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【十日目】

【十日目】

 今日は朝から仮住まいを造った。

 細竹とバナナの葉を使った、半球体の、どこかの原住民のようなお家。隙間風は入り、雨が降れば雨漏りもするだろうけど、あくまで仮住まいなので贅沢は言いません。

 完成した家を見ると、すこし昔を思い出す。

 モンゴルを旅していた日のことを。

 モンゴル民族の伝統的な家である『ゲル』とは趣が違うのだけど、簡単に建てることができたという点においては似たところがあるかもしれない。だけどゲルに比べても俺が建てた家は雑な造りで、なんだか色々悔しいので後で本格的な家を建てようと思った。

それと、羊や馬も欲しいな。

 羊は家畜として有能だし、馬は移動手段として大活躍だ。

って、おいおい。俺はここに永住する気かっ! と一人ツッコミ。

 仮住まいはあくまで仮住まいで、時期が来ればここを去るつもりですよ、一応は? もしこの世界には最初から人類がいないなら「しょうがない」とここに骨を埋めることになるかもだけど、俺は確かめもしないことを諦めたりするわけないので旅に出ますよ、絶対に。なんたって俺は根っからのチャレンジャーだから!

 なので、旅に出るためにも保存が効く食料を製作中です。

 いくら食料が豊富だからといっても、手の届く範囲に必ずあるとは限らないし、冬になるとどうなるかもわからないし、最低限の備えってやつです。いらない気もするけど、一応ね。

 お魚は腹を開いて天日干し~。果物も薄切りとかにして天日干ししてドライフルーツ化計画進行中。あとは塩が欲しいので窪みがある大岩に海水を注いで放っておきます。今日の天気は快晴なので折を見て海水を注ぎ足そう。あとはそれらの保存食を保管する器が必要か。竹は器として有能だけど多く持ち運ぶのはつらいので、旅に出る際は他の何かを探しおこう。

 ここに滞在している間の食器代わりとしては、本当に有能だけどね、竹は!

 すでに制作してある水筒だけでは物足りないので、器や皿も作ろうか。

 豊かな生活は豊かな食生活から~。

 俺は竹で器やコップや受け皿を作る。

いつの間にか興が乗って、水鉄砲やら竹とんぼ、鳥籠まで作っていた。

 やっちまった! 日を見ていると太陽はすでに正中線をとうに過ぎておやつの時間帯にさしかかっていた。意識すると小腹も空いていたので、天日干しした半生ドライフルーツを食べようかと、干しのいる現場へと足を運ぶ。




 様々な食料を干した場所には盗人の現行犯、《ホシ》がいた。

人っぽい、――――だけどもあきらかに一目で『人』ではないと分かる《ホシ》。

 ありきたりな表現と簡潔な言葉で説明しよう。

狼男が盗み食いをしていた。

…………。

…………。

…………。

 あー、

うん。

狼男は随分と衰弱しているように見えた。

 上半身裸、下半身は長ズボンの狼男は全身濡れネズミ状態で、一つ一つの動きも遅く弱々しい。長い間水に浸かっていて、ついさきほど陸に上がってきたような感じ。遠目なので分かりづらいが、もしかしたら寒さで全身を震わせているかもしれない。

 暖かい岩の上に座り、まだほとんど生状態の魚を、ゆっくりと咀嚼している。

 俺が狼男に気づかれていないのは、偶然風下にいるのと、狼男が衰弱しているおかげだと思う。いくら俺が気配に敏感で狼男より先に姿を目に捉え、それなりに身を隠すのが得意だとしても、野生に生きていそうな狼男を相手にバレないのはそれ以外に考えられない。

 ふむ。

 ふむふむ。

 しばらく狼男を観察して、俺は彼の前に姿を出すことにした。

 人のもんに何勝手に手をつけとんじゃわれぇ! と一言文句を言うついでに、意思疎通ができて友好的な関係を築けるなら、それに越したことはないからだ。誰とも知れない狼男がうろつく状況って怖すぎる!

 ちなみに言うと、狼男が暴れても大丈夫なぐらい彼が弱っていることを確認できたこともある。たとえ狼男が生物として人間よりも強いとしても、今の彼なら怖くない! 超保身的な考えがあってのことです。要するに、後々恐怖に怯えるか、今ここでどうにかするかの問題ですね。問題を後回しにするか先にするかの選択です。

 俺が姿を現すと、当然狼男は警戒した。

 おお、何かよくわからない言語を喋った。音の響きと雰囲気からして誰何しているようだ。どちらかというと俺の方が「あんた誰?」と言いたいが、弱った獣は怖いので素直に答えよう。

 うん、でも言葉は通じない。

日本語で喋ってみたけれど言葉は通じていないようだ。仕方がないので俺は干し魚とドライフルーツを指差し、それは俺のだと言ってみる。

 言葉は通じなくても意図は通じたのか、狼男の警戒心はすこし薄まったような気がする。だけどその場から動く気配はない。

 ……仕方がないなぁ。

 俺は落ちている枯れ枝を拾い集め、ライターで火を付けた。

 狼男がただのケモノなら火を恐れるかもだけど(それはそれで安全が保障されたことになるので良いのだが)、人間に近い知的な生命体であると思うので、火で体を乾かすことを提案した。俺は火から離れ、森の浅い場所で追加の燃料である枯れ枝や半生枯れ枝を探す。


 戻ってみると狼男はたき火にあたっていた。

 狼男は当然周囲を気にしているので俺の接近に気付いているが、あからさまな反応は見せなかった。警戒だけはしているようだが。

枯れ枝とともに綿植物も拾って帰った俺は、それらを狼男の近くに置く。そして天日干ししている半分生の食料を持ってきて、半生な魚は焼いて食うことにした。

おらよ。

焼いた魚を一匹、狼男に渡す。

 狼男は竹串に刺された焼き魚を受け取り、狼の口でゆっくりと咀嚼する。

 こうやって間近で見ると、ものすごい口をしているなぁ。そのまんま狼の口だ。半分人間の体型なのに一部は狼と変わらない。まさに狼人間、ばくりと噛みつかれたらひとたまりもないだろう! うん、助けて正解だよ。こんな戦闘力が高そうなやつと敵対していたらと考えると夜も眠れなかったかもしれない。

 天日干しをしていた食材を黙々とすべて食い尽くした俺たちは、とくに何も話し合うことなく別々に行動を開始した。

 俺は塩精製のために窪んだ大岩に海水を注ぎに。

 狼男はまだ体の奥が凍えているのか、たき火の前で浅く眠った。



 窪んだ大岩に注いでいた海水はかなり蒸発していた。大岩の底の部分に薄く塩の結晶ができている。俺は明日の天気を予想して、その結晶を回収することよりも、量を増やすために海水を注ぐことにした。雨が降れば台無しだけど、明日は晴れるから大丈夫だ。

 海水を注いだ後は再度保存食を作るために魚を捕りに川へ行った。

 地質学的に、半島のような場所に二級河川ほどの大きな川があるのはとても不自然なことだけど、あるのだから仕方がない。多種多様な川魚が取れる魚の宝物庫のような川で、クマのようにサケを素手で掴み取る。フハハハハハハ、どうだ、凄いだろう! むかしから川遊びはよくしていたので、泳いでいる川魚を素手でゲットできる技術を身に着けているのだ!

 まあ、川登りと産卵で弱っているから簡単に捕まえられるだけだけどね。

時間を掛ければ他の魚を捕まえられないこともないけれど、わざわざ面倒なことをする気はないので素直にサケばかりを捕まえます。

うむ、大量だ! ――――と言うほどでもないけれど、気分的にそう言った。

今日の晩飯分と保存食用だけではなく、ついでに狼男の分まで捕った。具体的な数を言えば五匹ほど。やり過ぎたな、これは一人で持ちきれん! 籠とかあるなら一人でもどうにかできたけど、鳥籠を作る暇があったのに荷運び様の籠を作っていない俺は馬鹿だろうか。

 仕方がないのでイキの悪い二匹を選び、尾っぽの部分をそれぞれ片手で掴んで持ち帰る。

 イキが悪いと言ってもまだ生きているので、暴れられると落としそうになる。腕を鞭のようにしならせてどうにか最後の抵抗を耐えきり、木の板の上に乗せた。

 鉈を取り出して、頭をズパン。三枚におろします。

 ……あ、ちなみに錆はちゃんと落としているのでご心配なく。

 三枚おろしにした胴体部分は天日干しするとして、かぶと部分は今日食べることにした。

竹で頬などの身をほじくり器に移す。器に移したサケの身は粘りが出るまですり潰し、一口大の丸い形に固めればツミレの出来上がり。骨だらけになったかぶと部分は岩と木の板で挟んで踏み潰し、水を入れた鍋(竹製)に入れて、出汁が出るまでコトコト煮込む。

そして味見。

 うむ、サケ出汁は微妙だ!

 だけど今日はサケがメインなのでそのまま森で取れたキノコと山菜をぶっ込み、サケの身で作ったツミレも入れる。

 そして再度の味見。

……サケ、……くそう、今度はタイでも釣ってきてやるっ!

 焼いた方が普通に美味しい、サケのツミレ汁が完成しました。

これだけだとなんだか俺の料理の腕が疑われそうなので、サケの焼き身と山菜サラダも添えて、俺は狼男がいた場所に戻った。






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