24話 愛の宣言
組織との一件を経て、悠人は会社内で危機を救った英雄としての地位を確立した。課長に昇進した彼は、以前にも増して多忙になったが、仕事への集中力と実績は圧倒的だった。
その変化は、周囲の人間関係にも波紋を呼んでいた。特に、悠人の周りに集まる女性社員の視線が明らかに変わっていた。
美咲に振り回されていた頃の悠人は、どこか頼りなく、話しかけにくい雰囲気を持っていた。しかし、今の悠人は、自信に満ち、立ち居振る舞いに余裕があり、魅力的な大人の男となっていた。
ある日、莉子が悠人の部署を訪ねた際、その視線は明白だった。
「佐藤課長、この資料、私から説明させてください!」
「課長、お疲れではないですか?よろしければ、このコーヒー、私が淹れましょうか?」
女性社員たちが、必要以上に近くで悠人と会話しようとしたり、過剰な気遣いを見せたりする様子を、莉子はフロアの隅から見ていた。
(みんなしてあんな熱い視線を送らなくてもいいのに……。私の悠人さんなのに)
莉子の心に、久しぶりにチクッとした痛みが走った。それは、不安から来るものではなく、愛する人が魅力的すぎることへの、可愛らしい嫉妬だった。
その日の夜、悠人と莉子は莉子の家で夕食を共にした。食事中、莉子はわざとらしく無言を貫いた。
悠人はすぐに、莉子の機嫌が悪いことに気づいた。
「莉子さん、どうしたんだ?何かあったのか?」
「……別に、何も。ただ、悠人さんが人気者になったんだなって、改めて実感しただけよ」
莉子は、サラダをフォークでツンツンと突きながら言った。
「人気者?ああ、あのサイバーリンクの件のことか?あれは…」
「違うわ!」
莉子はプイと顔を背けた。
「今日の午後に、あなたの部署に行ったでしょう?あの時、あなたの周りにいた女性社員たちの視線よ!」
莉子は、自分でも驚くほど、ストレートに嫉妬心を口にしてしまった。
「みんな、あなたにコーヒーを淹れたがったり、資料を熱心に説明したがったりして……。昔はあんなこと、なかったのに!」
悠人は、莉子のあまりにも素直で、可愛らしい嫉妬に、思わず笑いをこらえきれなかった。
「ははは!莉子さん、嫉妬してくれたのか?」
「……嫉妬なんかじゃないわ。ただ、私の大切な人を誰かに取られるんじゃないかって、少しだけ不安になっただけよ」
莉子は、顔を真っ赤にして否定した。
悠人は席を立ち、莉子の隣に座って彼女を抱きしめた。
「莉子さん。俺の人生は、一度死んで、君と出会うためにやり直したんだ。もう、誰がどんなに魅力的に見えても、俺の視線が君から逸れることは、絶対にない」
「君が一番大切なんだ。彼女たちの視線なんて、君の愛の前では無意味だよ」
悠人の真摯な言葉に、莉子の不安は一瞬で溶けた。彼女は、悠人の胸に顔を埋めた。
「じゃあ、証明して」
莉子は、いたずらっぽい顔で上目遣いになった。
「証明?どうすればいい?」
「明日、私たちの関係を、誰にも誤解されないように、部署の人たちに改めて紹介してほしいの」
莉子は、悠人が公の場で自分を唯一のパートナーとして宣言してくれることで、完全に安心できることを知っていた。
「わかった。明日、部署の皆さんに、結城莉子さんが、僕の人生の最高のパートナーだと、はっきり宣言させてもらうよ」
翌日。悠人は莉子の部署を訪れ、今後、公私ともに結城さんのサポートを最優先すると、堂々と宣言した。彼の真剣な態度と、莉子への深い愛情は、職場の誰もが誤解できないほど明白だった。
同僚たちからの祝福の言葉を受けながら、莉子は心の中で満面の笑みを浮かべた。悠人の愛は、タイムリープの秘密と公の宣言によって、誰にも揺るがされない、完璧なものになっていた。




