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観察四日目

 素材は素材として倉庫に入るものとモンスターになるものがあります

【SIDE:A】


 「おはよう、保! 保~! 『モオロ・デアジ・グルナフ』!」

 「おはっ、はっ、ハッ、ハークション!!!」

 「はっはっはー! どうだ! 昨日帰ってから練習しまくって、とうとう使える様になったぞー!」

 そこらで拾ったであろう木の枝を自分で削ったらしい棒を持ち、得意げに笑う優。

 

 他のクラスメイトは「また、オサルが馬鹿やってんのか、保も付き合いいいなぁ」と大して気にせずに居る。


 教室で挨拶するなり、いきなり魔法を唱えてきた優にびっくりしているのは保だけだ。

 

 「使える様になったのかよ!?」

 「兄ちゃんで練習した! バレてぶん殴られたけどな! 痛えの、あの馬鹿力。教えろ言われたけど兄ちゃんは練習しても出来なかった。俺、すげえだろ!?」

 「じゃあ、あの雑誌の他のも出来るのかな?」

 「ミスリルってあれだろ、伝説の武器とかの?」

 「材料が手に入らないよ。ダイアモンドの粉とか、ぼくらみたいな小学生がどうやって手に入れるっていうのさ?」


 そんな二人の所に話しかけてくる少年が居た。

 「なんか面白そうな話してるね? ダイアモンドの粉だっけ? 工具店とかなら、そのものじゃなくても使ってるものを売ってるよ?」

 黒縁眼鏡に真っ直ぐな髪、見るからに優等生そうで、その実態も優等生、学級委員もしている黒羽悟史だ。


 「悟史か!? すげえぞ、俺、魔法が使える様になった!」

 「悟史、この馬鹿はおいといて、ダイアモンドの粉ってそんな簡単に手に入るの?」

 「工業用ダイアモンドって聞いたこと無い? 硬い物を削ったり切ったりする工具にそれが使われてるんだよ。機械そのものは高いけど、そうした削ったり切ったりする部分は消耗品だからね、それほどは高くないよ? 町の工具店とかは入りづらいけど、ホームセンターとかでも売ってるんじゃないかな?」

 「そうなんだ。」

 さすが悟史だなと相槌を打つ保。 


 「おい、無視するなよ!」

 「先生来たな、起立~! 礼! おはようございます!」

 『おはようございます!』


 悟史が席に戻り、授業の始まりと共に優の魔法騒ぎ(主に自分の騒ぎ立てによる)は終結した。


 その後の休み時間にも悟史と保(それに優)の話は進み、明日、保の家に来てみんなで「あの」雑誌を見てみることになった。



【SIDE:B】


 「いやだなぁ、なんかこわいなぁ・・・。」

 「何を下手すると話してる時の顔の方がよっぽど怖い怪談の語り手の真似をしてるんだ、貴様は!?」

 「なんで、そんなこと知ってるの?」

 「常識だ!」

 「常識なんだ・・・?」


 俺とリリスとイエハとキンバはダンジョンコアの部屋を離れ、ダンジョン内の通路を進んでいる。

 地上へ進行する訳でも、手強い冒険者が来た訳でも無い。


 「俺ツエー!」までは行かなくても「一撃でズンバラリン」という状況を避けるため、俺のレベルアップは必要(ダンジョンポイントによるステータス底上げは「無駄」の一言で却下された)とのことで、こうして巨大ゴーレムことシードゴーレムスパイダーの巣に向かい「おこぼれ」に預かろうとしている。


 「貴様には戦闘は無理だし、トラップ部屋まで行く体力すらない。これ以外の手は無いからな?」

 「レベルアップして味が落ちないといいんですけどねぇ。」

 「うむ、マスターの存在価値が落ちるからな!」


 相変らずダンジョン・マスターの威厳ゼロである。

 俺の存在価値って味だけ?

 もしかして、「この味、最強!」的な俺ツエー?

 松坂牛とかフォアグラとかに勝っちゃう?


 ・・・嬉しくね~。

 ちっとも嬉しくね~最強・・・。


 ポイントでゲットした連弩。

 攻撃力こそ高くは無いが、弦をセットし直せば自動的にどっかからボルトが追加される優れものだ。

 指に弦が食い込んで痛いが、俺の力でもセット出来る。

 ・・・ってことは、これ子どもにも使える武器?

 ヤバくね?

 このポイントでこの性能とか、高いポイントの武器とかどうなるの、いったい?

 ダンジョンとか壊せちゃうんじゃね?



 とかやってる内に巨大ゴーレム部屋に到着。

 お目当ての冒険者たちは糸に包まれて瀕死。

 あと少し遅ければ無駄足になっていたところだ、アブねぇ!

 そうなってたら「無駄足を踏ませおって!」とリリスパンチをまた食らうトコ

だった。

 

 すっかり全身を糸に包まれて、ミイラの様に人の形をしているが人そのものの姿を見せていないこの状況。

 俺のメンタリティ、豆腐の精神防御力からすると非常に有り難い。


 人を殺すというこの状況。

 「でも、こいつら俺らを殺しにきてんだよね?」と実はそれほど心理的には圧迫されてない。それに俺人間じゃないらしし・・・。

 釣った魚を無駄にせず食べる、というのと同じ感覚で「俺の経験値に」とかも思ったりしている。

 実際、もう、この段階で助からないし。


 ただまあ、「目が合っちゃったり」すると「嫌だなぁ」って感じはあるのだ。


 指を引き金にかけ、引く。


 意外と反動があって、その事に驚いている内に、「何か」が入ってくる。


 「おめでとう、これでレベル2だな。一部のステータスがようやく一般成人並みになってるようだ。まだまだ貧弱だがな!」

 「良かったですぅ、味は変わってませんね!」

 「うむ、戦いとは言えないが多少はマシになったか。」


 「まだ、息のあるやつが居るぞ? とどめをさしてやれ!」


 足をかけて弦をひっかける。

 構える。

 撃つ。


 また何かが入ってくる。


 俺はレベル3になった。 

 


【SIDE:A】

 

 夕食後、珍しく早く帰ってきていたお父さんに「革の切れ端みたいなもの無い?」と聞いたところ、ボール紙にいくつもの小さな革がステープラーで留められたものを貰った保。

 革細工用の革を購入するお店がオマケで付けてくれたものらしい。

 素材の革でも色や厚み、それに表面の加工に色々あるのでその見本だそうだ。

 「それってオマケじゃないんじゃない?」とか保は思う。


 「保も革細工に興味があるのか?」と嬉しそうに聞いて来たので、「細工前の革ってどんなのかなぁって思って」と答えた。下手に関心があると判断されたら、材料やら道具やら色んなことに話が広がって、一時間は放してもらえなくなるのだ。

 小さな革片を指先でピラピラとしながら「これ、なんの革なの?」と尋ねると「牛だな」との答え。

 元々肉を食べるために大量に殺している動物の革は比較的安く手に入るので、牛や豚の革を使う事が多いのだとか。

 「中華料理とかだと豚の皮って食べてたよね?」とか保は思うが、確かに牛の皮を食べる料理とかは聞いた事が無い。

 「どうもありがとう」と革の側面をひたすら磨いているお父さんにお礼を言って自分の部屋に戻る。

  

 保が興味があるのはもちろん革細工では無く、これをダンジョンに入れるとどうなるのかとういうことだ。

 優に牛乳をこぼされて臭くなったりすることを恐れていたケースの中は、一晩明けても臭くなったりせず最初のままの土だった。

 これが臭くなっていたり、ダンジョンが変になっていたら、今日、優に学校でまともな態度を取れなかったかもしれない。

 自分自身でも意外に思うほど、保はダンジョンにのめりこんでいた。


 ダンジョンは着実に部屋が増えていて、通路らしきものもだんだんと複雑になってきている。

 「最初は単純な作りだったけど、どんどんダンジョンぽくなってるなぁ。」と保も感心している。


 「そして、今回の秘密兵器、ジャジャーン!」

 そう言って保が取り出したのは虫眼鏡。

 「小さくて見えにくいなら拡大すればいいじゃない!」とばかりに、学校帰りに文房具屋さんに寄って買ってきたのだ。

 買い食いはせず、たまに漫画を買うくらいの保の場合、お小遣いは自然と貯まる。

 小学生が日常の中で出来る程度の無駄遣いならば、さほど気にせずすることが出来る。

 本当は昔、買った物があったはずなのだが、どこに行ってしまったのか見つからなかったので買ってしまったのだ。


 これで小さいのは動きが早すぎて追うのは難しいが、大きな植物っぽいヤツや、ダンジョンコアは見れる。


 「うわっ、こんな形だったっけ? これ、完全に蜘蛛だよね。蜘蛛の巣っぽいものも張ってるし、こういう形の蜘蛛って蜘蛛の巣張らないんじゃなかったっけ?」図鑑の知識と照らし合わせながら観察する保。


 「なぜなんだろう」と色々と考えていたようだが、結局「まあ、モンスターだし?」と納得した模様。


 「このダンジョンコア、光が反射してるんじゃなくて光ってない?」

 綺麗な石としか見てなかったコアも、虫眼鏡でよくよく見てみるとそれ自体が光っているように見えた。

 ギラギラとした感じではないが、コアのある部分だけ明るい。

 

 「ん? このコアの周りにちっちゃいのが居るな。位置からして、こいつがボスかな? あんま良く分からないけど、人っぽいなあ。」

 小さ過ぎて良くは分からないが、人っぽい姿がコアのそばに4つある。

 

 「魔王とかなのかな? あんまり強そうには見えないけど・・・そっか魔法とか使うヤツかも、それか変身とかするかもしれないな! 変身してドラゴンとかなるかな?」

 すべての事情を知る人が居れば「過剰な期待だ」と諌めたかもしれないが、「自分のダンジョン」のボスが強くてカッコよくあって欲しいというのは自然な願いだ、保を責める事は出来ないだろう。

 

 「まずは給食のマーガリン。それと食パンの耳。革はこの赤いのと青いのにしよっと。それから水も足して・・・。」

 あまり好きではない食パンの耳。

 給食に出たパンを「ダンジョンに入れるから」と自己正当化して残したものを入れる保。

 バターやクリームチーズは好きだが、保はマーガリンもあまり好きではない。

 今まではちょっと無理して食べていたが、「ダンジョンのため」と自己正当化と完全な証拠隠滅が出来る様になったので堂々と残している。

 革は「一度にたくさん入れても」と赤く染められたものと、青く染められたものだけを入れた。


 「後はなにを入れたらいいかな? 悟史ならなんか思いつくんだろうけどな。ダンゴムシ消えちゃったな、死んじゃったのかな? セミの抜け殻も消えてたしな・・・。」


 考えている内に眠くなってしまった保は、素直にベッドに横になった。

 「起きたら、今度はどうなっているかな?」とワクワクしながら・・・。



【SIDE:B】


 「ハッ!? きさま! 見ているなッ!」

 「いきなり変なポーズを取ってどうしたんだ、貴様は!? 脳がとうとう腐ったか?」

 「腐りかけが美味しいといいますし、齧らせてもらえません?」

 「こうスッパリ輪切りにしてスプーンですくって・・・ジュルルル!」


 いいから涎を拭け、ハエルフども!

 相変らずだな、リリスは! 誰が腐れ脳みそか!

 「かゆ、うま」にはならんぞ?

 

 「なんか視線を感じたんだよ! ・・・もしかして庇護者か? アピールしてみるか? 味噌と醤油をくれ! とか?」

 うむ、検討に値するな。

 せめて醤油だけでも欲しい。

 

 「味噌と醤油か? 牛も来た事だし、焼肉のたれの方が良くないか?」

 「牛?」

 「ああ、赤い子と青い子ですねぇ。」

 「なかなか斬り応えのありそうな奴らだな!」


 支援物資の関係か新たなモンスターとしてミノタウロスが発生した。

 普通のミノタウロスと違い、一体は全身真っ赤、もう一体は全身真っ青である。

 「彗星と巨星だな」色を見て呟いたのがシステム上「命名」と判断されてしまったのか、赤いのが彗星、青いのが巨星ということになって、強化までされてしまった。

 それぞれの色の鎧まで纏って実に強そうだ。

 「ゴーレム以外で初めてのまともな戦力だよなぁ」と思ったりもするが口には出さない。

 俺だって学習能力くらいある。

 真剣にファウルカップをゲットしようかと考えるくらいに、この幼女のパンチは鋭い。


 このミノタウロスたち、かなりの戦力なのだが、俺の周囲、ダンジョン中枢の認識は「非常食」である。

 「ドナドナ」がテーマソングになりそうだ・・・いと哀れ。


 「まあ、またというか、かなりの追加食糧があったから、非常食には手を付けずに済みそうだがな!」

 パンとマーガリンという主食セットが大量に入荷したそうだ。

 おやつとか、お菓子みたいなものばっかりだったからな。

 日本人としては白いお米が欲しいところだが贅沢は言わない!


 それにあんまりおいしいものだと俺に回ってこない気がするしな!

 プリンなんか一口も食べて無い。


 万が一、青汁とか来たら「俺専用」になりそうだよなぁ・・・。


ミノタウロスって肉食だって言う話だし、体も人間寄りなんで食べても牛の味はしなそうなんですけどね

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