観察十一日目
本日、何回目だっけ? 投稿です
【SIDE:A】
悟史が商標登録についての勉強を始め、保がダンジョンへの補給物資に関して色々考える中、優はオサルだった。
風邪魔法を使いまくり、兄に殴られ、クラスメイトに顰蹙を買い、少し落ち着いたのか芋版を掘っては「ああ、また失敗した!」と叫んでいる。
スマホでの魔法陣実験。
画像が表示されている間は画面の傷が修復されたが、待ち受け画像では上に色々と表示されてしまうため、その効果が無かった。
画像データ自体は普通に削除出来たし、復元はされなかった。
「完全に魔法陣が形を成していないとダメだな」
「対象に対して有効なサイズとかあるかもしれない。端っこに小さく入れて全体に効果があるかどうか?」
「複数書いた場合とかも検証居るな」
「芋版出来たぞー!」
「精度が低い、やり直し!」
「マジかよー!」
「オサルにやらせるのが間違いじゃない?」
「本人が珍しくやる気だからなぁ」
「失敗してイモ食い過ぎてオナラばっか出る」
「オサル! 人の傍でするなよ!」
失敗したイモは彫った部分を切り落としてラップに包んでレンチンして食べている優である。
「失敗してイモ食うのが予定に組み込まれてるんじゃ?」
そう思う保であった。
【SIDE:B】
美雨の方のダンジョンの方でダンジョンバトルが発生したんだが……。
「タイムアウト! ダンジョンバトル開始から一定時間経過しましたが、双方ダメージ、被ダメージゼロのため終了します。あと2回ダンジョンバトルでタイムアウト決着となると、その次の戦闘で自動敗北となります、ご注意ください」
いや、相手来るの待ってりゃいいだろ、とブレードゴーレム師匠にコアルーム前待機の指示出して待ってたんだが、相手が一階層のループでめげて引き返して行ったっきり。
リリス以外、相手ダンジョンに攻め込んだ経験無いもん。
攻め込まれる分には対処出来るけど、攻める場合のプランが皆無だったな。
今回は仕方ないにしろ、繰り返すとペナルティがあるし、きちんと考えないとダメだろう。
「何をマヌケなことをやってるんだ、貴様は!」
股間をガードしたら、リリスフックがわき腹に突き刺さった。
ヤベ、息が出来ない。
「いや、ダンジョンバトル3回目よ? 初回はリリス無双、2回目は相手がアホ蛮族、守ることばっか考えて、攻めるって考えが無かったんだよ!」
「あ、補給物資が来ました。今回は色々な種が有りますんで植物系モンスターが生まれそうですね」
「防御にゴーレムと植物系を使えば、ゴブリンたちを攻めに回せるぞ?」
「モフモフ組と連携させてみてもいいかもな。便所ホブゴブリンはクマ以外は難しいだろうが、便所ゴブリンなら狼とかにも乗れそうだ」
攻めか……。
そういや……。
「キンバとイエハってどのくらい強いの?」
「マスターとは上手くやって来たと思っていたのだがな」
「信頼されてなかったんですね、残念です」
「いやいや、生まれてからずっと俺の傍で、一度も戦ったことないじゃん! すごく強いのか、そこそこなのか、弱いのか、分からんでしょ?」
「キンバは剣を用いた直接戦闘に、イエハは魔術を用いた遠隔戦闘に優れているな。2人がかかりならブレードゴーレムにも勝つぞ?」
リリスの解説に目を剥く。
「無茶苦茶強いじゃん! 宝の持ち腐れでしょ!」
そんな強かったなんて……あれ? リリスはそれよりもっと強いよね?
「俺様なら、このダンジョンの全勢力相手に勝てるぞ?」
「ええええええ!!!???」
道理で下半身へのパンチが鋭い訳だよ。
ん? もしかして、防御力なら俺も高ステータスなの?
「当然殺さないよう手加減はしておるわっ!」
うぐぅ!
油断した、股間直撃……バタリ。
【SIDE:A】
「なにそれ?」
悟史が鞄から取り出したモノを見るなり優が触ろうとする。
それを避けながら悟史はキャップを外し、優の手にそれを押す。
「うわっ! これ、あの魔法陣じゃん、人体実験するなよ!」
「いや、そういうつもりは無かったんだが、この際だ、カッターで切ってみるか?」
「やめろー! なにするだー!」
「いや冗談、冗談……今のところはね」
「それどうしたの?」
「画像元にハンコ屋で作ってもらった。手書きのイラストとかハンコにしてくれるのあるんだよ」
「すげぇシャ◯ハタだろ!」
「修復範囲の実験、手書きや芋版じゃキツイからな」
「いくらかかった?」
「いや、いいよ、けっこう楽しんでやってるから」
「俺のイモ代も援助してくれ!」
「オサルは食べちゃってるじゃん」
悟史の実験により魔法陣の大きさが物体の6割以上の面積で効果を発揮し、範囲が重複する様に調節すれば複数の魔法陣で大きな面積をカバー出来ることも判明した。
「タイヤならタイヤパターンに刻めば全部カバー出来るな」
「ただ他の模様と重なったり繋がったりすると効果無くなるから、目につく場所には余り使えないかも?」
「立体の場合もどの程度の厚みまで適用されるかだな」
「なあなあ、食い物に刻んで食っても修復されたら食い放題じゃね?」
「オサルにしてはいい着眼点だ」
「チョコとかなら割と簡単に出来そう?」
「チョコ食い放題か! やろうやろう!」
盛り上がりつつも、「今度あのお姉さんに会えたら、他の魔法陣とかの話も聞いてみたいな」などと思う悟史であった。
【SIDE:B】
立て続け、今度は俺のダンジョンの方でダンジョンバトル。
今回はキンバが相手ダンジョンへの攻撃に出陣。
報酬は俺の風呂の残り湯。
なんか美味しい出汁でも出てるの?
これまで普通に捨ててたんだけど?
対戦相手の配下は人型だけど種族とか分からん。
便所ゴブリンよりは強いけど、便所ホブゴブリンには負ける。
モフモフ組の一部とキンバが相手ダンジョンへ侵攻。
トラップとか無く、時々部屋があるけどほぼ一本道。
「貴様以上のバカが居るとはな」とリリスも呆れ顔。
さりげなく俺をディスるのも相変わらずである。
そして相手ダンジョンマスターだが、むさいオッサンだった。
デカい剣を片手にニヤニヤと嬉しそう。
キンバもモフモフ隊を片手で制すると剣を抜き対峙する。
美雨は怖がってクマゴロウに埋もれて見ていない。
まあ、ダンジョンバトルは美雨のトラウマだもんな。
「囲んで凹ればよくね?」
「クマはともかく狼に被害が出るぞ?」
「キンバちゃん張り切ってますねぇ」
そして始まる剣撃の応酬。
俺から見ると互角っぽくてヒヤヒヤなんだが、リリスもイエハも余裕観戦モードだ。
剣の軌跡は更にスピードを上げ、低ステの俺では視認出来ない。
ここコアルームでの観戦はキンバの背中側からの視点なんで、キンバの表情は見えないが、オッサンはキチガイ染みたギラギラとした逝っちゃってる目で、凄まじいとしか言いようのない笑顔を浮かべている。
食人鬼の笑顔だ。
無茶苦茶キモイ。
鳥肌立ちそうだし、夢に出て来そう。
そして……。
『チェックメイト!』
オッサンの剣を持った腕が斬り飛ばされ、キンバの剣が首ギリギリの所でアナウンス。
『相手ダンジョンマスターをどうしますか A)捕獲する B)殺す』
さんざん冒険者を殺してるし、今更だ。
なにより、あのオッサンを配下にしたら気が休まらない。
「……殺す。Bで」
オッサンの首が飛ぶ。
転がった首はあの気持ち悪い笑顔のまま。
そんなん写さなくていいよ!
ま、でも……「キンバ、お疲れさん、良くやった」頑張った相手はきちんと称賛しなきゃね?
こうして4回目のダンジョンバトルが終わったのであった。
なんとなくこの話の終わらせ方が見えましたが、書いてる内に変わりそう