観察九日目
なんとか書けました
【SIDE:B】
モフモフ隊と便所ゴブリンズの持ち回りで運営していた美雨の方のダンジョンだが、訪れる冒険者も少ないことから維持コストの低いゴーレム中心のダンジョンにすることにした。
「なんだ、この碁盤の目みたいな作りは?」
ポイントも資材もあるので、練習も兼ねてダンジョン構造自体もいじってみた。
ダンマス権限での大規模改装で表示されているモデルを見て、リリスの突っ込みが入る。
自分がゲームをやってて一番メゲる作り、どっちを見ても同じな上に回転床、ワープ、一方通行、無限ループの組み合わせという、モンスターを全く配置しなくても精神的なダメージを与えられる作り。更に極悪なことに「生き○りゲーム」方式でそれらのトラップを組み替えられる。
しっかりと罠の位置を覚えたところで、その内に罠の配置が変わってしまうのだ。
運特化の人間でも無い限り、そうそうクリア出来ないだろう。
これが第一層、こんなダンジョン、確実に何かを得られるという保証でも無い限りトライする気にもならない。
「致死性の罠が全く無いため低コストだが、お前の性格の悪さを反映した極悪さだな?」
だから、なんでこの幼女は俺にここまで厳しいんだ?
肥満、脂肪肝からの脱出を目指して最近使用している先ほどの階層の下にある、陸上トラックの様な周回路を走りつつリリスと会話する。
俺の方は息切れが激しく「サカるな、変質者!」とリリスに罵倒されるレベルになっているのに、平然と横を「歩く」リリスは全く普段どおりだ。
ちなみにこの周回路、普段は速度と材質の異なる複数のローラーゴーレムが走っている。
余り気味の各種金属、石材などを使った物で、攻撃手段はその質量を生かした体当たりと言う名の轢殺行為である。
上の階で精神的に追い詰めた後、この階で肉体的に追い詰める。
まさに外道……だがそれがいい状態。
攻略法としては「潰されたゴミ」の始末のために、一定時間ごとローラーゴーレムが引っ込んで、お掃除ゴーレムが出てくる時を狙って、お掃除ゴーレムのセンサー範囲に入らない様にしつつ先に進むというのが正攻法。
裏技はゴミ廃棄用のダストシュートから下の階に移動する方法だが、落ちた先は直接横には繋がっていないため、スカウト系もしくはレンジャー系のスキルでも無い限り詰む。
そうして気力も体力も振り絞って攻略を進めたところで、最終的に待ち受けているのはソードゴーレムから進化したブレードゴーレム師匠である。
スペックが高過ぎて、冒険者相手でも瞬殺なので、モフモフ隊、ゴブリンズの面々に稽古をつけてもらっているため、用心棒の「先生」から戦闘指南の「師匠」へ昇格。
同じダンジョンのモンスター同士での戦闘ではレベル面での経験値は入らないが、スキルやゲーム的な意味でない経験値は入るため、更なる強化に繋がっている。
おそらくではあるが、ダンジョンマスターである俺自体のレベルやスキルを除けば、俺のダンジョンってサイキョーに近い状態になっているのではないだろうか?
以前は冒険者が入ってくるとかなりビクついていたのだが、今ではブレードゴーレム師匠も居るし、なんだかんだでハエルフどもも居るし、俺のためではないが美雨のために熊五郎も頑張るだろうし、無敵悪魔幼女のリリスも居る。
あと、なんか庇護者から魔力の供給もあったとかで、ダンジョンコア自体のレベルと蓄積魔力も増大したってのもあるな。
ダンジョンバトルでも無い限り、ほぼ安泰じゃね?
【SIDE:A】
お小遣いのかなりの部分を費やしてそれぞれの分のコピーを作成した保たち。
元々かなり仲が良かったが今では秘密の共有ということもあって、一緒に過ごす時間が更に増えている。
「今さらだけど魔力ってなんなんだろうな?」
悟史が自分の分のコピーを見ながらつぶやく。
悟史はオフィスなどで使用している様なバインダーでコピーをまとめている。
「感覚ではわかるんだけどなぁ、こう意識するとググっと来て徐々にググググーンってなって、使うとバーン!」
優の言語ではこの説明がやっとの様だ。
二人に比べると魔法に関しては全く実感が無い保だが、それを口にして水を差すようなことはしない。
あらためて悟史が魔力について話しているのは、魔方陣による「修復」の実験があっさりと成功してしまったからだ。
サイズ的に魔方陣を書き込み易く、それでいてお金がかからないものとして彼らが選んだのは学校でも使用する下敷き。
万が一、使用不可能な状態になってしまっても「折れた」「汚くなった」と親に買うお金を貰えるし、よしんば貰えなかったとしてもなんとかなる物である。
悟史と優がそれぞれ自分の下敷きにやり始めたのを見て、保もやってみた。
悟史はきちんと見本の文字配置の角度とかまで分度器で測って書き込んだこともあって、無事成功。
優は文字の書き間違え(単に字が汚いといった感じで崩れてただけだが)で失敗。
失敗でも一度刻んだ魔方陣は消えないようで、溶剤でも消しゴムでも消えなかった。
保は分度器を使うまではいかなかったが、一文字一文字丁寧に記述して、なんとか成功。
成功した二人の下敷きは魔方陣が刻まれていること以外は買ってきた時と同じ様な新品状態になった。
悟史は曲げてみたり、折ってみたり、カッターで傷つけてみたりと即座に実験を始めたが「おお、魔法だ!」と三人揃って感動する修復ぶりで「修復スゲー!」とテンションが上がった。
ただ、悟史も優も保も、自分の体から魔力が使われたという感じが全くしなかったために、悟史がこうして「魔力ってなんなんだろう?」と首をひねっているのだ。
結果をみる限り魔力は今まで知らなかっただけでそこら中にあるっぽい。
下敷きに元々魔力が込められていたとかではない限り、修復に使用された魔力は周囲にあったものと考えるのが自然だ。
「アニメの歌じゃないけど、空も自由に飛べるようになるかもしれないな、この魔力で」
「これって夢のエネルギーだよな、でも、なんで今まで誰も知らなかったんだ?」
「実は悪の秘密結社が実在して、独占してんじゃね?」
会話がどうしても漫画やアニメ寄りになるのは小学生ゆえ仕方が無い。
それに直面している事態が、学校で教わる様なことより漫画やアニメの知識の方が役に立ちそうな状況なのだ。
さすがに悪の秘密結社はいないだろうが……。
「これ、シールとかにしても通用するのかな?」
「シール自体が修復されそう……プラモの転写みたいなのならいけるか?」
「サイズ一定なら判子とかでいけないか?」
「芋版やったな! 芋で試してみね?」
「彫刻刀さびてないかな?」
まずは判子を作ってみることにしたようだ。
彼らは気が付いていないが、判子で押した物で効果があるなら、印刷も可能だということになる。
破損や消耗を前提とした工業モデルを崩壊させかねないことだいうことに、全く思い至らず彼らの「実験」は更なる段階を迎えようとしていた。
【SIDE:B】
フラグって怖いなぁ……。
「今日は入ってくる冒険者少ないな」とまったりゴーレムスパイダーにミイラ状態にされている冒険者たちの姿をコアルームで観察しながら見ていたら、唐突にダンジョンバトル開始のアナウンスが流れた。
最近、美雨の方のダンジョンはともかく、こっちのダンジョンは拡大してないんだけどな?
相手が拡大してくれば接触に至るってことか。
前回のバトルがトラウマになっているのか、美雨は熊五郎に抱きついて埋もれる様な状態になっている。
トラウマの大本とも言えるリリスとはすっかり仲良しなんだけどなぁ……。
まあ、今回のバトルは熊五郎は抜きで……最悪の状況でもブレードゴーレム師匠ならなんとかしてくれるだろう。
と言う訳で今回はいきなり最強戦力の投入。
いきなりなだれ込んで来たウチの便所ゴブリンと比べると短足なゴブリン、一部でネタキャラ化してるオーク、ちょっと強めな敵の定番オーガといった相手に無双してます。
オーク配下にしたら、くっころさん捕獲して来てくれるかな?
『ダンジョンバトル終了です、相手マスターを倒しました。勝利特典300ポイント、最短時間勝利特典250ポイント、オーバーキル勝利100ポイントを獲得しました。今後、相手ダンジョンは従属ダンジョンとなります』
え? もう終わり?
前回みたいな捕らえるか殺すかの選択肢出なかったんですけど?
「これ、どういうこと?」
「あのちょっとだけ小さいオーガがダンジョンマスターだったようだな」
あー、オーガっぽいけど……こいつ人間じゃね?
「本拠ダンジョン以外の場所ではダンジョンマスターは通常のモンスターと変わらない扱いになるんですが、なんで先陣切って乗り込んで瞬殺されてんでしょうね?」
あー、そういうことなんだ。
それにしても流石ブレードゴーレム師匠!
オーバーキルボーナスまで貰えましたよ!
うん、これはあれだ、あれなんだけど、フラグが立ちそうだから言わないぞ?
俺だって学習するんだ。
「これなら勇者が来ても安泰ですな!」
あっ、馬鹿ハエルフ!
俺が言わずに済ませたことをなんで言うんだ!?
唐突に続きが思い浮かんだので
後は未来の自分へパス