表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

観察五日目

保くんたち、けっこうトンでもないことに成功します


【SIDE:A】


 放課後が待ちきれないという思いを抱えたまま、保はその日の授業をなんとか乗り切った。


 時折視線を交し合う優も悟史も似たような状態なのだろう。

 給食の時間、人気メニューのカレーにも関わらず、彼ら3人は机を合わせてかき込む様に給食を食べ終えるとそのまま今日のことについて話を進める。


 「昨日、ホームセンターに行ってこれを買ってきた!」

 悟史が見せてきたのはなんか押す部分の無い注射器みたいなものだった。


 「なに、それ?」

 思ったことをすぐ口に出す優がいるおかげで、保は楽だ。


 「研磨剤、ダイヤモンドパウダーが入ってる。粉のとかもネットでは売ってたけど高くて買えなかった。でも、今回、成功したら買ってもいいかもしれないな。」

 冷静そうに見えて悟史も冷静で無いのかもしれない。

 いまだに雑誌の現物すら見ていないのに、必要という話に出ただけのものを買ってしまっているのだから。


 「ちなみにそれいくら?」

 「消費税無ければ三千円以下だったけど、消費税分で三千円ちょっとオーバーした。」

 「なら、一人千円でいっか?」

 「え? 俺も出すの?」

 「ウチに今日来ないならいいよ?」

 「出すよ! 出せばいいんだろ!」

 「いや、僕が勝手に買ったんだから・・・。」

 「こういうのはきっちりしとかないと!」

 押し付けるようにそれぞれが千円札を悟史に渡す。

 教室内でお金の押し付け合いというのも流石に人目があるので抵抗がある。

 悟史は仕方なく、自分の財布にお金をしまった。


 「後は銀とアルミホイルだっけ?」

 「砂糖と塩も要るらしい。」

 昨日、ミスリルの作り方のページは読み返した保だった。

 「家庭で」といいながらダイヤモンドの粉やら銀やらが有って当然の様に書かれているのはどうなんだろうと思う。

 そのくせ、砂糖は「手に入れるのがむずかしい場合はハチミツを使っても作れます」とか書いてあるのだ。


 「銀は?」

 「お父さんに貰った銀細工の栞がある。」

 お父さんが「保も本を読むときにつかうといい!」とか言って、おそらくは衝動買いしたものの自分では使わないことに後から気が付いたらしい栞をくれたのだ。

 細工は確かに見事だし、見ている分にはカッコいいのだが、ハードカバーの本ならともかく保が普段読む様な本ではかえって使い辛い代物なのだ。

 「別に捨てちゃうわけじゃないからいいよね」と、他の皆が乗り気になっているので、これを使ってしまうつもりだ。


 最初に頭に浮かんだのはお母さんがお客さんが来た時に使っている銀のスプーンだったが、結果がうまく行くにしろ失敗してしまうにしろ怒られるのが簡単に予想出来たため、色々と頭をひねって「あ、そういえば、あれ、銀だってお父さんが言ってた!」とこの栞の存在を思い出したくらい、机の中にずっと放りっぱなしだったし・・・。


 こうして三人は終業のチャイムがなるやいなや、教室を飛び出し、保の家に向かった。


 保が鍵を開け、「お邪魔しまーす」「お邪魔します」と二人が続いて玄関に入る。

 きちんと揃えて脱ぐ保、脱ぎ易いように脱いでそのままの優、脱いだ後、穿き易い様に向きを整える悟史と、靴の脱ぎ方にまで性格が出ている。


 階段を登り二階の保の部屋へ。


 優と違って悟史はダンジョンにも興味を持ったようだ。


 「これが保のダンジョンか、本当に小さな部屋とか通路とか出来てるんだな。後で良く見せて!」

 「うん、いいよ。また部屋が増えたしね。」

 「アリジゴクでも捕まえてきて入れてみねぇ?」


 本題の雑誌を保が本棚から取り出し、広げる。


 「このお姉さんから買ったんだ。」

 「そう言えば居たな、塾のある日だったんで急いでたから見に行かなかったけど、僕も買えばよかった。」

 「えー、そんな人居たっけ?」

 目次のページのお姉さんの写真を指差し説明する保。

 悟史は見覚えがあったようだ。

 「予算が無くて会社の人がモデルしてるのかな?」などと言っている。

 

 「ミスリルは27ページからか・・・。」

 「そろえるもの・・・銀、または銀で出来たもの。アルミホイル。塩。砂糖またはハチミツ。ダイヤモンドの粉。塩と砂糖とアルミホイル取ってくるね!」

 「銀はどうすんの?」

 「お父さんから貰った銀の栞がある!」

 「僕も一応、銀の指輪を持ってきたんだけど。」

 「えー、俺だけかよ、持って来てないの?」

 普通の小学生は自分の銀製品など持って居ないものだ。

 たまたま持っていた保や、何故か手際良く持ってきていた悟史の方が珍しい。

 

 階段を下りて台所に行っていた保が戻ってくる。


 「悟史のその指輪自分で買ったの?」

 「いや、兄貴が借金のカタに置いてったけど、返してくれないから僕のモノになったヤツ。もう、借りたことも、これをカタに置いてった事も忘れてんだろうね?」

 悟史には高校生になる歳の離れた兄が居る。

 彼の優等生ぶりはその兄を反面教師として身に付けたものらしい。


 「で、どうすんの?」

 「まず砂糖と塩とダイヤモンドの粉を銀の周りにまぶすらしい。」

 「うわ、ジャリジャリしてる。」

 「手に付いちゃったな。砂糖と塩だけだと舐めて取れるけど、悟史の持って来たダイヤのそれは舐める気しねえな!」

 「いや、普通に後で洗えばいいでしょ?」

 「ポケットのウェットティッシュあるけど使う?」

 どこまでも用意のいい悟史である。


 「で、これをアルミホイルで包んで、なるべくしっかりと包んで外に出てる部分が無い様にだって!」

 「いいなあ、お前ら二人、銀があって!」

 「なら、僕の分、優がやってみる?」

 「いいのかよ?」

 「次の作業、なんか魔法使うみたいだし、一応は変な魔法だけど優は成功してるだろ?」

 「包んだものを右手に握って、その右手の手首を左手でしっかりと握って『オオワタ・ディルナル・エクソネル』と右手に握った包んだものが熱くて持てなくなるまで唱え続けます、だってさ。」

 「魔法なら俺にまかせとけ! これを握って、左手はこう・・・『オオワタ・ディルナル・エクソネル』『オオワタ・ディルナル・エクソネル』・・・。」

 普段とは違った真剣さ、これを勉強の時に見せていたら親がどれだけ喜ぶだろうという凛々しさで唱える優。


 「じゃ、僕もやってみようかな? 『オオワタ・ディルナル・エクソネル』『オオワタ・ディルナル・エクソネル』・・・。」

 こちらは別ベクトルで普段と違った様子の悟史。

 どちらかというと大人びた面が目立つ悟史だが、今は傍から見てもかなりワクワクしているのが分かる。

 

 「時間がかかりそうだな、ジュースでも入れてくるかな?」と保は腰を上げ、台所にあらためて向かう。

 

 ペットボトルと紙コップを持って戻ってきても二人とも真剣に呪文を唱えている。

 真剣な二人を横目に紙コップにジュースを注ぐ保。

 


 「アチっ!!!」

 「あ、熱い!」

 

 二人はほぼ同時に手を離す。

 「本当に熱くなったの?」

 「おう、本当に熱くて持てなくなった!」

 「化学反応なのかな? ちょっとびっくりした。」


 少なくとも「何らか」が起きたのは確かなようだ。


 こわごわとアルミを開いていく。


 「「「え?」」」

 三人揃って驚きの声を上げてしまう。


 どこか鈍い色合いだった銀が、金属でありながらどことなくガラスっぽく光っている。

 色合いも白みが増した様な感じだ。


 一目で「銀とは別物」だと分かる。


 「成功しちゃったの?」

 「少なくとも銀じゃないな、これは。」

 「おおスゲエ、俺にも触らせて!」

 

 「こんなに簡単に出来てしまっていいんだろうか?」などと保は首を傾げているが、優だけでなく普段は冷静な悟史まで盛り上がってしまっている。


 「将来、彼女が出来たらあげようかな?」などと悟史がポツリと洩らすのまで聞いてしまった。

 優は「なあなあ、これ俺にちょうだい!」と保の栞を握っている。


 「いや、優は自分で銀のアクセサリでも買えよ! 残った材料はあげるからさ!」

 「いや金無くてさ! 銀、銀・・・どっかに落ちてねえかな?」

 「銀のナイフがあれば、ミスリルのナイフに出来るってことだよな?」

 「悟史? なんか目が変な輝き方してるよ?」


 一番の当事者でありながら、何故か傍観者スタンスに立ってしまった挙句、他の二人のテンションに戸惑う保。


 「実験してみよう! 保! カッターある?」

 「あるけど?」

 「貸してくれる!?」

 悟史に促されるままカッターを手渡す保。


 最初はそーっと、その内強く、勢い良く指輪にカッターを切りつける悟史。


 「え? ちょっと悟史、なにやってんのさ!?」

 「凄いよ! 見てみてよ! ほら、傷一つ付いてない!」

 「マジマジ? スゲエ! これ本物のミスリルかよ!」

 悟史に指輪を突きつける様に見せられ、「確かに傷一つ無い」とそれでもなんで驚いているのか良く分からない保。


 「銀って結構柔らかいんだよ! こんなことしたら絶対傷付く。それが傷一つ付いてないんだよ? 元の銀より軽くなってるしさ!」

 どうやらファンタジー系の知識も持っていたらしい悟史の解説。

 銀の特質は知らなくてもミスリルの特性はゲーム等から知っていた優は興奮しているが、保はその辺、それほど詳しくない。


 結局、二人が帰るまで、テンションに置き去りにされた形になる保だった。



【SIDE:B】


 「ダイヤよ!」

 「ダイヤだ!」

 「ダイヤだな!」


 宝石に歓喜する姿を見て「こいつらも女だったんだなぁ」とあらためてしみじみ思う。

 しかし、庇護者っていったい何者よ?


 今回の追加支援、毎度の水や今回はジュースといった飲食系、塩、砂糖といった調味料、アルミニウムといった金属ならまだ分かるが、ダイヤってなんだよ?

 どこの大富豪?

 道楽でダンジョン支援?

 とっちゃん坊やのまま大人になったようなIT長者じゃねーだろーな?

 それともアラブの王族か?

 馬買う感覚でダンジョンとか?


 一番小さいのでも「指に飾るには大きすぎじゃね?」という、ピンポン球サイズの大き過ぎて偽物にしか見えないという代物。

 一番大きなものは俺の握り拳よりデカい。


 笑うしかねえな?


 元の世界だったらダイヤのシンジケートに殺されるレベル。

 この支援分だけで世界のダイヤの供給バランスが完全に崩壊する。


 幼女メイドが魔法で形状を変化させてアクセサリにしている。

 タイを留めるブローチにしたようだが、ちょうちょの形にしていて、普段の言動からはなかなか見られない子どもっぽさを見せていて微笑ましい。

 ホント、口を開かなきゃ可愛いんだけどな。


 ハエルフコンビも自分用をしっかりとキープしている。

 衝撃や熱には弱いから武器や防具には使えないからな。

 あり過ぎて有り難味も感じないレベルだし、欲しいヤツが持ってりゃいんじゃね?

 加工用の工具とかしか使い道ないだろ?

 後は魔法具関連とかだろうけど、使うヤツも作るヤツもいねえしな、このダンジョン。

 使う可能性があるとしたらイエハくらいか?

 ネタとしてゴーレムも面白いが、まず間違いなく、そのアイデアを口にした瞬間俺が凹られる。


 「こちらの金属は軽くて少々ヤワだが使い道は色々ありそうだな!」


 アルミはねぇ・・・元の世界でも電気とか一般的になってからの金属だからな、この世界じゃ馴染みはないだろうな?


 「この、アルミ? でしたっけ? 微量ですがミスリルが付着してません?」

 「集めても剣にはなりそうも無いが、ナイフ程度なら作れそうだな?」


 ミスリルって、あのミスリル?

 ここに入ってくる冒険者の装備って鉄ばっかだったから、そういうの無いのかと思ってた!


 冒険者たちは「この世界、モンスターじゃなくて冒険者がポップしてるんじゃね?」と思いたくなるくらい死にまくってる。


 おかげで・・・「そういや、便所ゴブリンのリーダーが進化したんだっけ?」


 「ホブゴブリンになったな!」


 といった感じにダンジョン内のモンスターも強くなっている。


 「どんな感じになったの?」

 「人間に近い外見になりましたね。」

 「冒険者のドロップから適当に見繕って装備させておいたぞ?」


 どれどれ?


 くそっ!

 イケメンじゃねーか!

 表皮は黒と茶のまだらのままだが、それでも造型がイケメンだとはっきり分かる。俺は元のルックスのままだって言うのに!


 ホブゴブリンって「田舎者のゴブリン」って意味だろ?

 なんで垢抜けた外見になってるんだよ!


 便所ゴブリンたち、進化したらみんなイケメンになるんじゃねーだろうな?


 元から足が長かったけど、進化してモデル体型になってるじゃねーか!

 普通、ゴブリン進化じゃ人に近付いてもせいぜいが蛮族マッチョ系だろ?


 なんで超足長モデル体型のイケメンになってるんだよ!

 

 くそっ、今度、強そうな冒険者入ってきたら真っ先に突っ込ませてやる!



 「また下らぬことを考えているのか貴様は!」

 「いいこと思いついちゃいました、マスターは死んでも何回でも復活出来るんですよね? 片足貰って調理させてくれません?」

 「おお、流石イエハだな。幸い、足は二本あるし、一本ずつ食べるとするか!」


 「マスター命令! 俺を食うのは絶対に禁止!」


 「腹を壊すからな!」


 なんでこのタイミングで絶妙な合いの手を入れるんだよ、リリス!



【裏の話】

保はダンジョンの庇護者なので、魔力をそちらに自動的に振り分けられてしまうため、魔法は常に自動失敗します。風邪呪文をその気になって試したところで、永久に成功しません。

つまり、優に任せなければ保の栞はミスリルになりませんでした。


これは他のダンジョンかんさつセットを入手した子どもも同じです。

また、この世界の普通の子どもが魔法を使えるようになる確率は5%以下です。

ダンジョンかんさつセットを売っているところが見えるのは魔力を持つ子どものみ(他に関心があることがあったため気づきませんでしたが優も視界に入る範囲に目を向けて居れば見れました)。

魔法が使える子ほど興味を持ちダンジョンかんさつセットを買いたくなる力が働いているので結果として魔法が使えなくなり、雑誌に載っている魔法を使って成功するというのは実はレア中のレアです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ