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29話 運命の前夜

 指輪を手に入れた悠人は、プロポーズの場所を慎重に選び始めた。派手なレストランや高級ホテルは、美咲との虚飾に満ちた過去を連想させる。悠人が求めていたのは、二人の真実の愛が始まった場所だった。


 彼は、ふと思い出した。


(莉子さんに、初めてタイムリープの秘密を打ち明けた場所……)


 それは、組織の追跡から逃れ、二人で静かに夜景の見える丘の小さなベンチで語り合った、あの夜のことだった。あの時、莉子は悠人の狂気に近い告白を、愛と信頼をもって受け入れてくれた。あそここそが、二人の運命が偶然から必然に変わった場所だ。


 悠人は、その場所をプロポーズの舞台に選ぶことにした。


「あそこなら、過去の全てを乗り越えて、俺たちが今ここにいるという事実を強く実感できる」


 彼は莉子に悟られないよう、仕事の打ち合わせを装って丘の下見に向かい、夜景が最も美しく見える時間と、演出のための準備を入念に行った。指輪の輝きを最大限に引き立てる、ロマンチックな演出が必要だった。



 プロポーズの計画は順調に進んだが、悠人の心にはわずかな不安があった。


(俺の人生は、一度失敗した。あの時、美咲との結婚は計算と世間体で決めたものだ。だが、莉子さんとの結婚は、真実の愛だ。この愛が、本当に永遠に続くものなのか?)


 悠人は、プロポーズ前夜、莉子に不安を打ち明けるのではなく、愛の最終確認を試みた。


 二人はソファで寄り添いながら、静かに音楽を聴いていた。


「莉子さん。俺と一緒にいて、後悔したことはないか?」


 悠人は、ごく自然な会話のように尋ねた。


 莉子は、悠人の腕の中で顔を上げ、彼の頬に優しく触れた。


「どうしたの急に。後悔なんて、一度もしたことないわ」


「そうか。俺は、一度未来の知識に頼り切って、自分の力で愛を選ぶことを放棄した男だ。そんな俺でも、君にとって最高のパートナーでいられるのか?」


 莉子は静かに微笑んだ。


「悠人さん。あなたは、自分の過ちを認めて、命を懸けて戦った。それは、タイムリープの能力なんかより、ずっと尊い強さよ。私は、弱さも強さも知っている、今のあなたを愛しているの」


 そして、莉子はさらに続けた。


「私が愛しているのは、タイムリープした『佐藤悠人』じゃない。私のために、この人生を選んでくれた『私の悠人さん』よ。だから、もう過去のことは心配しないで」


 その言葉は、悠人の心から最後の不安を完全に消し去った。彼は、莉子の揺るぎない愛に、永遠の誓いを立てる覚悟を決めた。


 悠人は、翌日のプロポーズに向けて、莉子を強く抱きしめた。


「ありがとう、莉子さん。君は、俺の人生の最大の宝物だ。俺は明日、君に世界で一番幸せな未来を約束する」


 莉子は、悠人の決意に満ちた眼差しを見て、何かを感じ取っていたが、何も尋ねなかった。彼女は、愛する人の最高の瞬間を、静かに待つことにした。


 二人は、夜景を眺めながら、静かにキスを交わした。それは、過去の全てが清算され、新しい未来への扉が開かれる、静かで力強い愛の誓いだった。

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