【二十二日目】
【二十二日目】
先日のことを振り返ろう。
先日、鉄の木から飛び降りた時、俺は目測を誤った。
両手で鉄木の枝をつかみながら振り子の要領で飛んだ俺は、ちょっとした失敗が大きく響いてジャンプ力が足りず、両足着地するはずだった緩衝材(木の枝)の下を通過した。
予測軌道から遥か二メートル下を通過する、大誤算ジャンプ。
五メートル八十センチ下の地面に激突コースを辿る、大失敗跳躍。
しかしながら普段の行いが良い所為か、俺の悪足掻きのおかげか、俺の左手は緩衝材予定だった枝をわずかに掴み、落下速度は緩やかになった。
地面にぺっしゃんこだった運命が、左手の奮闘により塗り替えられた形だ。
もちろん左手だけでは飛び降りた衝撃を受け止めきれるはずも無く、かなりバランスが悪い状態で俺は地面に落ちてしまったが、足やら尻やらが非常に痛くなっただけで重大な損傷がなかったことは不幸中の幸いだろう。
しかし頑張り過ぎた左手は、――――とくに人差し指と中指はポッキリと逝っちゃった。
おうぁー。
どんどん赤黒く腫れて行く、左人差し指と中指。
徐々に大きく膨れ腫れる指の様子は、見ていて気持ちのいいものではない。
とりあえず俺は痛みよりも見た目で泣けてくる骨折指に当て木して、笹の葉を巻いて固定させる。投げ落とした鉈をささっと拾い腰に差し、切り落とした鉄の枝葉をせっせと回収して右腕で抱えるように担ぎ、すたこらさと拠点としている洞窟に戻った。
徐々に痛みを増して行く骨折した箇所。
脂汗がじとりと浮いてくる。
過去に骨折は何度かしているけれど、その痛みには慣れそうもない。
じわりじわりと這い寄るように忍び来て、のちにガンガン攻め立ててくるから嫌いだ。
あああああ。
あああああああ。
あああああ。
その痛みを、五・七・五調で表現するとすればそんな感じ。
究極に耐え切れないほどの痛みって訳じゃないけれど、呻きたいぐらいには痛い。
とにもかくにも、俺は遭難生活中にやってはいけないことをやっちまった。まったく俺って奴は現状を把握する能力にとことん欠けていやがる。いったいどういうつもりなんだろうか? もうすこし安全に気を配って行動をしろと、間抜けな俺に言ってやりたい。
何度自分に言い聞かせても、今日に至るまで俺の無謀好きは治らなかったけどー。
一年の半分近くの日数をどこか怪我している俺は、根っからの大馬鹿野郎かもー。
しばらくの間、左手の人差し指、中指は封印だ。
遭難中にもかかわらず、これから俺はおもに右手一本で色々な作業をしなければいけない。
不便ですねー。
だが、骨折して悪いことばかりではない。
何故そのようなことを言うのかと言えば、それは昨日の昼・夕食と今日の朝食を、俺が何も言わなくてもエディさんが作ってくれたからだ。
料理当番は半ば自然な形で交互に作る流れが出来つつあったのに、昨日から調理場はエディさんの独壇場となった。
相変わらず見慣れない食材に悪戦苦闘してたけど。
火の調節に失敗してやっぱり焦がしてしまったけど。
だが大丈夫、心配するな。俺は基本的になんでも食べる。ちょっとした毒物ぐらいなら平気で食えるぜ!
と、それは失礼か。
エディさんの手料理は毒物じゃないし。
普通に美味しく頂けているし。
自分が作るよりすこし失敗した粗雑な料理なのに、他人の手料理って、なんでこんなに美味しく感じるんだろう? 不思議だなぁ。
もぐもぐ、ごくり。ご馳走様でした、っと。
さてさて、今日は何をするのかと問われれば、それなりに食材確保もできて余裕ができたので、生活改善を目指そうか。
拠点としている洞窟内からほど近い適当な更地の上に、砂浜から持ってきた白くサラサラな砂を盛って小さな山を作ります。
その小さな山の周りを、頂上を除いて覆い囲うように粘土質の泥土を盛ると、なんとなく富士山を連想させる粘土ドームの出来上がりです。
それを半日間放置します。
そうするとあら不思議、粘土質の泥土は固まったので、その固くなった粘土を手頃な尖った石でトンネルの入り口のような穴を開けましょう。
開けた穴からサラサラとした白い砂浜の砂は外に出ようと零れてくるので、ドームの中にある白い砂は全部取ってしまいます。
それが終わると粘土でできたドームの完成です。叩いてみるとコンコンと響き、それなりの強度があるようです。
あとは実際に使えるかどうかの実験です。
粘土のドームの中に木の枝などの燃材を入れて、火を点けてしばらく放置。熱でドームが割れなければ完璧です。
これで充分に使用可能な調理窯のできあがりです。
これで火力の調節が楽になった。実験ついでに魚を焼いてみたんだけど、いつもより短時間でほっこりホカホカ、焦げも少なく良い感じで焼けました。なんと火力自体も上がってやがるぜ! これで、焦げているのに火が中まで通っていない悲しい事件ともオサラバだ。
調理窯を乾かしている間の半日間。
今日の俺は外に出かけず、包丁を作った。
先日ゲットした鉄の葉を刃として利用し、二枚の木板で挟んで、鉄の枝を楔に見立て打ち付け固定すれば、簡易包丁の出来上がり。果物ナイフよりも小さい手の平サイズの包丁だ。
試しに姫林檎の皮を剥いてみたけれど、見た目に反して意外なほど切れ味が良くてビビった。鉄の木に登った際、密集する鉄葉っぱの中へ安易に手を突っ込まなくてよかったと思う。やはりサバイバル生活では慎重さも必要だ。何事にも怯えているぐらいが丁度良いのかもしれない。強すぎる好奇心と無謀癖はサバイバル生活に邪魔だね。いまとなっては新聞紙にくるんで捨てたいぐらいだ。
包丁作りは体感時間でほんの一瞬で出来上がったので、ヒマになる。
同じような包丁を三本作ったが、すべて合わせても製作時間は一時間にも満たなかった。半日ほぼ丸々ヒマになった。食料収集に時間を取られないとなると、一日が長くなるような感じがするし、実際に時間も余ってしまう。
なので生活改善をさらに実行。
現在拠点としている洞窟は実用性や利便性は高いのだけど(あくまで自然にあるものの中で比較しての話し)、遊び心やユーモアが足りないので住んでいてツマラナイ。そもそも洞窟って時点で暗いイメージがある。サバイバル生活で必要不可欠な活力にカビが生えそうだ。
家でも建てちまうか。
家は一度吹き飛んだのでイマイチやる気はしなかったが、自分好みの家を自分で建ててみるのも面白いかもしれない。
――――と、そこまで思考したところで一人ツッコミ。
この場所に永住する気かっ⁉
だからなんで俺は家を建てようとしているのだろうか? 遭難をしている自覚はあるのか? まるっきりその自覚が無いとしか思えん! 俺は馬鹿な子なのか、いや、断言しよう馬鹿な子だ。大豪邸を建てる妄想までしてやがったよ俺。何年ここに残るのかって話だよ!
しかしまあ、家を建てるのは論外として家具を作るぐらいはいいかもしれない。椅子やテーブル、ベッドやタンスや棚。
必要性が高いベッドを最初に作ろうかと思ったが、大量の資材が必要なので断念した。頭の中では、竹のベッドや木のベッドが一瞬で出来上がるのだが、現実で作ろうとすればそれなりの労力を必要するので、いまは鳥の寝床のようなベッドで我慢しよう。
やはりテーブルや椅子を作るべきか。
それらの家具があるだけで、だいぶ文明的な人間に近づけるような気がする。
いまの俺は原住民族のような恰好をしているから余計にそう思うのかもだが、俺は文明人に戻りたい。エディさんのすこし距離が開いた視線をどうにかしたい!
超・切実な願いです。
いや、何度でも否定しますけど、俺は未開人じゃないですからね?
おそらくきっと、エディさんより高度な文明の中にいましたからね?
言葉が通じないことがすこし淋しい。




