【十五日目】
【十五日目】
遊び疲れて朝がつらい。
けっきょく昨日は一日中海を堪能してしまった。
俺は悪くない、遊び呆けたのは俺だけの所為じゃない! 真夏日よりなのがいかんのだ! あれだけ暑くて気怠いと何もする気が無くなるファンタジーな季節感が一番悪いのだ! あと人魚さんもだ! 俺が砂の城を造ってその場を離れると、いつの間にか海から這い出て感動の眼差しで城を眺めていたので、さらに感動させたくて、ほぼ一日がかりで大作を造ったのは俺の所為じゃなくて人魚さんの所為だ!
……と、以上までが、男らしくない言い訳でした。
誰が悪いかって、もちろん俺です。
海水浴することを決めたのも、砂遊びに熱中したのも、すべて俺の判断で俺の責任です。
日焼けが超辛くても、自業自得。
遊んで後悔しかないのも、自業自得。
家・食料・水なき子なのも自業自得です。
ただ、服が無いのも俺の所為か?
置いてあった場所や、その近辺をいくら探しても、どこにも服が無いのは俺の所為か?
昨日から今日にかけて、俺は裸族になっていました。
さすがに下を丸出しと言うことはないけれど、先日出会った狼男よりも少ない装備は心もとない。せめてズボンは欲しい。人目が無いにしてもパンツ一丁の姿は人間としての尊厳が、じわりじわりと削られているような気分だ。
なので今日は朝から服探しの旅だ。
俺の記憶違いでなければ、服が無いのは誰かが盗んだってことになるのだが、その《誰か》とは誰になるのだろう? 今日までで出会った生物の中で服の必要性がありそうなのは、人魚さん、蜘蛛少女さん、狼男の三名。その三名の姿を思い浮かべるが、誰も俺の服を盗みそうにない。性質的には人間よりも昆虫に近そうな蜘蛛少女さんは論外で、一番需要性がありそうな狼男は義理堅い雰囲気があったので違うと思う。時間的にも位置的にも一番怪しいのは人魚さんだが、男物の俺の服をわざわざ海の中に持っていく必要があるのだろうか?
やはり、他の誰かの仕業と考えたほうが自然だ。
しかしそうなると、服探しの旅も行き詰まりを見せる。
どこを探せばいいのか、まったく想像できない。
とりあえず昨日と同じく服を置いたその周辺を探すが、俺の服はどこにも見当たらない。
くそ、こうなったらやっぱり視点を変えよう。服そのものを探すのではなく、服は盗まれた前提で犯人を探しだすべきだ。
その手掛かりを探るために捜索を一旦中止して、服を置いていた現場へと戻る。今度は服を探すのではなく、《誰かがいた》その痕跡を、目を皿にして探す。
……うわー。俺はバカかー?
服を置いていた現場に戻ると証拠はすぐに見つかった。むしろ「なんで気付かない」と問いかけたいぐらいに明白に残されていた証拠。
犯行現場から砂浜を横切って海まで一直線に伸びる、なにかが引きずった跡が、そこにあった。
男らしくなかろうが、言い訳をさせてもらおう。
俺はその物的証拠に気づいていた。
しかしだ、俺はその物的証拠を見て見ない振りをして、頭の片隅からそのことを消し去った!
何故ならば!
その物的証拠が指し示す結論は、友人を『疑っている』ということなのだから!
要するに、人魚さんを疑っているわけですよ。
だけども俺はそれを信じたくないわけで。
他の犯人を捜しているわけですね。
犯人が残したと思われる証拠が海に向かって伸びているからと言って必ずしも人魚さんが犯人だとは限らないし、真犯人が犯行を偽装するためにわざと残したとも、――――可能性は限りなく低くても、ないとは言い切れないしなぁ。
だけども、今事件の最重要容疑者である人魚さんに一度話を聞いてみることにした。その決心がやっとついた。公私混同はするべきではない。何故なら情に溺れ、犯人探しもせずに曖昧に終わらせると、俺は裸族のままになるからだ。ここは心を鬼にして人魚さんを問い質すつもりだ。誰でもいいから服を返してくれってのが俺の偽らざる本音だから、どっちにしても私情って感じだけど。
俺は海を眺めてみるが、今日に限って人魚さんの姿は見えない。
いつでもいる。と言う訳ではないのだから、いなくても不思議ではないのだけど、姿が見えないと犯人である疑惑が深まるから不思議だ。猜疑心はどこからともなくやってくる。にゅるりと音もなく忍び寄る感覚で好きじゃない。
ふむ、人魚さんはいないなぁ。
しばらく海を眺めていたけど、いつも隠れていても隠れきれていない人魚さんはどうやら本当にいないようだ。仕事でも忙しいのかな? 仕事があるのか知らんけど。
はあ、……溜息吐きたい。
マジで俺はこれから裸族になるのか?
なっちまうのかぁ。
俺が知っているだけでも世界には十以上の部族が裸族で、西欧人の極一部も裸族みたいなものだから問題ないか。……問題ないね! なんとかパンツだけは確保できているし、ぜんぜんおっけー、モーマンタイっ!
クヨクヨするのはこれまでだ、服は「見つかればラッキー」気分で置いといて、そろそろ遭難中であることを思い出そう!
かれこれ遭難して二週間以上経過したわけだけど、当然のように捜索ヘリなどが飛んでいるところを見たこともない。ファンタジーな世界まで俺を捜索してくれる人がいたら感激で前が見えなくなりそうなほど涙を零しそうだが、そろそろ救助は完全に諦めようか。
もとより最初からほとんど期待はしていなかったけれど、それでもやっぱり一縷の望みは抱いていたんだよな。悪足掻きっぽい感じで。
そもそもここが異世界だとして、日本がある世界とちゃんと繋がってるのか?
なんとなく、雰囲気的に、感覚論で、すでに俺がいた世界との繋がりが切れているような気がする。本気でマジでただの勘だ。根拠も理屈も何もない。…………いや、根拠も理屈もあると言えばあるのか? 季節が急に移り変わったことが、俺の勘の根拠だ。
俺が来た当初のこの島は、日本と同じ季節の中にあったと思う。
気温も湿度も流れる空気も、雰囲気を除けば、日本海に浮かぶ秋の孤島と似たものがあった。
だけど今は違う。
いまの気候は明らかに日本のそれではなく、どこぞやかと似た空気だった。
この空気はどこの国だっけな? 暑いから赤道に近い国だったとは思うんだけど。でもどこかが違うからハッキリと思い出せない。
ふむ。
俺は「どこだったかな」と悩みながら海岸線沿いを歩く。遭難中だから食料確保を優先しなければだけど、靴さえないパンツ一丁の頼りない装備で山・森の探索は危険すぎる。足の裏が切れちゃいますよ。なので、効率は悪いとしても海の幸をトロトロと探す。
昨日は嵐で打ち上げられた深海魚を回収できたのだけど、さすがに今日になると砂浜に転がっている深海魚たちを食べようという気にはなれない。見た目もそうだが衛生面でもグロそうだ。
素足で岩場の貝を集めるのは大変なので、浅瀬で小魚でも捕ることにしようか。
事後結果。
浅瀬での魚捕り(素手)は、ほとんど収穫はなかった。
やっぱりサケは弱っていたんだな、と思う今日このごろ。狩りをなめたらいけないぜ!
浅瀬で捕まえた小魚では、喜劇の肴にもならなかった。
一苦労あったとしても靴、あるいはサンダルでも作ってから、ちゃんと獲物がいる場所を探せば良かったですとね。
残念な結果に肩を落としながら、俺は海を後にする。
……うん?
なにか俺の直感が囁いている?
直感と言うよりも、俺の目は違和感を捉えることに優れているから、そちらの方かもしれない。この感覚は人魚さんと出会った時と似ていた。
もしかして人魚さんがいるのか?
今日はまだ一度も行っていない岩場に、妙な違和感。
俺の危険察知レーダーが言っている。岩場に危険はないと。だから安心して行って来いと!
理性が無くなったらそれこそもう純粋な好奇心の塊のような俺は、わくわく気分で岩場に突撃敢行。足裏に小さな傷ぐらいなら御構いなしで、ずんとこ進む。
おお、……デジャブだっ!
しかし目の前にあるのは妄想ではなく現実で。
岩場には傷だらけの女性が倒れていた。
というか、…人間だっ⁉




