【四十日目】
【四十日目】
今日の朝も俺の隣に、真っ裸なフェラクラーリさんが寝ていた。
俺は顔を逸らし、起こさないように静かにゆっくりと抱き枕とされている左腕を引き抜く。
大きな葉っぱの毛布を優しくかけて、家の外に出た。
そして心の中で叫ぶ。
なんであの人は俺の隣で寝ようとするんだーーーっっ!
今日も朝からなかなかエキサイティングなようだ。
朝食の時間になり、俺たちはご厚意に甘えて食事を頂く。
なんとも素敵なブレイクファーストっ!
うまうま料理を上品に食べる。
料理専門のミニフェラクラーリさんに今回の料理のレシピを教えてもらい、食後茶を飲んで一時のゆったり気分。
椅子の背もたれに体を預け、わずかに見える細い空の、雲が流れ行く様子をしばらく観察し、……よし、このままご厚意に甘えてばかりではいけないなと奮起する。
ときにフェラクラーリさんや。
はい、なんでしょうか、にゃかと様。
男手が必要なお仕事や、なにかしてくれたら嬉しいなってことはありますか?
わたくしは、エディ様とにゃかと様がいるだけで、毎日が楽しいですよ?
そうですか?
そうですよ?
うむむむむ、なかなか手強い。ここまで強硬に「いてくれるだけでいい」と言われると、なにかをしたくなってしまう俺の子ども心。
無理にでも笑わせてやろうか。
くすぐり攻撃が効く相手なのか分からんが、最終手段としてはそれも考慮しておこう。
とりあえず俺は外に出てから考えてみる。
夏彦・千夏のお世話をするかわいいミニフェラクラーリさんに挨拶をして、気の向くまま、足の進むままに山登り。というか、有り余る無尽蔵の体力をすこしでも消費するため、北に見える山々の頂上を目指して全力疾走のクロスカントリー。
邪魔な木の枝とかは無視だ。
多少肌が切れようが、気にしない。
どこまで体力が続くのか、一度その限界を見極めようと思う。
三時間ぐらいがむしゃらに走って見える範囲で一番高い山に登ったんだけど、息切れ一つしない俺の体。ホンマ何があったんかな俺の体。化け物じみている。
まあ、空に怖そうな生物がぎょーさんいる世界では都合の良い変化なので重宝したいと思うけど、体力の割に身体能力そのものはそこまで高くなっていない。化け物じみた体力で無茶をするせいで徐々に能力値は高くなってはいると思うのだが、それでもぜんぜん人間の域だ。ファンタジーな生物にはまったく敵いそうもない。危険な奴等には出会わないことを優先するのが基本方針なのは変わらない。あるいは、もしかすれば、ファンタジーな生物をたくさん倒すことで『経験値』とやらが手に入り『LVアップ』があるかもだが、そんなゲーム設定があるのかは不明だ。それに俺の性格ではLV上げは無理だろう。オタマジャクシ怖い。狼男怖い。ワイバーン怖い。巨大イノシシ怖い。
山頂で、けっこう素敵な風景を眺めながら色々この世界のことを考えてみたけど、やっぱりわからんことが多いなぁ。
北側は南側より森と山が深くなり、二つ三つ山を越えるとマジで異世界のジャングル模様になりそうだ。弱肉強食大歓迎みたいな、力がモノを言う人外魔境の僻地。俺でも数日でご飯になりそうな超怖い雰囲気が、山を二つ挟んでいてもひしひしと感じる。インドア流派の達人エディを放り込んだら一時間も経たないうちに骨だけになるだろう。ちょー怖い。
一体ここは何処なんだろうねぇ?
最近この世界に馴染んでいる俺がいるが、やっぱりそれだけは最後まで忘れてはいけないと思う。
人の文明をあまり感じられない自然豊かな島。――と言うか陸地? 大陸?
エディのいる世界のどこかの島なのかなと思うが、直感は根拠ひとつ無い否定をしている。
根拠はないんだけど、俺自身もこの島がエディのいた世界とは違うと確信している。
こーいう矛盾は俺自身おかしいと思うし、他人に納得されないのも当然だと思うけど、それでも俺は直感を信じてしまう。
何処なんだろうね、ここは。
……うむ。
一通り悩んで疲れた俺は、フェラクラーリさんを喜ばせる作戦を考えることにした。
悩んでいても分からないことは分からん!
もっと身近で、答えが出る悩み事をした方が建設的だ。
……だけど何をしたものか。
フェラクラーリさんって、なにが好みなんだろ?
頭を捻ってみる。
プレゼントはどうだろうか?
しかしメルヘン世界には必要なものはだいたい揃っていて、何も持っていない俺がプレゼントできそうなモノは…………、ああ、そうだ、こっちの世界の料理を作ってみようか。
いや、料理だと俺の腕が災いしてあまり喜ばれないかもだから、こちらの食材を渡してみよう。味覚は俺たちとそう変わらないはずだから喜ばれるはずだ。ジャガイモはすでに見つけたし、バナナもあった。姿はまだ見てないが柑橘類の匂いがした場所もあったし、他にも探せば色々見つかるはずだ。
って、結局いつもと同じではないか!
やばい、最近俺の頭は狩猟民族化していないか? 喜ばせるならミニフェラクラーリさんに好評だった手品をしたり、一緒に遊びに出かけたりと色々あるはずだろうに、真っ先に思いついたのが《それ》って、――――俺の楽しみパラメーターが随分と『食事』に大きな割合を占めている……。食事が一番の楽しみになっている……っ!
でも、まあ、美味しい食事や未知なるお味との対面は嬉しいし楽しいので、その意見を採用しますか。
待っていろよフェラクラーリさん!
その桃色ほっぺを落としてやるから覚悟しとけ!
……で、夕方ー。
フェラクラーリさんにとっては未知な食材であるだろう食材を持って帰還した俺は、さっそく調理場を半分借りて料理専門のミニフェラクラーリさんと一緒に料理を作る。フェラクラーリさんは曰く《人間の方の御食事なら大丈夫です》だそうだが、一応彼女にとって『不味い』と思うモノは遠慮なく残してくれていいと言い、常温のビシソワーズやら、白キャベツの葉っぱとバナナのミルフィーユ/オレンジソースをあえて、を作ったりしてみた。
正直言って、覚えていたレシピ通りに作ったビシソワーズはともかく、創作料理である白キャベツの葉っぱとバナナのミルフィーユ/オレンジソースをあえては微妙過ぎるお味だったのだが、フェラクラーリさんは《オレンジソースが美味しいです》と言って、エディは「バナナ、だけも美味しい」との感想をもらった。素材単体ではそれぞれに美味しかったみたいだけど、料理としては微妙だったというわけですね。
大半の料理はベテラン料理人さんが作ってくれているので、俺の失敗は笑いの種で済んだので良し!
ビシソワーズは普通に美味しくできたので《また食べたいです》と好評で、ジャガイモは畑で育てられることになった。ジャガイモって美味しいよね。いろんな料理に使えるから、たくさんあっても困ることはないので、たくさん作ってもらうことに。
それでフェラクラーリさん、食後のお茶でゆったりタイムのその後に、ちょっと恥ずかしそうに、はにかみながら、こんなことを言っていた。
あの、人間のみなさまは御肉も頂いていますよね?
ええ、そうですが、……もしかしてフェラクラーリさんは肉食もイケる口ですか? てっきり菜食主義者だと思っていたなぁ。
ためしに干し肉でそのお味を確かめてみることに。
桃色なお口でかぷりと噛みつくと、うぅ~~~、と至福の表情を浮かべて感涙していた。




