観察三日目
保くんの友人&ダンジョンの美形モンスター登場です
【SIDE:A】
給食の時間、今日のおかずを見ながら「これを入れたらどうなるかな?」とついつい考えてしまう保。
いつもなら最後にゆっくりと楽しみながら食べるプリンも「持って帰ろうかな?」という気になっている。
これまでは時々は放課後友達と学校で遊んでいったり、友達の家に寄って遊んだりなんてこともあったのだが、ダンジョンが家に来てからは「どうなってるかな?」と気になって仕方が無い。
多少揺すぶったくらいではダンジョンには影響が無いらしい、なんてこともちょっと試しちゃったりした保である。
小さな生き物たちは動きが速過ぎて良く分からないが時々戦ってたりするみたいだ。
ダンジョンだというから「片方がモンスターで片方が冒険者なんだろうなぁ」などと思いつつも「もっと細かい所も見れたらいいのに!」なんて考えたりもしている。
元々好きな方だった理科の授業も、これまでと違った感じで面白く感じている。
ダンジョンのことと関連付けて考えられることがたくさんあるのだ。
「保~! 今日、保ん家遊びに行っていい?」
オサルこと窪内優が声をかけてくる。
疑問形ではあるが断られることを最初から想定していない。
「うん? 別にいいけど、僕ん家来ても特になんかないよ?」
「いんだよ、たまにはお前ん家行ってみてえだけだから!」
いつも通り、くだらない話をして、ゲームをして、漫画を読んでになるのだろう。
「わかった、優ん家寄って鞄置いてからくるだろ?」
「ちょっと遠回りになってわりいけどな!」
「いいよ、いいよ。チャリ乗ってくんの?」
「あー、天気予報40%だったからなぁ。」
「そう言えばかんさつセットの話をしてなかったなぁ」と保が思ったのは5限の授業に先生がやってきて優が席に戻っていってからだった。
【SIDE:B】
ついにキタ――(゜∀゜)――!!
念願の美形モンスター、美人ですよ、美人!
しかも最初から好感度が高く、ベタベタと俺に触れてきます!
「ベルゼルのイエハと申します。よろしくお願いしますわ、マスター。」
「ベルゼルのキンバと言う。よろしく頼む!」
グレーと黒の髪に赤い目の魔法使いっぽい格好がイエハ。
光沢のある青い髪に金色の目で、虹色光沢の光る青い金属鎧を着た武人タイプがキンバ。
ベルゼルという種族らしいがエルフに似た線の細い美形だ。
もちろん、当然、両方とも女性。
冒険者3パーティ分のポイント
エルフだととがった耳だが、似た形状の妖精っぽい透明の羽が生えている。
うん、ファンタジーだね。
実にいいファンタジーだ!
リリスに冷たい目で見られたが、まあ、あの視線はあの子のデフォみたいなもんだし・・・ってかあの子俺に厳しいよ、本当!
「チーズ臭い」とかって、チョコとポテチくれないからしかたないじゃんか!
ハッカのドロップは気分転換はともかく、ずっとあればっかりだとなんだか気持ち悪くなってくるし!
干し梅も結構歯ごたえあるから顎が疲れるんだよ、特大サイズだし!
切り取り用のナイフでもポイントで購入しようかと思ってるくらい、千切るの大変なんだぜ!
でも美女二人にベタベタされてる今の俺はご機嫌だから、リリスが冷やしたヤクルトを独占してても、チョコで口をベタベタにしてても寛大な目で見てやれる。
「マスターは本当にいいお味。」
「こう、旨味が凝縮されている感じだな!」
ん? 味?
こう、種族的な好みの表現かな?
「デレデレしおって! こやつらベルゼルは肉食だぞ?」
肉食系女子ってやつ?
俺、捕食されちゃう?
・・・でへへへへへへ。
「貴様の元居た世界の虫、確かハエとかいったか? あれと似ているのがこやつらだ!」
ハエ?
あー、悪魔で居るよねベルゼブルとか、名前も似てるし眷族とか?
「ペタペタ触られていい気になっているようだがな、そいつらが手を触れてるのは俺様たちが舌で舐めるのと同じ行為だぞ?」
え、俺がprprするんじゃなくて、俺がprprされてんの?
「ね、一口でいいから齧らせて!?」
「指の一本で構わん!」
なんか言ってる事微妙に物騒なんですけど、このお嬢さんたち!?
え、もしかしてハエってそういう意味?
前足で触るのが味見・・・俺、味見されてんの!?
マスターとか言いながら食おうとするなよ!
こいつらハエ+エルフのハエルフだったのかよ!
イエハとキンバ・・・イエバエとキンバエかよー!
【SIDE:A】
「ナニコレ、何の昆虫? クワガタ? カブト?」
部屋に入るなり優はかんさつセットを見つけてしまった。
まあ、机の上の勉強には邪魔にならない位置に、いつでも見られる状態でしっかりと置かれているのだから、部屋に入って気付かない方がおかしい。
説明するのも面倒なので何回も開いて癖が付いてすぐに開く「よいこの学習」のダンジョンかんさつセットのページを開いて優に突きつける。
「え、これマジ? チョースゲエ! モンスターとかいんの!?」
「動きが凄く速くて小さいから分かりづらいけど、居るみたい。この植物っぽいのもモンスターみたいだよ?」
「おお・・・って動いてねえじゃん!」
「冒険者なのかな、なんかそいつよりずっと小さいのが入ってくると動くんだよ!」
「にしても小せえなぁ!」
自分でも思っていたことだが、他人に指摘されてちょっとムッとする保。
「500円だから仕方ないだろ!?」
「え、これ500円、うーん、ゲームに比べりゃ安いけど、お菓子に比べりゃ高いなぁ・・・。」
「その雑誌も付いて、というかかんさつセットの方がおまけだからね!」
「この雑誌も変ってるよなぁ。スライムの飼い方とか、火を使わずに家庭で作れるミスリルとか、こんなの教わってもなぁ?」
「うん、その辺は材料とか魔法とかないからね。」
「この初歩の風邪魔法とかやってみたくね?」
「やだよ、かけられた人間がくしゃみをするってヤツでしょ?」
「ええと、マナを杖の先にあつめます・・・杖を相手に向けます・・・『モオロ・デアジ・グルナフ』と唱えます・・・相手がくしゃみをしたら成功です・・・だって! ・・・マナってなんだ?」
ずっと継続して観察していられる保と違い、時間をかけて見ることが出来ない優はダンジョンより雑誌の内容の方に興味があるようだ。
保も一通り目は通してみたものの、ダンジョンの方に強い関心があったため、それ以外のページはあまり熱心に読んでいなかった。
「ク○リンのことかーっ!」
「いきなりなにやってんのさ!」
「いや、気とか念とかの発動に、このやり方がいいらしいからさ!?」
「それ漫画とかだよね?」
「でも、ダンジョンはこうして実際にあるわけだろ? なら魔法だって使えるかもしれねえじゃん!?」
言われてみればそうかもしれない。
保はダンジョンに関しては当然のことの様に受け入れつつ、それ以外の内容は別のこととして良く考えてなかった自分に気付かされた。
既に不思議なことがあるのだから、他の不思議なことも本当にあるのかもしれない。
さすがに人にくしゃみをさせる呪文など練習する気にはなれなかったが・・・。
【SIDE:B】
せっかく増やした新戦力だが、俺から離れたがらない為、最終防衛線となっておりいまだに出番が無い。
美人たちが俺から離れたがらないというある意味「俺、ハーレム?」に見える状況だが、「おいしい食べ物を横取りされたくない」という欠食児童的愛着では自惚れたり妄想したりする余地も無い。
それでもペタペタ触られるとときめく自分を抑えられないんだがな?
仕方ないじゃん!
美人が触ってくるんだぜ!?
そんでもってうっとりした眼差しで見つめてくるんだぜ?
それ以外の変更点としては上層階に粘着トラップを設置、ひっかかった冒険者は便所ゴブリンがおいしくいただいている。
粘着トラップは巨大ゴーレムにも応用され、形状を変化させて巨大なクモ型ゴーレムとなり、クモの巣を張ったり、糸を飛ばせるようになった。
この変化があってから巨大ゴーレムの部屋を突破できた冒険者は皆無で、ソードゴーレム先生の出番が無くなってしまった。
このまま錆びてしまわないか心配である。
例の庇護者さんにリクエストが出来るなら錆止めの油を要求したいところだ。
火薬も手に入ったので現在実験中。
再利用が不可能なので、これも最終防衛線、ソードゴーレム先生に万が一があった時用かな?
魔法で遠距離から一方的にとかだとソードゴーレム先生でも不覚を取ることがあるかもしれないからな。
「また冒険者ホイホイに引っ掛かったのがいるのか?」
「スカウトであったか? あのクラスのいないパーティだとほぼ確実に引っ掛かっているな!」
「あんまりおいしそうな人はいませんねぇ?」
「戦いの相手としても歯ごたえが無さそうだ!」
二人増えただけだけど、なんかここも賑やかになったよね。
ダンジョンも安定してきた感じだし、生活関連の設備いっちゃう?
お風呂とか、寝室とか!
うれし恥ずかしイベントとかも期待出来ちゃうかもよ?
【SIDE:A】
「なになに、何入れてんの?」
優が魔法に熱中している様子だったので保はかんさつセットに入れるものを取り出したり、空になったキャップに水を入れてきたりしていたのだが、飽きてしまった優がその様子に興味を持って尋ねて来た。
「プリンと追加の水とカビの生えた餅。」
「え、このダンジョンに居る奴らが食うの?」
「良く分からないけど、入れとくと翌朝には消えてるんだよね。」
「おお、なんか面白え・・・プリン勿体無い、半分頂戴!」
言うなりかっさらってカップを傾け口に注ぎ込む優。
「あ、ちょ、あーあ、半分より多いじゃないか!」
「悪ぃ悪ぃ! お、じゃ牛乳入れてやんよ!」
「おまえ、また残したのかよ! て直接注ぐな! うわぁ、牛乳浸し・・・ダンジョンの中に流れ込んだりしてないかな? 大丈夫だよな?」
「ごめん・・・。」
「たぶん大丈夫、だと思うけど、ダメ、かもしれない。」
土にしみ込んでいって変になるかもしれない。
雑巾の様に臭くなるかもしれない。
涙目になる保。
「悪い!」
「なら、残りはここで今すぐ飲め!」
「えー!? ぬるくて余計マズく・・・わかったよ! 飲めばいいんだろ! 飲めば!」
保のジト目に自棄になって残りの牛乳を一気飲みする優。
「ぷはぁ、マズい!」
「牛乳おいしいじゃん!?」
「えー、マズいよ!」
くだらない言い合いにヒートアップして、気付けば優がもう帰らなくてはいけない時間になっていた。
「じゃあ、また明日!」
「おう、学校でな!」
【SIDE:B】
「プ、プ、プ、プ~リン、甘くてトロトロおいしいの♪」
リリスが壊れた。
支援に大量の牛乳と水、そしてこれまた大量のプリン。
リリスとイエハとキンバ、それぞれが自分専用の貯蔵庫を事後承諾で作り、プリンはすべて確保されてしまった。
「マスターもおいしいですが、プリンもおいしいです♪」
「うむ、これならマスターを齧らなくても我慢出来るな!」
いつもの様に残ポイントは誤差レベル。
俺のステータスが上がるのはいつの日か?
外で働いて金稼いでるのにご家庭で弱い立場のお父さんみたいだよな、今の俺!
ダンジョン「マスター」とはなんぞや!?
ヤンキー高校生のたまり場にされた喫茶店のマスターかよ!?
「食い物はともかく、俺もせめて人並み程度には強くなりたい!」
「成ればいいじゃないか!? そんなことよりプリンだ!」
「ポイントないじゃんかよー!」
「鍛えろ!」
「鍛えてなんとかなるのかよ!?」
「なる!」
「具体的には!?」
「初心者冒険者でも罠にかかったのを叩き殺せば、ダンジョンポイントの他に貴様に経験値が入るぞ?」
お、俺に手を汚せと言うのか・・・!?
などとちょっとシリアスってみたりして!
うん、ただねぇ、間接的には死ぬトコは見てるけどさ、自分が手を下すってのはそれとは別物じゃん?
これが、ここに居たままボタンを押すだけとかならやれるだろうけどさ。
魚を三枚に下ろすのだってあんまいい感触じゃないんだぜ?
人間どころか、人間に近い形状ってだけでもアウトだよなぁ・・・。
ポイントでボウガン・・・残り5ポイント、この連弩なら4ポイントだな、よし買った・・・じゃないや、ともかくこれを手に入れよう。
「連弩か、非力でスキルも無い貴様にはいいかもしれんな。まとめて撃つから狙わなくても一つくらいは当たるだろう。」
え?
連続して撃てるんじゃなく、まとめて撃つの?
マシンガンっぽく連射とかカッコイイイメージ持ってたんだけど?
「カッコイイものが貴様に似合う訳がないだろう!」
酷え・・・。
「マスターはおいしいだけで十分価値があります!」
「うむ、味見出来る今の環境は極楽だな!」
お、俺の存在価値って・・・。
かんさつセットの上に置かれたり、撒かれたものは資材として内部に取り込まれます
殺虫剤を撒いたり、サラダ油をこぼしたりしてもダンジョンには被害が出ません