26話 家族への紹介
莉子のデザインコンペ成功から数週間後、悠人はある決意を固めた。それは、莉子との将来を具体化するため、両親に莉子を改めて正式に紹介し、結婚への意志を伝えることだった。
悠人は、すでに事故直後、心配して駆けつけてくれた母親から、美咲との関係について叱咤激励を受けている。しかし、美咲との一件で、特に父親は悠人の人生設計に深い不信感を抱いたままであり、その溝を埋める必要があった。
悠人は莉子に相談した。
「母さんは、俺が美咲と別れた後もずっと心配してくれていた。でも、父さんとは、まだちゃんと話ができていないんだ。俺たちの人生を本当の意味でスタートさせるには、両親に君をパートナーとして認めてもらう必要がある」
莉子は優しく悠人の手を握った。
「心配しないで。私も、ご両親にあなたがどれほど立派な男性になったかを伝えたいわ」
週末、悠人と莉子は、悠人の実家を訪れた。
玄関では、母親が笑顔で二人を迎えた。母親は、莉子の穏やかでしっかりした雰囲気に安心感を覚えた様子で、目配せで悠人に激励を送った。しかし、リビングにいる父親は、無言でソファに座り、厳格な表情を崩さない。
悠人は、まず父親に頭を下げた。
「父さん、母さん。美咲さんの件では、心配と迷惑をかけて、本当に申し訳なかった。あの頃の俺は、自分を見失っていたんだ」
そして、悠人は莉子を紹介した。
「この人が、結城莉子さんです。僕が生涯を共にしたいと決めた、最高のパートナーです」
莉子は、悠人の隣で、緊張しながらも毅然と頭を下げた。
「初めまして。莉子と申します。私は、悠人さんが一度はつまずき、そこから立ち上がって、今の地位を築いた強さを、誰よりも尊敬しています。そして、彼の全てを支えていきたいと思っています」
莉子の言葉は、父親の胸に突き刺さった。彼は、息子が組織を告発し、会社で昇進したことは知っていたが、莉子の言葉で再度理解した。
父親は、長い沈黙の後、静かにテレビを消した。
「……悠人。お前が美咲と別れた時、お前は本当に全てを失ったように見えた。だが、この娘は、お前が築いた地位や金の話は一切しない。お前自身の強さを語っている」
父親は、莉子に向き直った。
「莉子さん。うちの息子は不器用だ。だが、その強さは君の言う通り、本物だろう。君が、悠人に本当に大切なものを気づかせてくれたんだな」
そして、彼は悠人と莉子、両方を見て、初めて口角を上げた。
「私たち親は、もう何も心配ない。二人の選んだ道を、心から祝福する」
母親は涙ぐみ、莉子の手を取り「本当にありがとう」と感謝を伝えた。
悠人は、過去の人生で得られなかった、家族からの真の承認と愛の祝福を手にした。彼の二度目の人生は、過去の陰りを完全に振り払い、家族の絆という温かい土台の上に、確かな未来を描き始めたのだ。




