【四十二日目】
【四十二日目】
俺は今日から自立することにした。
俺がその決断をするに《とある事情》が大きく関与しているのは確かだが、《とある事情》が何なのかはそれは後で説明するとして――――、
いい加減フェラクラーリさんに甘えっぱなしと言うのも悪すぎる。
居心地が良くてついつい長居をしてしまったが、極潰しってゆーのはやっぱいかん。
俺に男としてのプライドがあるのかどうかは分からん。が、だらけた生活は俺の直感を日々鈍らせるので、それは嫌だと抗おうとしているだけかもだが、とにかく昨日までの生活はもう終わりだ! 理屈なんてどうでもいい!
レッツ一人暮らし!
――――なわけで、今日の俺は朝から建築作業。
家を建てるのに使う予定の木を切り倒します。
そして洞窟入口近くの岩場をライトセイバーで水平(実際にはほんのわずかに凸型)になるように削って家の土台とすれば、今日の建築作業は終了ぅー。
…………べつにフェラクラーリさんお世話になりたいからわざとゆっくりしている訳じゃないですよ? 丸太から水分を抜く日数が必要だから、今日はこれ以上の作業ができないだけだから。最低限雨風に耐えうる家を作ろうと思えば、それなりの準備期間が必要なんですよー。
レッツ一人暮らしとか言ったけど、実際にはまだまだ先になりそうだ。
その間俺はずっと極潰し……。
いやいや、フェラクラーリさんたちがゲットできないお肉を取ってくることができるから、完全に極潰しってわけじゃない、……と信じたい!
と、ウジウジと悩んでいたところで、今更ながら閃いた。
べつに木の家じゃなくてよくね?
大自然の中で家を建てるならログハウスだろ。と、そんな固定概念があったけど、風雨に耐えられる家ならレンガの家でもいいかもしれない。
幸いなことにここは資源豊かな大自然で、レンガの材料となる粘土もいくらでもあった。
よし、レンガの家を建てようそうしよう。
俺はさっそく木枠を造り、そこに粘土と干し草、あとは砕いた貝殻を混ぜて少量の水で捏ね合わす。それを天日干しして中の水分が完全に抜ければ干しレンガの完成だ。今日の天気が続くなら明後日ぐらいにはできると思うので、今日は家の材料となるレンガを大量に作ることにした。さてさて、一気に大変だ。一つずつ作るのは超面倒。だから途中からは大きな木枠に材料を流して混ぜ込んで、それをあとから木の敷居で区切ることで作業の簡略化。
ふう、いい汗かいたぜ!
さてと、お次は食糧問題だ。
俺とエディの二人ならそれぞれ二週間分はあった保存肉も、さすがに三十人以上で食えばあっと言う間に無くなるのも当たり前だ。俺たちの備蓄に、お肉は殆ど無い。お肉が欲しいなら狩りをしなければいけないが、俺には狩猟民族の才能はイマイチないようだ。
この島に来てから何度か弓を作ってみた。
材料には様々な竹や木材を試し、試行錯誤の末、竹製の矢・固く粘りのある謎の木を削って作った弓が完成したのだが、――――最後の一つ、弦がどうにもならなかった。
ツタでは太いうえに弱々しくしか飛ばず強度が足りず簡単に切れて、綿から紡いだ糸も同じような結果。毛糸も似たようなものだ。
せいぜい有効射程距離が二メートルの弱弓しか作れない。
それぐらいなら斧を投げた方がよっぽど効果的だ。
弓矢のかわりにブーメランならどうだと作ってみたが、森の密度が高いので思うように使えない。投石器や投槍器はなかなかいい線いったかもだが、石ならともかく槍(竹槍)のコントロールは壊滅的だったので使えない。射程もそんな長いわけじゃないし……。
思いつくものすべて試してみたが、そのすべてが実用には至らないものだった。
そんなこんなで俺は遠距離で使える武器を持っていない。
狩猟をするのにそれは絶望的なアドバンテージだ。
俺がもし獲物を狩ろうと思うなら、どっかの狩猟民族よろしく無尽蔵の体力で走って走って走り勝って弱ったところを捕まえるしかない。
あと他にお肉をゲットする方法と言えば、バッタリ遭遇戦が始まって、ライトセイバーで自衛しましたってところか。
どっちにしろ面倒そうだ。
もっと楽な方法がないものかねぇ。
それを思いつかないあたり、俺には狩猟民族の才能は無い。
身体能力に限るなら世界各地に存在する狩猟民族とも全然負けてはいないと思うのにね。だけど経験が足りない、知識が足りない。
地道に罠を仕掛けるしかないかぁ。
お肉をゲットするのは相当難しい。ハトぐらいなら普通に素手でゲットできるスキルを持っているはずなのに、それが役に立たないのが大自然と言うモノの過酷さなのだ。
だから俺は狩猟生活を殆ど諦め、基本は農耕生活をしてみたいと思う。
農作業なら地道な努力でそれなりの結果を出せるはずだ。
天候に左右されるとはいえ、おそらくきっと大丈夫(根拠のない勘。楽天的な性格ともいう)!
鉄の枝と、鉄の葉っぱを組み合わせて作った、クワなのかスキなのかよく分からん農具。
それを使って大地をざっくり。
ガキンっ! 石にあたる。
俺はその石を脇に投げ捨て、もう一度大地をざっくり。
ガキンっ! またもや石にあたる。
俺はその石を脇に投げ捨て、もう一度大地をざっくり。
ガキンっ!
とりあえず俺はもう一度同じことをしてみる。
ガキンっ!
……………………めんどくせえ……っ!
農作業ってこんなに面倒なものだったのか?
むかしの人ってすげえな、荒れ地を開墾するって、やってられんぞコレは。
今日中に畑にしようと思っていた大地が急に広くなったような感じがする。果てしねえなぁ! 一体どんだけ頑張ればいいんだよ!
果てしない道のりに怯んでいてもしょうがないので、とりあえず俺は体を動かす。
こうなったら無双乱舞だ。
クワもどきの農具がぶっ壊れそうな悲鳴を上げるが、気にせず俺は大地を蹂躙する。石がでてきたら、わーい、ふっ飛べやー、地平線に向けて全力でぶん投げる。
石が湧いて出てくるたびにそんなことをしていると時間がもったいないので、途中からは籠を背負って、いくらでも湧き出てくる石を籠の中に入れた。
籠はすぐに一杯になるので石捨て場を作って、その場所に捨てに行く。
何度も畑と石捨て場を往復すると、俺の飽きっぽい性格が爆発したのか、一度は籠ごと石を投げ捨ててしまう。重いんじゃワレーっ!
そしてとうとう俺の無双乱舞に耐え切れずクワもどきの農具が壊れたところで、今日の農作業は終了。
…………無尽蔵の体力があってもコレかよ……っ!
俺が使っていた農具がすぐ壊れるような手作りのしょぼいモノとはいえ、最初に予想していた十分の一ぐらいしか畑にできなかった。その結果に俺は愕然とする。
俺には農業は無理だ、才能もなければ根気もない。俺には続けられない……っ!
まあ、最初に予想していた範囲は、今の俺のファンタジー体力を想定しての超広い範囲だったから、普通の人並みには畑を耕せたんではないだろうか? そう落ち込むほど狭いわけでもない。ジャガイモを育てるぐらいは充分の広さだ。
今日のところはこんなものだろう。
さっそくジャガイモを植えて、水を撒く。
早く芽が出ないかな?
そろそろ空が赤くなってきた。
もうじき夜だ。
しかし俺はあのメルヘン世界に戻りづらい。
べつに俺に問題があるってわけじゃないけれど、フェラクラーリさんと顔を合わせづらい。
それは《とある事情》が関係している。
むしろ《とある事情》の所為で、俺は急いで自立しようとしていると言った方が良い。
あれは先日の夕食後のことだった。
食後茶をゆったりと飲んでいる俺とエディがいる場所で、フェラクラーリさんはこんな会話を始めたのだ。
《あの、あらたまってにゃかと様に御願いしたいことがありますが、…よろしいですか?》
俺は答える。
どうしたんですかフェラクラーリさん?
フェラクラーリさんはにっこりと微笑みながらこう言った。
《はい、わたくし、あなた様の子種が欲しいのです》
食後のゆったりとした時間帯。
にっこりと、上品な笑顔を浮かべるフェラクラーリさん。
そのフェラクラーリさんの口から出た台詞に俺の時は止まり、エディはお茶を噴きだして咽ていた。
《あの、…ダメでしょうか?》
と、困った表情で言われても、あまりに唐突過ぎる衝撃的なお言葉で俺の頭は混乱状態。
隣にいるエディも咽ていて大変でそれどころではない。
《よろしければ是非、にゃかと様の子種をわたくしの中に注ぎ込んでくださいませ》
フェラクラーリさんの軽くて柔らかい体が俺の胸にもたれかかり、女の子特有の甘く美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり、一度、俺の意識はそこで途切れた。
おそらくほんの数秒だけ飛んでいた意識が元に戻ると、まだすこしケホケホ咽ているエディと、無理矢理椅子に座らせたと思われるフェラクラーリさんは、テーブルを囲んで俺の方を見ていた。
あれ、何があった?
俺は何してたん?
俺がきょろきょろと視線を泳がせていると、バンッ、とテーブルが叩かれる。まだ混乱中の頭では正常な判断なんてできるわけなく、なかば強制的に音のした方を向いた。
俺とフェラクラーリさんは、ビクンっ、と体を震わせる。
ちょっと、怨念めいた重い空気をまとうエディ。
逆らえる雰囲気ではありません。
その怖いエディはフェラクラーリさんに説明をするように求めた。
なんで突然そんなことを言いだしたのかを追求する。
逆らった瞬間に地獄の責め苦が待っていそうな雰囲気でおちゃらける度胸はフェラクラーリさんにはない。それとも元々隠すようなものではないのか、正直にその衝撃発言をするに至った経緯を答えた。
その経緯と結論を簡単に要約すると、
俺とエディが来た所為で食事情がちょっとだけ不安。
食事情問題を解消するためにも農地拡大は必須条件で、手っ取り早く農地を拡大するには人手が必要。
だからミニフェラクラーリさんを増やしたいから子種をくれ、と言う結論に。
エディはその説明を聞いて頭を抱えていた。
むこうの言葉でなにかをフェラクラーリさんに提案していたみたいだが、おそらくフェラクラーリさんはエディの提案を拒否した。
何を話してたん? と、おずおずと尋ねてみるとエディには睨まれてしまったが、一つ大きく溜息を吐くと俺にも分かるように説明をしてくれる。
多交配種と呼ばれる種族は、他種族との交配が可能らしい。
フェラクラーリさんの種族【幸運の女王】はその多交配種のなかでもとくに特別な生殖方法を持っていて、雄の持つ因子は必ずしも必要ではなく、単体でも生殖ができるそうだ。
ここでフェラクラーリさん御本人から補足が入り、すこし訂正。
単体でも生殖ができるように見えるが、雄の因子は必要不可欠らしい。
ただそれは花のおしべからでも得ることができるので、人間には単体で増えているように見えるそうだ。
俺には難しいことは何もわからなかったけれど、要するに、フェラクラーリさんがミニさんを増やすには動物か植物から雄の遺伝子をもらい、体内で吸収すればそれがきっかけとなって、おっけーらしい。
だからエディは「わざわざにゃかとから子種をもらわなくていいんじゃないの?」みたいなことを言ったんだけど、当の本人であるフェラクラーリさんは《にゃかと様じゃないければ嫌です》と、ごねているらしい。
これは男として喜ぶべきことなのか、それとも労働力確保の道具として使われるんだから悲しむべきことなのか、よく分からん。
フェラクラーリさん曰く《次代の女王を生む時まではそう重く考えないでくださいませ》だそうだが、――――と言うことは遊びな関係で誘われているわけになるのかな? おそらくそんな軽い感じだ。俺やエディほどに重大な事とは考えていない。
これが種族の違いによる物の考え方のギャップなのかっ⁉
その違いを受け入れ、理解したいと思うのだが、――――……うむ、ちょっと時間を俺にくれ。そう簡単には答えられない。俺にも色々思うことがあるのだ。近日中には答えを出したいと思っているから、いまはその話題はなかったことに。
そんな感じで答えを保留している以上、俺はフェラクラーリさんと顔を合わせづらい。




