気軽に対ゾンビ武器を作成!
唐突に始まって五話ぐらいで終わりにします。
ホームセンターでバイトをしていたある日、ある時の水曜日のことだった。
突如、店の放送曲が消え、代わって剣呑な内容の放送が流された。平静さを装った店長の声が妙に耳に残ったことを憶えている。
「みなさん、聞いて下さい。えー、なんというか信じがたい話ですが隣町でゾンビが発生したようです」
それは信じられないくらい安易な表現で、小学三年生程度で習う日本語でもたらされたものだった。
この店長は国語力ねえなと、誰もが思っただろう。
こんなアホッぽい放送でも効果があったのか、常時放送曲が消えたあたりで店内の全員が日常とは違う空気を感じ取らしい。誰もが手を止め、足を止めて呆然と天を仰ぐ。どうも人間は理解不能な状況を説明するものに対しては天を仰ぐらしいなと、視線を上に向けながら俺の頭の比較的冷めた部分はゆるい事を考えていた。
「…市の判断では市民は一時的に自宅に避難し待機、問題の解決が出来るまで行動を自粛するよう通達が、えー、つい先ほど入りました」
俺も、横目に写るおばちゃんもこくこくと顎を上げ下げし、放送の声に頷いていた。
「つきましては本店も、本日の午後2:00に閉鎖いたします。お客様はそれまでに買い物を済ませ、店外に避難して下さい」
広い店内のあちこちから小波のようなざわめきが広がってくるが、それも徐々に収まって隣のおばちゃんやねえちゃん、あんちゃんの顔は日常性を取り戻している。
誰もが顔に不満の色を見せているようだが「なんだよもー、仕方ねえなー」という色が表情に加わって、ゾンビの襲来という未知の事態はいつも通りのある日に起きた少し生活に不便なイベントへと格落ちしてしまったらしい。
まあそんなもんだと俺も頷いて、再び客の注文通りに鉄板を溶断し始める。10年前の大震災の時もそうだったが日本人のこういう時の落ち着きぶりは少なからず凄いと思う。何にせよパニックが起きなくて本当に良かった。
「はい、出来ましたよー」
接客用の笑顔と愛想声で俺は山鳥の形に切り抜いた厚さ3~4mmの鉄板をお客様に提示する。うむ、うむと初老のおじさんは満足気な顔で俺の作品の出来栄えに頷いてくれた。この初老の男性はどうやら退職後の趣味に狩猟を選んだらしく、山鳥型の鉄板は敷地内での射撃練習の的に使うつもりなのだとか。
厳重に緩衝材で鉄板を包んだ後、俺の「ありがとうございましたー」を背に受けながら老人は颯爽と去って行った。
ちらりと壁に立て掛けられた時計を見る。そのとき時計の針はは1:45丁度を示して停止していた。それから周囲の様子を伺うと、鉄板や木材を扱うコーナー、つまり俺のいる辺りからはほとんど人の気配が消えていた。たぶん皆さん、食料や水を買いあさっているのだろう。俺が行く頃には果たして残っているのか、多分残っていないだろう。
端的に言えば、困った。
俺は現在19歳。平日の昼間から働いているということだけでは少し解りにくいかもしれないが、大学生ではなく、どころか半年前までは引きこもりをやっていた。親からは縁を切られたも同然で、もう電話も通じないだろう。その頃になってようやく危機感を募らせた俺はネットで見つけたの支援サイトのお蔭で何とかこのバイトにありついて、日々を食いつなぐ毎日を過ごしている。
友達は当然いない。高校生や大学生のバイトには壁を感じてろくに話しかけられない。彼らからしてみても、あまり真っ当な社会性を持たない俺を早々に見抜いて敬遠しているのだかもしれない。
まあ、その話は気分が重くなるから一旦おいておこう。
俺には趣味があった。それに出合ったのは約一月前のこと。鉄板の溶断を初めて少し経った辺りの話だ。
ある日、溶断を終えた俺が鉄板を片付けていると、とんでもない事に気が付いたのだ。そう、手にした細長い鉄板。あれから全ては始まった。
角ばった二等辺三角形を組み合わせたようなそれは、思いがけず俺の創造欲を刺激してきた。
この鉄板は俺に加工して貰いたがっている。
と、鉄板からの未知なるメッセージを受け取った俺は、少し躊躇ってからあたりの様子を確認して溶断用のガスブレードを鉄板に当てた。そうしたら数分後、見事に烏賊の形をした鉄板が出来上がったではありませんか。まあ、結局捨てるのだが。それ以来、人目を忍んでちょくちょくそんなことをやっていた。
「さーて今日は何を作ろうかなー」
キモイとディスられる独り言をつぶやきながら俺は大の上の鉄板を確認する。いや、既に電撃的に閃いた俺のインスピレーションは全てを決定している。
それは三日月斧だった。
横に薙げば人体を両断、縦に振っても頭をかち割る長柄武器。小5の時からバルディッシュ好きの俺は、先日のゾンビスレでも迷わずバルディッシュをお薦めした。
でも、そんな高性能な武器……お高いんでしょう?
いえいえ、そんなことはありませんよ木下さん。
俺は適当に先程切った鉄板から五キロぐらいの重さのものを選んで、ちょっと太めの三日月型に切り離す。全長は大体50㎝程度で重さは少し減っただろう。そのあと刃の反対側となる部分に残した二本の飛び出た板のそのうち先端に近い一本を、熱してから近くにペンチを使って丸く棒を包み込めるように加工した。
というのが本式の手順らしいが危なそうなので削除。代わりに平らな断面の三日月刃を熱してから鋭角になる様に他の鉄板に押し付けて均す。本当はグラインダーを使いたかったが、それは流石にやり過ぎだと思った。
再び時計を見ると、1:48分。うひゃあ、たったの三分で凶器が完成しましたよ奥さん。これでゾンビなんて怖くないね!
祭りは終わりだ。そのあと俺は急いで片づけを開始した。なんとなく愛着が残ったので三日月刃は緩衝材で包んでバックに仕舞い、店内放送と共に俺は自分の持ち場を片付けて店長に挨拶をして、俺は帰路へと付いた。