての同じような形の家が立ち並ぶ貸しアパート。トイレ、風呂付き台所あり家賃は3万5千円という田舎ならではのお値段だ。ちなみに、周囲に建つ四件の同形アパートには管理人が一人と、母子家庭の一家が住んでいる。防音性はあってなきが如しなので、夜中に騒ぐのは御法度だが、笑い声ぐらいでは俺の眠りの妨げにはならないな。

 邪魔なバルディッシュを壁に立て掛けておく。

「ここが我が家」

 女の反応がない。ぎょっとして目線を向けると、顎を落として俯いたまま眠っている女の顔が目に入った。意外と若いし、美人だった。やはりくノ一適正とかがあるのかもしれない。

「ううむ。奥が深いな」

 などと適当な事をほざきながら、俺は女の背を壁に任せて座らせた。それにしても布団を干しておいて良かったと心底思う。猖獗極まる部屋に一応の秩序をもたらすのには二〇分ほど時間を要した。


 布団の上に女を寝かせた後、一応心音と呼吸を確認したが問題はなかった。疲れが出たのか安らかな顔で眠っていらっしゃる。

 さて、この状況で俺のやるべきことは何だろうか?とりあえず、水を汲んだバケツと新聞の束とダンボールとを持って表に出る。武器の手入れというわけだ。映画よろしくゾンビ菌噛み付き(バイト)の可能性もあるから、殺菌消毒はしておいた方がいいかなという結論に辿り着く。

 まず沸騰したお湯をかけ、ゾンビの体液を洗い流す。次にスコップで掘った深さ30センチぐらいの穴にダンボールを放り込み火を起こした。そして火で刃を炙り3分かけて汚物は消毒だ。

 「ま、こんなものか」

 見切りをつけて、バケツの水を念入りに掛けて消火し痕跡を埋め直す。ここまでやれば火事になることもないだろう。 

 「あとは傷の手当だよな、ご飯の用意もしておいた方がいいのか」

 パソコンを立ち上げネットの繋ぐなとどこもゾンビ騒ぎだった。阿保らしいので音量を下げてテレビをつけるとやはり、日本全国津々浦々ゾンビ騒ぎ起きていて、自衛隊が各地で応戦しているようで生中継の映像からは銃声が時々聴こえてくる。どうやら憲法の改正などなくても自衛隊は機能するようだ。別のチャンネルに切り替えると狸顔の評論家がゾンビの人権について声高に論じていた。

 つまり、総じていつも通りの日本だった。2chネラー達が日本の終わりを書き込んでいるが、一週間後には自衛隊がゾンビを鎮圧して問題も片が付いているだろう。幸いなことに今のところ首都圏でのゾンビ発生はない。これが人口過密地域だったら、という仮定で起きるであろうエライことを想像するのは容易だ。

 

 テレビを見る限り、桜花さんがゾンビになることはどうやら確定らしかった。別段衝撃は無い。ああ、そうとまるで他人事なのだ。鏡に向かって頭大丈夫かと叫んでみる必要があるかもしれない。

 まあ、

 それならそれで、桜花さんに楽しい思い出を持って静かに逝って欲しいなと、そんなことを考えていた俺は少し傲慢だったと思う。


「さて、ゾンビになるまで何時間かかるかな…」

 PCの電源を落とすと壁に掛けた古いタイプの時計の針は20時を少し過ぎている。六畳一間の丁度中央に位置する電灯の明かりは消え、闇の中に、中古の液晶の光だけが俺の目に眩しかった。つけっぱなしにしていた国営放送のアナウンサーは事態の鎮静化を告げていた。どうやらゾンビの発生は、北九州から日本を左右に分断するフォッサマグナまでの田舎の街で起きているとのことだった。

 佐部町というのが最後発生地点だったらしい。らしいとは他人事だが、隣町の事だからやはり他人事なのだろう。そういえばあそこには齋上神社というでかい社があった記憶がある。子供の頃。まだ俺の精神障害が酷くなる前に両親に連れられて初詣にいった記憶があった。今となっては思い出すのも嫌な記憶だ。そのくせ、胸の奥底の肋の端にひっかりいつまでも消えてなくならない黒い記憶だ。ことあるごとに思い出してしまう。

「忘れるべし、だ」

 冷蔵庫から一本缶ビールを取り出して飲む。苦く冷たい液体が胃の腑にまで落ちていくと、どうしようもない虚しさを憶えた。何の解決にもなりはしない。それならば、せめて病状を和らげ徹底的な破滅を先延ばしにするほかない。

 とにかく、ゾンビ化の現象がオカルトの類に属する話ならば件の齋上神社の神通力で停止したのだろう。そう思えば気が安らぐが、しかし何か重要なことを忘れている気がしてならなかった。ならなかったのだが、しかし、そちらの話は酒を飲んでいるうちに忘れてしまった。

忍者とおっぱいで対魔忍を思い浮かべた人は、腹筋千回。

ニンジャ〇レイヤーのユカ〇を思い浮かべた奴だけ眠って善し。

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