【四日目】
【四日目】
一般的に『人魚』と呼ばれる、空想上の生き物だと思われていた女性が目を覚ました。
まだ息のある彼女を介抱するかどうかで悩み、介抱するにしても人魚なわけだから陸地に上げるのは不味いよなと言うことで、海に接した平らな大岩に枯葉などの現地調達柔らか素材を敷き詰め下半身は海に浸かるように寝かして後はどうしようかと悩み、――――うん、できることは何もないなと悩みを打ち切る。
人魚の体にはあちこちに傷があったけれど、打撲は俺にはどうしようもできないし、切り傷も多かったけれど酷いものはなかったので放置した。
……だってさ、消毒してもいいのかさえ分からないし、しょうがなくね?
基本海にいる生き物の世話とかどうしたらいいの?
何もできないので、とりあえず他の生物に襲われないように見張り番だけをしてました。
とまあ、俺の苦労話は置いといて。
目を覚ました人魚は思いっきり俺を警戒した。か細い両腕で上半身を持ち上げて足下(尾の下?)の海に入り、泳いであっと言う間に遠ざかる。
海に浮かぶ岩の陰に隠れ、遠巻きに俺を観察していた。
はいはい、感謝されたくて助けたわけじゃありませんよー。
実際、俺は何もしていないに等しいし。
逃げた人魚を無視して、そろそろここが何処なのかを本格的に調べてみることにした。
北朝鮮に向かっている途上で遭難したわけだから日本海のどこかの島のはずだが、予想よりか流されているのかもしれない。だって雨がなかなか降りやまなかったし、台風と一緒になって流された可能性が結構ある。さすがに太平洋まで流されたってことはないだろうけど。
あとは有人か無人か、ってのも一つの問題だ。
この島が日本国なら問題はないのだけど、中国領だったりロシア領だったりその他の国が所有する島だとあまり大っぴらに島を探索できない、密入国だしね。
あえて無視すると決めつけた人魚がやっぱり気になるけど、ここは安全確保を優先だ。
遭難四日目にしてやっとこさ青い空が見えたので、深呼吸を一つして気持ちを一新する。
海岸線沿いに歩こう、そうしよう。
海岸線沿いを歩くのは、多少痛んでいるだろう打ち上げられた魚を回収しながら、飲み水となる沢を探せるからだ。現在地を知るだけなら森の奥に歩を進め、山を登った方が早いのだが、いまの気分は食糧優先で。――――まあ、勘だ。
もちろんこの島が中国領とかだったら不味いので最低限身を隠しながら歩きます。
ざくざくざく。
ざくざくざく。
……ほんと、色々なものが打ち上げられているなぁ。
浜辺に限らず海岸線沿いには色々なものが打ち上げられていた。その大半はゴミなんだけど、昨日の人魚のように驚きのものが打ち上げられているのかもしれないと思うと、あまり無視して進む気になれない。体は進行方向を向いてはいても、顔は海岸線沿いである右の方をずっと向いている。ああ、でも「ずっと」と言っても途中に小さな崖などがあったので、上り下りする際にはちゃんと前を向いている。
途中、小さな沢を見つけて美味しい湧き水を飲んで一休みしながらも、歩き続けました。
歩き詰めて海岸線の位置が南から西に変わった頃、六つ目の小さな崖を上ったところで俺はそれを見つけた。
うっわーおー、沈没船んー。
ものの見事に座礁したと一目でわかる大型の木造船が、その船体の半分を海に沈め、西の海にあった。
てか、なんで木造船? 今時あるのそんなの?
謎だ。
昔の船に詳しいわけがないので、見ただけでその船がどの時代のどんな船なんぞ俺には判別できないが、その大型木造船は相当古そうな感じを受ける。直感で中世の船だと断定。理性の部分が「うわ、ありえねー」と大否定する。まあ、正解は分からないのでどっちでもいいか。
それにしても意外と大きいな、この島。
半日歩き詰めなのだが、イメージとしては海岸線沿いを四分の一程度しか踏破していない。島を円形だと仮定して、最南から最西に歩いた感じ。高低差はあれど、内に外にそこまでくねくねと曲がりくねった海岸線ではなかったので直線距離に換算しても結構歩いたはずなのだが、――――こんな大きな無人島、日本海にあったっけ? いまだ人っ子一人見ていない。この島、文明の香りが薄いよ。歩き続ければ続けるほど無人島のような気がしてきた。中国領とかだと無人島のほうが都合いいはずなのに、人と出会わないことにそこはかとない淋しさを感じるのはなんでだろう。
今日一日ずっと歩いたけれど、どうやらこの島は無人島のような気がする。