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【四十五日目】

【四十五日目】

 フェラクラーリさんは言った。

 《あまり他人よその家の決まり事に、家族でもない赤の他人が口出ししないでもらいます?》



 ちょっと過去を振り返ろう。

 俺はエディやフェラクラーリさん《たち》のためにお肉を捕ってきた。

 その《たち》の中には、御本家フェラクラーリさんだけではなく、ミニフェラクラーリさんやハーフフェラクラーリさんも含まれている。

 俺はみんなのために頑張ってお肉を捕ってきたつもりだ。

 シカ肉しかり、

 キツネ肉しかり、

 トカゲ肉しかり、

 イノ肉しかり。

 しかし御本家フェラクラーリさんは、ミニ・ハーフフェラクラーリさんに《お肉を食べさせないでくれませんか》と提案した。

 あまり贅沢に慣れさせてはいけませんから、お肉は特別な日の御褒美と言うことで。

みたいなことを言って、昨日の夕食時、ミニ・ハーフフェラクラーリさんに一切お肉を分け与えることを禁止した。

 俺はミニフェラクラーリさんの眩しい笑顔が見たいのに!

 ハーフフェラクラーリさんのほころぶ笑顔が見たいのに!

 だけど御本家フェラクラーリさんは頑として譲らない。

 そして粘る俺に言った一言が、冒頭のアレだ。



 一晩経ってフェラクラーリさんが言い放った言葉を思い返すと、あの言葉には色々な意味が示唆されているような気がする。

 第一に思い付いたのは、御本家フェラクラーリさんが自分の取り分が減るのを恐れての発言だったのでは? ということ。

もちろんフェラクラーリさんに限ってそんなしみったれた人ではないと思うのだが、そんな狭い心の持ち主ではないと思うのだが、卑しい心の俺が一番最初に思い付いたのが、そんな疑惑だ。

自分の取り分が減ることだけを憂慮しての発言なら、俺がもっと頑張ってお肉を捕ってくれば解決する。しかし、フェラクラーリさんはそんなお人ではないはずだ。うん、おそらくそのはずだ、フェラクラーリさんは食いしん坊だけどそんな人ではないはずだ。

 純粋に、言葉通りに、家族の在り方としての問題なのだろう。

 フェラクラーリさんの種族はその性質上、御本家フェラクラーリさんが一番偉くなければ成り立たない組織だ。

血の繋がった家族を組織と言うのも問題ありそうだが、そう言ったほうがしっくりくるので、組織ということで話を続ける。

その組織のピラミッドの最下層にはミニフェラクラーリさんがいて、最下層から中層にはハーフフェラクラーリさんが。いまはいないけどいずれ生まれてくるお姫様は、御本家フェラクラーリさんと同位置の最上層に居なければいけない。

それがもし覆ることがあれば、種としての存続すらできない生命体へと成り下がる。

だからこそフェラクラーリさんが言葉を強く、《差別》をするように言うのも納得できる。

 理屈では納得できるけど――――、

俺の感情は、非常に納得していない。

 ミニフェラクラーリさんの素敵笑顔がもっと見たいんですよ!

 ハーフフェラクラーリさんのほころぶ笑顔が見たいんですよ!

 しかしそれを強要するのは俺の我儘だ。もしかすればフェラクラーリさんの種を途絶えさせる可能性を秘めた大罪ともなりかねない。

 俺にそんなことをできる権利もなければ勇気もない。

 悶々と苦悩しながらも、絶対に諦めなければいけないことなのだ。

 フェラクラーリさんが言っていることは全面的に正しい。

反論の余地無く完璧に正しい、色々な示唆に富んだ御言葉だ。


 家族でもない赤の他人が口出ししないでもらいます?


 その言葉を逆説的な意味として捉えれば、《家族で赤の他人でもなければ口出ししてもいい》と言っていることになる。俺がもし《フェラクラーリさんと家族になれば》いくらでも口を出して良いと言っている。

 フェラクラーリさん、貴女はなんと言う人だっ‼

 そのあくどい手口は、俺に親友の姿を思い出させる。

 ミニさんやハーフさんの笑顔を人質に俺に迫るなんて……っ!

 くそっ、俺はどうしたらいいんだ⁉

 ここに羊の皮をかぶった悪魔がいるよ、俺に血の涙を強要する悪魔だよ。

 まるで親友のような悪魔だよ。

 まあ、俺の親友のほうが百倍はとんでもない悪魔だけど?

 あいつは俺の誕生日に飛行機操縦免許を修得したのを自慢するためだけに呼び出して、自家用飛行機でうっかり轢き殺そうとしても笑い事で済ませようとする本物の悪魔だからな。

 ……よく生きてるな、俺。

 けっこう日常的にデスゲームが繰り広げられていたような覚えがあるが、……忘れよう。

 今日はさらにショッキングな出来事を目撃してしまったので、親友との忘れたい思い出なんてマジでどうでもいい。



 ここですこし補足。

 フェラクラーリさんたちは、御本家さん×1、ハーフさん×3、ミニさん×28人の大所帯だ。海水浴に行ったとき御本家フェラクラーリさんが《これで全員です》と言っていたので間違いない。

しかし俺はこれまでの普段の生活で、ミニさんを二十五人までしか目にすることはなかった。

農業専門が十四人、外回り探索隊が三人、裁縫職人・家具職人・料理職人などの専門職が七人、家事雑事担当が一人。

 あと三人ほどのミニさんが、普段どこで何をしているのかを俺は知らなかった。

 今日、この時までは……っ!



 虚ろな瞳で、黙々とピッケルを振るい続けるミニフェラクラーリさん。

 たった一人きりで、ヒカリゴケの光さえ届かない洞窟奥の暗い場所で、……カツーン、……カツーン、と物寂しげな儚い音を響かせる。

 二~三回ピッケルを振り降ろしては一呼吸分の短い時間休んで、もう一度同じことを繰り返す。それを何度も何度も繰り返す。

 何度か繰り返して、ようやく大休憩に入るミニさん。

 《……あ、にゃかと……さん、……で、す》

 虚ろな瞳で微笑まれる。

 う、

 うわあああああああああっっっ!!!

 俺は今にも倒れそうなミニフェラクラーリさんを抱き上げ、御本家フェラクラーリさんに直談判したものだ。

 他人の家の事情に口を出すなと言われておずおずと引き下がったくせに、一晩寝たら忘れて直談判だ。

 フェラクラーリさんっ、この扱いはなんですか⁉ これはあまりにも非道です! 俺、貴女のことを見損ないました!

 俺のあまりの形相と剣幕にフェラクラーリさんは驚いていたが、おそらく俺が担いでいるミニさんとテレパスで会話した後、やれやれと言った感じで微笑んだ。

 《すみません、にゃかとさん。どうやらこの子たちのお遊びで勘違いをさせてしまいましたね》

 …………?

 俺にはフェラクラーリさんが言っていることが理解できなかった。

 しかし答えはすぐに分かった。

 《ごめんなさいです~、お遊びなので~》

 俺の腕の中にいた虚ろな瞳のミニさんは、他のミニさんたちと変わらない、……それどころか思わず誘拐したくなる「ごめんね笑顔」を浮かべていた。

 もぞもぞと動き回り俺の腕から脱出して見事に地面に着地すると、テレパスを送っているのか、かわいらしい仕草をする。

擬音語で表現するなら「にょんにょん」って感じ。微笑ましい。先程までの悲壮な感じなど一切ない。

 テレパスで呼ばれて出てきたのは二人のミニさん。

 その二人は普通のミニさんとは違って、一人はやさぐれた感じのかわいいヤンキーっぽい子で、もう一人はガタガタブルブルと震える挙動不審な子。

 《お遊びしゅーりょーです~》

 俺の足元にいるミニさんがそう言うと、二人は普通のかわいらしいミニフェラクラーリさんになった。

 《もうおわりです~?》

 《ねむいです》

 ヤンキーぽかった子は目をしゅぱしゅぱさせて眠たそうだ。まるで寝ていたところを無理矢理起こされたのか途中で力尽き、隣のミニさんを下敷きにしていた。

 《ということなのです~》

 俺の足元のミニさんは、小さな胸を逸らして素敵笑顔を浮かべる。


 なにが《ということなのです~》なのかは、……まあアレだ。

 遊びなのだろう。

 たまには違う性格になって生活してみよう、的な?

 俺も散々よく分からない遊びを嗜んだものだが、うむ、意外と面白そうな遊びだ。

 遊ぶことにかけては達人の俺は、興味を惹かれる。

 そもそも俺は『芸』関連にも幅広く手を出しているので、《お遊び》するミニさんたちの気持ちも理解できた。

 音楽や演劇や舞踏その他もろもろでは、他人の気持ちになりきって、時には自分ではない自分を演目の間ずっとやり通すことが大事なのだ。普段から役作りに慣れておけば、演じられる幅も広がり、演技とは思えない真実味も増す。

 ……まあごちゃごちゃと御託を並べてるけど、俺はアクション系以外の『芸』はイマイチ褒められなかったけどねー。

 俺は『芸』に関しては素人に毛が生えたような三流どころだが、ミニさんたちの《お遊び》に付き合えるぐらいには芸達者なはずだ!

 ……はずだよね?

 あれ、もしかして三人のミニさんと比べたら俺が一番下手かしら?

 虚ろなミニさんは、俺が騙されてしまうほど迫真な演技だったし……。

 おほほ、……気のせいですわねん。

 あくまで《お遊び》だから技量なんて関係ないし?


 だから俺はミニさんたちと一緒に遊んでいいですかと、なかば条件反射的に御本家フェラクラーリさんに尋ねていた。

遊びとなると見境ない俺だった。

 ったく、俺には色々と崇高な使命があるはずなのに!

 遊びにかまけてる暇なんてないはずなのに!

 具体的にどんな使命があったかは、うろ覚えだけどー。

 俺は何のために狩猟民族になったんだっけ? ミニ&ハーフフェラクラーリさんの笑顔を見るためだったよね?

 ああ、だったら問題ないじゃん。

 一緒に遊んで楽しめば、いつでも素敵笑顔が見られるだろうし。


 だが、御本家フェラクラーリさんに確認をとったのは間違いだった。

 ミニさんたちと遊びたいなら、俺はこっそりと誘拐するべきだったのだ!

 《にゃかとさん? ふざけないでもらえます?》

 と、にっこり笑顔が怖いフェラクラーリさん。

 おいそこのテメエ、人の話聞いてんのか。って怒っている人と同じ雰囲気をひしひしと感じた。

 《彼女たちは重要な『役目』が《毎日》ありますので、あまり軽挙に遊びに誘わないようにお願いできませんか?》

 フェラクラーリさんは《それに》と続ける。

 《手軽にお遊びができる相手なら、ここにずっと居ますけど?》

フェラクラーリさんから肉食獣じみた怖さを感じた。

 ……おおぅ。




 そんなこんなで今日も元気に外に逃げた、……もとい遊びに出かけた俺は一人遊びに興じようかと思います。

 土台の上に干しレンガを積み上げてー、

 接着剤かわりの貝殻砕いたモルタルもどきを塗りこんでー、

 積み上げてー、

モルタルもどきを塗りこんでー、

 積み上げてー、

モルタルもどきを塗りこんでー、

積み上げてー、

モルタルもどきを塗りこんでー、

 天井の支えとなる木枠を仮組みしてー、

 天井をアーチ状に積み上げてー、

 木の柱で補強してー、

レンガの隙間を埋めるよう、丁寧にモルタルもどきで補強してー、

自作はしごをよじ登り、アーチ部分の隙間もモルタルもどきで補強してー、

とりあえず思いつく限りの補強してー、

これでどんな災害が来てもだいたい大丈夫だろ、と納得出来れば完成です。

レンガのお家が出来ましたっ!

 家具なんて一つもない、粗忽で簡素で白っぽくてすこし寒々しい感じのレンガのお家ですが、以前拠点としていた洞窟よりかは多少狭くても暖かい感じのお家です!


 うむ、製作時間はおよそ十二時間。

 どうやらお昼も食わずに熱中してしまっていたようだ。

 疲れを感じない体はなかなか厄介だ。

俺は夢中になって熱中してしまうと時間を忘れてしまう癖がある。悪癖だ。元々俺はそれを防ぐため、すべてのモノごとに対して常に全力全開全速力で取り組み、疲れで動けなくなった時点で休息をとるという習慣が出来上がっていたのだが、それも今の体では不可能なのだ。

 ちょっと遊び気分だったのに、いつの間にやら空が赤い。

今日一日を無駄にしたようですこし淋しくなる。

 夕日の中に浮かぶ黒い点はカラスなんて生易しい生物じゃないだろうけど、カー、カー、と鳴いているような気さえする。


 「すさまじいなキミは」


 センチメンタル気分な俺に声をかけたのはエイミーさん。

 よく見れば壁の陰にアウエラさんもいた。はーい、と軽く手をにぱにぱと挨拶してる。

……挨拶してくれるのはいいけれど、なんでいつも微妙に影に隠れているんだあの人は?

 エイミーさんは俺が建てたレンガの家に近づくと、普通のドアノックの五倍から十倍は強そうな壁パンで家の強度を調べてた。

強度を調べては一人頷き、なにか独り言を呟いていた。

 そして言う。

 「キミは一体どこで訓練を積んだ?」

 はい?

 どういう意味ですかエイミーさん?

 俺が疑問ながら問い直すと「言いたくないならそれでいい」と勝手に一人で自己解決していた。

 ――――もしかして俺の素人建築が素人に見えなくて、有名な建築職人さんの下で厳しい修業を積んだとでも思ったのかな?

 いやいや。

 てれてれ。

 あくまで俺の建築技術は趣味の延長線ですよ、プロの人には遠く及びません。上には上がいくらでもいますから、あまり俺を褒めないでくださいね? 調子に乗りますから。






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