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【二十八日目】

【二十八日目】

 俺、ファンタジー化しました。

 魔法が使えるって訳ではないけれど、今日から俺は非現実ふぁんたじー人間です。


 えっと、なにから語ろうか。

 まずは身体の変化から語ってみよう。

 一言で語るなら、すこしばかり超人になりました。

筋量や瞬発力、反射神経とかは寝込む前と比べてそう大きな変化があったようには感じられなかったけど、回復能力だけは異常な発達を見せたようです。

骨折完治。治るまでの期間は正味五日ぐらいだった?

 化け物ですね。それともファンタジー?

 色々と頭を抱えたいとこだが、怪我をしてもすぐに治るって素敵なことだから気にしないでおこう。

ファンタジーって最高!


 次の変化は、厳密に言えば俺の変化ではない。

 いまや同居人となっているエディさんの変化だ。

 エディさんは「おはよう」と、俺に挨拶をしてくれたのだ。

 いやいや間違いではない「おはよう」だ。日本語で「おはよう」だ。

「未開人の俺と話すべきことはない」、みたいな雰囲気で会話を避けていたエディさんが朝の挨拶をしてくれたのだ。しかも日本語で!

 俺はその事実に天地がひっくり返りそうなほど驚愕して、おもわず喋りまくったが、エディさんは押されながらもよく分からない言語と日本語を交えて答えようとしてくれた。俺はエディさんが会話してくれるのが嬉しくて、夢中になって喋り倒してウザ嫌われたことは、いまは忘れておこう。

 っていうか、すげえなエディさん。俺と出会ってからそう日数が経っていないのに、単語単語とはいえ日本語を喋れている! 天才かっ⁉ 理解力がぱないッス! 俺の会話を聞いて学んだ所為かその口調は男のそれで、文法はめちゃくちゃ、接続詞が余分に付いていたり、あるべき場所には付いていなかったり、その他にも間違いだらけの日本語ではあったが、俺が思った以上に言葉は理解されているみたいで、心が繋がったような気分になれた。

 エディさん、マジぱねえ!


 俺的にエディさんの変化が一番のサプライズで、このまま言わなくてもいいかもだが、一応大きな変化がもう一つあるので語っておこう。

 その最後となる変化は、俺の服装が原住民族みたいなのから現代人のモノに戻ったこと。

 かなり薄汚れた状態だったけれど、俺の服が戻ってきたことだ(涙)。


 あれは海の景色を眺めに行った時のことだった。

 生死の境から生還した俺は、見ることやることすべてが新鮮に感じられ、あらためて海の持つ底知れないエネルギーを肌身で感じたいと思い立ったことが事の発端だ。

 海には人魚さんがいた。

 かなり久しぶりのような人魚さん。

 やっぱりと言うか、人魚さんは岩陰に隠れながらも俺をこそこそと窺っていた。バレバレだけど。俺に本気で気付かれないつもりなら一キロ以上離れるべきだなと助言したいぐらいにモロバレだけど。

 しかし俺はそんな人魚さんに気付かない振りをして、海の偉大なパワーを全身で受け取る。

 うおおぉぉぉ。生きてるってサイコーっ!

 そんな俺の叫び声に、岩陰に隠れていた人魚さんがびくりと跳ねた。どうやら吃驚させてしまったようだ。

 ……って、おいおい。マジですか。

あまりにあたふたしていて、人魚さんは人魚なのに海で溺れかけていた。

 なんでそこまで慌てるん? 俺は助けに行った方がいいのかなぁ?

 思考する前に俺の体は腰まで海に浸かっていたが、人魚さんはどうやら自力で立て直したようだ。上半身を浮岩に預け、すこしだけ荒い呼吸をしている。

 ――――今頃気になったけど、人魚さんは肺呼吸の生き物ですか? それともエラ呼吸と肺呼吸両方使えるハイブリットさん? 人魚さんを助けた時、俺はそんなことも気にせずに岩場の上に寝かしつけたけど、溺れかけた人魚さんが岩場の上で呼吸を整えているところを見ると俺の選択は間違いではなかったようだ。背筋に冷や汗が流れ落ちるが、まあ人魚さんは無事だったので笑って誤魔化しておこう。これは俺だけの秘密だ。

人魚さんと俺の視線が、バチっと重なる。

 うぉ、……おおぅ。

 人魚さんはすべての男性が「美人だ」と言うぐらい造形が整った上半身を持つ美人さんなので、俺は気恥ずかしさで重なった視線をずらそうとしたが、俺よりも先に人魚さんが慌てた様子で視線を外した。

 ……あれ?

 ……ぅうん?

 …これは俺の直感で、単なる想像なのだが、人魚さんは俺に隠し事をしている?

 人魚さんは俺にどこか負い目を感じている雰囲気を醸し出していた。

 俺はその場でジッと人魚さんを見つめていると、一度視線を外した人魚さんは恐る恐る視線を元あった場所に戻そうとして、そして再度俺と視線が重なったことで慌てて背中を向けた。そして頭を両手で抱え、背中をエビぞりにして、いかにも苦悩している格好をした。

 俺の直感が言っている。

 人魚さんは俺に隠し事をしている!

 と言うか人魚さん、隠し事ができない人ですねー。

 しかもどうやら誠実なお人柄のようだ。

 浮岩の上で《なにか》と葛藤している人魚さんを見ただけで、人魚さんの人柄が分かる気がする。どこか俺と似た雰囲気を感じた。

 人魚さんは《なにか》に打ち克ったのか、先程までとは違う『決意した』女の顔をしていた。その『決意』が俺には分からなかったが、おそらくすぐにわかることだろう。人魚さんは真っ直ぐに俺を見ている。

いやー、てれてれ。

真っ直ぐ見つめられると、真面目な顔ができない。

 そんな俺を見て人魚さんは海に潜って消えたが、俺の直感はすぐに会えるだろうと確信している。俺にしては珍しいがその勘に絶対の自信があった。

 実際に人魚さんは三十秒後に俺の前にいた。

 その手には、無くしたと思っていた俺の服を握って。





 装着完了!

 返してもらった服を洗濯して乾かすのに一日を使わなければいけなかったが、今日の朝には服も乾いていたので、脚を通して袖を通してやっと人間っぽくなれた気分だ。

 グッドバイ、葉っぱ服。

 いずれまた君たちの力を借りる日は来るだろうけど、いまは休んでいてくれたまへ!


 先日に、人魚さんから返してもらった衣類を着た俺は最強だ。

 足にぴったりとフィットする靴は礫石などの攻撃から足裏を完璧に守り切る防御力を誇り、長時間歩いても疲れにくい構造をしている。

そして防寒性と発汗性に優れ、高い伸縮性と弾性を持ち、そして何故か防刃性・防弾性までも兼ね備えた、見た目はジーンズのようでありながらも軽量級のズボン(名称は覚えていない。値段だけはやけに高かったことは覚えている)は文句の付けようがない一品だ。

アンダーシャツは普通の既製品だがなによりも軽量で、柔軟性・伸縮性・防寒性・発汗性は素晴らしいの一言ですむ。

多目的ポケットが大量に取り付けられた、ポケットお化けジャンパーと言うべき上着も、その使用用途に違わず優秀で、着て暖かいなどとその重要性は高いが、現時点、夏のような気候では、ごめんけど不要の長物扱い。胸ポッケに入れていたライターと、アルカリ単四乾電池×2(未開封)、レーザーポインター、手の平サイズのプラスチック鋏を取り出して、洞窟の奥で葉っぱの服と一緒におやすみ。

 これで防具も整ったし、ある意味最強の武器も手に戻った。

 もう一度言おう、これで俺は最強だ。どんなファンタジーでもかかってこいや!

 ……いや、もちろんオタマ弱視さんみたいにレーザーポインターの光を目に当てても効果の無いファンタジー生物はお引取り願いたいですけどね?


 しかしこれだけ装備が整うと、山でも森でも危険度はかなり減ったと思う。以前の装備が戻って来ただけなのだが、昨日までの不便な生活を振り返ると強くそう思う。

昨日までは足元の尖った岩や植物にさえ気を付けなければいけなかったのだ。

食料調達と同時に危険性のある動物にも気を配り、全体の地形を把握して脳内地図を作ることにも加えて身近にある危険な地形も把握して、天候も気にして、危険な空気や危険な雰囲気にも勘を働かせ、初めて見る生物がどれほどの危険性を秘めているのか観察して……、他にも色々気を張って……――――、

とにかくまあ、とんでもなく疲れるのだ。

 それをほぼ毎日続けなければあっと言う間に無くなる食料事情もあって、かなり結構めちゃくちゃに大変だったのだ。

 一度人の手が入った自然ならともかく、この島マジで手つかずの大自然で、移動するだけでも体力使う……。

 その多大な苦労が、人類文明が生み出した装備によって軽減されるとなれば、諸手を上げて喜ばずにはいられまい!

 服が無くなって以降、枯れ枝+ツタのコンボがひしめく場所は人外魔境の土地として敬遠していたが、最強フル装備の俺に行けない場所は無い。鉈でザクザク前方を切り払い、防御力の高い靴とズボンは尖った枯れ枝を寄せ付けない。

フハハハハ、とめれるものならとめてみやがれ! これまでよくも俺の歩みを阻害してくれたな枯れ枝よ! しかし今の俺には無力だ! 黙って踏み拉かれ道となり、俺の行く末を見届けるがいいわ!


 超ラクちんだ。

 服が無くなって以降、極端に狭くなった探索距離が一気に伸びた。

 多大な苦労をしてきたおかげか慣れか所為か、それとも回復力が高くなったおかげか、服があった以前よりも、より多くのモノを見通し、より早く、より力強く前に進むことができる。



 よかった、よかった。

 俺が寝込んでいた所為で干しサケぐらいしか残っていない食料備蓄に蓄えができて、本当に良かった。良いリハビリになった。






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