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【四十一日目】

【四十一日目】

 朝。と言うよりもまだ夜中の時間帯。

 いつもより数時間早く目覚めた俺は、忍び足で近づくフェラクラーリさんから慌てて間合いをとった。

 あら、という表情のフェラクラーリさん。

 もちろんと言うべきか、フェラクラーリさんの体は衣類で隠されることもなく、大事なところも、そうでないところも、等しくすっぽんぽん。

 きゃー。

 家の中は暗くて助かった。ほとんど見えない。

 俺は顔を逸らしながら家の外に出て、夜中に出歩く俺を不審な顔で見つめるハーフフェラクラーリさんの隣を抜けて、メルヘン世界から脱出する。

 はあ、はあ、はあ。

 そして俺は心の中で叫びます。

 だからなんで裸で迫ってくるんですかーーーっっ!


 そして時間が過ぎて、朝。

 ちょっと寝不足な俺はエディに軽く心配されたが、何もないからと答える。

 と言うか、本当のことを答えていいのかどうやら……。

 エディはすこし怪訝そうな顔をしたが、興味が無いのかそれ以上突っ込んだ話はしなかった。そのあっさり加減はいまの俺にとって心地良いぜ……。

 そして俺の寝不足の原因であるフェラクラーリさん御本人は、いつもと変わらない素敵な笑顔を浮かべていた。


 エディもここでの生活に随分と馴染んだものだ。

 食後のお茶を飲みながら、俺はそう思う。

 最初の頃こそエディは罪悪感からか遠慮ばかりしていたのだが、フェラクラーリさんが強引なおかげで無暗に遠慮をすることはなくなった。

 おもてなしを素直に受け取れるゆとりが生まれているように見える。

 フェラクラーリさんとの間にあった距離も随分と縮まっていると思う。

 俺がいないあいだ一緒になって、色々なことをしたらしい。

その『色々』が、具体的には何なのかは知らないけど……。

 そして今日、エディとフェラクラーリさんは一緒になって海に行きたいと言い出した。

 俺に、海に連れて行けと言っている。

 とくにフェラクラーリさんは子どものようなキラキラとした瞳でおねだりしてくる。

 エディはともかくフェラクラーリさんなら一人でも海に行けると思うのだが、あくまでエディと一緒なのが重要なポイントなのだろう。人魚さんを紹介する約束でもしているのかな?

 もちろん、断るような要件もないので快く引き受けた。

 まさかそれが幼稚園児を引率する先生のような状況になるとは一切考慮せずに、軽い気持ちだった。





 メルヘン世界から素敵ビーチまでの道のり、直線距離で六百メートルほど。

 夏彦・千夏、その他大勢が通れる道を選んで進むなら大体千メートルほどか。

 海岸線に近づくほど斜面も緩やかで、森密度も薄くなり、獣の危険性も減るのだが、それでもやっぱりエディ一人だけではほぼ踏破不可能な獣道。

 俺とエディ、それとフェラクラーリさん一人だけならまだ問題はなかったんだけど、ぞろぞろぞろぞろとたくさんのミニフェラクラーリさんを引率しての遠足は大変だった。


 ちょっと待って、数が足りなくない?

 点呼をするから集まって?

 一、二、三…………、やっぱり足りない、どこ行ったっ⁉

 ああ、いたいた。転んで怪我をしちゃってるね。大丈夫? 痛くない? 頑張れる? うん、頑張るかぁ~、良い子だね、えらいえらいっ! ほら、エディお姉ちゃんと一緒に千夏に乗ろうね。うおっ、ちょっと待ったちょっと待った、千夏に乗るのは怪我をした子だけだから! いやいや、だからってわざと怪我をするのはやめて? 夏彦ならいいでしょみたいな考えもやめて? ちょっとそこの一番デカいフェラクラーリさん、あなたが率先してはしゃぎ回るのはやめてくれません? 収拾がつかなくなりますから。ほら、同じフェラクラーリさんでも落ち着いた子だっているじゃないですか。……んん? その子たちは普段から外の世界を見ていてずるいもん。って、なに急にかわい子ぶってるんですか。……え、……ってゆうか初めての外の世界ですか? そうですか……。ああもう、こんちくしょうめ! フェラクラーリさん、はしゃぐのはいいですが、いくつかの約束を守ってください。まずは絶対にはぐれないこと。周囲のモノに夢中になるのは分かりますが、みんなの側から離れないでください。二つ目に、もしはぐれてしまったらその場から動かないこと。動かないで俺たちに声を送ってください。そして三つ目にその約束をみんなに徹底させること。フェラクラーリさんだって誰かがいなくなると悲しいでしょう? だからお願いします。

 って、エディ‼

 そこで笑うなよ!

 フェラクラーリさんもつられて笑わないで⁉


 そんなこんなで海に到着。

 到着するや否やフェラクラーリさんたちはわらわらと好き勝手に遊び回り、収拾の付けようがなくなった。ここまでになると収拾を付ける気も起らないが。

 八割近くのフェラクラーリさんが海初体験ということらしいので、大はしゃぎするのも仕方がないことなのだろう。

 残り二割、というか人数で言うなら六人のフェラクラーリさん(内訳は、ハーフフェラクラーリさん三人、ミニフェラクラーリさん三人)は八割のフェラクラーリさんよりかはしゃいでいるわけではなかったけれど、それでも海に来るのは滅多にないことなのかすこしテンションが上がっているようだ。

 ……ここでちょっとした疑問が。

 御本人に聞いてみる。

ハーフの三人娘さんと、ミニの三人はなんで海に行ったことがあるの?

 ミニフェラクラーリさん三人は答える。

 《あたしたちはたんけんたいです~》

 《りーだーです》

 《いろいろさがすです~》

 ハーフフェラクラーリさんも答える。

 《私たちは彼女たちの護衛として着いて行きました》

 へー、なるほど。

 お世話になっていてなんとなく気付いてはいたけど、ミニフェラクラーリさんはそれぞれ役割分担されているらしい。農業する人は農業だけで、料理人は料理を作ることを専門とし、探索隊は夏彦・千夏のお世話をしたりと探索だけではなく、おそらく外回りの役目をすべて担っているのかな? 今日初めて見たミニフェラクラーリさんは普段何をしている人なのだろうか。すこし気になる。

 経験豊富な落ち着いたフェラクラーリさんたちとの会話の途中で、ビビビっと俺の直感センサーが働いた。

 ふむ、…あそこだーっ!

 俺の直感が指し示した方向をじっと見つめると、海面の揺らぎに紛れてピンク色の物体が。

 人魚さんの尾びれと思しきピンク色は海も浅い場所にあったので、歩いて近寄ってみる。

 するとピンク色の物体はするするっと海を泳いで行き、浮岩の陰に消えて行く。

 しばらく俺はその浮岩を眺めていると、岩陰から人魚さんの上半身が半分ほど出てきて、俺たちがいるビーチを興味深げに眺めていた。

 ふははは、相変わらず隠れるのが下手な人魚さんだ!

 俺はエディとフェラクラーリさん両人を呼んで、あそこに人魚さんがいると教えてみる。

 するとわらわら散っていたミニフェラクラーリさんたちも興味深げに集まってきて、かなりの大人数で人魚さんを凝視してしまった。

 そのたくさんの視線に耐えきれず、逃げるように海に消えてしまった人魚さん。

 ……あれ?

 おーい、人魚さーん。

 …………。

…………。

…………。

 …どうやら今日は人魚さんの都合が悪いようだ。何か重要な会議でもあるんだろう。おそらくそんなものはないだろうけどー。

 フェラクラーリさんたちは念願の人魚さんと出会えなくてすこしガッカリしているようだった。大丈夫、たぶんすぐにでも会う機会が訪れるから。と、慰める。

 とりあえず今は初めての海水浴を楽しもう。

 素敵ビーチから離れすぎないことを約束させ、それぞれ思いのまま遊び回ることに。

 俺は保護者としてビーチ近くの木陰に休める場所を作り、あらかじめ鉄の枝を編んで作っておいた網でバーベキュー、――――もとい焼肉の準備に取り掛かる。

 そこらの岩をかき集めてかまどを作り、網を乗せて、ちょこちょこ作り溜めしておいた竹炭、畑で採れた新鮮お野菜、そしてフェラクラーリさん感涙のお肉を用意すれば準備は終了。

 お昼までまだまだ時間がありあまっているので、俺以外にはすこし厳しい帰り道をすこしでも楽にするため、メルヘンの家までの道を整備することにする。

 なるべく直線的な道がいいので、今回はライトセイバーを使用。

 真っ直ぐ、最短の道をライトセイバーで切り開く。

 邪魔な大木は切り倒し、邪魔な大岩も切り刻み、邪魔な段差も削り切る。

 ライトセイバー、マジぱねぇっ‼

 毎度思うが、鉈とは攻撃力が違いすぎて怖かった。

 お昼をちょっと過ぎる時間まで頑張るだけで、一通り道らしい道ができてしまって怖い。

 あとは切り倒した邪魔な大木の輪切りや、邪魔な大岩の欠片や、邪魔な段差から生まれた土を退ければ、道として完成してしまうので怖い。

 すでにお昼は過ぎているので走ってビーチに戻る。

 ビーチでは夏彦・千夏もミニフェラクラーリさんと一緒に遊んでいた(遊ばれていた?)。

 おおぅ、ちょっと待ってくれ、夏彦と千夏は帰り道にあんたらを乗せるお仕事があるんだからあまり疲れるようなことはさせないでくれ……。と言いたいが、とてもではないが俺には言えなかった。あんなキラキラと表情を輝かして遊ぶ子どもから玩具を奪うことなど俺にはできん!

 エディはすでに木陰で休んでいたので、焼肉の準備を手伝ってもらう。

 と言ってもやることはそんなにない。

 火加減は俺が管理するので、エディは肉やお野菜が焦げないようにひっくり返すだけだ。

 焼肉のタレなどの洒落たモノはないので基本素材の味そのままだが、お肉は塩漬け肉を使用しているので、薄切りにしたお肉を白キャベツに挟んで食べるだけでも結構なお味だ。

 とくにフェラクラーリさんたちは御本家さんを除いてお肉初めてなので、すげー喜んでいた。俺が「うまうま」と言うと、ミニさんたちは真似て《うまうま~》と超かわいらしくお肉を頬張る。誘拐したい。

ちなみに、海でゲットした貝の壺焼きは、本家フェラクラーリさん以外は概ね不評でした。苦いのは駄目なのか。

食事が済むと満腹感からか数人のミニフェラクラーリさんがうとうととし始めたので、お休みミニさんたちはエディに任して俺もビーチで遊ぶことに。

 ふはははは、俺の本領発揮だ!

 見よっ、この砂の芸術を!

 バッキンガム宮殿をモチーフに城を造ったが、一人のミニフェラクラーリさんが城に乗り込んで、砂で出来たお城は容易く崩壊。

 うぎゃーーーーーーーっっ‼

 俺の三時間の結晶がーーーっ‼

 落ち込む俺の後ろでは、二人の《少女》が笑っていた。

 ……って、あれ?

 エディってそんな風に笑ってたっけ?

 なんかイメージが今までとは違う。落ち着いた大人びた笑いではなく、年相応の少女の笑い方だった。いや、でも最近はずっとこんな感じだった? あれれ、いったい何時から雰囲気が変わったんだろ? 思い出そうとしてみるが、それがいつになるのかはすぐに思い出せない。

 フェラクラーリさんは落ち込む俺を励まそうと隣に座る。

 うん、

うん。

 やっぱり優しいなフェラクラーリさんは。すげー癒された。

 と、そこでフェラクラーリさんはピクンと《なにか》に気付いた。

 フェラクラーリさんが反応したことで、俺の直感も《なにか》に反応する。

 俺とフェラクラーリさんはほぼ同時に同じ現場を見た。

 人魚さんによって、ミニフェラクラーリさんが誘拐されている現場を。

 フェラクラーリさんはミニさんからの救難信号によって俺より先に気付いたらしい。俺とフェラクラーリさんの二人はまるでビーチフラッグ走をするかのように同時に走りだし、人魚さんに向かってヘッドスライディング。

 いやいや、なかなかやるなフェラクラーリさん。

 俺にここまで着いてこれる奴はそういないぜ!

 俺たち二人は人魚さんの捕獲に成功した。お互い拳と拳を付き合せて喜び合う。ノリが良いなフェラクラーリさん。それに自分の子どもを餌に人魚さんを釣るなんて、俺の親友並みの極悪非道さだ!

 フェラクラーリさんが上半身を持って、俺がお魚部分の下半身を持って嫌がる人魚さんを運んでいると、エディに怒られた。

いや、まあ、当然か。

 悪ノリし過ぎた感はありましたとも。冷静になれば人魚さんを陸地に無理矢理揚げるって、かなりのド非道行為だ。反省してます。

 俺とフェラクラーリさんは人魚さんを担いだまま海へカムバック。人魚さんを海に戻して、浅瀬で正座して反省。

 人魚さんを目の前に、エディのお怒り説教は長々と続く。

 ちなみに人魚さんも、ミニフェラクラーリさん誘拐未遂の罪でエディに怒られていた。

 わかる、わかるぜ人魚さん!

 ミニフェラクラーリさんの愛くるしさは、罪を犯してでも手に入れたくなる気持ちはよく分かる! あのつぶらな瞳! 天使のような笑顔! 抱きしめたくなるフワフワとした見た目!

 自分の手が届く範囲で無警戒にてこてこと歩いていれば、誰しもが誘拐をするはずだ!


 だけどそれがエディには分からないようで、エディの説教はずーっと続く。


 ……あのー、そろそろ終わりません?

 人魚さんも深く反省しているようですし……。

 暗くなると帰ることもままならなくなりますのでー。


 この時ほどエディが理性的な人物で良かったと思う時はないだろう。

 「そうね」と、案外あっさりと説教は終わった。

 急いでフェラクラーリさんたちをみんな集め、点呼を数えて確認し、眠っている子は起こさないように夏彦・千夏に乗せたり、俺が背負ったり、人魚さんとお別れしたり。


 始終慌ただしく今日は終わった。






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