スタイリッシュ☆斧アクション~入門編~
二話目!
Hey!そこの道行くゾンビの皆さん、今日はこの俺がスタイリッシュな斧での戦闘方を徹底的に体に刻み込んでやるぜ!
ところでみんな、斧と言われてイメージするのはどんな戦闘スタイルかな?
へ?なんだって?斧は重いし重心の問題で剣の方が扱いやすい?筋肉無いから振り回せない?そんなナマッチョロイことを言っているようじゃ戦場では生き残れないぜ!
今回お薦めするのは三日月斧。制作も手軽で、かつド素人があつかっても威力がある武器の中の武器だ。まあ実際問題こいつは斧というよりは薙刀に近い武器なんだけれどな。いわゆる長柄武器ってやつだ。こいつと似たような武器にグレイブやハルバードがあるが、多機能すぎて扱いずらいから初心者にはお勧めしない。
それじゃいいかい?君の目の前にゾンビがいるとする。そいつは早く動けないが力はかなり強い奴だ。彼我の距離は三メートル。君の手元には自分の身長と同じぐらいのリーチのバルディッシュだ。
ゆったりとノロノロとした足取りでゾンビは君に近づいてくる。この時点でまだ逃走は可能だ。ワー、と叫んで武器をその辺に放り出して、全速力で逃げればいい。
じゃあ、設定を追加。後ろには怪我をして動けない美少女がいるこれならどうだ?
君は逃げれない。むこう(ゾンビ)は君を喰う気で迫ってくる。さあ、戦うしかないぞ?
おおっと武器の端の方を握るか、良~い発想だ!リーチのある武器を持っているのだから先制攻撃は基本だな。大きく振りかぶって野球のバットを振りかぶるように…。
Hey!Hey!ジョニー。そんな大振りじゃ後ろの美少女も巻き込んじまうぜ。武器の慣性力を止めるのにも余計な力を使っちまって、ひょっとしたらこの後に続く全力ダッシュで息切れしちまうかもしれないぜ!よ~く、考えてみてくれよ。ゾンビなんて動きが鈍いだけの薪みたいなもんだ。
いいか。まず左足の爪先を相手向けろ。それで重い斧刃が付いている方を上に向けるんだ。この時の手の位置は右手が上で、左手が下だ。
ところでこのバルディッシュって武器はやっぱり先が重いよな?じゃあ万有引力に逆らわずにヘッドを下ろしてしまえ。
ほら、ほら。そうすると落下の力が生まれるだろ?あとはそれに自分の力を加えて小脇で回転させ、右足を出しながら再び戻って来たヘッドを相手に叩きつける。どうだい?このシンプルでしかも楽なやり方。こいつのいいところは隙が小さいところなんだ。日本の武道を研究して開発した俺独自の振りさ!
さあ、こいつでゾンビを薙ぎ倒してやれ‼
トニー先生、本当にありがとうございます!先生のバルディッシュ講座を「ようつb-」で拝謁してから、ずっと想定し続けていたありえなさそうな事態が今俺の身の上に降り注いでいます。
今こそ、バルディッシュの強さを見せる時!
……バカバカしい。
都合のいい言葉で自らを鼓舞しなければ状況に潰されてしまいそうだっただけだ。ゾンビが出現しているといのに、人気のない河原にバルディッシュの素振りに行くなど危機感が欠如しているにも程がある。
俺に迫りくるゾンビは三匹いた。ゆっくりとした歩みで、目をあらぬ方向にギョロつかせながら、両手を前に突き出して迫ってくた。
けれども俺はわかっていた。奴らが見えぬ目で獲物を捉えているということが。
奴らの視線の先には俺と、その背後。俺の後ろの納屋には逃げて来た手負いの女の子が隠れている。
自分でも驚くほど呼吸が荒い。
これが修羅場の空気なのだろう。
やつらは丁度三角形の、いわゆる矢尻形の形で俺の方に歩み寄って来た。成る程、自分の服を自分で破いてしまうあたり確かに力は強そうだ。その代わり統制の取れない力は、彼らのボディバランスを著しく減衰させていた。
力は強いが速度が欠けている。
斧刃を落下させるとともに一歩、左足で前に出て距離を詰める。左足が地面に着した時にはバルディッシュ全体が回転を始め、先端の速度と同調するように俺は大きく右足で一歩、死の間合いへと踏み込む。この時体は捻らない。
そうすると振り回す斧の軌道上に先頭ゾンビの左足の太腿が重なる。
「っらァ!」
委縮しそうな筋肉を、気合で伸ばして思い切りよく一閃。ドカッと腐りかけた木材を思い切り叩いた様な手応え。最後まで閉じなかった俺の目は左足を叩き切られ転倒するゾンビの姿がしっかりと焼き付いていた。
おおお!
気持ちいい。
感動しながら俺は初撃の要領で斧を振り上げ―――回転惰性を伴った斬撃で血に伏すゾンビの頭を叩き割る。
次いで左足を寄せて体勢を立て直しながら斧を回転させ、袈裟に振り下ろした。 再び右足で一歩前に、今度は左のゾンビの左足が吹っ飛ぶ。宙を掻く手も虚しく、足を落とされたそいつは最初のやつと同じように倒れ込んだ。
「おおおおおお‼」
脳が熱い。背筋にむずむずと虫が這う。
人生でこれまでないほど声を張り上げた。
止めを刺す前に次が来る。
刹那に判断し、引き込んだ斧を頭上で回転させ左手を前に右手を後ろへと一連の動作の中で素早く入れ替えて振り下ろす。手応えを覚えたときには、すでに最後のゾンビの右足を文字通り切落としていた。
荒い呼吸に痺れた二の腕。死闘だったんだとようやく実感する。
「…眠れ」
腹の底から蚊の鳴くような擦れた声が奴らに告げる。足を飛ばされても頭が潰されていないゾンビはまだ全身を使ってズルズルと這いずり寄ってきた。
怖くない。
悪夢のようなその光景は、たった数合の立ち合いで最早恐怖とは無縁の事態と化していた。
奴らは弱く、俺は強い。相対的な強弱の認識を改める。
最後に斧が二回だけ土を抉った。かぼちゃを叩き割る様な手応え。それっきり反応はない。
悪評お待ちしております