表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

22話 プレゼント

 組織との戦いに勝利し、悠人と莉子の日常には、タイムリープという二人だけの秘密を共有する、特別な親密さが生まれていた。他の誰にも理解されない、二周目の人生のロマンスを、彼らは心から楽しんでいた。


 平日の夜、悠人が会社のプロジェクトの資料に目を通していると、莉子が後ろから抱きついてきた。


「悠人さん、ちょっと休憩しない? ねえ、聞いて。前の人生の私って、どんな人だったの?」


 悠人は振り返り、莉子の鼻先にキスをした。


「前の人生の君は、遠い高嶺の花だったな。同じ部署だったけど、ほとんど会話もなかった。俺は美咲のことばかり考えて、君の魅力に全く気づいていなかった、愚かな男だったよ」


 莉子は拗ねたように唇を尖らせた。


「えー、会話がなかったの?じゃあ、前の人生の私が、昇進を控えた悠人さんに、こっそりプロテインバーを差し入れする未来はなかったんだね」


「絶対にない。当時の俺は、自分のことで精一杯で、君の優しさに気づく余裕すらなかっただろう」


 悠人は、過去の自分を自嘲したが、すぐに莉子の手を握り締めた。


「でも、この人生では違う。俺は君の全てを知っているし、君も俺の全てを知っている。あの事故は、俺たちを結びつけるための唯一の奇跡だった」


 莉子は、彼の秘密が、二人の愛の特別なスパイスになっていることを知っていた。このタイムリープの秘密があるからこそ、二人は他の誰にも理解できない、唯一無二のパートナーだと感じることができたのだ。




 ある日、二人はデパートでウィンドウショッピングを楽しんでいた。莉子は、ふと立ち止まり、ある高級ブランドのバッグを指さした。


「ねえ、悠人さん。前の人生で、美咲さんがこのバッグをねだったって言ってたでしょう?」


 悠人の顔が一瞬曇ったが、すぐに笑顔に戻った。


「ああ、そうだったな。彼女の誕生日に、無理してローンまで組んで買った。その直後に裏切られたわけだが」


 莉子は、当時の悠人の苦しみを思い、ギュッと腕を組んだ。


「そのバッグが、この人生でどうなっているか見てみない?」


 二人は、その高級バッグのコーナーへ向かった。悠人は、未来の知識を、もう憎しみの道具としてではなく、過去の清算の証として使うことに決めていた。


 店員に聞くと、そのバッグはデザインが古すぎるという理由で、すでにセール品になっていた。しかも、美咲が欲しがった時期よりも数ヶ月早く、すでに市場価値が大きく下落していたのだ。


「フフッ。美咲さん、この人生では流行のピークを逃したのね」


 莉子は楽しそうに笑った。


 悠人は、美咲との関係が完全に断ち切られた今、過去の出来事が単なる笑い話に変わったことに安堵した。


「これも、運命の修正力かな。俺たちが手に入れたバッグは、もっと素敵なものだ」


 悠人は、莉子のために、そのブランドとは全く関係のない莉子のイメージに合う、シンプルな革のキーケースを購入した。それは、過去の虚飾とは無縁の、実直な愛の証だった。




 夜、自宅に戻った悠人は、莉子にキーケースを渡した。


「俺は、過去の記憶に囚われすぎていたかもしれない。でも、君といるうちに新しい記憶で上書きされていくのがわかる」


 悠人は、莉子をソファに座らせ、優しく抱きしめた。


「前の人生では、この時期、俺は美咲の浪費で苦しみ、将来に絶望していた。でも、今は、君とこんなに温かい時間を過ごしている」


「私もよ。過去のことは、もう私たちが幸せになるための踏み台でしかないわ」


 莉子は立ち上がり、悠人の頬に両手を添えた。


「だから、悠人さん、もう過去の記憶は、私との幸せで塗りつぶしましょう。私たちだけの、二周目のロマンチックな物語を始めましょう?」


 悠人は、その提案を心から喜び、莉子を深く愛おしむように抱きしめた。彼らの愛は、タイムリープという非日常的な秘密を共有することで、より深く、誰にも邪魔されない特別なものになっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ