【四十八日目】
【四十八日目】
嵐は過ぎ去った。
そして夏も過ぎ去り、季節は春となったっ!
まあ、いまさら不思議季節にツッコんでもなぁ……。
春。
それは恋の季節。
発情の季節。
それは生物であるなら誰もが関係してくるわけで……、
フェラクラーリさんは素っ裸で、俺の隣に寝ていた。
……まあ、
まあまあまあ。
油断していたよ。
まさかこんな人目の多いとこでこんな大胆なことをしているなんて、誰も思いもしなかった。
俺、早起きな性格で良かったよ。
こんな場面、誰にも見せられねえ。
――――と、ここで俺の直感がビクンっと働く。
はっ⁉ 俺の背中に突き刺さる視線がっ!
もしかして目撃された? この場面を⁉
俺が後ろを振り向くと、早起きしているアウエラさんが。
いやー。
今日から俺はどうやって生きればいいのー?
超・死にたい気分だ。
しかしアウエラさんは衝撃現場を告発するつもりはないのか、安心しなよ、的な笑みを浮かべて葉っぱのベッドの上でゴロゴロした。
アウエラさんの厚意に救われた俺は苦笑いを浮かべ、俺の腕を抱き枕としているフェラクラーリさんを静かに引き離し、外に出て、春のポカポカ陽気を一身に浴びる。
んんん~~~~~~っ。
よし、忘れようっ!
俺は人魚さんに会いに行くことにした。
エディやフェラクラーリさんは毎日のように会いに行っていたみたいだが、俺はけっこう久しぶりのような気がする。
一週間ぐらい?
エディやフェラクラーリさんが通り易いように、嵐で荒れた道を整備しながら会いに行く。
到着、素敵ビーチ!
しかし白い砂浜が美しい素敵ビーチは、色々なモノが打ち上げていて汚れていた。
魚も打ち上げられているが、今回は木片が多い。
大小様々な《加工された形跡のある木》が流れ着いている。
ふむ、
ふむふむ。
もしかしたら今回も人が流れ着いているかもだが、俺の直感レーダーには人の気配はまるでない。
だけどなにかビビビっとくる。
楽しいものがある予感!
それじゃ、まあ、レッツ探索はじめますか。
うわ、わくわくしている。抑えられない。
俺は素敵ビーチを犬のように走った。わんわん!
頑丈そうな木箱を見つけた!
その木箱を開いてみると中からたくさんの磁器製の食器が!
樽を見つけた!
その樽の中には見たこともない果物が!
あべし!
俺は27のダメージを受けた。
なんだとっ、俺の直感は危険を感じなかったのに……っ!
ネズミ捕りに手を挟まれると痛いやら情けないやらで泣きたくなる。
だけどこれも結構良いモノなので、過去の恨みは忘れて持ち帰ることに。
わんわん、わんわん!
宝探しの嗅覚を働かせながら走っていると岩場地帯に突入。
今度はガゼルのように岩場を飛びながら走り続ける。
時には岬の先に立ち、獲物を探すタカのつもりで海を観察するように眺める。
お、
おお?
アレはなんだろうか?
海の底に沈んでいる物があった。
それが《なにか》は分からないが、俺の直感は囁いている。
アレは宝物だ!
俺はさきほど見つけた食器や果物などを素敵ビーチまで持ち帰り、今日はまだ一度も姿を見せない人魚さんを探してみる。
海は危険度がかなり高いっぽいので、人魚さんがいない海水浴は無謀で蛮行だ。
いまはライトセイバーという強力無比な装備品があるが、それも海の中で役に立つかどうかは正直微妙なところ。海の中での戦闘になると、先制攻撃されてそのままやられるイメージしかない。
人魚さんの同行は、超必須です。
へい、人魚さん。
YO、人魚さん。
俺は人魚さんを探します。
けれど、探せど探せど人魚さんは見つかりません。
ならば一旦帰りましょうか。
荷物もそれなりにあるし、時間をおいてまた探しましょう。
おいしょーっ!
荷物を運ぶ帰り道、整備された道の向こうからはエイミーさんとアウエラさんが。
お二人さんは俺が何をしているのかすぐに察してくれて、果物が詰め込まれた樽を運んでくれることに。
これまで俺は食器の入った木箱を両手で持って、樽はドラム缶を運ぶように片手間で転がしていたんで助かった。完全舗装された道路ならまだしも、凸凹が多い道で転がして運ぶのは面倒かったんだよ。大きな段差があるごとに樽に持ち替えなければいけなかったし。
荷物量的に二人いれば充分な仕事だが、三人いると段差の昇り降りが超楽だ。
荷物を一度も地面に置くこともせずにノータイムでガンガン進める。
あっという間に家に到着だ。
見てくださいフェラクラーリさん、メルヘンチックな食器にも負けない素晴らしいお皿でしょう! 銀製のナイフやフォークまでありまっせ!
俺は戦利品をすべてフェラクラーリさんに献上する。
どうか収めくださいませ女王様ー、な気分だ。
まあ、フェラクラーリさん家にあれば、みんな分けへだけなく使えるから問題ないんだけどね。
エディには樽の中の果物を見せる。
ねえ、これって見覚えある? 食えるんかい?
エディはすこし悩んだ後「知らないわ」と答えた。
フェラクラーリさんも樽の中を覗くが、どうやら見覚えが無いようだ。
うーん、どうしたものか。
俺の直感としては普通に食用だと思うんだけど毒物である可能性も無いとは言えない。
「私が毒見しよう」
強くて格好良いアメリカ女性的なエイミーさんは、自分から毒見役を買って出た。
その潔さは惚れてしまいそうだ。危険な毒物の可能性もあるのに、その可能性も考慮して一歩前に進むことができる女性!
しかし待ちなお嬢ちゃん、そういうのは馬鹿な男の仕事だぜぇ。
俺はエイミーさんの前に出て、誰もが知らない果物をガブリ。
シャキシャキシャキシャキ。
シャキシャキシャキシャキ。
うん、美味しい!
なんだろう、シャーベットみたいな触感だ!
オレンジと洋ナシが合体したような見た目なのに、中身はイチジクのようで、小さな藍色の果肉がたくさん詰まっている、甘くて酸っぱい果物。
ひとまず一口分を胃の中に収めてみる。
色合いは毒々しいが、とりあえず即効性の毒はないようだ。
味の感想を言ってみた。
するとエディは「アトナ」と、思い出したように言う。
この果物は「アトナ」と呼ばれるらしい。普通は庶民が口にできるような果物ではなく、高貴な一族の口に運ばれることが多い果物だそうだ。その独特な触感(生ものなのにシャーベット)から『果物の王様』と呼ばれているそうだ。こちらの世界の『果物の王様』とは段違いの食べやすさだぜ。
さっそくフェラクラーリさんはその高貴なお口に高貴な果物を運ぼうと、料理専門のミニさんをテレパスで呼んでいた。
そしていつの間にやらミニさんがぞろぞろと。
アトナが入った樽は調理場に持って行かれる。
俺たちがしばらく待っていると、料理専門のミニさんが切り分けたアトナを花びら食器に綺麗に盛り付けて持ってきた。
拾って来たばかりの綺麗な銀製フォークを優雅に扱い、フェラクラーリさんは俺に続いてパクリシャキシャキとそのお味を確かめる。
見ているだけで俺まで嬉しくなりそうな至福の表情。
とても美味しいですわ。と、頬を赤らめながら、他の人たちにも試食を進める。
エディもエイミーさんもアウエラさんも、パクリシャキシャキ。
「これは美味しいな」と、エイミーさん。
「たしかにそうだね」と、アウエラさん。
そしてエディはシャキシャキシャキシャキと、一心不乱に何度もその味と触感を確かめていた。
昼はみんなで人魚さんと会うことにした。
ミニさんたちは置いてきたが、御本家フェラクラーリさんの護衛としてハーフさんが一人ついて来ている。
「この道はやはりキミが作ったのか?」
みんなで道を歩いていると、エイミーさんは俺にそんな質問を投げかけてきた。
ええ、そうですけど……。
すみません、あまり綺麗に整備してない道路で。
俺はどうも雑な性格なもんで、細かい不備は見逃してくださいませー。
俺はそんな感じのことを言おうとしたけど、俺が答える前にエイミーさんはなにやら自己完結したように「そうか」と呟いていた。
……俺、まだ何も言ってないんだけどー。
アウエラさんの顔を窺うと「気にしないで、この女いつもこうだから」と言っているような顔をしていた。
うむ。
ならば気にしないでおこう。
今日二度目(三度目?)になる、素敵ビーチっ!
素敵なんだけどすこし汚れているビーチに到着した俺たちは、さっそく人魚さんを探してみる。
いくぜ、レーダー感度MAXっ!
いたぜっ、地平線の向こうにいやがった!
今日は物陰に隠れることもせず水平線の奥から普通に近寄ってきていたのだが、俺と視線が重なると、海に潜って姿を消して現れなくなった。
…………。
…………。
…………。
……俺を見つける度に姿を消すのはやめて? 悲しくなるから。
幸いなことに人魚さんの接近に気付いていたのは俺だけだったので、俺が人魚さんに嫌われていることはエイミーさんとアウエラさんには気付かれていない。
みんなは人魚さんの登場を待つ。
俺も素知らぬ顔をして、人魚さんが登場するのを待った。
――――数分後。
人魚さんは「警戒してますよ」のポーズをしながら俺たちの前に現れた。
見知らぬ人が二人増えたことで人魚さんはいつも以上に警戒ポーズを強めていたが、エイミーさんとアウエラさんがフレンドリーな対応をすると、あっという間に仲良くなる。
…………。
俺は人魚さんに一歩近寄ってみると、一歩退かれた。
なんで俺だけ……。
いい加減泣くぞ俺は! ぐすんっ!
しばらく人魚さんと一緒にいて、警戒心も緩くなった頃、俺はエディ伝いに人魚さんに頼みごとをした。
人魚さん、人魚さん。ちょっくら海水浴をしたいんで、護衛をしてもらえませんか?
人魚さんはエディの陰に隠れて「警戒してますよ」ポーズをしていたが、軽く数回頷いておっけーしてくれた。
おっけーを貰った俺はさっそく、隠れ切れていない人魚さんを電光石火のタックルで捕まえて、宝物らしきものが沈んでいるポイントの近くまで人魚さんを運ぶ。
後ろからエディのお叱り声が聞こえたが(人魚さんをぞんざいに扱っている事についてのお叱り)、いまの俺の情熱をとめるには物足りない。
さあ、ここだ。
俺は人魚さんを海に帰して、もう一度お願いする。
海に帰った人魚さんは俺から距離を取って最大警戒していたが、それでもおっけーしてくれた。
ホンマ良い人やなあんさん。俺、嬉しくて涙がでそうだぜ!
チョロいお人で心配になるけれどー。
まあ、この世界には俺の親友のような極悪非道はいないんで大丈夫だろう。
準備運動。
ラジオ体操第二、始めます。終わります。その場で宙返りとかして体の感触を確かめます。よし、これだけ準備すればもう大丈夫。
人魚さんが中間地点でスタンバってるのを確認し、俺は久しぶりの大海原へ!
……うわっ、冷たっ⁉
つい先日まで常夏気温だったくせに、すでに海水温度はかなり冷たい。
秋冬ほどに厳しい温度じゃないんで泳げないことはないが、何時間も泳ぐのはやめておいた方がいいかな? 死にはしないけど死んだ気分にはなりそうだ。
しかしまあ、海の中は美しかった。
見たこともない色鮮やかな魚たちに、イワシのような魚の大群、揺らめく海藻、紅玉や翠玉のような宝石サンゴが海の中を彩っている。
何故か知らんけど、海中で目を開けても痛くならないのは不思議だった。
人魚さんは海中を自由に泳ぎ、俺を先導してくれる。
俺は海の光景に目を奪われながらも、お宝ポイントに辿り着く。
うむ。
うむうむ。
海の底に沈んでいたもの。
それは棺桶だった。
俺はその棺桶を陸に持ち上げようと引っ張ってみるが、ビクともしない。
ならば中身を確かめようと蓋を持ち上げようとするが、ビクともしない。
肺の中の空気が少なくなったので、一度海面の上に出る。
ぜーはーはー。
呼吸を整えたところで再トライ。
しかし棺桶は何をしてもビクともしない。
ライトセイバーを使えば穴を開けれるかもだが、海中でライトセイバーを使うとどうなるのか試していなかったし、棺桶の中身が水厳禁だった場合もまったく考えていなかったので、ライトセイバーは使わない。
こりゃ駄目だ。
棺桶引き揚げ作業を早々に諦める。
そのかわりに、宝石サンゴをゲットすることでトレジャー欲求を満たすことにした。
おらっ!
ボキン。
紅玉や翠玉のようなサンゴを、それぞれすこしずつ拝借する。
海上に揚げて日の光の下で照らしてみると、その輝きは濁ることもなく、むしろより強く輝き始めた。
うわ、すげっ、やべっ、めっちゃ綺麗なんだけどっ!
俺は宝石の目利きには自信があるので断言できる。
このサンゴ、磨いて製品化すればめっちゃ高いぜコレはっ!
普通に億の値段が付きそうな逸品になりそうなほどのポテンシャルを秘めているように見えた。――――とまあ、値段に関しては適当だけど、それぐらいに素晴らしい原石であることには間違いない。
ホクホクだ。
俺のトレジャー魂はそれなりに満たされた。
この欲求は限界を求めるとキリがないので、今日はこれで満足しておこう。
そうそう。
人魚さん、今日は俺の我儘に付き合ってもらい、ありがとうございました。
お礼に宝石サンゴを加工した装飾品を送りたいと思ってますんで、俺の姿を見かけても逃げるのはやめてくださいお願いします。




