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19話 愛と勇気

 悠人の役員会での告発は、瞬く間に会社の上層部を動かした。不正M&Aを未然に防いだ功績は絶大で、悠人の地位は盤石となった。しかし、この告発は、組織の幹部である鮫島を追い詰める最後の引き金となった。


 鮫島は、組織の存続が危うくなったことで、悠人に対して個人的な憎悪を剥き出しにした最後の報復を仕掛けた。


 その日の午後、悠人の会社の社員掲示板、そして匿名掲示板に、『佐藤悠人の隠された裏の顔』と題された情報が拡散された。


 悠人が美咲を金銭的な理由で利用し、その後に一方的に破局を突き付けたという歪曲された情報。彼が過去に会社のバグを意図的に隠蔽し、それを自分の手柄として利用したという、真実を捻じ曲げた告発だった。


 これは悠人の社会的信用を完全に失墜させ、公正な告発者から私利私欲のために不正を働く裏切り者へと印象を操作することが狙いだろう。


 これは、鮫島が柏木から得ていた悠人の過去の弱点を利用した、最も卑劣な攻撃だった。


 悠人の元には、動揺した同僚からの連絡が殺到し、田中課長も事態の沈静化に追われた。悠人は、この情報戦こそが、鮫島の最後の切り札だと悟った。


 悠人はすぐに莉子の元へ向かった。


「奴らは、俺の『社会的信用』を狙ってきた。このままでは、俺が暴いたサイバーリンクの不正も、『裏切り者の戯言』として処理されてしまう」


 莉子は冷静だった。


「私たちは、情報が拡散する速さを利用するしかありません。奴らは匿名掲示板という『闇』で攻撃してきた。私たちは、『光』、つまりメディアを利用して、それを上書きしましょう」


 莉子が提案したのは、公開記者会見という大胆な作戦だった。


「悠人さんが、サイバーリンクの不正だけでなく、美咲さんと柏木さんの件、猿渡さんの件まで、全てを一連の組織的犯罪として公の場で語るんです。そして、美緒さんと猿渡さんに証言してもらう」


 目的は鮫島が仕掛けた私的なスキャンダルを、命を懸けた正義の告発という大きな物語へと昇華させる。


 キーとなるのは莉子が持つメディア業界の人脈。莉子は、デザイナーとして働く傍ら業界の知り合いを通じて、社会派のジャーナリストに接触していた。


 悠人は腹を括った。


「わかった。もう何も隠す必要はない。俺たちの真実を、全て語ろう」




 翌日。悠人は、莉子と、護衛を兼ねたプロの知人と共に、急遽セッティングされた記者会見場に立った。


 彼が語った内容は、衝撃的だった。


 美咲との偽りの関係、金銭的な恐喝、そして柏木による詐欺。さらに、彼らを背後で操っていた闇の組織の存在。


「私が今回命を懸けて告発するのは、この組織が関わっていたサイバーリンクへの不正M&Aと、猿渡チーフプログラマーへの脅迫という、二つの重大な犯罪です」


 そして、悠人は猿渡と、医療的な配慮のもとで同席していた美緒さんを紹介した。


「猿渡さんは、妹さんの命を盾に取られ、犯罪に加担せざるを得ませんでした。彼の行動は、組織の非道さを証明しています」


 猿渡と美緒さんが、震える声で組織の脅迫について語ると、記者たちのフラッシュが一斉に焚かれた。


 悠人は、最後に鮫島が仕掛けた私的なスキャンダルについて言及した。


「組織は、私の信用を失墜させるため、個人的な過去を歪曲して流布しました。しかし、彼らの目的は、私の口を封じることにあります。私が告発した真実を、私的な感情論で揉み消そうとしているのです」


 この記者会見は、優秀なエンジニアが愛する人を守るため、巨大な闇の組織に立ち向かったという、社会的な一大ニュースとなった。世論は完全に悠人の味方についた。


 そして、悠人が役員会に提出していたサイバーリンクの不正証拠が、警察と金融当局を動かした。


 悠人の告発から数日後、鮫島は不正M&Aと脅迫の容疑で逮捕された。組織の主要な資金源は断たれ、警察による大規模な一斉捜査が入り、闇の組織は完全に瓦解した。


 悠人は、未来の知識に頼るのではなく、莉子との愛と、自身の勇気で、ついに運命を勝ち取ったのだ。

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