【十九日目】
【十九日目】
誠心誠意、心の底から平謝りしたら許してもらえました。
いや、実際に俺が悪かったしね。自分が悪くないことに下げる頭はないけれど、自分が悪いと思ったことに対して頭はとことん低くなりますよ。地面にめり込むぐらい低くなるぜ。
昨日丸一日、姫に付き従う騎士のように、お嬢様の傍らにいる執事のように尽くすと、機嫌を若干治していただけました。
言葉は伝わらなくとも誠意は伝わりますから。
さあ、今日から通常運転だ。金髪美女さんも歩くことができるぐらいに元気になったし、付きっきりの看病は必要ないだろう。
この数日で食事情が厳しくなった。もちろん原因は看病に時間を取られたからだ。
かわりに在宅ワークの時間は増えたので、綿から糸を紡いだり、どこかの原住民族っぽい竹革製ベルトホック付きのズボンを二着とバナナの葉で作ったケープのようなものを二着作って、裸族からは脱出している。だが自分のことながら文明人にはちょっと見えないなぁ。実際に、未開人を見るような目で金髪美女さんは俺を見ている。自分だって中世ヨーロッパの庶民のような前時代的な服装なのにっ!
まあ、どちらの文明度が高いとか、不毛すぎる争いを勃発させても有益なことなんて一つもないので、ここは生きるための行動を最優先にしようではないか。
金髪美女さんが外を出歩くにはまだ体力に不安があるので、外に採取に出かける男と、洞窟内で内職をする女にわかれます。適材適所な仕事分担。食器が一人分しか数はないので、金髪美女さんに鉈を渡して、身振り手振りで竹製食器を作ってくださいと御願いする。俺は斧を担いで適当な獲物でも狩ってきますか。そろそろ肉も食いたいしな。滋養強壮のためにも動物性タンパク質は欲しい所だ。魚でもいいけどさすがに毎日続くと飽きてくる。そもそも手持ちの料理のレパートリーが多いわけではないし、限られた食材だとなおさらだ。塩しかない調味料のすくなさには泣けてくる。
なのでお肉!
口の侘しさ改善のためにも、たまにはジューシーなお肉が食いたいわけですよ!
コンバットフルオープン。
という出来事は、なにひとつとして無かった。
やっぱり近距離武器だけだと、獲物を見つけてもどうもできないな。シカやイノシシ、あとはダチョウ体型でトカゲ鳥みたいなのを見つけたが御手上げだった。人間の足で追いかけっこは勝負にならない。だから今日は素直にお肉を諦めて、ツタロープで作った簡易罠を仕掛けて明日以降お肉が食える日を願う。
今日の収穫は山菜とキノコと果物、あとはやっぱりサケだ。
季節外れ感満載のサケの遡上が、数は少ないながらも見られた。
気温的にいまはもう秋ではなくて夏なんだけど、そうそうすぐに適応はできないってことなんだろうなぁ。まあ、そのおかげで今日も俺の御腹は満たされるので感謝なわけだけど。
だけど最近、毎食サケが出てきているような……。たとえ一匹でも量が多いから、食っても食ってもなくならない感じ……。そろそろ辛い……、限界……。
切に料理のレパートリーが増えることを願います。
収穫物を背中の籠に、金髪美女さんが待つ洞窟に帰ってみると、あれまあまあ、ふてくされているような金髪美女さんがいた。
キリリと凛々しい眉尻を下げ、明らかに俺と顔を合わせようとしていない。
「内職の成果はどうでしたか?」と、迂闊な発言は控えておこう。材料として置いていた五メートルほどに切り分けた竹が二本も無くなっているのに、食器の数が増えていないように見えるのは、見なかったことにしておこう。
まあ、人間向き不向きがあるし、できなかったことは仕方がない。俺なんか基本なんでもやるからなんでもできるけど、どれもが中途半端な器用貧乏の典型的な男だしな。料理の腕は下の上ぐらいで才能なんて感じられないし。やっぱり勘で作るのが失敗する原因かなぁ。
俺は一言「料理するから手伝ってー」と言うが、ふてくされ美女さんはふてくされたままだ。しぶしぶ俺は部屋の隅に寂しく置かれている鉈を洗って、一人でサケを捌く。鉈はなかなか万能な刃物だけど料理をするにはちょっと面倒だ。単純に大きさとごつさが精密作業をするのに向いていない。中華包丁だと思えば気にならないけど。慣れたら慣れたで豪快な男料理が作れるけど。しかしたまには繊細な料理も作りたいので、新しい刃物が欲しい気分。どっかに包丁が落ちていないものかねぇ?
調味料が塩しかない現状ではどうしても単純な料理になりがちなので、今日はそのままサケの切り身を焼いたものがメインです。副菜に焼きキノコ。なんという工夫も何もない料理! 料理をしたこともないダメ男だって作れる料理だ。
いや、なんかごめんなさい。
言い訳一本、何故か入ります。
ですが聞いてください。
俺も、けっこう疲れてるんっすよ。
一日ぐらい手抜き料理があったって、いいんじゃない?
しかし、ふてくされ美女さんは出された料理を見て、はあ、と溜息。なんだか俺までどっと疲れそうな溜息だ。
実際に俺は疲労のピーク、お疲れモード。なにがそんなに俺を疲れさせたのかと思うが、やはりファンタジーで危険溢れる世界が徐々に俺の精神を蝕んでいるのだろうか。獲物を探しながらも逆に狩られる可能性に怯えるのは、知らない間に相当精神にクるようだ。
……なにか、…特別な癒しを、……俺に…。
そんな俺の精神状態を知ってか知らずか、金髪美女さんは御飯をよそにふらりと周囲の草葉の陰を探索。なにを探しているんだ? と思ったのも束の間、ミツバによく似た葉っぱを二枚ほど左手で持っている。ミツバに似ているけどミツバではないので食べるのを躊躇していた葉っぱだ。
ああ、なるほど。それは食用なのですね。
千切ったそのミツバもどきが、問答無用でサケの切り身の上にふりかけられていく。
俺はそれを親切だと受け取り、サケの切り身ごと、バクリと食いついてみた。
っっっッッ⁉
びっくりだ! 一瞬口の中がぶっ壊れたかと思うぐらいの痺れる感覚が脳天を突き抜けた。しばらくの間「おおおおお」と体を震わせることしかできないほどの衝撃だった。しかしその痺れは二秒ほどで治まり、ぶっ壊れたような味覚も徐々に元に戻り始める。……いや、むしろ味覚は以前より鋭敏なぐらいだ。サケの脂の甘みがより強く、それでいてまろやかに感じられる。わずかばかり感じられた魚臭さも消えていて、サケの切り身が別の食べ物に変身を遂げているようだった。
新・感・覚っ!
これまで食べたことのない未知のお味!
俺がその味に感動していると金髪美女さんは不敵に笑う。
すごいぜ金髪美女さん、これだけの衝撃があれば、感じていた疲れも、未だ一人分しかない食器も、すべてを忘れることができそうだ!
この日の夜中、俺はもう一人分の食器をコツコツと作りました。




