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怪談Night  作者: 蓬莱雪也
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 僕の祖父が第二次大戦中に体験した話。



 かの有名な横浜大空襲の日、横浜に住んでいた祖父は職場で空襲に遭遇した。

 空高くのB29から雨の様に降りそそぐ焼夷弾。職場は燃え、命からがら逃げ出しても周りは一面に火の海。

 火の海を切り抜けなければやがて炎に飲まれてしまう。だがどうやっても目の前の火の海を抜け出す手だても無い。




「ここまでか」




 最期だと知り体が崩れ落ちていくその時、





なんだあれ





 炎の中から何かがこちらへ駆けてくる。





──しっかりしろ、諦めるな





 それは純白の、艶のある一匹の狐だった。それが確かに祖父へ声をかける。

 狐は祖父の目をじっと見つめると、ついて来いと言わんばかりに首を振り、走りはじめる。




 どんなルートを走ったか分からない。2時間走り抜けて、祖父は家の前までたどり着いた。

 普通に歩けば30分程の距離が、走って2時間もかかったのである。

 足を踏み入れた事の無い抜け道の数々。中には人の家の庭を抜けたりして、ようやく炎から逃れる事が出来たのだ。

 先導する狐は、度々振り返って祖父が来るのを確認しつつ走っていた。




「やっと、着いた」




 安堵のため息を一つついた祖父は、足元にいる狐にお礼を言おうと視線を下げた。だがそこには何もない。





ゴトッ





 不意にした物音に、音をした方を見る祖父。そこには、庭に奉られたお稲荷さんがあり、扉が開け放たれていて、ひとふさの尻尾が覗いている。

 あっと祖父が驚くと、扉はバタンと音を立てて閉まった。慌てて祖父がお稲荷さんの扉を開けると、そこには陶器で出来た一体の狐が、煤だらけになって佇んでいた。





 あの時わしはお稲荷様に命を救われたんだよ。



 そう語った祖父は亡くなったが、我が家の庭には今でもお稲荷様が奉られており、年に一度京都の伏見稲荷にお参りに行く事が義務となっているのである。







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