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観察六日目

小学生って振り返ってみると世界が狭いですよね

【SIDE:A】

 

 ミスリルを作るというこの世界でおそらく初であろう偉業を達成してしまった保たち。

 この世界では全く知られていない物質である上に、公的には存在しないことになっている魔法の行使に成功するなど、世間に知られれば大変なことになるのだが、3人の内で最も賢い悟史といえど小学生、そうした偉業を達成した認識は無く「次は何を!?」といった方に意識の大半が向いている。


 「なあ、これ銀だろ? これでミスリル作れるよな?」

 「これ、銀メッキだぞ?」

 「いや待て、銀メッキがミスリルメッキになるかの実験をしてもいいかもしれない!」

 優が持って来たどこかチープなナイフ。

 「いや、こんなんホントどこで売ってるんだよ?」と保などは言いかけたくらい、安っぽいのに妙な存在感がある。

 メッキだと一蹴した保に対し、悟史は実験を主張した。 


 「ちぇっ、メッキかよ・・・他になにか面白そうなのないかな?」

 当の優自信がミスリルメッキには興味を示さず、次の話題へと移ってしまう。

 「さすがにスライムはその辺にいないよね?」

 スライムの飼い方のページを見つつ保が言う。

 危険が少ない種類のスライムが居るらしく、おすすめのスライムと危ないので手を出さないように注意しているスライムが共に写真で載っている。

 保の目から見るとどれも大差ない様に見えてしまうのだが、この写真を参考に本当に区別が付くものなのだろうか?

 また、「食べるとおいしい」「コアに毒があるので注意」などとも書いてあるが、スライムを食べる人間って居るんだろうか?


 「初歩の魔方陣、これ順序踏んで書いてるみたいだから先月号とか無いと分からない部分あるね。」

 勉強自体に面白さを感じる悟史は優ならすっ飛ばしてしまう魔方陣についてのページを興味深そうに見ている。


 悟史たちにねだられ、今日は保が「よいこの学習」を学校に持ってきているのだ。


 「火とか氷とか、ゲームみたいな魔法は載ってないんだね。」

 「俺、風邪魔法つかえるぞ!」

 「うんうん、わかったわかった。」

 「ちぇっ・・・あ、これ、これ面白くね?」

 スルーされたことに落ち込みつつもさっさとページをめくる優。

 悟史が時々、もう少し見ていたい素振りを見せていても気にせずめくってしまう。

 そんな優の手があるページで止まる。


 「嗅覚強化? あー、強化魔法の一種か。」

 「でもなんで嗅覚なんだろうね? 視覚とか聴覚の方が役に立ちそうだし、筋力とか敏捷性の強化の方がカッコイイのに。」

 「学習雑誌ってことらしいから危なくないのにしてるんじゃない? 視覚とか聴覚って強化し過ぎて目が見えなくなったり耳が聞こえなくなったりする危険があるだろ? 筋力とかも反動とか加減が分からなくて壊したり傷つけたりとかもありそうだし。」

 「そっか、嗅覚はせいぜい気持ち悪くなる程度だからかな?」

 会話をする保と悟史の横でぶつぶつと言っている優。

 鞄の中に最近では常に隠し持っている、風邪魔法の時に作ったお気に入りの魔法の杖をこっそりと握っているようだ。


 「なんだ、大人しいと思ったら練習してるのかよ。」

 「なんだかんだでこいつ風邪魔法も一日で使えるようになっちゃったしね。魔法使いって頭がいいってイメージだったけど、そうでもないのかもって優を見てると思うよ。」 

 どちらかと言えば勉強は苦手な優。

 ゲームの職業で言えば戦士とか盗賊で魔法使い、ましてや僧侶とかには向いていないタイプだ。


 「・・・うわっ臭ぇえ! どうやれば切れるんだこの強化! うわ、臭過ぎる、やばい、ヤバ過ぎる! マジ死ぬ! トイレ行って吐いてくる、うぷっ。」

 「大丈夫かよ!?」

 「支えてやるからともかく行こう!」

 唐突に気持ち悪そうになった優を支え、教室を後にする保と悟史。

 結局、教室以上に「臭い」トイレに卒倒した優を、保と悟史は保健室まで連れていく羽目になるのだった。



【SIDE:B】


 「ダイヤで剣とか作るのは無理だけど、鏃ならいけるんじゃね?」

 そう言った俺の下腹部に鋭い痛みと衝撃が走った。

 ダメなら口で言ってくれよ。

 でもいいと思わね? ダイヤの矢。

 打ち合ったり何度も斬り付けたりする剣とか槍とかと違って一撃分もてばいいんだし。


 二発目かよ・・・なにも言わずに殴るのはやめてくれねえかな・・・リリス?

 お、そうだ、ダイヤでファウルカップ作るのはどうだろう?

 でもなぁ、俺加工手段持ってないし、リリスやイエハにやってもらう訳にもいかないしなぁ・・・。


 「また、くだらないことを考えているな、この男は!」

 「いや、だから俺ダンマスよ、ダンマス。肩書きだけかもしれないけどさ、一応このダンジョンで一番偉い筈でしょ?」

 「一番弱いがな?」

 ぐふぅ・・・時々おこぼれ狩り行って、普通の人間クラスにはなったものの、便所ゴブリンのルーキー以下なんだよなぁ・・・。


 ひ弱な現代人とか良く言われるが、その中でも更にインドア派だった俺にしてみれば、あえて言わせて貰いたい「カスじゃない」と!

 俺だけが飛びぬけてステータス低いって訳じゃないと思うんだ。

 日本でその辺歩いてるヤツ適当にピックアップして、このダンジョン放り込んだら、ほとんどのヤツが瞬殺されるハズだ! 

 てか、逆に瞬殺されないヤツの方がヤバくね?

 何の説明も無しに殺し合いモードに切り替えられるってことだぜ?

 そんなヤツが近くに住んでたら落ち着いて暮らせねえだろ?


 さて、便所ゴブリンのルーキーと言ったが、便所ゴブリンたちは基本的に唐突に湧く。

 繁殖するのではなく「発生」するのだ。

 発生する瞬間は見たことが無いが、気が付けば増えている。


 新しい種族が誕生したり、リリスなんかが意図的に生み出した場合は俺にも分かるのだが、それ以外のダンジョン内のモンスターはダンジョン規模や保有物資によって自然と発生してしまうため、意識的にチェックしないと実態の把握が難しい。


 その辺りを普段チェックしているのはリリスだが、あまり細かいことは気にしないタイプのため、俺が尋ねないと教えてくれなかったりする。

 かなりないがしろにされてね、俺?

 イエハとギンバにベタベタされてニヤけてるのが悪ぃのかもしれねえけどさ?

 そういうのに男が弱くなきゃキャバクラとか成立してねえだろ?

 これはある意味種族的徳性ってヤツなんだ!

 

 まあ、それは置いておいて、ダンジョン自体も色々と変化している。

 シュートトラップとかも出来た。

 「石とかツルツルにするの大変じゃね?」とか思ってたらアルミを使ってた。

 ピカピカの部屋に驚いてると一気に床が傾いて滑り台になりクモの巣へご案内。

 このお陰で俺のおこぼれ狩りも頻度が上がって有り難いんだが、例によって例の如く事後承諾でいまだに一ポイントもスキルやステータスにふったことないんだよなぁ、俺。

 一番スキルポイントを使ったのが連弩だぜ?

 あ、違った、おそらくリリス、サポートユニットの作成だ。

 リリスがいなけりゃ俺だけでとっくにダンジョン消滅してた筈。

 そう考えればリリスの作成は俺のために使ったポイントと言えるだろう。


 俺は冒険者は例のおこぼれ狩り以外で接したことが無い。

 俺やダンジョンで発生したモンスターはダンジョンの外には出られないから当然と言えば当然なんだがな。

 このダンジョンがある世界がどういう世界なのか、このダンジョンに居るモンスターが外の世界のもの違うのか同じなのか、冒険者たちはどこから来て何を目的としているのか、実のところすべて分からないことだらけだ。


 そういうことを気にしない俺だから、そして俺の周りにリリスやイエハやギンバが居るからやってられるけど、神経質なヤツだったら頭がおかしくなっているだろう。


 そんなことを考えながらリリスの頭を撫でたら鋭いフックを打ち込まれた・・・解せぬ。




【SIDE:A】


 「犬とかすげえよな、あんな臭えのに平気なんだから!」

 保健室から復活してきた優が言う。

 普通の人間なら落ち込んでいるところを何故か犬をリスペクトしている。


 「カクテルパーティー効果と同じで慣れが必要なんじゃないかな?」

 「なに、『カクテルパーティー効果』って?」

 「大勢の人がガヤガヤ話してるトコでも知り合いの声が聞き分けられたり、自分の名前を呼ばれると聞こえたりすることだったかな? その辺の調整が難しいんで単純に集音機能を高めても補聴器ですぐに聞こえるようにならないらしい。おじいちゃんが言ってた。」

 「そっか、聴覚強化とか集音マイクで集めた音を大音量でヘッドホンで聞いてる感じになっちゃうよね。」

 「いい匂いのもの、例えば食い物とかいっぱいあるところなら平気かもしれない。今度はそういうところで試してみるかな?」

 「いや、やめといた方がいいぞ? 香水とかいい匂いだけど、あれって薄めてるからあの匂いで、濃いままだと臭く感じるらしいし。」

 「げえ、使えないなぁ。」

 「人間が視覚で立体を把握出来るのも結局慣れだっていうしね、それこそ何年もかけてやればそれなりに使えるようになるかもしれないけどね。」

 「やめとく、あんな臭いのばっかじゃご飯がおいしく食べられなくなる。」

 話をしながら帰りの支度をする。

 優は結局、あの後気を失ったままだったのだ。

 「病院に行った方がいいのでは?」と先生も心配していたが、目を覚ました当人がこの調子なので「大丈夫だろう」ということになっているが、もしかしたら優の親には電話で連絡が行っているかもしれない。


 「今日、うち寄ってく?」

 「僕は今日は塾なんだ、残念ながら。」

 「俺倒れちゃったからなぁ、母ちゃんに連絡行ってるかもだし、まっすぐ帰らないと先生にも怒られそうだ。」


 校門で別れ、一人で帰宅する保。

 途中でコンビニに寄り、駄菓子コーナーの安いお菓子とジュースを買う。

 自分が食べたいというより「入れたらどうなるかな?」という好奇心の方が強い。自分では食べない酢漬けイカも買っているのがその証拠だ。

 保は貝とかタコ・イカなどのクチュクチュしたものが好きではない。

 グミキャンディーやナタデココですらあまり好きではないのだ。


 家に着くや否やダンジョンに次々と駄菓子を投入する。


 「あ、手洗ってなかった、洗ってこよう!」

 手を洗った保は食べたことが無かったお菓子を食べつつ「これはアタリ、全部食べちゃおうっと」「これ、ハズレだぁ、なんでこんなの売ってるんだろ?」などと言っては、更にお菓子を入れている。


 水を追加するだけでなく、同じ様にキャップにオレンジジュースを入れて中に入れる。

 また、集めたガラクタ、画鋲や木製の洗濯ばさみ、乾いて固まってしまった紙粘土なども入れていく。


 学習机の引き出しを開き、中からミスリルの栞を取り出し、ひとしきり眺めてから、保は宿題に取り掛かった。




【SIDE:B】



 せっかく発生した強モンスターのクラーケンが自重で潰れて死んだ。


 海洋や水中のモンスターって水が無いと劇弱だな。


 「うまうま、マスターほどではないですが、これもなかなかおいしいですね」

 「この歯ごたえがなんとも」

 「チョコは渡さんぞ、俺様のものだ!」


 クラーケンの死体を食ってるハエルフコンビの横では、その小さな体では隠しきれないほどのチョコを抱え込んだリリスが居る。


 今回は水に加えてオレンジジュースもあったが、牛乳とチョコレートという組み合わせにハマったリリスはさほどオレンジジュースには執着していない。


 しかしもったいなかったなぁ、クラーケン。

 水槽フロアでも作るか?

 今後も水棲の連中が発生しないとも限らんしな。


 食い残されたクラーケンの嘴を頭に被って「ガッ○ャマン!」とやったら、何故かリリスにウケていた・・・なんで知ってんの?


 こうしてまったりと過ごしていた俺たちだったが、突然のアラートが鳴り、コアから久々のメッセージが流れて来た。


 「アナザー・ダンジョンと接続しました。ダンジョン・バトルモードに突入します!」


 ダンジョン・バトル?


 冒険者たちとは別に?


 俺、どうなるんだろう?




唐突に次回からバトルモードに突入です

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