【九日目】
【九日目】
おっしゃー、復活じゃーっ‼
落ち込むだけ落ち込み、悩むだけ悩んだ俺は、前向きに明日を見る。
えっと、とりあえず最初に意識改革。ここは日本ではなく、小説とかでありがちなファンタジー世界に来たと思えばいいわけですね。
ファンタジー世界いえーい! 異世界だーっ!
無駄にテンション上げてみる。
山小屋には錆びた斧と錆びた鉈があったので装備した。攻撃力が倍増した! 素早さが2下がった! 踏破能力が8上がった! 鉈があるだけで山での歩みが段違いだ!
鉈という万能刃物を手に入れた俺は、山の中限定で無双状態。道のない場所に道を作ってやるぜ! 登る時に苦労した枯れ枝+ツタのコンボも、鉈の前にはほとんど無力! あっという間に南東側の海岸線へと辿り着く。
南は砂浜が多めの自然豊かな海で、
西は岩場が多めの自然豊かな海。
北は山が連なり森となり、どれだけ広大で、何があるのかも分からない。
しかし南東の海岸線だけは人の手らしきものが加えられた形跡があることを山頂から確認していたので、俺は南東を目指したのだ!
だけど、辿り着いてすこし落胆。人の気配は全くなかった。
かなり昔に人が住んでいた痕跡はあるのだが、最低でも数十年、あるいは数百年間の時間がなければこうはならないだろうと思うほど、すべての物が風化していた。
家はない。家があっただろう場所は草木が生い茂り、小さな森となっている。
石畳の階段は枯葉が折り重なるように積もり、その上から木が生えている。
石塀は所々が崩れ落ち、大半が草木で隠れている。
盛者必衰の唄を唄いたい気持ちになってくる。
このファンタジーな世界、人は本当にいるのかなぁ?
とりあえず俺はしばらくの間ここを拠点に、この小さな世界を調べてみることにした。
食料は豊富なんだよね。
森に入ると食料に困ることはまずない。肌寒い季節なのに食事情は暖かかった。
森の中には見慣れない動植物がたくさんいるのだけど、見慣れたもの、食べ慣れたものも多い。とくに菌糸類は豊富だった。しめじ、しいたけ、マツタケなどなど、有名なきのこだけを選別しても食べきれないぐらいに収穫できる。んん~、香り美味しい。果物で言えば山ブドウ、栗、姫林檎のようなものが収穫できる。あま、すっぱ、美味しい~。川魚も豊富だ。アユ、マス、イワナ、カジカ、コイ、サケ、イトウ。なんで一つの河川にそんなに種類が豊富なのと思わなくもないけど、脂の乗った身はジューシーで美味しいので気にしないでおこう。
気にするべきは、異世界の生物だ。
この二日間、人魚さんやオタマジャクシ、蜘蛛少女さんのような大物と急接近して危ない目になることはなかったけれど、魚にしても小動物にしても見慣れないものを頻繁に目にする。足の生えた蛇ぐらいなら日本にはいなくても似たような生物が世界にはいるが、手の平サイズの犬はどうかと思う。体格でドブネズミに負ける小型犬。キャンキャンキャンキャン警戒していたので必要以上に近寄りはしなかったが、あそこまで小さいと可愛いというよりもどこか怖い。ドラ○もんではないけれど、寝ていたら耳をかじられそうだ。
俺の常識にある生物とはすこし違う生物が、この島にはたくさんいる。
脅威度が高いのは『鳥』だろうか。
この島には多種多様な鳥がいて、すべてが大型というわけではないけれど、大型鳥類がやはり目立つ。プテラノドン(ワイバーン?)を鳥に数えていいのかわからないけど、そのプテラノドンを筆頭に、馬さえも襲えそうな巨躯を誇る大カラス、鷹をそのまま二回り大きくした大タカ、ダチョウのように地を走り、わずかながらも空を飛べる脚長鳥、大群をなして狩りをしていたツバメもどきも危険かもしれない。油断していると俺が食料にされてしまいそう。
異世界だなぁ……。
なんだかテンション盛り上がってきた!
引き籠りになるほど昨日は落ち込んだけど、未知なるものを見つけるのは楽しい。人間が元来持っている知的好奇心ってやつだ。次は何があるんだろうと思うとワクテカする。童心に戻ったような興奮が身を包む。
やっほーい! 自由だ、自由だ、自由だぁーっ!
食糧調達と周囲の探索で、今日は終わった。