表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

ザラメのことを考える

本を読むということ。それはたぶん,亡骸を抱く,という行為なのだ,と思うのです。

砂浜はときどき,本の香りがする。

それはとても素敵なことかもしれないと,ふいに思うのです。



記憶という記憶が,おしなべて汀にあるとすれば,

いつでも会いにゆけるでしょう。

ふかい海にしずんでいたものたちにも,

いつか会いにゆけるのでしょう



うずめていたのは,わたしなのに。



“水には記憶する能力があるという。”※1

けれど,砂は?

たぶん。いいえ,きっと,砂にも。



砂にも,きっと,記憶が詰めこまれているはずなのです。



それは,砂のようにざらつくザラメ。

あたたかな紹興酒に,とろけて消えてしまったのだけれど,

そこに居たことは忘れないよ。

あなたのこと。



私たちはいつも,亡骸を抱いて眠る。

朝の早いころ,寒暖のすきま,青天とアスファルトの境界に,



ふと,ザラメのことを考える。

眩むようなお日さまが,わたしのことを弱らせているにちがいない



夜の喪に服しているわたしを忘れていまいか,

石を積んだことを忘れてはいまいか,



撓んだ朝がつづく,

夜の続きではなく,

つぎの日,

未だ白い息が暗闇に溶けてしまうころ,

しずかにドアを開きます。

音をたてないように,そっ,と。



いけとしいけるものはみな,眠りのさなか,

ほら,時計は真夜中を指しているのでしょう。



さあ,でかけましょう。

お日さまの光をまるごと飲み干してしまったかのような

まっ白で,まぶしくて,とても素敵なところへ。

2012年 04月09日 01時00分


参考文献:

 ※新川和江『記憶する水』思潮社,2007年05月

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ