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観察八日目

現実サイドとダンジョンサイドのお気楽さが逆転します


【SIDE:A】


「やった、ついに見つけたぞ!」

 普段の年齢不相応な落ち着きっぷりが嘘の様に、高いテンションのまま教室に入って来た悟史が保に声をかけてくる。


「見つけたって何を??」

「『よいこの学習』だ、3月号と5月号でやっぱり間が空いちゃってるんだけどな、塾のある隣町の駅のそばの古本屋で見つけた」

「なになに、おースゲエ! さすが悟史だな!」

 こちらはいつもと大して変わらないが優も目を輝かせている。


「3月号は付録が魔法薬作成キットだったのかぁ、頭が良くなる薬とか、優にぴったりだったのにな」

「5月号はプチ召還魔方陣ハンカチか、小さなサイズのモンスター限定で召還出来るとか、ワクワクするよな、くっそ、もっと早くこの本の存在知りたかったな!」

「次の号とかまた売りに来てくれるかな?」

「他の小学校の周りとか見に行った方がいいかもしれないな」

「だよね、あんな販売、一度でも見たら絶対覚えてるもん、入学してからあの時が初めてだよ、たぶん」

 優が大人しいのでどうしたのかと見ると、真剣な表情で悟史が持って来たよいこの学習を読んでいる。

 会話は聞こえていないのだろうが、真剣に本をあの優が読んでいるという光景に驚いている女子も居る。


「確かに自分の目を疑う光景だよな」と保も思う。

 漫画以外の本、教科書ですら真剣に読むということが無い優なのだ。

 読んでいるページは魔法に関するページだろう。

 

「ジルエベ・デソット・クルガリウス!」

「うおおおっ、気持ち悪っ、なんかゾクゾクっと来たぞ!」

「オサル、お前また風邪魔術使ったな!」

「風邪の引き始めの悪寒を感じさせる呪文だって、かかったからって別に風邪は引かないから安心しろ、悟史」

「人に気軽に使うなよ!」

「ごめんごめん、でも俺凄くね? この世界一の風邪魔法使いだぜ、きっと」

「まあ、他に使える奴が居なけりゃ、どんな出来でも一番だよな」

 半ば呆れ、半ば感心しながら、真面目に評価する悟史であった。



【SIDE:B】


 ダンマス少女美雨とその下僕のモフモフ共は、あっという間に俺のダンジョンに馴染んでしまった。


 美雨の方のダンジョンはウチのダンジョンに比べると冒険者たちはやって来ないため(というか、ウチのダンジョンが来過ぎなんだよな、やっぱり)、便所ゴブリンとモフモフ隊が交代で派遣され、シードスパイダーゴーレムの巨体と蜘蛛の巣の有用性のせいでウチのダンジョンでは出番の無くなってしまったソードゴーレム先生が不在のダンマスの代わり兼最終防衛ラインを務めている。


 便所ゴブリン共の中からはかなりの数の便所ホブゴブリンが成長しており、隊長的存在としてゴブリン&モフモフ隊を率いている。

 脚長のイケメンでリーダーとかね、もう冒険者に殺されていいよ、ホント。

 体の表面油ギッシュで触りたくない外見だけどな。


 非常食こと彗星と巨星のミノ兄弟は、時々低層に行ってみたり、美雨の方のダンジョンに行ってみたりとかなりフリーダムだ。

 いや、もしかすると非常食扱いされているのに気付いて、有能っぷりをアピールしようとしているのかもしれないな?


 俺は熊五郎を枕に美雨と横になりつつやって来た冒険者どもの様子を観察している。


 熊五郎は美雨配下のクマの中で一際大きな個体で、美雨の保護者を自認している様な様子が見受けられる。

 こうして支配下にあるんじゃ無ければ恐ろしくて近寄れないんだが、馴染んでくるとこう、実にまったりと出来る外見をしてるんだな、こいつは。

 なごみとは縁の無いウチの今までの配下とは大違いだよ。


 俺がダンマスだから、というだけで従っているのではなく、美雨のことを考えて俺の庇護下にある方が以前よりもいいと判断してる感じなんだよな。


 ウチのハエルフどもよりよっぽど賢いんじゃね?


 ウチのダンジョンは水が豊富なんで、俺たちだけでなく、配下のモフモフどもも週一程度で風呂に入れている。

 熊五郎はそれより優遇されて二日に一回入っているから、毛皮もモフモフであまり獣臭くない。

 美雨がそうした手触りや臭いの良さを喜んでいるというのを理解してから、モフモフ隊はお風呂を嫌がらなくなった。

 ホント、ウチのダンジョンの配下とは大違いだよな……。


 次にクラーケンなどの大型水中モンスターが追加された時のためにと、シードスパイダーゴーレムの部屋に匹敵する広さの部屋に水を満たしているからな、備蓄も半端じゃない。

 毎日の様に水が提供されるため、じゃんじゃん使っても平気なのだ。

 本当に有り難いことである。

 お社作って拝んでもいいくらい。



 まあ、そんな感じでダンジョンは安定期に入ったって感じかな?

 今日も今日とてそうしてダラダラと過ごしていると「貴様、太ったんじゃないか??」ギロリと幼女メイドが俺を睨んでくる。


「前より脂が乗っておいしくなりましたけど、これ以上増えると味が悪くなっちゃいそうですね」

「肝臓がなかなかの味になってそうだな!」

 霜降り?

 俺って霜降り肉?

 肝臓がってフォアグラ化しかけてるってこと?

 それ脂肪肝だよね、病気だよ、れっきとした。


 体動かさないとダメかな?

 ダイエットに励むダンマスなんて聞いたことねえぞ?

 なんか情けなくね?


「安心しろ、貴様が情けなくなかったことなど無い!」


 相変わらずの容赦の無さ、そこにしびれない、憧れない!



【SIDE:A】


 悟史が見つけて来た「よいこの学習」の新たな2冊。

 よくよく三人で読み込んで見ると、3月号と5月号の中身がしっかり繋がっている。


「この雑誌、隔月刊なんじゃないか?」

「かくげつかん……ってなんだ?」

 保も知らない言葉だったが、優のお陰で助かる。

 知らないことを恥と思わず、素直に質問する人間が一人居ると周りの人間は非常に助かるものだ。


「月を隔てて刊行されるってことで、要は二ヶ月に一度ってことだな」

「ふ~ん、ってことは3月から7月までは繋がってて、7月号の次は9月号ってことか?」

 知識は無いが優は決してバカではない。

 あっさりと悟史の説明を理解する。


「ってことは7月号の魔方陣とか役に立つ訳か!」

「そうだ、7月号が応用編って感じであれ単体じゃ役に立たなかったけど、3月号が魔方陣自体の説明の基礎1、5月号が魔法陣の刻み方などの基礎2って感じで、合わせて修復っていう破損や消耗したものを回復する魔法が使える」

「おおスゲエじゃん! あれだろ、コップとかに魔方陣付ければ割れても元に戻るんだろ?」

「修復ってゲームとかでもあるよね装備に耐久度付いてるRPGとかだと」

 優も保もそれぞれ自分なりの理解で感心する。



「自転車のタイヤに使えば、磨り減らず、パンクもしない自転車になる、これは凄い事だよ? まあ、魔方陣を発動するのにどの程度魔力が必要なのかは分からないけど、偶然なのかなんなのか、これって実用性が凄く高い」

 自分で話しながらも三人の中では一番知識が多い悟史には、これが「遊び」では済まないことが理解出来てしまった。

 

「7月号も含めて、この雑誌、全頁コピーを取って、3人それぞれが持つようにしよう。なにか気づいたことや試してみたことは集まった時に報告。それと他の人、特に大人には話さないように!」

「え? 母ちゃんとかに言っちゃだめなの?」

「まあ、僕は信じてもらえるとか思わなかったから元々言ってないけど、なんで?」

「古本屋に売った人間は試してダメだったのか、試してもいないのかは分からないけど価値が分からなかったんだろうなぁ、魔法の」

 メガネをくいっと上げながら悟史が真剣な表情をする。


「この『魔法』はお金になる。それこそ基幹特許クラスのお金にね。でも僕らは子供だ、そのお金を自分自身で手に入れることは出来ない」

「なら余計母ちゃんたちに言った方がいいんじゃねーの?」

「迷惑かけるなんて言葉じゃ済まないことになるぞ!? これって産業、軍事に応用出来るものなんだ! 漫画やハリウッド映画みたいに手に入れるために相手を殺すなんて人間が出てくる可能性もある」


「え? じょ、冗談だよね……」

「情報や知識だけならあっさりとお金で解決ってこともあるけど、もし、魔法が使えるのが僕たちだけだったらどうなる? あっさりと古本屋に売られていたのは他の人には魔法が使えないからだったら?」

「国とかが取り合いする存在になるな、この間読んだラノベみたいに」

「手に入れられないなら『殺してしまえ』となる可能性すらある」

 青さを通り越し真っ白くなった顔で、保たちはお互い顔を見合わせた。



【SIDE:B】


 

「今日のお恵みはいつもの水とパン、そしてチーズとミルキー? でもって紙とクレヨン、それに布か、でもってミノタウロスが更に2匹追加、緑色と……え? 金色? 量産型と百式でいいよな」

「ほほお、非常食がまた増えましたな」

「あちらのダンジョンに久々に強い冒険者が入って来た様で、ソードゴーレムがそれを倒して進化しましたね」

「ブレードゴーレムだな、大規模ダンジョンでも滅多に見ないゴーレムだぞ、貴様の悪運だけは大したものだ」

 物資の貯蔵が十分な状態で、更に補給とか、ホントマジに庇護者さまさま、足向けて寝られないぞ、どっちに居るか分からないけど。


 ミノタウロスも更に追加で、あまりの非常食扱いに本当、名前をマツザカとかコウベとかオーミとかにしてやろうかと思った。

 そういや、アルゼンチンの牛肉がおいしいって聞いて一度食ってみたいと思ってたんだが、結局、食わずに終わっちゃったなぁ……。


 でもってブレードゴーレム、カッターナイフに手足付けた状態から進化したもんだなぁ……、マジで強そうなモンスターらしい姿になってる。

 手足もがっしりして刃物ベースの怪獣って感じだな、手も足も刀みたいで、尻尾がガリアンソードみたいになってる。

 これ、本物の勇者でも来ない限り倒されないだろ……。

 さすがソードゴーレム先生が更に進化した姿だけはあるな。



 紙とクレヨンで美雨がお絵かきを始めた。

 おお、珍しいことにリリスまでまるで子供の様に絵を描いているぞ。


 いやいや、ハエルフどもまでやらなくていいからな?

 ……なんなんだ、そのお皿に乗った人間の絵は?

 え、俺の絵だって?

 嬉しそうに見せてんじゃねーよ、このカニバリズムハエルフどもめ!



保たちが自分たちのヤバさに気がつきました

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