【二十一日目】
【二十一日目】
いまさらながら、金髪美女さんの名前が分かった。
エディ。と言うらしい。
「エディー?」と尋ねると、
「ア・リヴァ」と続け、
「エディ」
と、言ったから、おそらく間違っていない。
金髪美女さんが使う「リヴァ」とは肯定を意味する単語で、「ア・リヴァ」と頭に「ア」が付くと否定の意味になる。「エディー?」「違うわ。エディよ」と言った感じだ。エリでもエディーでもなく、短く区切って「エディ」。どうやら発音にはこだわりがあるようだ。
ちなみに俺も名前を教えたが、エディさんの口ではどうしても発音できない音があるらしく、俺の名前はどこか間の抜けたほんわかとしたものになった。俺の名前はミスター「にゃがと」。何度言わせ直してもミスター「にゃがと」!
しまいにはエディさんが逆切れしてしまい、俺は名前で呼ばれることはなくなった。
にゃがと。という名前が定着するのと、名無し。いったいどちらがマシな選択だったのだろうか。ある意味究極の選択だ。
と、そのようなやり取りが今日の朝方にあったんだけど、今の俺は比較的機嫌が良かった。
何故ならそれは、久しぶりに他人から温かみを貰えたから。
美女であるエディさんの手料理を食べました。
美女であるエディさんの手料理を食べました(重要なので二回言った)!
味の感想としては、……うん、俺の手料理に溜息ができるほど上手くも美味くもない。素材をそのまま焼いた簡単な料理。むしろ焦がした分だけ俺の方が上手く作れていたぐらいだ。
調味料が塩しかなかった俺とは違って、塩に加えて二種類のハーブを保有するエディさんの乙女戦力は高いはずなのに、俺が貯蔵・保管していた食材の数々がエディさんにとってほとんど未知なのが彼女の大きな敗因だろう。それと火加減。サバイバルでの火の調節がエディさんには難しいのかもしれない。
美味しくはなかった。
だがしかし、焦げて失敗した料理を、キリリとした眉尻を下げて申し訳なさそうに料理を出すエディさんは可愛かった。焦げは発ガン物質だとされているけど、そんなこと知ったことじゃない。あまりに可愛かったので焦げの酷い部分を一手に引き受けたほどだ!
焦げの部分は、キチンと切り捨てましたけどね。
焦げを除けば素材自体は新鮮天然ものなので、大変美味しく頂けました。
あくまで『料理』としては上手くなかったし美味くなかったけど、他人に作ってもらう料理ってなんでこんなに美味しく感じるのだろうか。
うまうまでした。
……今日の朝食は俺が作らされたけど。
まあ、そんなネガティブ些細なことはあと五秒もあれば覚えてないので、今日は一日機嫌良く探索ができそうだ。
この島の不思議動植物にも見慣れてきた。
この島には日本から動植物と、エディさんの世界からの動植物が住み着いているっぽいが、その他の世界からも色々な動植物が住み着いているっぽい。エディさんと言葉が通じればある程度検証もできるだろうけど、現時点では憶測の勘だ。そんな気がするというだけ。
ダーウィンの進化論を真っ当に歩んできたような奴等と、自然の摂理すら無視したかのような生物が混在する法則無視な無法島。
その出鱈目具合にも慣れてきた。
俺が今日新たに見つけたファンタジーは、木を模した鉄のアート。
誰が作ったの? と思わず誰かに問いかけたいぐらいリアルに彫刻された、天に伸びる鉄の柱だった。高さはおよそ十六~二十メートルほど。ほとんど真っ直ぐ上に伸びている木で、半ばの八メートル付近から枝葉が生い茂り傘のようになっている。遠くから見ればその姿はキノコみたいだ。本当にリアルな広葉樹を模した鉄のアートだった。
森の真ん中にあるそれは、近寄って見て見ればさらに異質さを増して行く。
え、嘘、マジで?
この鉄柱もどき、成分は鉄っぽいけどちゃんと生きている木だった。
触ってみるとその違いがはっきりとわかる。
生きている木の鼓動。地下から水を吸い上げ、上の枝葉にまで運ぶ音。
硬質的で冷たいはずなのに、どことなく暖かい鉄の木。
すげえなファンタジーっ!
俺は試しにその木を軽く蹴ってみるが、足が超痛い。
抱きついたら体が際限なしに冷えて行く。比較的森の中は木陰が多く涼しいのだが、それでも気温は高いので冷やされると心地良い。
根元から八メートルぐらいは木陰の中で抱きついている部分は冷たいが、直接日の光に照らされている頂上部分はどうなっているのだろう。やっぱり鉄のように熱くなっているのか?
ふむ。
ふむふむ。
俺はそれを確かめることにした。
今回は好奇心だけの行動ではない。もしこの木が鉄と同じ性質を持っているのなら、色々と有効利用ができそうだからだ。
具体的に言うと料理に使えそう。
というか、料理に使う。いい加減「直火焼き」「煮る」以外の加熱手段が欲しいです。
だから俺は登ります。二本のツタロープを鉄の木にまわし、ツタロープの両端をそれぞれ両手でしっかり握り締め、ツタロープと木の摩擦で体が固定されているうちに片足ずつ登ってはツタロープを上に動かして再度体を固定して。――――を繰り返して鉄の木の真ん中付近、影と光の境界線まで辿り着く。太枝と太枝との間に体を挟み入れるように固定させて、ちょっと休憩。
結論。
鉄ですねこの木。
日に当たった部分はめちゃくちゃ熱かった。これより上を目指すとツタロープが焼き切れ、肌が接触すれば火傷をすることだろう。
なので俺は頂上を目指すことを諦めて、この場所で鉄の枝葉を切り落とそうと試みる。
腰に差していた鉈を取り出して、えいやっ!
かなり硬い感触とともに鉄の細枝は折れて地面に落下。鉄はあるだけあるほど有効活用できそうなので、鉈で切れる細枝を見つけては、ガキンガキンと耳障りな硬質的な音を響かせる。
ふう、なかなか厄介だったぜ。
二撃目の時点で鉈が刃こぼれしているのに気付いたので、鉈の背の方で強引に力尽くに叩き落とす方法を選んだせいか、かなりの重労働になった。良い汗かいたぜこの野郎。途中バランスを崩して落ちそうにもなったが、股で太枝を挟んでいたので上下がひっくり返っただけでセーフ。ただ、その際に鉈を地面へ落としてしまったので、取りに降りた後もう一度木登りするかどうか悩んだものだ。
木登りは、登るより降りる方が面倒臭い。ツタロープの強度が信用に足るなら、シュルルルルーと落ちるように降りられてそんな煩わしさは無いのだが、摩擦熱による断裂が怖いのでその手段はとれません。一歩一歩確実に降りる。それが現時点の最善の降り方だと理解はしているんだけど、やっぱりそれは面倒臭い。
だから俺はその降りる労力を極力無くすため、クッションとなる他の木の枝を狙って《飛び降りました》。
八メートルの場所から飛び降りて平気なのかって?
平気ですよ。
俺の身長は(サバ読んで)百八十センチ。万歳した状態で、足の爪先から手の平までの距離を測れば二百二十センチってとこだろうか。八メートルの位置にある枝に両手でぶら下がれば、それだけで地面までの距離は残り五メートル八十センチだ。
元々俺は三メートルぐらいの高さぐらいなら躊躇なく飛び降りることができるし、四メートルの高さから飛び降りても足が痺れるのが嫌なぐらいで問題はない。
五メートルの高さから飛び降りても、三転着地の自己改良版である六点着地(足の爪先→かかと→右膝→右肘→右手甲→ヘルメット着用時の右側頭部。その勢いで回転して両足着地!)で全身に衝撃を分散させれば、「衝撃きたーっ! 肺が、空気が、呼吸がっ⁉」ってなぐらいで怪我はしない。
今回は間に緩衝材があるので、気分的には四メートルぐらいの飛び降りだ。両足痺れて嫌な気分になるだろうけど、よっぽどのへまをしない限り怪我はない。
実際に飛び降りた後、両足痺れてもう登りたくねぇ気分にはなったけど、時間の経過で痺れは解消されたので、切実な食事上問題解決のためにもう一度木登りしました。
とまあ、そんなこんながありまして、鉄材集めは終了した。
あとはもう一度降りるだけ。
飛び降りるか、それとも堅実に一歩一歩降りるのか。
やっぱり俺は面倒臭いのが嫌な性分なので飛び降りを選択。
先に鉈を投げ捨てて、緩衝材とする木の枝を見定めて、とうっ!
……へまをしました。




